ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

文字の大きさ
上 下
20 / 128

第二十話 兎な剣聖(2)

しおりを挟む


……まじかと、ローアンはモーニングセットのスープをかき混ぜながらブツブツと呟いていた。

昨日の海賊が現れたという任務にて、
No.3のラビリムと任務に出たものの、ほとんど何もできなかったのだ。
ほとんどラビリムが片付けてしまったのである。
それをローアンは「ひょえええ」と海賊と同じ反応をしてただ呆然と眺めていたらラビリムは全て片付けてしまったのだ。

ゴリマッチョの4人分の筋肉、そして聖剣ジャッカロープ恐るべし。
あれも剣聖の能力なのか、それとも自身の身体能力の高さなのか何なのか。船ごと破壊しだした時はどうしようかと思った。
もう山1つぐらい破壊できそうな能力を持った聖剣なのは間違いない。

「お姉さん疲れてますねー、大丈夫ですか?」
「何ならどこかいってパーッとしません?」
「お店がありますからー。
騎士団の方がそんなことして大丈夫なんですか?」

これがいわゆるナンパというやつなのだろうか。
しかもエリート族の騎士団の人間に。
前世では顔が普通だったため、そんなことは滅多になかったが、
乙女ゲームの登場人物、元皇太子の婚約者なだけあってヴィルテローゼは顔が整っているものな…と少し悲しくなる。


カランコロンと、店のベルがなる。
「はーい、いらっしゃいませ!
…、ラビリムさん!」

店に入ってきたのはラビリムだった。
入口が広く高めでよかった。
ラビリムの身長は軽く2メートルを超えているので、入るのに苦労はして欲しくない。

「うおっ、あれ…、No.3のラビリムじゃね?」
「でけぇっ…、ホントに不気味だわぁ」

騎士団の2人組がわざと聞こえるような声で話し始める。
……何て感じの悪い。
それを無視するかのように微笑み、
「お好きなお席へどうぞ」と案内した。

それにラビリムは困惑した表情をしてワタワタとする。
そして入口を差し、「出ていかなくていいのか?」と言っているようだ。

「あら、来たばかりじゃありませんか。
ゆっくりしていって下さいよ」
「……ム」

そう言うと少し嬉しそうに椅子に座ってくれる。
……やっぱり戦っている時は少しびっくりしたけれど、
普通の人なのだろう。なんて言ったって可愛い。
自己表現が苦手みたいではあるが、そこも含めて可愛い。

「……え、いやいやおかしいでしょ店長さん!」

笑いながら立ち上がる騎士団の2人組を見て、
スゥ……と冷たい目線を送った。
「あら、何がです?」

「なんで剣聖の、しかも1番凶暴って言われてる奴を客として歓迎できるのかって話!」
「しかも知り合いっぽいね?
そんな奴と楽しそうにお喋りするより、俺らが遊んであげるよ。」

と、手まで掴んでくる。
……何だこの人達。
自分が剣聖の一人であるからムカつくのかもしれないが、
誰のおかげで華やかな仕事ばかりこなせると思っているのか。
自分達が、剣聖が手を汚しているからなのを、きちんと理解しているのか。

だがこのカフェ、「ロゼ」の店主である以上、
剣聖のローアンとして怒る訳にはいかない。
それ以上に、ここにいる以上ラビリムは大切な「お客様」だ。
そのお客様に失礼なことを言うようならば、黙っていない。

「私の大切なお客様に失礼なことを吐かすなら、
帰っていただいて結構ですわ。」

そうキッパリ告げると、騎士団の二人は「は?」という形相に変わる。そりゃそうだろう。騎士団長の人間というならばエリート中のエリート。チヤホヤしかされないだろう。

「おいおい、俺らもお客様なんだけど……?」
「そのお客様なら他のお客様に失礼なことを言うのはこの店の店長として許しません。
……いいえ、お客様に失礼なことを言うならば、あなた方のことを私は、お客様と見なせません。」

と言い切った。
こういう時は睨んだり大声を出したりするのではなく、
妙に怖い笑顔を見せる方が相手を威嚇できる…が、
今はただの店長のため、こんなに威嚇して大丈夫だったのか疑問だが、騎士団の人間が一般市民に手を上げるようなことはしないだろう。

「は……?何言って…」
まだ言うか、とため息をつく。

「お代は結構。
騎士団の人間だから甘やかされているのか何なのか知りませんが、これ以上己の非を認めずほざくならば帰って下さい。」
「なんめなよ…ただの女の癖に……!!」

え、嘘でしょう?と目を大きく見開いた。
なんと騎士団の人間にも関わらず、剣を抜いたのだ。
これはもやはブリューナクを使うしかないのか…。
剣聖だとバレるのは痛いが、身を守るためにはしょうがないと思った。……が、その必要はなかった。

バリっ…という鈍い音とともに、男の剣が割れる。
「……!!」

ラビリムが素手で剣を粉砕していた。
「……くっそ、覚えてろよ!!」
「騎士団長に言いつけてやる!!」

いや子供か、と突っ込みたくなる。
というか、騎士団長のユーシアスに言いつけたところで、?
剣聖に礼儀正しいあの人に言い付ければ痛い目を見るのはあちらなのに、つくづく馬鹿な連中である。

「……ありがとう、ラビリムさん。
その、手、大丈夫ですか?」

と聞くと、手を見せ、大丈夫だというように頷く。
それによかった、と微笑み、そして頭を下げる。

「他のお客様が、失礼しました。」

顔を上げてくれと言うように慌てふためかれため、顔を上げた。
そして海の方向を指して頭を下げていた。

「……もしかして船を壊したことを謝りに来てくれたんですか?」

と聞くと、コクコクと頷く。

「ふふっ、そんなことでしたか。
確かにびっくりはしましたけれど、大丈夫ですよ。
怪我もしていませんし。」

と微笑むと、あからさまに嬉しそうにしてくれた。
「……よかったらまたいらっしゃって下さい。
ラビリムさんのことを悪く言う方がいたら追い出してやりますから!……そうだ、ラビさんって呼んでもいいですか?」

剣聖の人とは仕事仲間としてこれから何年も付き合っていくことになるだろうし、仲良くしたい。
この人が悪い人とか怖い人ではないと分かったし、
それとは真逆に優しいし、律儀だ。

ラビリムが照れながら頷く。
「やった。これからもよろしくお願いします、ラビさん!」

しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前

地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。 あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。 私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。 アリシア・ブルームの復讐が始まる。

処理中です...