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第二十話 兎な剣聖(2)
しおりを挟む……まじかと、ローアンはモーニングセットのスープをかき混ぜながらブツブツと呟いていた。
昨日の海賊が現れたという任務にて、
No.3のラビリムと任務に出たものの、ほとんど何もできなかったのだ。
ほとんどラビリムが片付けてしまったのである。
それをローアンは「ひょえええ」と海賊と同じ反応をしてただ呆然と眺めていたらラビリムは全て片付けてしまったのだ。
ゴリマッチョの4人分の筋肉、そして聖剣ジャッカロープ恐るべし。
あれも剣聖の能力なのか、それとも自身の身体能力の高さなのか何なのか。船ごと破壊しだした時はどうしようかと思った。
もう山1つぐらい破壊できそうな能力を持った聖剣なのは間違いない。
「お姉さん疲れてますねー、大丈夫ですか?」
「何ならどこかいってパーッとしません?」
「お店がありますからー。
騎士団の方がそんなことして大丈夫なんですか?」
これがいわゆるナンパというやつなのだろうか。
しかもエリート族の騎士団の人間に。
前世では顔が普通だったため、そんなことは滅多になかったが、
乙女ゲームの登場人物、元皇太子の婚約者なだけあってヴィルテローゼは顔が整っているものな…と少し悲しくなる。
カランコロンと、店のベルがなる。
「はーい、いらっしゃいませ!
…、ラビリムさん!」
店に入ってきたのはラビリムだった。
入口が広く高めでよかった。
ラビリムの身長は軽く2メートルを超えているので、入るのに苦労はして欲しくない。
「うおっ、あれ…、No.3のラビリムじゃね?」
「でけぇっ…、ホントに不気味だわぁ」
騎士団の2人組がわざと聞こえるような声で話し始める。
……何て感じの悪い。
それを無視するかのように微笑み、
「お好きなお席へどうぞ」と案内した。
それにラビリムは困惑した表情をしてワタワタとする。
そして入口を差し、「出ていかなくていいのか?」と言っているようだ。
「あら、来たばかりじゃありませんか。
ゆっくりしていって下さいよ」
「……ム」
そう言うと少し嬉しそうに椅子に座ってくれる。
……やっぱり戦っている時は少しびっくりしたけれど、
普通の人なのだろう。なんて言ったって可愛い。
自己表現が苦手みたいではあるが、そこも含めて可愛い。
「……え、いやいやおかしいでしょ店長さん!」
笑いながら立ち上がる騎士団の2人組を見て、
スゥ……と冷たい目線を送った。
「あら、何がです?」
「なんで剣聖の、しかも1番凶暴って言われてる奴を客として歓迎できるのかって話!」
「しかも知り合いっぽいね?
そんな奴と楽しそうにお喋りするより、俺らが遊んであげるよ。」
と、手まで掴んでくる。
……何だこの人達。
自分が剣聖の一人であるからムカつくのかもしれないが、
誰のおかげで華やかな仕事ばかりこなせると思っているのか。
自分達が、剣聖が手を汚しているからなのを、きちんと理解しているのか。
だがこのカフェ、「ロゼ」の店主である以上、
剣聖のローアンとして怒る訳にはいかない。
それ以上に、ここにいる以上ラビリムは大切な「お客様」だ。
そのお客様に失礼なことを言うようならば、黙っていない。
「私の大切なお客様に失礼なことを吐かすなら、
帰っていただいて結構ですわ。」
そうキッパリ告げると、騎士団の二人は「は?」という形相に変わる。そりゃそうだろう。騎士団長の人間というならばエリート中のエリート。チヤホヤしかされないだろう。
「おいおい、俺らもお客様なんだけど……?」
「そのお客様なら他のお客様に失礼なことを言うのはこの店の店長として許しません。
……いいえ、お客様に失礼なことを言うならば、あなた方のことを私は、お客様と見なせません。」
と言い切った。
こういう時は睨んだり大声を出したりするのではなく、
妙に怖い笑顔を見せる方が相手を威嚇できる…が、
今はただの店長のため、こんなに威嚇して大丈夫だったのか疑問だが、騎士団の人間が一般市民に手を上げるようなことはしないだろう。
「は……?何言って…」
まだ言うか、とため息をつく。
「お代は結構。
騎士団の人間だから甘やかされているのか何なのか知りませんが、これ以上己の非を認めずほざくならば帰って下さい。」
「なんめなよ…ただの女の癖に……!!」
え、嘘でしょう?と目を大きく見開いた。
なんと騎士団の人間にも関わらず、剣を抜いたのだ。
これはもやはブリューナクを使うしかないのか…。
剣聖だとバレるのは痛いが、身を守るためにはしょうがないと思った。……が、その必要はなかった。
バリっ…という鈍い音とともに、男の剣が割れる。
「……!!」
ラビリムが素手で剣を粉砕していた。
「……くっそ、覚えてろよ!!」
「騎士団長に言いつけてやる!!」
いや子供か、と突っ込みたくなる。
というか、騎士団長のユーシアスに言いつけたところで、?
剣聖に礼儀正しいあの人に言い付ければ痛い目を見るのはあちらなのに、つくづく馬鹿な連中である。
「……ありがとう、ラビリムさん。
その、手、大丈夫ですか?」
と聞くと、手を見せ、大丈夫だというように頷く。
それによかった、と微笑み、そして頭を下げる。
「他のお客様が、失礼しました。」
顔を上げてくれと言うように慌てふためかれため、顔を上げた。
そして海の方向を指して頭を下げていた。
「……もしかして船を壊したことを謝りに来てくれたんですか?」
と聞くと、コクコクと頷く。
「ふふっ、そんなことでしたか。
確かにびっくりはしましたけれど、大丈夫ですよ。
怪我もしていませんし。」
と微笑むと、あからさまに嬉しそうにしてくれた。
「……よかったらまたいらっしゃって下さい。
ラビリムさんのことを悪く言う方がいたら追い出してやりますから!……そうだ、ラビさんって呼んでもいいですか?」
剣聖の人とは仕事仲間としてこれから何年も付き合っていくことになるだろうし、仲良くしたい。
この人が悪い人とか怖い人ではないと分かったし、
それとは真逆に優しいし、律儀だ。
ラビリムが照れながら頷く。
「やった。これからもよろしくお願いします、ラビさん!」
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