ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

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第五話 ちゃんとご飯、食べてますか?(1)

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「……派手」

ローアンは自室でため息を零した。
今日の昼、剣聖の行きつけの店とやらにシアンと買い物に出かけ、
服を揃えたが、シアンが店主に「女神様みたいにお願い!」
と頼んだばかりに、用意してもらった服はレースや白が多い服になり、胸に黒いリボンが着いていた。そしてオマケにスカートが短い。


前世からの記憶があるからこう思うのかもしれないが、
折角選んでもらって何だがこれではまるでコスプレのようだ。

「はぁあ…」

シアンが言うには騎士団や街の人がピンチの際助けることで自然と信頼度が上がると言っていたが、何だか気が引ける話である。
だがローアンは騎士団所属でもなければ、女であり令嬢。
そうする他ないのは分かっている。

もう寝よう。考えても無駄な話だ。
明日から剣聖としての仕事も始まることであるし。



夜7時半、ローアンは30分前に王城に足を踏み入れた。
「お疲れ様です……」
「お、お疲れ様です…」
「どうも……」

騎士団の人間の態度が何故か怯えているように見える。
…やはり、潰すとか言ったことが影響しているのだろうか。
いや、それしかない。

「……えらく早いですね」
「?」

放送機がある部屋に入ると、1人の男性が座っていた。
眼帯をしており、黒の鋭い瞳と青色の髪が印象的だった。
じっと見つめてから、ハッと我に帰る。
「……えっと」
「あなたでしょう?、異例の十三番、ローアン・ゼロ・ブリューナクってのは。違うのですか?」
「あ、あってます。」

この部屋にいるということはこの人も剣聖なのだろうかと眉をひそめる。
「あぁ、俺はツキヤ・ゼロ・レーヴァテイン。
No.2の剣聖です。よろしくお願いしますね。」

物腰柔らかな瞳に少しビクリとする。
……こんな優しそうな人もいるのだな、と。
別に三人が優しくない訳では無いが、なんというか、この人はミステリアスな雰囲気を纏うものの、落ち着きがある。

「他の剣聖とは会いましたか?」
「ええと、シアンとハヤテとシュリとは顔を合わせています…。」
「ああ、だからビクってしたんですね。
すみません、あんなめちゃくちゃな連中組が初対面では剣聖のイメージがおかしくなりますよね。基本シュリとシアンはおかしい奴らなので。」
「ハヤテは普通なんですか?」
「言ってることは間違ってないですよ。
とてつもなく面倒くさがりなのでめちゃくちゃな人間ではありますが。」
「……そうなんですか。」

「やーだぁ、つーちゃんひどい」
「シュリ、帰っていたんですか」
「さっきね~」

そう言って部屋に入るシュリは血まるけだった。
「……ケガしてない?」

「大丈夫。これ全部返り血。」
「よかった。はい」

とハンカチを渡す。
「汚れちゃうよ?こんな綺麗なハンカチ…、見ず知らずのおっさんの血で汚しちゃ悪いし…」
「構わないから使って?」
「……ありがと。」

血を拭き終わったシュリはクッキーを食べ始める。
「またそんな物を夜ご飯にして…。」
「つーちゃんだっていつも夜ご飯ゼリーじゃん」
「あなた成長期でしょうが。俺はいいんですよ。」

それを聞いて目をギョッとさせた。
晩御飯がクッキーとゼリーだと…?
女子高生とサラリーマンか!!と思わずツッコミを入れたくなってしまう。

「あ、あのっ」
と、バンっと机に手を叩きつける。
「び、びっくりした……。何?」
「今日朝昼晩食べたもの、教えてください。」

さすがに1食ぐらいまともな物を食べていると信じたかったが、
そうではなかった。

「朝はケーキ食べて、お昼はめんどくさくて食べてない。
晩御飯はコレ」
と、シュリが袋に入ったクッキーを見せる。

「朝はコーヒーだけで、お昼と夜はゼリーを。」

何だと…?と頭が痛くなる。
「時間がないとかそういう感じですか?」

時間が無いというのなら分からない話ではない。
もし、そうじゃないというのならば、どれだけ不健康な生活を送っているのか……。

「別に時間がないとかそういう訳ではないんですけどね~。」
「まさかと思いますけど、毎日そんな感じですか?」
「そうだよ?」

ローアンはふぅーとため息をつき、お得意の口角は怖いほどつり上がっているというのに目が死んでいるブラックスマイルを作る。

「あ、あのシュリ…。もしかしてローアンさんって物凄く怖い人です?」
「まぁまぁアンちゃんは怖い方かもね……。」

「ちゃんとご飯、食べてますか?」

まるで野菜を残す子供に黒い笑みを作る母親のようにローアンは2人に微笑んだ。

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