ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

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第三十二話 ペスカトーレの黒歴史

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「…あら、お邪魔だったかしらァ」

店に来たのはシアンだった。
そして、今の体制を思い出す。

「ちがっ…んっ、かっらぁあ……!!」

と口を抑えた。
ペスカトーレは本当に辛くて、
ユーシアスがこれを平然と食べたことに驚く。

何回か噛み、なんとか飲み込む。

「やだ、何食べさしたのよユーシアスちゃん!」
「どちらかというと私が食べさせられた側なんですがね」
「味見って言ってください人聞きの悪い…」

まあ食べされされたと言われても全否定は出来ないが。
「何食べてたの…?
……!ペスカトーレ……?」

「どうしました?」
「えっと…まぁあなたにならいいわよ。
何で辛いものを食べないのか話す!」

とフンとシアンは席に着く。
「あのねぇ、ペスカトーレは私の黒歴史なの。」
「黒歴史って、あの黒歴史ですか?」

と目をぱちくりさせた。
「辛いものを食べる時って、お水飲みたくなるじゃない?
でもそれをしてしまうと、胃の中で唐辛子の成分が弾けちゃって、激しい胃痛が起こるのよ。
私は昔から顔に似合わず辛いものが好きで、
でも我慢はしたくなくてペスカトーレを五皿食べたわ」
「五皿!?」

「それで五皿食べたあと、お水をがぶ飲みして、
胃痛で倒れ、病院のお世話になったのよ」
「は、はぁ…。」
「もう恥ずかしくて恥ずかしくてしょうが無かったわ。
聖剣エクスカリバーの保持者とあろうものが、
ペスカトーレを食べすぎて病院送りになったなんて……。
それが恥ずかしくて恥ずかしくて……、もう二度と食べないことにしたのよ!」

確かに、No.1のエクスカリバー保持者のシアンが
ペスカトーレの食べすぎで病院行きになった…というのは
十分黒歴史かもしれない。
聖剣エクスカリバーの保持者、剣聖のNo.1ということは、
この国で、剣聖の中で一番強いということだ。
その大きな名前を背負った人間だという自覚があるなら尚更、
シアンは恥ずかしかったのだろう。

だがそれを無視するように、無言で包丁を握った。

「え、ちょ、何してるの?」
「ペスカトーレを作ってるんですよ」
「今の話聞いてた!?」
「聞きましたとも。
いいですか?食べすぎなかったらいいんです。
それか、水を牛乳に変えること。
そうすれば倒れたりしませんし、後は1週間に1回だけ…とかで辛いものを食べる日を決めればそれでよしなのです。」
「!」
「少し待っていて下さい。
久しぶりに辛いもの、食べたくないですか?」

と微笑む。
「好きな物を我慢する方が、
体に悪いですよ。」
「…食べたい、です」
「承りました。
少々お待ちください。」

ペスカトーレは先程作ったソースがまだある為、パスタを茹でている間に、別のものも作ることにした。
まずは、この世界にはない麻婆豆腐から。

実はブリューナクで大豆を生成し、
ちょっと不格好にはなったが、豆腐を作れた。
それでハバネロが入った麻婆豆腐を作る。

それから、青唐辛子、赤唐辛子、ハバネロをミキサーにかけ、
ピザソースに。
食パンにソーセージ、トマト、チーズを乗せて、
唐辛子のピザソースをかけて、
トースターに入れる。

焼きあがったら半熟卵を真ん中に落とす。
これをナイフで切った所をそうぞうするだけでお腹が空いてくる。

「どうぞ、ペスカトーレと、
これはからかってしまったのでお詫び。
麻婆豆腐と唐辛子をピザソースにしたピザトーストです。
どうぞ召し上がれ!」

麻婆豆腐と激辛トーストはペスカトーレに比べたらあまり辛くない。これくらいの量なら大丈夫だろう。

「…いただき、ます……」

おずおずとシアンは手を合わせ、まず
初めて見るのか、麻婆豆腐を口に入れる。
「…ん、美味し!!
な、何これ…、この白いの。
ひき肉と辛さが絡まって…すごく美味しい。」
「異国の豆腐…というものです。
大豆という植物から出来る食べ物で、
すごくヘルシーなんですよ。
食べ物だけじゃなくて、スイーツにも使えば、
カロリーを低くすることも出来ます。」
「へぇ…」

シアンはパクパクと料理を口に入れ、
食べている姿は本当に幸せそうだった。

やっぱり、料理をするのも好きだが、
それを美味しそうに食べてくれる人を見るのは、もっと好きだなと思う。

「ご馳走様!
……やっぱりあなたは、人に美味しいものを"美味しい"って言わせるのが上手いわね。」
「?」
「ペスカトーレはまだしも、
このトーストとか、麻婆豆腐?は毎日でも大丈夫な辛さね~。
ありがとう、本当に嬉しかったわ。
ご馳走様でした。」




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