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第四十六話 やり直しとラストダンス(2)
しおりを挟むどうしてですか?
そう聞くとユーシアスは爽やかに微笑む。
「いえ。ローアン様はこのような行事に興味がおありなのか
気になっただけでございます。」
「嫌いではありませんが、このような恋人で溢れかえる
場所に仕事としていなければならないのは退屈ですね。
陛下もお酷いことをなさいます。」
社交辞令のつもりだった。
なのに、ユーシアスに手を取られる。
そして音楽に合わせて勝手にステップを踏み始めるので、
無意識に合わせてしまう。
「騒ぎは収まりましたし、一曲私と踊ってはくれませんでしょうか。」
「もう踊り始めているではないですか。
強引な男性は嫌われますよ。」
「それは失敬。
嫌であれば手を離して頂いて結構ですよ。」
ユーシアスがこちらに騎士団長とは思えないぐらいの
ふにゃりとした笑みを見せるので、
パッと顔を逸らしてしまう。
「…実はバレてたりするのかしら。」
と呟く。
いや、バレていないと思いたかった。
ユーシアスが知っているのは、カフェの店長、
ロゼだけで構わない。こんな醜い姿をした人間が
ロゼと同一人物なのを知ったら、ユーシアスは離れていったりしないのだろうか。
「何か言いましたか?」
「いえ、何でも。
団長殿は意中の女性がいながら
永遠に結ばれると言われる噂のラストダンスに私めをお誘いになる方なのだなと思っただけですわ。」
……何故こんな嫌味な言い方を先程からしてしまうのか。
まかさ、自分はロゼに嫉妬しているのか?
そんなはずは無い。…ない、はずだ。
「そんなことを言うあなたこそ、
手をお離しにならないではないですか。」
「…噂など信用しておりませんことよ。
それに、ただ警備で終了する豊穣祭なんてごめんですの。
一つの思い出くらい欲しいと思ってはいけなかったかしら。」
「いいえ、光栄でございます。残念ながら
私は誘った相手に断られてしまいまして。」
もちろん断ったのも自分、今踊っているのも自分。
何だか断ったのに別の人間がとして ユーシアスとラストダンスを踊っているなんて、不思議な気分になる。
それにくすりと笑って、
「その想い人様の代わりに私を誘うだなんて、
良い性格してますわね。」
「申し訳ありません。」
「いいえ。
私も騎士団長殿と踊れて光栄ですわ。」
とさらりと社交辞令でながした。
が、ユーシアスは聞いてもいないのにロゼのことを話し始める。
「その女性は別の男と行くからあなたとはいけないって
言ったんですよ。」
その男とはまさしくハヤテのことである。
同業者の男…と言ってくれないと、まるで自分が二股していて
その男と駆け落ちをしたように聞こえなくもない。
「何も聞いてませんけれど…。
そんなにその方のことがお好き?」
何でこんなこと聞いたのか、自分でもよく分からなかった。
ただ、今彼の目の前にいるのがロゼではなく、ローアンだ。違う人間だからこそ、聞けるなら聞こうと思った…それだけだ。
「ええ。この世界で何よりも。
彼女が作ったものならば毒でも口に入れてしまいそうですし、
何よりも困って顔を赤らめる彼女が、何よりも可愛くて。」
ユーシアスが、こちらをジーッと見つめた瞬間、
背中がゾワリとして、反射的にぱっと離れ、
二三歩距離を置いた。
その瞬間、ラストダンスの音が止まる。
ハッとしてスカートの端をつまみ、最後のお辞儀をする。
ドクンドクンと、心臓の音が早まってしょうがない。
ユーシアスがローアンに向けた視線は、まさしくロゼに向けたものと一緒だ。
独占欲、慈しみ、愛おしみがこもったその目で見られ、
まるでロゼでいる時のような気分になってしまったのだ。
「…ありがとうございました。
失礼するわ」
そう言って小走りにその場を去る。
「…絶対、バレてる」
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