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第五十話 林檎磨き(2)
しおりを挟む「……んっ」
カタカタと揺れる馬車の音で目を覚ました。
あぁ、そう言えばデリタ領に反乱軍の討伐に行って、
人喰い花を使用したことにより気を失って……、
それから?
「それから……どうしたんだっけ」
ぼんやりした意識のまま、目を擦る。
どうやらここは馬車のようだ。
方向的に王城であるし、もう時期城に着くだろう。
にしても、何か重い…ような?
ん~?と首を傾げ、右を向いた。
「っ……!?…!?えっ」
「お静かに、ローアン。」
「んぐっ……!し、、シアンさん…えっと、これはっ……!?」
何か重いと思って目を覚ますと、
何故かユーシアスが自分の体を抱き寄せるようにして
眠っているのに気がつく。
それに驚き、声にならない悲鳴の後、本物の叫びを上げそうになった所をシアンの人差し指で抑えられる。
ユーシアスはスースーと寝息を立てて、
満身創痍だった状態から治癒魔法で傷はあらかた治っていたが、
やはり大きな傷は感知していない様子だった。
剣聖三人が後片付けをする羽目となったものの、
あれだけの人数でよく大勢の反乱軍を相手に姫を守れたものだ…
と改めて関心した。
騎士団は剣聖に比べてブラックではないが、
ユーシアスの指導故か弱いものはいない。
さすが騎士団だ…などと職業柄言いたくはないが、
やはりさすがと言うべきか。
「ハヤテも寝ちゃってるから静かにね~。
まぁユーシアスちゃんも頑張ったんだから
それぐらい許してあげなさいよぉ」
そうシアンが笑うが、許すも何も"ローアン"とユーシアスは
親しい間柄ではない。
やはりこれはバレている線が濃厚なのか……と肩を下ろす。
「……あら、もしかして
ユーシアスちゃんってロゼとローアンが同一人物って知らなかったりするの?」
シアンが意外そうな顔をして口元を押さえた。
それに苦笑いをして答える。
「ユーシアスが起きたらどうするんです。
…きっと知らないはずですけど、令嬢時代からの知り合い…
ではあるのでバレていてもおかしくないんじゃないかと、
疑っておりまして。」
「そんなこと言うあなたこそ、危ないんじゃない?
いつもは団長殿って堅苦しい呼び方するクセに~」
それはここで話す話ではないとシアンに言っておきながら、
十分警戒心がないことに気が付き、慌ててしまった。
「…そ、そうですね」
「でもユーシアスちゃん、気がついてるんじゃないかしら。
なんとなくだけど」
「考えたくもありませんよ、そんなこと……」
「バレたくないんだ?」
色々とかんがえた結果、ユーシアスが
ヴィルテローゼ=ロゼ=ローアン だと気がついていてもおかしくないのは確かではあるが、やはりこんな仕事をしている人間が、
いつも笑いかける店長と同一人物だとバレたくない気持ちは確かだ。
少なくとも、ユーシアスが知っているのは
ヴィルテローゼとロゼだけでいい。
「…この前ハヤテにもされましたよ、その話。
まぁ、いえ……、バレたくありませんよ。
この人が知っているのはヴィルテローゼとロゼだけで十分です。」
「決めるのはユーシアスちゃんよ。」
「わ、私が……、私が嫌なんです。」
確かに決めるのは自分ではなくユーシアスだ。
だが、そんなの自分が嫌だ。
今までのように、当たり前のように店に来て、
若干口説きながらも楽しそうに話して、美味しそうに料理を食べてくれるユーシアスがいなくなると思うと、
どうしても胸が苦しくなって、穴が空いたような気持ちになる。今日一日だけでもそれは十分わかった。
苦しいと言うように、ぎゅっとスカートを握った。
「…あなた、そこまで思ってるなら
ただのお客さんとも思ってないみたいね」
「…ただの……ではないかもしれません」
そう答えるとシアンは、はーっとため息をついた。
「頑固な子ね。
さっさと認めて受け入れてもらった方が何倍も楽なのに。」
「……この人に、ロゼの姿で聞いたんです。
私が人を殺したことがあると言っても、受け入れられるかって。
そしたらこの人、俺は冗談は言わないって言ったんです。」
それを言い終わる頃には、泣きそうになり
声が濡れていた。
シアンに言われたことと、自分で思い返したことで、
結局は離れて行って欲しくないからユーシアスを拒否し続けたことを改めて感じた。
ユーシアスはいつだって真剣だったのに、
自分は何回彼に嘘を付いただろうか。
それなのに、今更何を…。
「それなら、さっさと吐いちゃいなさい。
ユーシアスちゃんだってきっと喜ぶし、それを知ったからって離れて行く男じゃないわ。
長年の付き合いがある私が保証してやる。」
「…本当に、ですか?」
「ええ。要するにローアンはユーシアスちゃんに嫌われたくないのよ。
そんなに乙女の顔してるんだから寧ろ好かれたいぐらいには思ってるでしょ。だから隠してる。
乙女なんだから林檎磨き上等!気になる相手には好かれたいって思って当然なの。
あなたの嘘もユーシアスちゃんは嬉しいって思ってくれるはずよ。」
「…嘘なのに?」
「ユーシアスちゃんへの恋心を隠す、可愛い嘘だもの。
怒ることも軽蔑もされないわよ。
でもローアンが嘘をつく罪悪感を感じるなら、
これ以上嘘をつかないためにも話しなさい。ね?」
真っ直ぐな瞳を向けてくれたシアンが、
登ってきた朝日に照らされる。
それを見て、その言葉もシアンも、とても美しく見えた。
「…はい。」
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