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第二十一話 薔薇の似合う少女(1)
しおりを挟む「あ、ユーシアス。
いらっしゃい。」
朝入って来るなり、ユーシアスは気まずそうな顔をしていた。
あの騎士団二人組は本当に言いつけたらしいな、とため息をつきたくなるが、
そんなことをしては余計ユーシアスが不安になるだろう。
「どうしたの、そんな暗い顔をして」
「…この間は我が団の者が大変申し訳なかった。」
「やっぱりそのことでしたか。
…まあとりあえずお座りになって」
とカウンター席に案内した。
「あの者たちは見習いで、正式な団員ではなかったのだが、
その人間たちが君と剣聖の方に迷惑をかけたようだ。
…こんなことで償えるとは思わないが、どうか許してほしい。」
さっきも頭を下げたのに、もう一度深々と頭を下げられた。
「で?その方達どうなったんです」
「もちろん見習い騎士から外した」
「は、外した!?謹慎とかじゃなくて…?」
「当り前だ。
見習いのうちに問題ごとを起こすと正式な団員ではないため即刻処分だ。」
「へえ…。
まあラビさんも怒ってはいないようですし、かまいません。」
とほほ笑むと露骨に嬉しそうにされる。
「よかった。」
「……」
くっそ顔がいいなと思ってしまった。
乙女ゲームの登場人物顔面偏差値高すぎである。
「ご注文は?」
「フレンチトーストのセットで。
トッピングはホイップとラズベリー、桃とキャラメルソース。
ドリンクは野菜スープでドレッシングはいつもので。」
「かしこまりました。」
「いつもの」というほどユーシアスはこの店のすっかり常連になっていた。
最近は忙しくて来れなかったようだが。
そして相変わらず甘々っだな…と苦笑いする。
それにしても野菜スープが余っていたから助かった。
やはり皆コーンスープとクラムチャウダーを飲むからどうしても野菜スープが余ってしまうのだ。
野菜スープは優しいコンソメ味で、中にはにんじんにじゃがいも、玉ねぎとトマト、
それから長ネギも入っている。
そして一番作るのが簡単といえるスープだ。
つけておいたフレンチトーストをバターで焼いて、
自家製ホイップと庭のラズベリーと桃を添え、キャラメルソースをかける。
サラダを盛り付け、スープをよそう。
「はいお待ち同様。
めしあがれ~」
「いただきます!」
…本当においしそうに食べてくれるな。
ユーシアスはいつも甘いデザート系を頼むのであまり自分が作ったものという感じでないものが多いが、
それでもこんなにおいしそうに食べてくれるならば、別にいいかと思う。
「このフレンチトースト、卵の優しい味がして美味い…。
ふわふわで、じゅわーっと甘さが広がってくる…」
そして毎回食レポつきだ。
それにふふと笑う。
「ユーシアス、他に何か欲しいメニューがあれば言ってね。
参考にさせてもらうから」
「本当か!?じゃあキャラメルパフェとフォンダンショコラ、あとプリンアラモード!」
子供のように無邪気に話してくるものだから、どれもメニューに入れてあげたくなる。
本当にこの人は作り甲斐があるというか、なんというか…。
でもきっと、自分が剣聖だとしたら今までのように接してくれないのは間違いない。
どうかこの人には、それがバレる日が来ませんように…と後ろめたい気持ちが強くなる。
今はまだ、自分の料理をおいしそうに食べる「お客様」でいてほしい。
「ご馳走様。また来るよ」
「ありがとうユーシアス。待っているわ」
「…なあ、ロゼ」
「ん?」
「…お前はその…好いている男や付き合っている男はいないのか?」
「え?」
いつになく真剣な顔で、そう言われた。
甘いものを食べているときとは似ても似つかないくらいの、真剣な表情。
これは、いわゆる告白に近い物なのかもしれないが、でも…
「純粋なあなたに…私は似合わない。」
「え?」
幸せになりたいなら隠せばいい。彼はいい人だし、真面目だし優しい。
一緒にいれば幸せかもしれないが、それを自分は、隠せない。
「…私が人を殺したことがある人間でも、あなたは同じことが言えますか?」
「…ロゼ?」
「なーんて、冗談ですよ冗談。
変なこと言ってごめんなさい。」
これで引き下がるかと思ったのに惑わせてくるようなことを、
淡々とした口調で、ユーシアスは言った。
「俺は冗談は言わないぞ。」
「…!!」
「返事は気長に待つ。」
それだけ言って出て行ってしまった。
「…何でよ」
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