26 / 128
第二十六話 お茶しませんか
しおりを挟む「そういえば、新しい皇太子が決まったんですってね」
伝令待ちの時間、シアンが口を開いた。
だから王宮が騒がしかったのだなと納得する。
「で?どの人が皇太子なの?」
「第二皇子殿下のグラディウス殿下だそうよ。」
第二皇子、グラディウス・ルラシオンとは節点があった。
同い年であり、「姉上」と慕ってくれていたのだ。
だがもう姉上でもなんでもない、朝と昼はカフェの店長、
夜は血で穢れた剣聖になってしまった公爵令嬢なのだから。
「それと、アオイって女がグラディウス殿下に近づいたら、
剣を向けろっていう陛下のご命令よ。」
それに飲んでいた紅茶を吹き出しそうになる。
「大丈夫かよ。」
とハヤテにぎょっとされる。
「けほっ…、すみません。」
そういえば、異世界から現れたアオイの監視として剣聖がついていたはずだが、剣聖の冷たい態度からして、アオイは嫌われていたのだろうか。
「あの、剣聖ってしばらくアオイ嬢の監視についてましたよね?」
「あー、あのクソ女ですね。」
いつも上品な言葉遣いをするツキヤの言いように驚く。
「マジで気持ち悪かったわ。
仕事増えるし、くっついてきやがるし。
頭撫でられた時はキレた。」
とハヤテも心底嫌だというような顔をする。
ハヤテの頭を撫でるのはヒロインとのイベントなんだが、
そこでどうやらハヤテはキレたらしい。
「そうそう。
影では好感度が上がらなーいとか、何でイベント通りなのに上手くいかないのよムカつくーとかばっかり言ってたわ。
私のこと勝手にお姉ちゃんとか言ってくるからキレた。」
シアンをお姉ちゃんと呼び続けるヒロイン、だが「私、あなたのお姉ちゃんじゃないわ」って押し倒されるイベントのために呼んだのかもしれないが、シアンもキレたらしい。
「ラビさんはどうでした?」
と聞くと、舌打ちされる。
「舌打ちするほどアオイ嬢が嫌でした?」
と聞くと高速で頷きはじめる。
「あの女怪しすぎるし、
私が監視に当たる日は機嫌悪かったね~。
何で剣聖に女がいるのよとかずっと言ってたし。」
しかも男好きが見え見えときたか。
それは剣聖が嫌いになるのも無理はないかもしれない。
「最終的に剣聖が陛下にアオイが疑わしいかどうかの報告をしたんですよね?何と報告したんです?」
「え?全員一致で"怪しすぎる"って報告したわよ。」
まさかの全員一致で疑われたのかヒロインよ…とあんぐりと口を開けた。
「それに比べてあなたはいい子ねローアン。
皇太子…じゃなかった。ライオス殿下も何でアオイ嬢を選んだのか分かんないわァ」
とシアンが微笑み、ラビリムが頭を撫でてくれた。
「…それはありがとうございます。
ラビさんもありがとう。……あ、報告書用紙が切れてましたね。
取ってきます」
と部屋を出る。……いや驚いた。
あそこまでヒロインが嫌われていて、
そしてライオスをダメにしてしまった女ということで警戒されているとは。グラディウスに近づけまいと皇帝も必死らしい。
……グラディウスは乙女ゲームの攻略対象ではなかったが、
可愛い顔をしているため令嬢がかなり注目する弟属性のような感じだったなと思い出す。
そして隣の部屋に行こうとすると、正面にグラディウスがいた。
「……」
見て硬直してしまった。
部屋から出るのではなかったと頭を抱えたくなる。
いや、落ち着け。昔とは外見が異なっていて、
ハニーブロンドだった人間が銀髪になっているのだ。
さすがに自分がヴィルテローゼだとは気付くまいと気を取り直す。
「どうされましたかグラディウス殿下。
…今は皇太子殿下でしたね。おめでとうございます」
と適当に社交辞令をかます。
「姉上!!」
「……ま?」
……何で気が付いてしまったんだろう。
喋ったからか、喋ったからなのか?とブツブツ言いたくなる。
「姉上…とはどういうことでしょうか?
私は剣聖の…」
申し訳ないがしらを切ることにした。
何故かこの純粋な煌めく瞳を見ていると自分がすごく穢れた存在に思えてきて、嫌になる。
「姉上でしょ?
ヴィルテローゼ・ネージュ公爵令嬢。
今はローアン・ゼロ・ブリューナク、十三番目の剣聖でしたね。
姉上が言うようにもう姉上じゃないけどね。」
「……よく分かりましたね」
ともう諦めることにした。
これ以上の誤魔化しは無駄だ。
「やっぱり!
その髪色も似合っているよ。」
「ありがとうございます、殿下。」
「元気そうで何より。
でも少し痩せたんじゃないか?」
「そうでしょうか?」
まあそうかも知れない。
人を殺したあとの食事は何とも言えない気持ちになる。
だから食べる量が少なくなった…かもしれない。
「良かったら今度お茶しない?」
「ごめんなさい、時間が無くて…」
と言いかけた時、頭部にゴリッと何かが当てがわれる。
「あらあら、グラディウス殿下のお誘いを断る無礼者はどなたかしら?私もその話、混ぜてくれません?」
冷や汗が流れる。
…きっと頭部に当たっているものは、銃だ。
そして、聞き覚えがある声に背筋が凍る。
0
お気に入りに追加
1,578
あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】お飾りではなかった王妃の実力
鏑木 うりこ
恋愛
王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。
「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」
しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。
完結致しました(2022/06/28完結表記)
GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。
★お礼★
たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます!
中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

どーでもいいからさっさと勘当して
水
恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。
妹に婚約者?あたしの婚約者だった人?
姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。
うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。
※ザマアに期待しないでください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる