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第四十五話 やり直しとラストダンス(2)
しおりを挟む倒れた男が救護班に運ばれて行く。
「…あなたもこのような場に出るのですね、団長殿」
「はい。剣聖の方々に全てを任せるわけにはいけませんから。」
本当にユーシアスは剣聖のことまでも気遣う人間なのだな…と感心する。
この前あった副騎士団長もユーシアスを見習ってほしいぐらいだ。
「律儀なことをなさいますね。本当に変わったお方。
これは憎まれ口ではなく誉め言葉ですので。」
こんなにもユーシアスに冷たい態度を取るには自分の中でも違和感があった。
名前が違うとはいえ、ロゼとローアンは同一人物。
剣聖として接するのには抵抗が生まれてしまっていることに気が付き、
少しユーシアスに近づきすぎたかもしれないなと感じた。
「光栄にございます。」
「あなたぐらいですよ、そこまでするなんて。
ところで…恋人がいる女性に手を出したというのはあなたですか?
もしそうならあなたにも騒ぎを起こした咎がありますが。」
ユーシアスの性格上それはないと思うが、
一応仕事として聞いておかなかればならない。
別に個人的な感情はない…はずなのに、
なぜチクチクと胸が痛むのだろうか。
「いえ。そのようなことはありません。
この女性が落としたハンカチを拾って声をかけたのがナンパだと勘違いされたようでして」
…なるほどね、と安心する。
「…?」
何故、安心した?
いや、これは仕事、仕事の聴取であるからして
騎士団長であるユーシアスが騒ぎを起こしたわけではないという安心…のはずだ。
「…あのっ!
ありがとうございました…」
そういえば先程運ばれていった男の恋人と思われる女性の存在を忘れていた。
女性がユーシアスの胸に飛び込んだので目をぎょっとさせてしまった。
「私あの人が乱暴だったから怖くって…。」
おそらくユーシアスの証言は本当のはずだが、
女性は完全にユーシアスに惚れてしまった様子だ。
しかもユーシアスはハンカチを拾っただけで実際に助けたのは自分なんだがな…
と少し呆れる。
まあ女としては女に助けられても嬉しくないのかもしれない。
「離れて下さいますか。
元はと言えばハンカチを拾っただけの私に誘いをかけるから
あなたの恋人が逆上したのです。
あなたの恋人が酔っぱらっていたのもありますが、あなたがまいた種です。
ローアン様が助けて下さらねばあなたはあの男に暴力を振るわれていたかもしれません。
感謝を述べるのは私ではなくローアン様でしょう。」
と、ユーシアスが女性を冷たくあしらった。
ユーシアスの話が本当なら悪いのは酔っぱらった男ではなくこの女性のような気がする。
何だか男に悪いことをしてしまった気がしてきた。
これは女性に問題がる。
「いやよ!!
だってあの人剣聖か何だかしらないけどあなたが止めなければ
ジャンを殺していたわ!!」
さすがに殺すつもりはなかったがやりすぎた自覚はある。
面倒ごとに巻き込まれてしまった。
「剣聖が一般市民を殺すことはございません。」
全身が凍てつき、ゾクリと体が震えるような、冷たい光の無い目だった。
ユーシアスの女性を見る目はまるでゴミを見るかのようで、
それに少し、いやかなり恐怖心を覚えた。
「…もう知らない!
勝手にやってれば!?」
女性はそれに怯えたのか、それを隠すように
逆ギレして女性は去っていった。
「…団長殿はあのような女性がお好みとは驚きです」
「からかうのはよしてください。
私のあの目を見たでしょう」
「ええ、怖かったです。
そのようにお顔が美しいのも困りものですわね。」
「私は心に決めた女性がおりますから。
その女性にだけ好かれたいので、その人以外は眼中にございません。」
そのユーシアスの先程とは違う柔らかな幸せそうな顔を見て、
顔を赤くしてしまった。
「あなたにそこまで言わせるとはすごい女性です。
ユーシアス・ヒルデは人を寄せ付けないで有名でしょう。」
「彼女は特別なんです。
彼女が作る料理もスイーツも、ちょっとした仕草も私を呼ぶ声も。
彼女の望みは何でも叶えたいし、もっと独占したい。
でもその人は手ごわいので、なかなか近づけなくって。」
完璧にそれは自分のことだと分かったので本当に恥ずかしくなる。
まさかバレてるのではないだろうかと思うくらい「ロゼ」のことを熱烈に語る。
「それはその女性も手ごわいですね。」
「ええ。そういえばローアン様はダンスを踊られましたか?」
「…どうしてですか?」
と聞いたところで、ラストダンスの音楽が流れ始めた。
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