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第二十五話 チーズフェア(3)
しおりを挟むチーズフェアが始まり、チーズ好きのお客様で席が賑わう。
チーズをはしゃぎすぎて買いすぎたため、
チーズケーキや、プリンはお持ち帰り可能にしてある。
キッシュやパスタ、サラダもピザも大人気、
一番人気なのはチーズフォンデュだ。
「いらっしゃいませ!
……あら、ハヤテじゃないですか。」
「…チーズフェアやってるって本当か?」
店に入ってきたのはハヤテだった。
というか、まずハヤテが店に来たのは初めてだったので驚いて目をぱちくりさせる。
「んだよその顔は」
「別に~。
今チーズフェア中ですよ!カウンター席しか空いてなくてすみません。」
「全然いい。」
「昨日朝市で買ってきたチーズ料理のフェアなんです。
色々なチーズ揃えてますから。」
「…色々なチーズ……」
ハヤテの方を向くと目をキラキラさせている。
まるで子供みたいに。
「一番人気なのはチーズフォンデュですよ。」
「じゃあチーズフォンデュで。」
「かしこまりました。」
チーズフォンデュに使うチーズは癖のないものがいい。
エメンタールチーズ、グリュイエールチーズ、ゴーダチーズをブレンドして、お好みでコンテ、ボーフォール、ブルーチーズのいずれかを入れると本格的になる。
「ハヤテはお酒大丈夫ですか?
あと、コンテにボーフォール、ブルーチーズの中からお好みのチーズをお選びください。」
「全ての特徴を簡単に述べよ」
「何で問題風に言うんですか……。メニューにも書いてありますけど、コンテは 濃厚ですけどしつこくなくて、
ボーフォールは優しいはちみつのような甘さがあって、
ブルーチーズは塩見が強くて濃厚で風味が強烈ですよ。」
「ボーフォールで。酒も大丈夫だ。」
「了解!」
チーズを細かく切って、コーンスターチをまぶす。
フォンデュ鍋にニンニクの切口をこすりつけて香り付けをして、
ワインを入れ、火にかけアルコール分を飛ばす。
弱火にかけ、チーズを少しずつ加えて木べらでかき混ぜる。
隠し味に味噌があればいいのだが、残念ながら文化的に味噌がない。
それからバケット、トマト、うずら卵にブロッコリー、
ソーセージとハムを皿に盛る。
「どうぞ召し上がれ!」
「い、いただきます。」
チーズフォンデュでは足りないだろうから、
他にも何かを作るとしよう。
色々お仕事でお世話になっているし。
「うまっ……!!
これはゴーダチーズとエメンタールチーズ……あとは
グリュイエールチーズか?」
「それは良かった。
よく分かりましたね。」
「定番だからな。」
いつもツンツンしているハヤテのこういう顔は初めて見る。
ずっとこの顔でいればいいのに。
それに味に見分けがつくとはかなりのマニアなのだろう。
ルーシャンと呼ばれるカッテージチーズを取り出す。
これはレアなチーズなので見つけた時には大興奮した。
ルーシャンは揚げるか焼くと美味しいチーズだ。
それに粉を眩し、揚げていく。
「これもどうぞ。」
「…チーズみたいだがこれは?頼んでないぞ?」
「ルーシャンっていうカッテージチーズです。
この国にはないチーズなんですよ。
まぁ剣聖サービスってことで。」
ハヤテがルーシャンを口に入れるとパリッという音が広がる。
「…これも上手い!!」
「子供か。」
「う、うるさいな。」
「嘘ですよ~。」
「……美味かった。」
「ありがとうございます。」
とお代を受け取る。
褒められたことに対して少し気恥しい気持ちになるが、
「……お前、随分ユーシアスと仲がいいみたいだな?」
という言葉に笑顔が崩れる。
「……どういう意味です。」
「俺が訪ねてるんだが。」
「ユーシアスとはそんな関係じゃありません。
そうだったとしてもハヤテには関係ないのでは?」
「もちろんだ。」
「じゃあ何でそんなことを聞くんでしょうか。」
「あまり騎士団と馴れ合わない方が良い。
後で後悔するぞ。」
「仰ってる意味が分かりませんわ。
……ユーシアスに何か聞いたりしないで下さいね。
あの人は私が剣聖だと知らないはずですから。」
「おお怖。へぇ、バレたくはないんだ。」
「!!……お客が減りますから。」
「それだけかねぇ。
ま、いいや。また来る」
それだけ行ってハヤテは出ていく。
「すみませーん、注文お願いします!」
「あ、はーい!」
チーズフェアは好調、お客様も喜んでくれていたが、
ハヤテの言葉が何か引っかかっていた。
騎士団と馴れ合わない方が良いということは知っている。
元から剣聖と騎士団は仲が良くないようだし、
副団長の態度を見ればそれは明らかだ。
……だが後で後悔するとはどういう意味なのか。
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