ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

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第六話 ちゃんとご飯、食べてますか?(2)

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二人の話を聞く限り、この二人はまともな食事をとっていない。
そんな食生活でよく戦闘を行えるな…と顔を青くする。

「お給料はかなり高いんだけど、食べるのってめんどくさくて。」
「同じくです」
「めんどくさい…ですか。」

「独り身なもので。自分で作る気力もありませんし…」
「なるほど。」

頷きはするが、独身男性でももっとまともな御飯を食べると思うのだが。
国の騎士団のトップより平民の方々のほうがまともな食事をとっていそうなものである。
作るのがめんどくさい、…か。

「こんばんは~。あら、何の話?」
「あ、シアン」

部屋にシアンが入って来る。
「…シアン、つかぬ事をお聞きしますけど、今日朝昼晩食べた物は?」
「え?今日食べたもの…?
朝はサラダを食べて…」

OLみたいだな…と思うも健康的…。

「あとはほうれん草と…レバーを焼いたやつ?を食べたわ」

嘘でしょ…と顔を青くする。
三人とも
まともな食事と言えるものを食べていない。

「剣聖ってみんなそんな感じよォ。
皆独り身だから作るのめんどくさいって子が多いのよ。」
「え、ええ~…」
「まあ誰かが作ってくれるっていうなら話は別なんだけどね~。」

誰かが作ってくれれば食べるのか…。
「シュリとツキヤさんも誰かが作ってくれるなら食べようと思います?」
「まあ作ってくれるなら…」
「作ってくれる人がいるなら食べると思いますよ。」

作ってくれるんなら食べると…。
何か今度作ってこようかと考える。
前世カフェを一人で経営していたから、料理は得意中の得意だった。
この世界も前いた世界と食文化が全く異なるという訳でもないし。
だがそれではかなり「おせっかい」になるのでは…?

栄養のあるものを食べていないからって作って来てたら近所のおばちゃんさが増しそうなものだ。
「あらあら、そんなこと言われたら作って来てもらえるのかって男は期待するものよ?」

突然の顎クイに目をぎょっとさせる。
きらきらとした、エメラルドグリーンの目と目が合う。
…くそ、顔が良いなと顔を背けてしまった。
乙女ゲームの攻略対象なだけあって顔が良すぎて直視できたものじゃなかった。
そういえば、ツキヤも攻略対象の一人であった。

ツキヤ・ゼロ・レーヴァテイン。
No.2、二番目の剣聖であり、聖剣「レーヴァテイン」の保持者。
眼帯をつけている理由は詳しくは覚えていないけれど、ミステリアスな雰囲気で優しいため、
かなりの人気があったと記憶している。

「あら、振られちゃった」
なんてシアンが微笑む。
「あの…よかったら作りますけど…」

言ってよかったのだろうか…と若干後悔しながらもおずおずと声を発した。
「え?」

拍子抜けだという声をシアンが出したため、冷や汗が流れる。
「あ、やっぱり今のなしで…」
といったところで、シアンがローアンの手を握る。

「あなた料理できるの!?すごいわ…」
「え?」
「でも悪いわ…。いいのかしら?」

おせっかい…とは思われてない。
それにふうと安心する。
それどころかシアンの目は輝いているようにさえ見える。

「人の作ったお料理って食べるの久しぶり!
ありがとうローアン!」
「あ…、えっと、はい。」
「にしてもお料理が上手だなんてあなたいい女じゃないのよォ!
すごいわね。誰に教わったの?」

…確かに考えてみれば、令嬢が料理できるなんておかしな話な気がしてきた。
別にネージュ公爵は没落しかけの家ではないし、しかも公爵令嬢が厨房に立つことなどは、
誰も想像できない…かもしれない。

「えっと…独学です。」

間違ってはいなかった。
前世別に母や先生に教わった訳ではない。

「ますますすごいじゃないの~!」
「ありがとうございます。
何かリクエストがあれば…」

「クッキーがいいにゃ~」
「うわっ」

シュリが後ろから抱き着いてくる。
「あはは、アンちゃんハヤヤンに言われた通り叫び声に色気がないね~」
「そ、それは今関係ないでしょうが!って、クッキーだと栄養のあるものにならないわよ。」
「え~。」
「嫌いな物があったらいってね。」
「野菜」
「却下です。」
「ええ~!!嫌いなものあったら言ってって言ったじゃん!」
「野菜は嫌いでも食べないと大きくなれない…って、シュリっていくつなの?」

見た感じシュリは年下に見えた。
謎に装備はセーラー服の上にマントをきているし、もしかしたらまだ学生…なのだろうか。
「シュリは今14歳だよ~~」
「14歳…。」
「でもアンちゃんと同じで剣聖に選ばれちゃったから学院中等部で中退なんだよね。」
「そうなの…。」

大人っぽく見えるのは剣聖故になのだろうか。
思ったより幼い年なのだった。
そして野菜が嫌いと…。
だが野菜嫌いでもお菓子は好きなようだし、ニンジンのパウンドケーキや、
ピーマンを細かく切ってハンバーグにするものいいかもしれない。

「ねえローアン。ツキヤがうらやましそうにこっち見てるから作ってあげてくれない?
手間かけさせるから申し訳ないんだけど…」
「はあ!?そんなこと、お、思ってないんですからね!?
気にしなくていいですからローアン!」

とめちゃくちゃテンパり顔を真っ赤にして慌てふためくツキヤに微笑む。
「かまいませんよ!お料理好きですから」
「えっと…じゃあお願い、します」
「はい、お願いされました。」

と、ほほ笑んだところで、放送機が音を立てる。

『二番、十三番、皇太子殿下がアオイ嬢を連れて森の方角へ逃走。
即刻連れ帰り、途中で山賊や盗賊に会った場合は始末せよ。』

「!…皇太子殿下が…」
「急いで行った方がよさそうだ。行こう」







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