ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

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第二十三話 チーズフェア(1)

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「……明日は定休日か。」
「そうだよ。」

お昼休みにも店に来ているユーシアスが、
ぐったりとした表情で言った。
昨日のことがあり、少しどう接すれば良いか分からなかったが、
いつもと変わらない態度でユーシアスは接してくれたので、
こちらも変わらず同じ態度を取る事にした。

この店は毎週水曜日が定休日になっている。
毎日やっても構わないのだが、それでは疲労がたまってしまう。
朝と昼は喫茶店、夜は剣聖として働く生活も楽ではない。

「知っているか?明日他の国からの珍しいチーズが輸入されるらしい。」
「……チーズ?」
「そう。朝市でしか手に入らないらしいぞ。
それもこの国にないチーズばかりだとか。」

その言葉にパアッと目を輝かせた。
「それ本当!?」
「……そんなに顔を近づけられると照れてしまうんだが」
「……?うわわっ、ごめんなさい!!」

自分が身を乗り出しすぎていたことに今更気がつく。
子供みたいにはしゃいで恥ずかしい……。
だが昔も今もチーズが大好きなのである。
この世界にあるチーズはまぁ10種くらいだし、
他の国のチーズも欲しいと思ってもなかなか手に入らない。

「それは行くしかない!
そんなチーズが手に入ればもうチーズフェアをするしかない!!」
「チーズフェア?」
「この店のフェアみたいな感じ、世界のチーズを使った料理フェアを作るの!後はチーズ乗せ放題とかね!!」

よくファミレスなどで見かけるフェアだが、この世界にあまりそういうフェアは無さげなため、チーズ好きには堪らないフェアになるに違いないし、珍しさが目を引くだろう。

「……大体朝市がどこでやっているか知っているのかロゼ」
「え?そういえば、…知らない」

自慢でないが貴族だったため、普通の市場がある所も最近知った。
それに朝市と普通の市場は面倒なことに場所が違うらしい。
まぁ剣聖の誰かに聞けばいいか…と思ったが、ハッとする。

……まともに料理をしないあの人達に朝市がどこにあるか知っている人間がいるのかどうか。
いや、間違いなくいないだろう。
そして聞けば「まず朝市って何?」と聞かれること間違いなし。

「どこにあるんです?」
ユーシアスに尋ねると、うーんと考えた表情をされたので、
首を傾げた。

「説明しずらいところにあるからなー。
それに女一人では荷物が持てないぞ。」
「まぁ、確かに……?」
「ああ。
というわけで明日この店の前に8時集合で」

ユーシアスが人差し指を立てて微笑んだことに、
うん?と疑問が生まれる。

「……?何で一緒に行くことになってるの?」
「だって場所が分からないんだろう?
荷物持ちのためにも男手が必要だと思うんだか」
「いやいや、け、結構です」
「ほぉー。じゃチーズフェアとやらは諦めるんだな」
「ぐっ……!!」

はめられた感が半端ない。
こちらにニコニコと微笑んでいるところから、もう確信犯だ。…この男、チーズの話に飛びつくことが分かっていてそう言ったに違いない。

「……はめましたね」
「はめたとは人聞きの悪いな。
用心深さが人一倍高いロゼと出かけようと思ったらこうでもしないと出来ないだろう?」

それをはめたって言うんだよ…とローアンはぐっと唇を噛む。
「……ですから」
「うん?」
「こらはチーズフェアのためですからね!!」
「分かってるよ。」

こうしてまんまとはめられてしまったのだった。
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