4 / 128
第四話 影の雑用係(2)
しおりを挟むローアンの瞳が揺らぐ。
その言い方だと、「剣聖には殺しや痛ぶりが好きな連中もいる」
という風に聞こえなくもない。
「…それはまぁ、物騒な特権ね。」
「別に。国に害なす者に人権がないってだけだ。」
「……へぇ」
「まぁ新入りの頃から酷い殺し方する奴は見たことがないが。
一応覚えときな」
「わかりました。」
剣聖が人を残酷な方法で殺していても驚いたり凶弾することはするなという警告だ。
若干耐性がない話なので気持ち悪くはなるが、今は抑えなければ。
「一見華やかに見える剣聖でも必ず手を汚さなければならない。
……やってらんねぇなこんな仕事。お前もすぐ分かるさ」
そんなもの出来れば一生分かりたくなった。
いつか自分も、剣聖という仕事に誇りを持てるようになるのだろうか。それとも、ハヤテのように「やってられない」と自分の仕事を憂うようになるのか。
「もう帰ってて大丈夫だよアンちゃん。
今日は仕事ないから、明日はしーちゃんと買い物して、
明後日から仕事スタート。よく休んでね。」
「ありがとう、シュリ」
「じゃあ馬車まで送っていくわ。行きましょう。」
王城から出て、従者がいる馬車に乗り込む。
「じゃあねローアン。明日のお昼に迎えに行くわね」
「ありがとうございます。それでは失礼しますね」
「まぁ、愛想笑いが酷い子ね…」
「こんな話聞いてもビクリともしないなんて、アイツ顔にとりあえず笑う癖がついてやがんな」
「なぁにハヤヤン、アンちゃんのこと気に入らないの?」
「顔はかなりいいけど性格がどうかしてるな。」
「うわ最低…」
そんな話を三人がしてることを知らず、
ローアンは馬車の中で過呼吸気味になっていた。
「お、お嬢様……!」
従者のキキの声もあまり聞こえなくなって、ヒュウとかハーっという自分の息を吸って吐く音しか聞こえない。
別に怖いとか、人を殺すのに全く抵抗がない訳ではなかった。
そして、一気に緊張が解けたのだ。
プルプルと震える手で右手の薬指にはめられた指輪に触れ、
抜こうとする。
するとすんなり指輪は外れた。
気がつくと、白髪から元のハニーブロンドに戻っていて、
乾いた笑いと共に安心した。
自分が自分でなくなった気がしたのだ。
ローアン・ゼロ・ブリューナクになったことから、ヴィルテローゼ・ネージュはもういない人間として扱われているような、そんな感じがした。いきなり「これは人を殺すこともある仕事」だなんて言われて必死に、動揺しないようにヘラヘラ笑った。が、それも限界らしい。
「……大丈夫よキキ。大丈夫」
「……お嬢様はいつも辛そうです。
皇后になる話がなくなったとはいえ、今度は剣聖だなんて……。」
「大丈夫よ。これで家にも恩を返せるってものだもの。」
「…それでは、お嬢様は……」
「ネージュ家の駒で結構!元々、貴族会の女はそういうもんでしょ。」
「そんなこと言ったって納得いきません。」
「それは我儘っていうものよ。贅沢は言えなーい」
と指をクルクルと髪に絡ませる。
そして指輪をはめ直す。髪が白髪に戻り、それが馬車の窓に映る。
「割り切りすぎですよ…」
「その方が人生楽ちんよ~」
なんて笑って動揺を誤魔化す。
さっきまで過呼吸になっていた人間がして誤魔化せているのかどうかはさておき、この従者はものすごく心配者だ。
笑って落ち着かせないときりがない。
これから、自分も影の雑用を任される者になるのだ。
「…しっかりしないとねぇ」
何でもないないように見せかけ、弱い自分を偽り笑うのは疲れてしまいそうだが、国外追放になるよりかはマシな結果だと信じたい。
そう思って、白髪の見なられない自分を見つめるのだった。
0
お気に入りに追加
1,578
あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

わたしを捨てた騎士様の末路
夜桜
恋愛
令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。
ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。
※連載

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる