ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

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第二十七話 紅茶とスコーンと注意事項(1)

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頭に当てがわれた銃の持ち主にため息をつく。

「あなたもお久しぶりです、ラヴィー。
忙しいのは本当なのです。」
「…ヴィルテローゼが剣聖になったって話は本当だったのね」

そういえば剣聖にも知り合いがいたことを思い出す。
グラディウスの護衛で剣聖のNo.5。
グラディウスの護衛なのでヴィルテローゼとは友人関係にあった、
ラヴィーネ・ゼロ・イルズィオーン。

一つ下でありグラディウスと同い年。
ラヴィーネは剣聖の名前であり、ヴィルテローゼと同じく貴族、
ラヴィーネが侯爵令嬢のアマレッティ・リカレンスの頃からの知り合いだ。

そして大体皇族の護衛は騎士団がするが、それよりラヴィーネは皇帝の信頼を受けており、強いということだ。
そして何よりグラディウスを敬愛しており、グラディウスに害をなすものには容赦しない。


というか、ここにいるということは怪我をして休養中だったあと一人はラヴィーネだったようだ。

それより、銃を頭から離してくれない。
「…いい加減にしてくださいラヴィー。
別にグラディウス殿下を無下に扱っているわけではありません。」
「夜の番なのですから午前中はお暇でしょ?」
「…はぁ、あのですね、私今自分のお店をやっているんです。
お客様をほっぽり出してお茶をするわけには参りませんの。
ねぇ、ブリューナク」

なかなか銃を離してくれないので、
ブリューナクの蔓を使って銃を取り上げ、
それをラヴィーネに渡す。

これは、銃剣……。
聖剣イルズィオーンが銃剣タイプだったことに驚く。
まぁ指輪タイプのブリューナクの方が聖剣としては一番おかしいのだが。

「ラヴィーネが失礼しました、姉上。
よろしければそのお店に遊びに行かせてください。」
「お客様としてならもちろん歓迎いたしますよ。」
「それはよかった。
ラヴィーネ、友人に銃剣なんて向けるものじゃないよ?」
「も、申し訳ありません。」

グラディウスの言うことは絶対聞くのね、と苦笑いする。
ブリューナクを使う前に止めてくれても良かったのだが……。

「ラヴィーネに用があったのですよ。
少しいいですか?」
「あ、はい。
ではまた後で、ヴィルテローゼ。
…いえ、今はローアンでしたね。」
「どちらでも構わないわ。
騎士団の前でそれを口にしなければ。」
「騎士団…?
まぁいいです、少し失礼しますね。」


翌日、はぁ、どっと疲れた……と午後の3時頃、
スコーンが焼き上がるのを待っていた。
やはりおやつ時にはお客で席が賑わうから嬉しい。
スイーツを食べるお客様を見ながら、待っている間スコーンに何をつけたら美味しいかを考えることにした。

やはり定番はジャムやバター、
チョコクリームも合わないわけがない。
チーズフェアで余ったチーズで作ったチーズクリームも絶対合う。
あとは、紅茶の茶葉をいれる紅茶スコーンも今度作ってみたい。
ドライフルーツも入れてみたいが、生憎自分はレーズンがあまり好きでなかったことを思い出す。
後は抹茶スコーンも作りたいが、お抹茶がまずないため、
作れない。
そこは文化的にやはりしょうがないのか…。

と、考えていると店のベルが鳴る。
それにバッと顔を上げた。

「い、いらっしゃいませ!!」
「やぁ姉上。
約束通りお邪魔させてもらうよ。」
「グラディウス、殿下…。」
「おっと、殿下はお店では不味いだろ?
グランでいいよ。」

確かにこんなこじんまりとしたカフェに皇太子がいるとなれば、
大騒ぎになる。
「いらっしゃいませ、グラン。
お好きなお席へどうぞ。ちょうどスコーンが焼きたてです。
いかがです?」
「じゃあローズヒップティーとスコーンをお願いするよ。
ええと、トッピングはクリームとラズベリーのジャムで。」
「かしこまりました。」

紅茶を入れ、
スコーンをお皿に移して、クリームとジャムを添える。

「お待たせしました。
どうぞごゆっくり」

あまりごゆっくりはして欲しくないとは思ったが、
言う決まりなのでもちろん言う。
……まさか言った翌日に来るとは思わなかった。

「…そういえば、ラヴィーはどうしたんです?」
「置いてきたよ。」
「まさかお1人で来たのですか!?な、
何かあればどうするのです…!」

というかもし何かがあれば自分がラヴィーネに殺される、
もしくは皇帝に殺されるか騎士団に殺されるの三択なのだが。
「剣の腕には自信がある。
それよりこの紅茶もスコーンも絶品だね。
お店と言うから洋服店かと思っていたけど、
カフェだったとは……」
「料理が趣味なもので。」
「それは知らなかったよ。」

見事に会話を逸らされる。
「ねぇ姉上」
「はい?」
「ちゃんと幸せですか?」

何故そんな質問をされるのかと思ったが、
もちろん幸せだった。
剣聖にならなければ母と向き合えずにいたと思うし、
お客様で賑わうこのカフェを、開けなかった。
別に悪いことばかりではない。むしろあの馬鹿な婚約者には感謝しているくらいなのだ。

「もちろんです。」
「それは良かった。
もし、あなたが辛い顔をしたのなら…」

と、右手を取られる。
「こんなもの奪っていたかもしれません。」

と、するりとブリューナクが薬指から引き抜かれる。

その時だった。
ぐわんと、景色が歪む。
何だろう、頭痛や吐き気ではない……体調が悪い訳でもない
この感じは、眠気…?

「姉上?」

気がつくと床に倒れ込み、意識を失っていた。
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