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第七話 月夜の剣聖(1)
しおりを挟む伝令に体がビクリと跳ねる。
皇太子のライオスがヒロインであるアオイを連れて逃亡…?
皇太子はローアン…、いや、ヴィルテローゼとの婚約破棄により今や「馬鹿皇子」として
騒がれている。
その皇子の勝手に恋をしたとなるアオイとの婚約を皇帝が認めるとも思えない。
だから逃亡って…それはないだろう。
考えることがもはや幼稚園児である。
「森となると、走っていった方が早い。行きましょう」
「走る…?森までは一時間程あると思いますが」
「聖剣を所持してるなら十分で着きます。行きますよ」
何を言っているのか分からなかったが、走り始めるとツキヤが言っていた意味がすぐに分かる。
まるで自分の体ではないように体が軽く、そして早い。
ばねが付いているかのように、ぐっと一歩一歩に力を入れるとまるで夜空を舞うように進んで行く。
ツキヤの言う通り、十分ほどで森に到着してしまう。
森を駆け抜け、走っていく。
「…ここから道が分かれる。
ローアンは右の方角に向かってくれますか?武運を祈ります。
あと、できればオムライスが食べたいなと思ってますから死なないでくださいね?」
そう言ってツキヤは左の方角に進んでいってしまう。
「オムライス…、案外可愛いのね。」
今のは先程話していたリクエストの話だろうか。今度作っていこう…。
そのためにも今は死ねない。
しかし、自分を陥れようとした皇太子のライオスとヒロインのアオイを助けるために
山賊や盗賊が出る森に入るとは、なんとも気の乗らない話である。
そんな森に入るライオスが馬鹿でしかないのだが。
ハヤテから聞いた話から考えるに、もし逃亡などすればそれを連れ戻すのは剣聖の仕事である。
馬車で逃げて剣聖に敵うはずはないのに、これでまた「馬鹿皇子」の烙印を押されるというのに…。
しかも女がらみとは…。
おそらく皇帝はこのことで皇太子のライオスは皇太子の座を下ろされ、
第二皇子が皇太子の座に就くと思われる。
ならば放っておいてもいいかもしれないが、あの阿保皇子なら「俺は皇太子だぞ」と盗賊に襲われたら
そう言ってしまうかもしれない。
そうなると人質に取られると大変面倒である。
だから皇帝からの命が出たと思われる。
「あ~、めんどくさいわね。」
逃亡した時間がどれくらいかにもよるが、この速さならば追いつける。
聖剣を所持していれば身体能力があがるのだろうか。後で聞いてみることにしよう。
にしても、そろそろ馬車がこちらに向かったのなら追いついてもいいぐらいだ。
右と左で道を分かれさせたため、ツキヤの方にいてもおかしくないのだが、もうすぐ森を抜ける…
といったところで馬車を発見する。
こんな夜更けに危険とされている森に入るのはあの馬鹿皇子だけだろう。
もし違ったら謝るほかないが。
…いきなり前に立ちふさがるわけにはいかないし、ブリューナクの能力で止めさせることにした。
「止めて」
走りながら馬車の方角へ指輪を向ける。
すると初めてブリューナクを発動させたときのように地面から巨大な蔓が生え、
馬車に巻き付く。
「な、何だ!?」
ライオスが確認のため馬車から出てくる。
距離を縮めるため、足におもいっきり力をこめ、空中を舞い着地する。
「…お戻りください皇太子殿下」
ライオスの目に、月夜に照らされる美しい少女が映る。
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