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第四十四話 やり直しとラストダンス(1)
しおりを挟む豊穣祭が中止されたことにより、やり直しとして一週間後の日曜日、
延期になった豊穣祭が開催された。
だが剣聖が警備に当たっていることに変わりはない。
どっちにしろ憂鬱なのだ。
男女のカップルがきゃははなどの笑い声を上げて楽しんでいる中、
どうして剣聖は警備に当たらなければいけないのか。
ただただむなしい気持ちになり、ため息をつく。
「気分落ちるからため息なんてつくなっての。
まあ気持ちは死ぬほど分かるけどよ」
とハヤテもため息をつく。
「私達まだ十六と十八ですよ。
恋がしてみたいお年頃なのに陛下もむごいことをなされます。」
「それは言えてる…。
つかお前男に興味あんの?」
聞かれてみれば…そこまで周りを異性として意識していないからか
恋に興味があるのかと聞かれればよく分からなかった。
「どうなんですかね…。
少なからず恋愛対象は男性ですけど。」
「へえ…」
「ハヤテ」
「何だ」
「…虚しさが増します、やめましょう」
「だな。騒ぎが起きてないだけ平和と思いた…」
ハヤテが安堵したように笑った直後騒ぎは起きた。
「てめえ!!俺の女に色目使いやがって!!」
あ~あ、と声が漏れる。
「ハヤテがフラグたてるから騒ぎが…。
全く女を巡った争いに割って入るのなんて職業柄憎たらしすぎてごめんなんですけど…」
「シアンにシメられたくなかったらさっさと行けっての」
「ハヤテが行けばいいんじゃないですか?」
「俺が行くとさらにややこしくなりそうだから早く行けよ。」
「自分が顔良いって自覚がおありでムカつきます。
報告書にハヤテが自分が色男なのを理由にして私めに仕事を押し付けてきたって
報告書に書いてもいいですか?」
「てんめえ…つか早く行け」
「あとでりんご飴おごりですから…ねっ!!」
足に力を集中させ、高台から飛び降り、夜空をひらりとベリーショートのように舞い、
騒ぎの中心に着地する。
「はいはい、騒ぐのはそこまでですよ。
それ以上騒いで周囲を不安にさせるならば…」
と指輪を騒ぎ立てた男に向ける。
地面からゆったりと蔓が生え、男の体を拘束した。
「ローアン・ゼロ・ブリューナクの名において制裁いたします。」
そう言っただけで、周りから「おおお!!」という声が上がった。
「剣聖だってよ!!」
「女の子じゃねえか!」
「でも剣聖にも女性はいるけど…見ない顔の子だな…。
あまり表に顔を出さないタイプなのかな」
「だとしたらかなりレアじゃね?」
人をゲームのガチャみたいに言うなと、…呆れる。
それに面に顔を出さないタイプも何も、公に姿を現したのは初めてである。
「お嬢ちゃんアレか。
異例の十三番目、貴族令嬢だっていう…」
拘束された男がこちらを冷やかすような目で見てきた。
「それが何か?」
「ヒーローごっこしてるつもりか?」
「それは今関係ございません。
今はあなたが騒ぎを起こしたから仕事で止めているだけよ」
正論を言われたからなのか、男は顔を赤くして怒り出した。
「てめえは魔女だ!!いつの時代でも剣聖は十二人って決まってんだよ!!」
男は所持していた短剣で蔓を切ってしまった。
…少し油断したか、と男を見下すような目で見た。
こちらは一か月に一回は賊と殺し合いをしているのだ。
こんな男一人どうってことない。
息を吸うと、指輪に力を集中させた。
そして短剣を取り上げ、今度は手も足も動かない、太い蔓で男の体を
ギチギチと巻き付けた。
魔女…ね。
そんなことを言われては気分が悪い。
こっちだって好きでやっているものじゃないのだから。
「ローアン様、そのくらいにしておかないと
その男が失神してしまいます」
その声にビクリと体が跳ねる。
自分が少し怒ったのかやりすぎたことにも驚いたが、
驚いたのはそこではない。
自分の足元に跪く男性、それはまぎれもなく騎士団長のユーシアス・ヒルデだった。
どうやら女に手を出したとやらで絡まれたのはユーシアスのようだ。
この姿で会うのは初めてではないが、少し身構えた。
「…そうね、ごめんなさい。」
とだけ言い、もう気絶していた男を床に乱暴に落とした。
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