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第二十六話 お茶しませんか
しおりを挟む「そういえば、新しい皇太子が決まったんですってね」
伝令待ちの時間、シアンが口を開いた。
だから王宮が騒がしかったのだなと納得する。
「で?どの人が皇太子なの?」
「第二皇子殿下のグラディウス殿下だそうよ。」
第二皇子、グラディウス・ルラシオンとは節点があった。
同い年であり、「姉上」と慕ってくれていたのだ。
だがもう姉上でもなんでもない、朝と昼はカフェの店長、
夜は血で穢れた剣聖になってしまった公爵令嬢なのだから。
「それと、アオイって女がグラディウス殿下に近づいたら、
剣を向けろっていう陛下のご命令よ。」
それに飲んでいた紅茶を吹き出しそうになる。
「大丈夫かよ。」
とハヤテにぎょっとされる。
「けほっ…、すみません。」
そういえば、異世界から現れたアオイの監視として剣聖がついていたはずだが、剣聖の冷たい態度からして、アオイは嫌われていたのだろうか。
「あの、剣聖ってしばらくアオイ嬢の監視についてましたよね?」
「あー、あのクソ女ですね。」
いつも上品な言葉遣いをするツキヤの言いように驚く。
「マジで気持ち悪かったわ。
仕事増えるし、くっついてきやがるし。
頭撫でられた時はキレた。」
とハヤテも心底嫌だというような顔をする。
ハヤテの頭を撫でるのはヒロインとのイベントなんだが、
そこでどうやらハヤテはキレたらしい。
「そうそう。
影では好感度が上がらなーいとか、何でイベント通りなのに上手くいかないのよムカつくーとかばっかり言ってたわ。
私のこと勝手にお姉ちゃんとか言ってくるからキレた。」
シアンをお姉ちゃんと呼び続けるヒロイン、だが「私、あなたのお姉ちゃんじゃないわ」って押し倒されるイベントのために呼んだのかもしれないが、シアンもキレたらしい。
「ラビさんはどうでした?」
と聞くと、舌打ちされる。
「舌打ちするほどアオイ嬢が嫌でした?」
と聞くと高速で頷きはじめる。
「あの女怪しすぎるし、
私が監視に当たる日は機嫌悪かったね~。
何で剣聖に女がいるのよとかずっと言ってたし。」
しかも男好きが見え見えときたか。
それは剣聖が嫌いになるのも無理はないかもしれない。
「最終的に剣聖が陛下にアオイが疑わしいかどうかの報告をしたんですよね?何と報告したんです?」
「え?全員一致で"怪しすぎる"って報告したわよ。」
まさかの全員一致で疑われたのかヒロインよ…とあんぐりと口を開けた。
「それに比べてあなたはいい子ねローアン。
皇太子…じゃなかった。ライオス殿下も何でアオイ嬢を選んだのか分かんないわァ」
とシアンが微笑み、ラビリムが頭を撫でてくれた。
「…それはありがとうございます。
ラビさんもありがとう。……あ、報告書用紙が切れてましたね。
取ってきます」
と部屋を出る。……いや驚いた。
あそこまでヒロインが嫌われていて、
そしてライオスをダメにしてしまった女ということで警戒されているとは。グラディウスに近づけまいと皇帝も必死らしい。
……グラディウスは乙女ゲームの攻略対象ではなかったが、
可愛い顔をしているため令嬢がかなり注目する弟属性のような感じだったなと思い出す。
そして隣の部屋に行こうとすると、正面にグラディウスがいた。
「……」
見て硬直してしまった。
部屋から出るのではなかったと頭を抱えたくなる。
いや、落ち着け。昔とは外見が異なっていて、
ハニーブロンドだった人間が銀髪になっているのだ。
さすがに自分がヴィルテローゼだとは気付くまいと気を取り直す。
「どうされましたかグラディウス殿下。
…今は皇太子殿下でしたね。おめでとうございます」
と適当に社交辞令をかます。
「姉上!!」
「……ま?」
……何で気が付いてしまったんだろう。
喋ったからか、喋ったからなのか?とブツブツ言いたくなる。
「姉上…とはどういうことでしょうか?
私は剣聖の…」
申し訳ないがしらを切ることにした。
何故かこの純粋な煌めく瞳を見ていると自分がすごく穢れた存在に思えてきて、嫌になる。
「姉上でしょ?
ヴィルテローゼ・ネージュ公爵令嬢。
今はローアン・ゼロ・ブリューナク、十三番目の剣聖でしたね。
姉上が言うようにもう姉上じゃないけどね。」
「……よく分かりましたね」
ともう諦めることにした。
これ以上の誤魔化しは無駄だ。
「やっぱり!
その髪色も似合っているよ。」
「ありがとうございます、殿下。」
「元気そうで何より。
でも少し痩せたんじゃないか?」
「そうでしょうか?」
まあそうかも知れない。
人を殺したあとの食事は何とも言えない気持ちになる。
だから食べる量が少なくなった…かもしれない。
「良かったら今度お茶しない?」
「ごめんなさい、時間が無くて…」
と言いかけた時、頭部にゴリッと何かが当てがわれる。
「あらあら、グラディウス殿下のお誘いを断る無礼者はどなたかしら?私もその話、混ぜてくれません?」
冷や汗が流れる。
…きっと頭部に当たっているものは、銃だ。
そして、聞き覚えがある声に背筋が凍る。
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