ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

文字の大きさ
上 下
15 / 128

第十五話 「ロゼ」の開店と騎士団長(1)

しおりを挟む
「ご、ゴホン…。突然申し訳ありません。
お久しぶりですです、剣聖の皆さん」

噛んだことを隠すように咳払いをし、騎士団長のユーシアス、
それから後ろにいた副騎士団長の女性、レヴィ・レーガントが入って来る。

「こんばんはー、ユーシアスちゃん、レヴィちゃん」
「どうも。」
「騎士団長と服騎士団長様が何の用だよユーシアスにレーガント。」

ハヤテがトゲトゲモードに早変わりする。
だが本当になんの用なのか。アオイに冷たい態度を取っていたからと言って攻略対象である時点で警戒は怠れないのだ。思わずやはり身構えてしまう。

「今日は…、あなたに用があって参りました」
ユーシアスがローアンを見下ろす。
それに怯む姿勢を見せては負けだという謎の気持ちが働き、
動揺を見せないようににっこりと先に笑ってしまう。

「あらあら私にでございますか……?
何か騎士団長殿にしてしまいましたでしょうか。」
「いえ、お礼を申しに」
「何に対してでしょうか?」
「皇太子殿下…いえ、ライオス殿下とアオイ嬢を助けていただいたことに感謝を。
本来ならば騎士団が出向くべきでありましたのに、申し訳ありません。」

二人が頭を下げるが、その言葉を聞いて心底どうでもいいと思った。
しかし王族になら騎士団の護衛がついているのに逃げられたということだ。
つまりは騎士団の尻ぬぐいだっと…。

「それからあのお二人のことですが…」
レヴィが喋り出すが、それをローアンは笑って制した。
「興味がありませんので結構です。」
「興味…って」

ローアンが皇太子だった人物に興味という言葉を使ったことに対してレヴィはものすごい形相になる。
それをあざ笑うかのようにまた微笑みを見せた。

「どうやら…剣聖になったことで少し態度が大きくなっているのではないでしょうか。」
「副団長!!剣聖に向かって…」

ユーシアスがそれを制す声を上げたが、こちらに謝る気などさらさらない。
「かまいません団長殿。
ですがレーガント副団長、私あの方々に人生滅茶苦茶にされているんです。
もう少しで私も私の家族も危なかった。
その男と女が助かったか助かっていないかなど私は興味がないのです。
別に剣聖になったからと言って態度を大きくするほど私は愚かではないつもりです。
それでもお話を続けますか」
「いえ…大変失礼いたしました。」

そしてその夜、指令はなく、朝組の時間になったので帰宅しようとした時だった。
「…ヴィルテローゼ嬢」
「あら、まだいらっしゃったんですか。」

馬車に乗り込もうとした時、ユーシアスに声をかけられた。
「はい。…先程は失礼を」
「あなたがしたことではないじゃありませんか。
別に本当に興味がないだけで気にしておりませんことよ。」
「そうではなくて…その…、
剣聖になって態度が大きくなっているとレヴィが言ってしまいましたが…」
「あなたもそう思うのですか?」
「むしろ逆なのです。」
「逆…?」

何だこの人も文句を言いに来たのかと、どうかわそうか考えていたのに、
逆だと言われて眉を怪訝そうにゆがめた。

「むしろ態度が大きいのはこちらの方です。
剣聖あってこその騎士団なのに、まるでこちらが偉いかのように振る舞う輩が大嫌いなのです。」

…この人ももしかして剣聖だけが汚れ仕事を扱うことを良しとしていないのか。
だとしたら別に悪い人間ではなさそうだが…。

「立派なお心づかい感謝いたします団長殿。」

そうほほ笑み、馬車に乗り込んだ。

「…はあ、俺があの人と会話できる日がくるなんてな…」


翌朝、家に王宮から使いの者が来た。
それは皇帝からの手紙で、カフェの話をシアンから聞いたという内容だった。
建てていると時間がかかるだろうとのことで、良い物件をもう見つけてくれてあり、
その物件には庭や調理器具がそろえてあり、材料費もこれからかかる費用も負担してくれる…との内容だった。

「…文句なしだわ」

それにしても、カフェの名前をどうしようか迷うところだ。
別にそこまでおしゃれな名前でなくてもいいだろうし…、
「ロゼ、お店を開くんですってー!?」

にぱーっとほほ笑んだ母が部屋に入ってきたのを見て、ピーンときた。
「…ロゼにしよう」

今はローアンという名があるので、元の名を覚えていてくれる人は数少ない。
それにカフェで働いているときは剣聖ではなくヴィルテローゼでいたい。

「はいお母様」
とほほ笑んだ。


しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

【完結】22皇太子妃として必要ありませんね。なら、もう、、。

華蓮
恋愛
皇太子妃として、3ヶ月が経ったある日、皇太子の部屋に呼ばれて行くと隣には、女の人が、座っていた。 嫌な予感がした、、、、 皇太子妃の運命は、どうなるのでしょう? 指導係、教育係編Part1

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ
恋愛
 王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。 「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」  しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。    完結致しました(2022/06/28完結表記) GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。 ★お礼★  たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます! 中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。

水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。 王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。 しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。 ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。 今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。 ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。 焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。 それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。 ※小説になろうでも投稿しています。

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

処理中です...