ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

文字の大きさ
上 下
6 / 128

第六話 ちゃんとご飯、食べてますか?(2)

しおりを挟む

二人の話を聞く限り、この二人はまともな食事をとっていない。
そんな食生活でよく戦闘を行えるな…と顔を青くする。

「お給料はかなり高いんだけど、食べるのってめんどくさくて。」
「同じくです」
「めんどくさい…ですか。」

「独り身なもので。自分で作る気力もありませんし…」
「なるほど。」

頷きはするが、独身男性でももっとまともな御飯を食べると思うのだが。
国の騎士団のトップより平民の方々のほうがまともな食事をとっていそうなものである。
作るのがめんどくさい、…か。

「こんばんは~。あら、何の話?」
「あ、シアン」

部屋にシアンが入って来る。
「…シアン、つかぬ事をお聞きしますけど、今日朝昼晩食べた物は?」
「え?今日食べたもの…?
朝はサラダを食べて…」

OLみたいだな…と思うも健康的…。

「あとはほうれん草と…レバーを焼いたやつ?を食べたわ」

嘘でしょ…と顔を青くする。
三人とも
まともな食事と言えるものを食べていない。

「剣聖ってみんなそんな感じよォ。
皆独り身だから作るのめんどくさいって子が多いのよ。」
「え、ええ~…」
「まあ誰かが作ってくれるっていうなら話は別なんだけどね~。」

誰かが作ってくれれば食べるのか…。
「シュリとツキヤさんも誰かが作ってくれるなら食べようと思います?」
「まあ作ってくれるなら…」
「作ってくれる人がいるなら食べると思いますよ。」

作ってくれるんなら食べると…。
何か今度作ってこようかと考える。
前世カフェを一人で経営していたから、料理は得意中の得意だった。
この世界も前いた世界と食文化が全く異なるという訳でもないし。
だがそれではかなり「おせっかい」になるのでは…?

栄養のあるものを食べていないからって作って来てたら近所のおばちゃんさが増しそうなものだ。
「あらあら、そんなこと言われたら作って来てもらえるのかって男は期待するものよ?」

突然の顎クイに目をぎょっとさせる。
きらきらとした、エメラルドグリーンの目と目が合う。
…くそ、顔が良いなと顔を背けてしまった。
乙女ゲームの攻略対象なだけあって顔が良すぎて直視できたものじゃなかった。
そういえば、ツキヤも攻略対象の一人であった。

ツキヤ・ゼロ・レーヴァテイン。
No.2、二番目の剣聖であり、聖剣「レーヴァテイン」の保持者。
眼帯をつけている理由は詳しくは覚えていないけれど、ミステリアスな雰囲気で優しいため、
かなりの人気があったと記憶している。

「あら、振られちゃった」
なんてシアンが微笑む。
「あの…よかったら作りますけど…」

言ってよかったのだろうか…と若干後悔しながらもおずおずと声を発した。
「え?」

拍子抜けだという声をシアンが出したため、冷や汗が流れる。
「あ、やっぱり今のなしで…」
といったところで、シアンがローアンの手を握る。

「あなた料理できるの!?すごいわ…」
「え?」
「でも悪いわ…。いいのかしら?」

おせっかい…とは思われてない。
それにふうと安心する。
それどころかシアンの目は輝いているようにさえ見える。

「人の作ったお料理って食べるの久しぶり!
ありがとうローアン!」
「あ…、えっと、はい。」
「にしてもお料理が上手だなんてあなたいい女じゃないのよォ!
すごいわね。誰に教わったの?」

…確かに考えてみれば、令嬢が料理できるなんておかしな話な気がしてきた。
別にネージュ公爵は没落しかけの家ではないし、しかも公爵令嬢が厨房に立つことなどは、
誰も想像できない…かもしれない。

「えっと…独学です。」

間違ってはいなかった。
前世別に母や先生に教わった訳ではない。

「ますますすごいじゃないの~!」
「ありがとうございます。
何かリクエストがあれば…」

「クッキーがいいにゃ~」
「うわっ」

シュリが後ろから抱き着いてくる。
「あはは、アンちゃんハヤヤンに言われた通り叫び声に色気がないね~」
「そ、それは今関係ないでしょうが!って、クッキーだと栄養のあるものにならないわよ。」
「え~。」
「嫌いな物があったらいってね。」
「野菜」
「却下です。」
「ええ~!!嫌いなものあったら言ってって言ったじゃん!」
「野菜は嫌いでも食べないと大きくなれない…って、シュリっていくつなの?」

見た感じシュリは年下に見えた。
謎に装備はセーラー服の上にマントをきているし、もしかしたらまだ学生…なのだろうか。
「シュリは今14歳だよ~~」
「14歳…。」
「でもアンちゃんと同じで剣聖に選ばれちゃったから学院中等部で中退なんだよね。」
「そうなの…。」

大人っぽく見えるのは剣聖故になのだろうか。
思ったより幼い年なのだった。
そして野菜が嫌いと…。
だが野菜嫌いでもお菓子は好きなようだし、ニンジンのパウンドケーキや、
ピーマンを細かく切ってハンバーグにするものいいかもしれない。

「ねえローアン。ツキヤがうらやましそうにこっち見てるから作ってあげてくれない?
手間かけさせるから申し訳ないんだけど…」
「はあ!?そんなこと、お、思ってないんですからね!?
気にしなくていいですからローアン!」

とめちゃくちゃテンパり顔を真っ赤にして慌てふためくツキヤに微笑む。
「かまいませんよ!お料理好きですから」
「えっと…じゃあお願い、します」
「はい、お願いされました。」

と、ほほ笑んだところで、放送機が音を立てる。

『二番、十三番、皇太子殿下がアオイ嬢を連れて森の方角へ逃走。
即刻連れ帰り、途中で山賊や盗賊に会った場合は始末せよ。』

「!…皇太子殿下が…」
「急いで行った方がよさそうだ。行こう」







しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる

櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。 彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。 だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。 私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。 またまた軽率に短編。 一話…マリエ視点 二話…婚約者視点 三話…子爵令嬢視点 四話…第二王子視点 五話…マリエ視点 六話…兄視点 ※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。 スピンオフ始めました。 「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

処理中です...