ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

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第十二話 ロゼ(2)

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「料理、ですか……?」

本当は少しでも一緒にいたいだけだったが、
剣聖の人達に作る物の味見という言い訳をつけて、食べてもらいたかった。
前世から何かと自分で作って食べるより、人においしいと言ってもらえるのが好きで、
そして自分の料理で人が笑顔になるのが、何よりも嬉しかったし、
美味しいと笑顔になってほしい。

「そ、そうです。
私お料理が好きで、あの、その……、今度剣聖の方々にお料理を振る舞うことになったのですけれど、味見をしてもらいたくて…」

「…まぁお料理が趣味なんて初めて知ったわ。
それが我儘だなんてまったく欲がない子ですこと。」

と母が柔らかい笑みを見せる。
……あぁ、こんな自然な笑顔を見たのは久しぶりにだった。
いかにいつもの自分の愛想笑いが酷いものか分かる。

「いいですよ。」
「ほ、本当でございますか?
言っておきながら、まだ作れておりませんので1時間ほどお待ちくださいますか?」
「その……」
「はい?」
「見ていてもいいかしら?」

おずおずと母が声を出す。
「…はい!」


空いている厨房に入り、フンスと腕まくりをする。
一応剣聖の人達に作るものの参考にするから、食欲の湧くものがいいだろう。
食欲の湧くもの…、ニンニクとかは匂いがあるから、入れるとしても少しだけ。
甘辛煮なんかもいいが、なんせ醤油が存在していない。

そうだ、カレーにはスパイスが入っているから食欲が湧くはずだし、スープを作ってみようと引き出しを漁る。
それとアンチョビが入ったトマトソースなんかもいいだろう。
ツキヤのリクエストのオムライスはトマトソースにしよう。

に、しても…、トマトがないではないかと絶望する。
ううむ、今から買っていては夜に間に合いそうにない。
このネージュ公爵邸から街までかなりある。

そういえばブリューナクは植物を扱うのだったか。
いや、かなり無理があるがふざけるように指輪を地面にかざし、
「トマトー」

と言ったものの、何も起こらない。
後ろに母がいるのになんて恥ずかしい……。
きっと何をしているのかしらこの子は…?とドン引きされているに違いない……。プルプルと真っ赤な顔をして振り返ったところ、
母は目を大きく見開き、口元を押さえていた。
あぁあやらかした。だがその恥ずかしさはすぐに驚きへと変わってしまった。

地面から、芽が生えたと思えば3秒ほどで成長し、立派なトマトがなったのだ。
それも真っ赤に熟し、はしたないとは思うがかぶりつきたくなるような、みずみずしく見えて
しっかりと日を浴びて育った、元気な真夏のトマトだ。

「…え!?……え、はぁ!?
え、ブリューナクって聖剣なんだよね、え、野菜、野菜ぃ!?」

植物の力を操れるとはいえ野菜を1分で実らせるとか、
もやはこの聖剣、何でもアリである。
思わず困惑し、ツッコミを入れてしまったではないか。
母が後ろにいるというのに…。(二回目)

「ろ、ロゼ……」
「は、はい」
「その能力便利ですね……!」
「いやっ、そういう聖剣じゃないんですけど…、」
「ですけれど床にひびが入ってしまいましたね…」
「ごめんなさい…」
「私がバーンしちゃったことにしますから気にしないでロゼ!」

ば、バーンしちゃったとは何なのか。
仕事の時はものすごく冷静でかっこいいんだけれど、家にいると天然をかましまくるタイプなので、
たまに何を言っているのか理解できないことがある。

「それで、何を作るのですか?」
「トマトソースのオムライスとカレースープです!」
「なるほど…。
じゃあまず証拠隠滅、ですよ」

と母が笑ってトマトを収穫?し始める。
それに笑って、一緒にトマトを採った。

剣聖にはまだ誇りという気持ちは存在していないが、こうして母ときちんと話すことができたし、
案外悪いことばかりではないかもしれないな…とたくさんのトマトを抱えて思った。


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