21 / 128
第二十一話 薔薇の似合う少女(1)
しおりを挟む「あ、ユーシアス。
いらっしゃい。」
朝入って来るなり、ユーシアスは気まずそうな顔をしていた。
あの騎士団二人組は本当に言いつけたらしいな、とため息をつきたくなるが、
そんなことをしては余計ユーシアスが不安になるだろう。
「どうしたの、そんな暗い顔をして」
「…この間は我が団の者が大変申し訳なかった。」
「やっぱりそのことでしたか。
…まあとりあえずお座りになって」
とカウンター席に案内した。
「あの者たちは見習いで、正式な団員ではなかったのだが、
その人間たちが君と剣聖の方に迷惑をかけたようだ。
…こんなことで償えるとは思わないが、どうか許してほしい。」
さっきも頭を下げたのに、もう一度深々と頭を下げられた。
「で?その方達どうなったんです」
「もちろん見習い騎士から外した」
「は、外した!?謹慎とかじゃなくて…?」
「当り前だ。
見習いのうちに問題ごとを起こすと正式な団員ではないため即刻処分だ。」
「へえ…。
まあラビさんも怒ってはいないようですし、かまいません。」
とほほ笑むと露骨に嬉しそうにされる。
「よかった。」
「……」
くっそ顔がいいなと思ってしまった。
乙女ゲームの登場人物顔面偏差値高すぎである。
「ご注文は?」
「フレンチトーストのセットで。
トッピングはホイップとラズベリー、桃とキャラメルソース。
ドリンクは野菜スープでドレッシングはいつもので。」
「かしこまりました。」
「いつもの」というほどユーシアスはこの店のすっかり常連になっていた。
最近は忙しくて来れなかったようだが。
そして相変わらず甘々っだな…と苦笑いする。
それにしても野菜スープが余っていたから助かった。
やはり皆コーンスープとクラムチャウダーを飲むからどうしても野菜スープが余ってしまうのだ。
野菜スープは優しいコンソメ味で、中にはにんじんにじゃがいも、玉ねぎとトマト、
それから長ネギも入っている。
そして一番作るのが簡単といえるスープだ。
つけておいたフレンチトーストをバターで焼いて、
自家製ホイップと庭のラズベリーと桃を添え、キャラメルソースをかける。
サラダを盛り付け、スープをよそう。
「はいお待ち同様。
めしあがれ~」
「いただきます!」
…本当においしそうに食べてくれるな。
ユーシアスはいつも甘いデザート系を頼むのであまり自分が作ったものという感じでないものが多いが、
それでもこんなにおいしそうに食べてくれるならば、別にいいかと思う。
「このフレンチトースト、卵の優しい味がして美味い…。
ふわふわで、じゅわーっと甘さが広がってくる…」
そして毎回食レポつきだ。
それにふふと笑う。
「ユーシアス、他に何か欲しいメニューがあれば言ってね。
参考にさせてもらうから」
「本当か!?じゃあキャラメルパフェとフォンダンショコラ、あとプリンアラモード!」
子供のように無邪気に話してくるものだから、どれもメニューに入れてあげたくなる。
本当にこの人は作り甲斐があるというか、なんというか…。
でもきっと、自分が剣聖だとしたら今までのように接してくれないのは間違いない。
どうかこの人には、それがバレる日が来ませんように…と後ろめたい気持ちが強くなる。
今はまだ、自分の料理をおいしそうに食べる「お客様」でいてほしい。
「ご馳走様。また来るよ」
「ありがとうユーシアス。待っているわ」
「…なあ、ロゼ」
「ん?」
「…お前はその…好いている男や付き合っている男はいないのか?」
「え?」
いつになく真剣な顔で、そう言われた。
甘いものを食べているときとは似ても似つかないくらいの、真剣な表情。
これは、いわゆる告白に近い物なのかもしれないが、でも…
「純粋なあなたに…私は似合わない。」
「え?」
幸せになりたいなら隠せばいい。彼はいい人だし、真面目だし優しい。
一緒にいれば幸せかもしれないが、それを自分は、隠せない。
「…私が人を殺したことがある人間でも、あなたは同じことが言えますか?」
「…ロゼ?」
「なーんて、冗談ですよ冗談。
変なこと言ってごめんなさい。」
これで引き下がるかと思ったのに惑わせてくるようなことを、
淡々とした口調で、ユーシアスは言った。
「俺は冗談は言わないぞ。」
「…!!」
「返事は気長に待つ。」
それだけ言って出て行ってしまった。
「…何でよ」
1
お気に入りに追加
1,578
あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】お飾りではなかった王妃の実力
鏑木 うりこ
恋愛
王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。
「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」
しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。
完結致しました(2022/06/28完結表記)
GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。
★お礼★
たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます!
中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

なにをおっしゃいますやら
基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。
エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。
微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。
エブリシアは苦笑した。
今日までなのだから。
今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる