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第四十三話 女王様とかつ丼(3)
しおりを挟む「これが肉…そしてかつ丼…」
ティターニアは目を輝かせ、どんぶりを見つめた。
かつ丼は異世界だと醤油やだしが販売されていないため、和食は作るのに手間がかかる。
まあ一週間に一回…とするぐらいなら和食デーみたいなのを作ってもいいかもしれない。
「さあさあ、熱いうちに召し上がれ!」
スプーンをティターニアに渡し、さあ食べてと言わんばかりの瞳で見つめた。
「は、はい…!」
ティターニアはごくんとのどを鳴らすと、スプーンでかつ丼をすくって、
大きな一口を運ぶ。
すると、ティターニアの口に、サクッという音をたてて味が広がっていく。
だができたてのかつ丼はサクッで終わりではない。
カツにはしっかりと醤油とだしの味が染みついており、
そして甘い玉ねぎとふんわり卵が風味を優しく引き立てるはずだ。
「んっ…!!
こ、これはっ…まあまあまあっ!!
お肉がサクサクとしているのに、この黄色いふわふわとしたものと
しんなりしたたまねぎとの最高のハーモニー!!」
「お上品なレビューをありがとうございます。」
どうやらかつ丼はお気に召したらしい。
かなりな和食なので舌に合うか不安ではあったが、ここまで喜んでくれるとは。
…にしても、この人は自分を剣聖に選んでくれたとはいえ、
信用が何一つない人間がつくった料理を口にした。
作っているところは見られていたけれど、
毒が入っている危険があるなどと考えないのだろうか。
「ん~♡」と頬にうっとりと手を当て、かつ丼をほおばり、
口元に一粒ご飯粒をつけているティターニアはあまりにも無防備というか…
警戒心がない。
「ねえ、ティターニア様?」
と、ティターニアの口元のご飯粒を取りながら言った。
「あら私ったら!!
で、何でしょうか」
「…その、あまりにも警戒心がありませんね。
私があなたに毒を盛るとは思わなかったのですか?
私を救ってくださったあなたに対する礼儀がなっていない、
失礼を承知でお聞きします。
あなたは私のことを警戒しないのですか」
するとティターニアは「ああ、そういうことでしたか」
と聖母のような優しい瞳で見つめ、ほほ笑んだ。
「姫がそんなことをしても何か利益があるとは思えません。
それに私に何かあればこの国の緑は枯れ果てるでしょうから。
…それにね、姫。
いいえ、ヴィルテローゼ・ネージュがそんなことをする人間ならば私は剣聖になど
選んでおりませんから。」
それは、確かにそうかも…と納得する。
「あなたは清く正しく美しく、そして緑に愛された存在なのです、
我らが姫よ。」
「…ありがとう、ございます。
あなたは正しいよって言ってもらえたの、初めて。」
婚約破棄され、剣聖になってかけられた言葉は、
「大変だったね」という声がほとんど。
だからティターニアに言われて、
あの時堂々と皇太子だったライオスに言いたいことを言えてよかった…と思った。
「私は事実を述べたままですよ。」
そう笑ってティターニアは「さあ残りのかつ丼を食べて帰りますかね」
と言い、再びかつ丼を食べ始めた。
「ごちそうさまでした姫!!
たいへん美味でした!」
「よかったです。こんなことではお礼になりませんが」
「いえいえ十分でございます!
というか、妖精の森と妖精が、私があなたを認めただけにすぎませんから。
…では石の復元が完了しましたので、名残惜しいでございますが、
お暇させていただきますね」
いつのまに石を復元したんだ…とぎょっとする。
ああ、嵐のような一日だったな…と若干しんみりするも、
ティターニアとこれでお別れということは少し名残惜しい。
「姫、今度は姫が妖精の森にお越しになって下されば感激感激いたしますわ。
かつ丼…ごちそうさまでございました。
また食べてみたいです」
それだけ言うとティターニアは石を光らせる。
「では姫、おたっしゃで。
いつも私共は、あなたを見守り、あなたの幸せを願っております。
…それでは」
石がもっと激しくひかり、うっと目を閉じると、ティターニアは
次の瞬間にはいなくなっていた。
「ふう…大変だったけどいい人だったな…。
で、何か忘れているような…」
豊穣祭がすっかり消滅していたのを、
ハッと後で思い出した。
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