ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

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第八話 月夜の剣聖(2)

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「何だと…?戻れとは俺に指図しているのか?」

ああ、この人全然変わってないとため息をつきそうになるが、
慈悲深い態度を取ることが大事なんだったと思い出し、
婚約者だったころのようよに叱責するのことはしてはならない。

「指図ではございません。お願いでございます。」
「……それに貴様は誰だ」
「剣聖ですよ。」
「剣聖!?もう追手が…」

そりゃくるでしょうよと呆れる。
「剣聖っ!?お願い助けてっ……!!」

馬車から叫び声がした。
「……?」

今のは、アオイの声だった。
お願い、助けて…というのはどういうことなのか。
馬鹿皇子の烙印を押されたライオスと逃げたものの、
剣聖が追いつけば自分も処罰されてしまうから剣聖に乗り換えるという意思表示という名の演技、あるいは……

勢いよく馬車のドアを開ける。
「あっ、待て!!」
「助けに、来てくれた人ですか……?」

口を布で縛られている故若干聞きづらい声だったが、
アオイは口を布で塞がれ、手足は縄で縛られていた。
これは演技でないと確信した。
まず手を自分で縛るとこは無理だ。それに、顔には大あざがある。
あきらかに殴られた後だ。そして涙目です震えていた。
……もしかして逃亡はライオスの独断、アオイは無理矢理連れてこられたということなのか。
まぁそれは後にしよう。

「……まぁライオス殿下。これはどういう事なのですか?」

声のトーンを落とし、ライオスを睨みつける。

「アオイが俺から逃げるのかま悪いんだよ!!
コイツの狂言のせいで俺は馬鹿皇子の烙印を押されたのに、
コイツ俺から逃げようとしやがった!!…こうなって当然だろ。
だから殴って縛って連れてきたんだよ!!」

ということはライオスが全てやったということか。
確かにこんなことになってしまえば、アオイにとってライオスは用済み、選択ミス。
早いところ剣聖の誰かに乗り換えようとしたはずだ。
…だがシアンの態度を見る限り、アオイを好いてはいない様だが。
どの剣聖もそうなのかは後で聞いてみないといけない。
まだこの2人が共犯で、アオイだけでも助かるようにこのように縛っている可能性だって捨てられない。

…いや、単純すぎるこの2人には無理か。
だよねーと自分でうんうんと頷いた時、周りが騒がしいことに気がつく。

「邪魔が入ったか……」

大きな足音、下品な笑い声…、盗賊だ。
「な、何だっ!?」
「盗賊です。全く…、夜の森がどれだけ危険か知らないわけじゃないでしょう?」

おっと…、つい本音が。

「くそっ……!!」

ライオスが剣を抜くが。それをブリューナクの蔓で掴み、後方に投げてしまう。ライオスの剣技など、騎士団の新兵くらいだ。
そんなに弱っちいのに戦われても今の自分には足でまといだ。
ライオスが剣の修行をサボっていたことは誰よりも知っている。
ずっと婚約者として隣にいたから。


「な、何をするっ!!」
「ごめんなさぁい、邪魔ですのでアオイ嬢と中にいてくれますか?」
「貴様、侮辱しているのか!!」

それ以外に何か?と聞きたくなってしまうが留め、
慈悲深い態度、慈悲深い態度…と頭の中で念仏のように唱えるが、

「黙ってりゃぁ助けてあげますから馬車の中にいろっていってるんですよ?」

笑顔をつくることには成功したが、言ったことは本心すぎてやってしまった……と顔が引き攣る。
やはりこの皇子に慈悲深い態度を取るなど不可能だ。

「見ろ、女だぜ」
「うひひ、殺すなよ」

下品な笑い声がすぐそばにあることが分かった。

「早くしてくださいません?死にたくなければ」

それでもライオスが反抗的な目をしたため、面倒くさくなって馬車に押し込み、
盗賊に入られないように蔓で馬車をぐるぐる巻きにしてしまう。

「やっと静かになった…」

ごくりと唾を飲みこむ。
今から、殺しを行うこの手は、震えていた。
こうなった以上、もう自分の仕事をこなすほかない。

「さあ、出来るだけ優しく殺してあげましょうね。」


焦りが、恐怖が誰にも伝わらないようににっこりと笑う。



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