25 / 128
第二十五話 チーズフェア(3)
しおりを挟むチーズフェアが始まり、チーズ好きのお客様で席が賑わう。
チーズをはしゃぎすぎて買いすぎたため、
チーズケーキや、プリンはお持ち帰り可能にしてある。
キッシュやパスタ、サラダもピザも大人気、
一番人気なのはチーズフォンデュだ。
「いらっしゃいませ!
……あら、ハヤテじゃないですか。」
「…チーズフェアやってるって本当か?」
店に入ってきたのはハヤテだった。
というか、まずハヤテが店に来たのは初めてだったので驚いて目をぱちくりさせる。
「んだよその顔は」
「別に~。
今チーズフェア中ですよ!カウンター席しか空いてなくてすみません。」
「全然いい。」
「昨日朝市で買ってきたチーズ料理のフェアなんです。
色々なチーズ揃えてますから。」
「…色々なチーズ……」
ハヤテの方を向くと目をキラキラさせている。
まるで子供みたいに。
「一番人気なのはチーズフォンデュですよ。」
「じゃあチーズフォンデュで。」
「かしこまりました。」
チーズフォンデュに使うチーズは癖のないものがいい。
エメンタールチーズ、グリュイエールチーズ、ゴーダチーズをブレンドして、お好みでコンテ、ボーフォール、ブルーチーズのいずれかを入れると本格的になる。
「ハヤテはお酒大丈夫ですか?
あと、コンテにボーフォール、ブルーチーズの中からお好みのチーズをお選びください。」
「全ての特徴を簡単に述べよ」
「何で問題風に言うんですか……。メニューにも書いてありますけど、コンテは 濃厚ですけどしつこくなくて、
ボーフォールは優しいはちみつのような甘さがあって、
ブルーチーズは塩見が強くて濃厚で風味が強烈ですよ。」
「ボーフォールで。酒も大丈夫だ。」
「了解!」
チーズを細かく切って、コーンスターチをまぶす。
フォンデュ鍋にニンニクの切口をこすりつけて香り付けをして、
ワインを入れ、火にかけアルコール分を飛ばす。
弱火にかけ、チーズを少しずつ加えて木べらでかき混ぜる。
隠し味に味噌があればいいのだが、残念ながら文化的に味噌がない。
それからバケット、トマト、うずら卵にブロッコリー、
ソーセージとハムを皿に盛る。
「どうぞ召し上がれ!」
「い、いただきます。」
チーズフォンデュでは足りないだろうから、
他にも何かを作るとしよう。
色々お仕事でお世話になっているし。
「うまっ……!!
これはゴーダチーズとエメンタールチーズ……あとは
グリュイエールチーズか?」
「それは良かった。
よく分かりましたね。」
「定番だからな。」
いつもツンツンしているハヤテのこういう顔は初めて見る。
ずっとこの顔でいればいいのに。
それに味に見分けがつくとはかなりのマニアなのだろう。
ルーシャンと呼ばれるカッテージチーズを取り出す。
これはレアなチーズなので見つけた時には大興奮した。
ルーシャンは揚げるか焼くと美味しいチーズだ。
それに粉を眩し、揚げていく。
「これもどうぞ。」
「…チーズみたいだがこれは?頼んでないぞ?」
「ルーシャンっていうカッテージチーズです。
この国にはないチーズなんですよ。
まぁ剣聖サービスってことで。」
ハヤテがルーシャンを口に入れるとパリッという音が広がる。
「…これも上手い!!」
「子供か。」
「う、うるさいな。」
「嘘ですよ~。」
「……美味かった。」
「ありがとうございます。」
とお代を受け取る。
褒められたことに対して少し気恥しい気持ちになるが、
「……お前、随分ユーシアスと仲がいいみたいだな?」
という言葉に笑顔が崩れる。
「……どういう意味です。」
「俺が訪ねてるんだが。」
「ユーシアスとはそんな関係じゃありません。
そうだったとしてもハヤテには関係ないのでは?」
「もちろんだ。」
「じゃあ何でそんなことを聞くんでしょうか。」
「あまり騎士団と馴れ合わない方が良い。
後で後悔するぞ。」
「仰ってる意味が分かりませんわ。
……ユーシアスに何か聞いたりしないで下さいね。
あの人は私が剣聖だと知らないはずですから。」
「おお怖。へぇ、バレたくはないんだ。」
「!!……お客が減りますから。」
「それだけかねぇ。
ま、いいや。また来る」
それだけ行ってハヤテは出ていく。
「すみませーん、注文お願いします!」
「あ、はーい!」
チーズフェアは好調、お客様も喜んでくれていたが、
ハヤテの言葉が何か引っかかっていた。
騎士団と馴れ合わない方が良いということは知っている。
元から剣聖と騎士団は仲が良くないようだし、
副団長の態度を見ればそれは明らかだ。
……だが後で後悔するとはどういう意味なのか。
0
お気に入りに追加
1,578
あなたにおすすめの小説

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる