ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

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第四十七話 他人事(1)

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絶対バレた、そう思った。
だとしたら前からバレていた可能性が高い。

なのでほとんど毎日朝食や昼食を食べに来るユーシアスが
来たら身構えてしまうかもしれないと思っていたが、
翌日ユーシアスが来ることは無かった。

それに若干落ち着くも、逆に昨日で気が付かれたのでは?
という疑問も同時に生まれた。

ダンスとはいえ、あんなに密着したのだ。
今までバレていなかったとしても、昨晩のあの瞬間でバレていても何もおかしくはない。

ユーシアスは何ヶ月か前、
人を殺したことがあると言っても受け入れる…のようなことも言ったが、その時はあまりにも重たい話に適当に頷いた可能性もある。

ユーシアスは知る限りそんな人間ではないと思うも、
やはり昨日でバレたのは確実であろう。

…だから今日こないのかな。
と、少しのお客様で賑わう店内を見渡した。

それにハッとして、いや、別に来て欲しい訳では無いとブンブンと首を降った。

…いや、来て欲しい。
彼がいないカフェ「ロゼ」は、少し寂しい。

結局閉店時間までユーシアスが来ることはなく、
珍しい日となった。

でも彼も騎士団長という立派な仕事がある。
来れない日だってあって当然だ。
そう思うのに、今日は一日心にぽっかり穴が空いたような気分だった。

店の戸締りをして、王城へと向かった。

放送機のある部屋に入って、警報がすぐに鳴った。

『伝令、伝令!!
第一皇女殿下が乗った馬車に襲撃っ!!
剣聖の二名、ただちにデリタ領へ迎えっ!!』

「っ、第一皇女殿下が…!?」
「ちっ、不味いな……。
他の奴らは生憎さっき別任務に向かった。
俺とお前の二人しか残ってねえ。行くぞ!!」

部屋にいたのはハヤテだけで、
指名がないため二人とは自分とハヤテのようだ。

「デリタ領ですか……。
かなり遠い。護衛の騎士団だけでもつかどうか…。」

剣聖も走ればそれこそ馬車より早いが、
あれは場所が近いところに限る。

物凄い脚力を使っているので、
遠くへ向かうのにアレを使えば、指定された場所に着くころには
体力が残されていない状況となる。

「大丈夫だ、デリタ領には幸い転移結晶が使える。」
「…それは良かった。」
「おら、転移結晶は一つしかねぇから、
俺に捕まっとけ。じゃねぇと一緒に飛ばされねえからな」
「分かりました。えーっと、こうですかね」

と、ハヤテのローブの裾を握った。
「…遠い。」
「ええ、十分でしょう?」
「阿呆。一つで二人飛ばす自体無理があんだよ。」

男の人に抱きつくというのは抵抗があったが、
今はそんなことを言っている場合でない。

ハヤテにこれでもかというぐらい引っ付き、
「お、お願いします!」と言った。

「っ…!……しっかり抱きついてろよ。
それと着くまでには目を閉じとくんだな」
「はい。」


「…おい、着いたぞ。」
「!一瞬ですね」
「んなことより急ぐぞ。
皇女の命も、助けられなかったら俺らの命もヤバい。」
「ええ、急ぎましょう!」

着いた場所からは競り合いのような剣同士がぶつかり合う音が聞こえてきていたので、走ればすぐだった。

皇女が乗る馬車を守るように騎士団が戦っていた。
敵は帝国反乱軍の30人に対して騎士団は5人。
それに言い方は良くないが馬車という荷物を抱えながら
戦うのはもちろん大変で、もはやジリ貧状態だ。

人が群がり、攻撃の対象がよく見えない。
このままブリューナクでの攻撃をすれば、騎士団の連中を巻き込む可能性がある。
…空中からの攻撃なら敵の位置を正確に把握し、
正確な攻撃が出来る。

「ハヤテ、とりあえず私が空中から攻撃するので、
帝国反乱軍の前衛が殺られたら残りの後衛を殺っちゃってください。」
「分かった。」
地面を蹴飛ばすことで宙に舞い上がる。

そして空中で指輪を地面に向け、力を集中させた。
すると地面から無数の弦が芽生え、騎士団の5人に下品な笑みを浮かべて詰め寄っていた前衛を叩きつけたり、巻きついて体がベーコンのようにバラバラにされた。

騎士団の5人は何が起きたか分からないと言うように
唖然としていたが、その間にハヤテが後衛のほとんどを蹴散らした。

そして5人を庇うように、5人の前に着地し、

「…大丈夫ですか?」

と、一応振り向き声をかけるが、
逆にそれに唖然とする。

「ローアン、様……」

その5人の中の一人は、ユーシアスだった。
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