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第四十話 女王様とかつ丼(1)
しおりを挟む「…帰れない?
というのはどういうことでしょうか…?」
「そのままの意味でございます。
石に傷が入ってしまった場合、私が直接治す他ないのですが…」
「ふむ。
では直せばいいだけのことではないですか?
そしたら帰れるのではないでしょうか…」
と、尋ねるとティターニアは顔を赤く染めた。
ん?今の台詞にきキュンとする要素はあったかなと思ったが、
ティターニアは「少し失礼いたします…」とスススと近寄り、耳元で囁く。
「えっとその…お腹が空いて力が入らななくて…。
その…このことは他言無用でお願いいたします…。」
ああ、そういうことかと頷く。
「実は私、カフェを経営しているのでお料理には自信があります。
良かったら私のお店にいらして。ごちそういたしますわ。」
と、ティターニアの手を握る。
「カフェ…とは何でしょうか」
「ええっと、お料理や飲み物を私が作って提供しているんです。
もちろんお金は頂いていますが、ティターニア様には大きな恩がありますの。
だからご馳走させてくださいね。」
ティターニアが自分を選んでくれなけていなれば国外追放、
実家も家族も危ない目に合っていたことは間違いない。
まさか選んでくれた者がいるとは思っても見なかったし、それならお返しがしたい。
むしろご馳走するだけで返せる恩ではないが。
「お、恩だなんてそんな…。
それにお店の商品を…」
「こう見えてカフェの売り上げもいいですし、好評ですし、
剣聖のお仕事でがっつり稼いでますから何も気にすることはないですよ。
むしろお金ありすぎて困っちゃってますから」
と笑った。
ああ、「お金ありすぎて困っちゃってますから…」なんて是非前世で口にしたかった。
「では、お言葉に甘えさせてもらって良いでしょうか…」
「ええ是非!」
「ちょっとお、勝手に話進めないでよお馬鹿」
「あ、シアンさん」
「いたの?みたいに言わないで頂戴。
えっと…妖精の女王のティターニア様…だったかしら。
ローアンの知り合い…ではないのよね?」
「はい。
でも妖精の石が治るまでは私がティターニア様の面倒は私に任せていただけませんか?」
「…まあいいでしょう。
騎士団はNo.1の剣聖の私が黙らせてあげる。
その子のこと、帰るまでしっかり面倒を見るのよ。」
「ママ…」
「誰がママよ!!お姉様とお呼び!!!!…まあママも悪くないけど!!
じゃなくてあんたは子犬拾ってきた娘か!?」
確かに「しっかりめんどうを見るのよ」なんていうセリフはそれっぽくて、
思わず「ママ」なんて言ってしまった。
それにすかさずツッコミが入る。
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「やだあ、そんなに私母性溢れてるかしら?
いや~ん、苦しくなくてよ!!」
…しまった、シアンまでノリ始めてしまった。
「…姫、あの方は」
「男です」
「えっと…?」
「剣聖No.1のエクスカリバーの保持者です。」
「あれは演技ではなく…?」
「あれがあの人の素です。」
「な…なんと!!」
とティターニアが驚きの表情を見せた。
「ちょっとそこ、お黙り」
「いえ別に…。驚いただけですので。
そういうことで差別などは決していたしません。
そういえば姫の上司殿に失礼な態度を働いたことについての謝罪がまだでした。
申し訳ありませんでしたシアン殿」
「あら、素直で礼儀正しくていい子だこと。
まあ今日の豊穣祭は中止ね。ローアンは店に帰ってこの子をもてなして
あげなさい。」
「承知いたしました。
ではこれで失礼を。」
「失礼いたします。」
と、店に帰り厨房に入る。
「あ、あの…贅沢かもしれませんが…
肉を一度食べてみたいのですが」
「ふむふむ。
あっさりか脂っこいのだったらどちらがいいでしょうか。」
「えっと…せっかくなので脂っこい方を…」
「かしこまりました!」
脂っこい…、あ、そういえばさっきハヤテとかつ丼の話をしてたっけと思い出す。
「かつ丼にしましょう!」
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