ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

文字の大きさ
上 下
28 / 128

第二十八話 紅茶とスコーンと注意事項(2)

しおりを挟む


「…ちゃん、アンちゃん!!」
「!!」

シュリの声で目が覚める。
「…あれ」
「やっと起きた…。
私がお店来なかったら大変なことになってたよ?」
「えっと…何が起きたんだっけ。」
「グラディウス様がブリューナクを引っこ抜いたところから気を失ってたはずだよ。
ああ、殿下は騒ぎになるといけないから王城に帰した。」
「ありがとう…。」

「言っとくけど今回のことにおいて悪いのはアンちゃんだからね。
聖剣を取りはずしたり破損させると元の普通の人間の体になって、今まで眠っていなかった時間眠ってしまうの。
今回は私がすぐはめ直したからよかったけど、
家族でも聖剣には触れさせちゃダメ。」
「…ごめん」

知らなかったとはいえ、確かに触らせてしまった自分の落ち度かもしれない。
ということは…、聖剣が戦闘の際破損すれば、二度と目を覚まさなくなるかもしれないということか。
ぞっとして薬指を見つめ、握りしめる。

「とはいえ、言ってなかったこちらの落ち度もある。
…言い過ぎた。ごめんアンちゃん」
「シュリの言っていることはもっともだから、私が悪いの。
そんな顔しなくていいよ。」
「…毎回思うけどアンちゃんって優しいよね」
「そう?」
「ハンカチ貸してくれたし、きついこと言っても怒らないし」
「それは優しいとは少し違うんじゃないかな」

ハンカチを貸したのは返り血が酷かったからであるし、
きついことを言われても怒らないのは自分に落ち度があると認めており、
それ以上にきついことを婚約者に言われていたから。
だから、優しいとは少し違う気がする。

と、体を起こす。
「そうなの?」
「そうそう。
…ねえシュリ、私どのくらい寝てたの?」

お店の床に寝ていたのか…とお客が誰もいなくなった店内を見渡す。
机にはお金が置いてあり、おそらくシュリが、自分が剣聖だと分からないようにするため、
お客様も帰してくれたのだろう。

「えっと…一時間くらいかな」
「そっか…。
本当にありがとうねシュリ。シュリがいなかったら大変なことになってた。
それにお客様にバレないようにしてくれてありがとう。」
「ホントいい子だね。」
「シュリがね」
「私は優しくないよ本当。
というわけで何か食べさせろって今から言うから」

とシュリがカウンター席に座り、ニヤッと笑う。
それにクスリと笑う。

「もう言ってるじゃないのよ。
で?何が食べたい?
お礼に今日は何食べてもお代はいただきません。」
「本当に!?」
「ほんとほんと。」
「じゃあチョコレートパフェデラックス!!」

いつも大人びた表情をしているシュリが、ユーシアスやハヤテ同様に子供のような顔を見せるから、
可愛いな~、やっぱり14歳の女の子はこうでなくちゃね!!と微笑ましく眺めていたが、
何でも…は言い過ぎたかもしれないと顔を青くする。
何でもと言ったのは自分だが、本当に遠慮がない。

チョコレートパフェデラックスは、かなり量があるのチョコレートパフェ四個分の量がある、
いわゆるどんぶりパフェみたいな感じで、大食いタレントが食べそうなパフェだ。
ちなみに材料費は三千円を軽く超える。
今まで誰も注文したことがなかったパフェを、小柄で身長は150センチしかない女の子が頼んだ。

「…ねえシュリ、その細~い体のどこにパフェデラックスが入るの?」
「食べきれなかったらお代は払うから、お願い!」

いや、大食いチャレンジメニューではないんだけどね…と笑うが、
お礼はお礼。何でもと言ったからには作らねば。

人一倍大きなグラスに、チョコムース、ホイップ、ブラウニー、
コーンフレーク、カップアイス五個分のチョコアイスを盛り付けていく。
そして最後にチョコクリームとバナナを添える。

「はーいお待ち同様」
「アンちゃん太っ腹~!」
「おかげさまでアイスとホイップがすっからかんだわ」
「消費活動のお手伝いだよ!!」
「はいはい。早く食べないと溶けるわよ~」
「そうだった、いただきま~す!」

絶対食べきれないと思ったのに、シュリは幸せそうにパフェを頬張りながら、
まさかのに十分で完食してしまった。

「…いったいあの大量のパフェがその小さい体に入ったのかしら」
「ふふふ、すごいでしょ!」

美少女がおいしそうに何かを食べているのを見ていたこちらがもうご馳走様という感じだが、
本当にシュリが店に寄ってくれていてよかった。
でなければ何日か目を覚まさまなったかもしれないし、
シュリの子の笑顔も見ることができなかっただろう。

「ありがと、美味しそうに食べてくれて」
「変なの…。
おいしかったよ、ご馳走様でした!」

しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

【完結】22皇太子妃として必要ありませんね。なら、もう、、。

華蓮
恋愛
皇太子妃として、3ヶ月が経ったある日、皇太子の部屋に呼ばれて行くと隣には、女の人が、座っていた。 嫌な予感がした、、、、 皇太子妃の運命は、どうなるのでしょう? 指導係、教育係編Part1

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ
恋愛
 王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。 「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」  しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。    完結致しました(2022/06/28完結表記) GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。 ★お礼★  たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます! 中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。

水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。 王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。 しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。 ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。 今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。 ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。 焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。 それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。 ※小説になろうでも投稿しています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

処理中です...