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第十八話 甘党なお客様(2)
しおりを挟む「……」
顔を赤らめるユーシアスをポケーっと見つめた。
「おい、何か言え……」
「ふふっ…」
思わず笑ってしまったのだ。
まさか…、騎士団長がスイーツ男子だったとは、衝撃の事実。
それに顔を赤らめる姿が可愛かった。
「わ、笑うな……!
ど、どうせ怖い顔してるのにーっとか思ってるんだろ」
「思いましたね」
ゲームでヒロインは「そんなことありません。怖くないですよ」
と微笑むが、それと逆のことを言った。
ヒロインはユーシアスが怖くなかったらしいが自分は怖い。
正直に言ったまでだ。
「だから部下の前では好きなものが食べられないんだよ…」
「あらあらまぁまぁ、我慢はよろしくないですよ?
好きなものを食べないと人生損してる気がしません?」
「それは、そうだが……」
「ですからここではお好きなものを好きなだけ食べて言って下さいな。私、人が美味しそうに何かを食べているところを見るのが大好きなんです。」
「……おかしな奴だ。」
「まぁ失礼しちゃうわ。」
「……ロゼ、と呼んでもいいだろうか。
俺のことはユーシアスでいいから。」
その言葉に大きく目を見開く。
騎士団長のユーシアスは厳しいで有名だ。
騎士団の人間にはそれこそ優しいが、訓練の時は鬼のように厳しく、そして騎士団らしからぬ行動をする人間には容赦はない。
そして騎士団以外の者には大した信頼を寄せない。
そのユーシアスがたかがカフェの人間に名前で呼ぶことを許すとは、いったいどうなっているのか。
だが別に悪い人間とは思わない。
それは彼も今の剣聖と騎士団の状態を憂いていることを知り、誠実な人なのだなと思ってしまった。
ここまでいい人であると却って憎たらしいぐらいであるが。
「……それは急に馴れ馴れしかっただろうか。」
「構いませんよ、騎士団長様」
「おい…!」
「嘘ですよユーシアス。またのご来店を心待ちにしておりますわ。」
と悪戯に笑うとユーシアスもフッと笑う。
「まったく、意地悪なマスターだ。」
「あらやだ」
「……もう、怖くないか?」
微笑むとユーシアスはもじもじと口を開いた。
「怖くないか?」と聞く姿はまるで子犬のようで、
いつもの仏頂面面な騎士団長が上目遣いをしてきたことに、
ぎょっとする。
「まぁ何か食べてる間は、可愛いんじゃないですか?」
「可愛いとは…、初めて言われたな。」
そんなに嬉しそうにされると調子が狂うんだが……。
「それにしても美味かった。
また食べに来よう。部下にも宣伝せねば」
「それはありがとうございます。
お客様が増えるのは嬉しいですから。」
と笑うとユーシアスはうぅんと考えた姿勢をとる。
「……ユーシアス?」
「やっぱりダメだな」
「え!?何がですか!?」
「また来るよ。代金は?」
「な、700ギルです…。」
「ん。」
な、何がダメだったんだろうか…と顔を青くする。
宣伝するほどの美味しさではなかったということなのか…?
と、ユーシアスの出ていく後ろ姿を眺めていた。
「ロゼのような女性がいたら騎士団長の野郎共が入り浸るからな。それはダメだ」
「……え」
それは、料理ではなく自分自身が褒められたと自惚れていいのだろうか…、と顔を赤くした。
「ご馳走様でした。」
「……また、お越しくださいませ…。」
「何なのよあの人……」
顔の熱が、取れない。
「はーいローアン!オープンおめでとォ!」
「お、お邪魔します……」
ユーシアスが食べたものの食器を下げていた時、
シアンとツキヤが来てくれた。
「あら、1番だと思ったのに、もうお客様が来てたの?」
「はい、甘党なお客様が」
と微笑んだ。
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