42 / 128
第四十三話 女王様とかつ丼(3)
しおりを挟む「これが肉…そしてかつ丼…」
ティターニアは目を輝かせ、どんぶりを見つめた。
かつ丼は異世界だと醤油やだしが販売されていないため、和食は作るのに手間がかかる。
まあ一週間に一回…とするぐらいなら和食デーみたいなのを作ってもいいかもしれない。
「さあさあ、熱いうちに召し上がれ!」
スプーンをティターニアに渡し、さあ食べてと言わんばかりの瞳で見つめた。
「は、はい…!」
ティターニアはごくんとのどを鳴らすと、スプーンでかつ丼をすくって、
大きな一口を運ぶ。
すると、ティターニアの口に、サクッという音をたてて味が広がっていく。
だができたてのかつ丼はサクッで終わりではない。
カツにはしっかりと醤油とだしの味が染みついており、
そして甘い玉ねぎとふんわり卵が風味を優しく引き立てるはずだ。
「んっ…!!
こ、これはっ…まあまあまあっ!!
お肉がサクサクとしているのに、この黄色いふわふわとしたものと
しんなりしたたまねぎとの最高のハーモニー!!」
「お上品なレビューをありがとうございます。」
どうやらかつ丼はお気に召したらしい。
かなりな和食なので舌に合うか不安ではあったが、ここまで喜んでくれるとは。
…にしても、この人は自分を剣聖に選んでくれたとはいえ、
信用が何一つない人間がつくった料理を口にした。
作っているところは見られていたけれど、
毒が入っている危険があるなどと考えないのだろうか。
「ん~♡」と頬にうっとりと手を当て、かつ丼をほおばり、
口元に一粒ご飯粒をつけているティターニアはあまりにも無防備というか…
警戒心がない。
「ねえ、ティターニア様?」
と、ティターニアの口元のご飯粒を取りながら言った。
「あら私ったら!!
で、何でしょうか」
「…その、あまりにも警戒心がありませんね。
私があなたに毒を盛るとは思わなかったのですか?
私を救ってくださったあなたに対する礼儀がなっていない、
失礼を承知でお聞きします。
あなたは私のことを警戒しないのですか」
するとティターニアは「ああ、そういうことでしたか」
と聖母のような優しい瞳で見つめ、ほほ笑んだ。
「姫がそんなことをしても何か利益があるとは思えません。
それに私に何かあればこの国の緑は枯れ果てるでしょうから。
…それにね、姫。
いいえ、ヴィルテローゼ・ネージュがそんなことをする人間ならば私は剣聖になど
選んでおりませんから。」
それは、確かにそうかも…と納得する。
「あなたは清く正しく美しく、そして緑に愛された存在なのです、
我らが姫よ。」
「…ありがとう、ございます。
あなたは正しいよって言ってもらえたの、初めて。」
婚約破棄され、剣聖になってかけられた言葉は、
「大変だったね」という声がほとんど。
だからティターニアに言われて、
あの時堂々と皇太子だったライオスに言いたいことを言えてよかった…と思った。
「私は事実を述べたままですよ。」
そう笑ってティターニアは「さあ残りのかつ丼を食べて帰りますかね」
と言い、再びかつ丼を食べ始めた。
「ごちそうさまでした姫!!
たいへん美味でした!」
「よかったです。こんなことではお礼になりませんが」
「いえいえ十分でございます!
というか、妖精の森と妖精が、私があなたを認めただけにすぎませんから。
…では石の復元が完了しましたので、名残惜しいでございますが、
お暇させていただきますね」
いつのまに石を復元したんだ…とぎょっとする。
ああ、嵐のような一日だったな…と若干しんみりするも、
ティターニアとこれでお別れということは少し名残惜しい。
「姫、今度は姫が妖精の森にお越しになって下されば感激感激いたしますわ。
かつ丼…ごちそうさまでございました。
また食べてみたいです」
それだけ言うとティターニアは石を光らせる。
「では姫、おたっしゃで。
いつも私共は、あなたを見守り、あなたの幸せを願っております。
…それでは」
石がもっと激しくひかり、うっと目を閉じると、ティターニアは
次の瞬間にはいなくなっていた。
「ふう…大変だったけどいい人だったな…。
で、何か忘れているような…」
豊穣祭がすっかり消滅していたのを、
ハッと後で思い出した。
0
お気に入りに追加
1,578
あなたにおすすめの小説

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。

【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前
地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。
あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。
私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。
アリシア・ブルームの復讐が始まる。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる