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第四話 影の雑用係(2)
しおりを挟むローアンの瞳が揺らぐ。
その言い方だと、「剣聖には殺しや痛ぶりが好きな連中もいる」
という風に聞こえなくもない。
「…それはまぁ、物騒な特権ね。」
「別に。国に害なす者に人権がないってだけだ。」
「……へぇ」
「まぁ新入りの頃から酷い殺し方する奴は見たことがないが。
一応覚えときな」
「わかりました。」
剣聖が人を残酷な方法で殺していても驚いたり凶弾することはするなという警告だ。
若干耐性がない話なので気持ち悪くはなるが、今は抑えなければ。
「一見華やかに見える剣聖でも必ず手を汚さなければならない。
……やってらんねぇなこんな仕事。お前もすぐ分かるさ」
そんなもの出来れば一生分かりたくなった。
いつか自分も、剣聖という仕事に誇りを持てるようになるのだろうか。それとも、ハヤテのように「やってられない」と自分の仕事を憂うようになるのか。
「もう帰ってて大丈夫だよアンちゃん。
今日は仕事ないから、明日はしーちゃんと買い物して、
明後日から仕事スタート。よく休んでね。」
「ありがとう、シュリ」
「じゃあ馬車まで送っていくわ。行きましょう。」
王城から出て、従者がいる馬車に乗り込む。
「じゃあねローアン。明日のお昼に迎えに行くわね」
「ありがとうございます。それでは失礼しますね」
「まぁ、愛想笑いが酷い子ね…」
「こんな話聞いてもビクリともしないなんて、アイツ顔にとりあえず笑う癖がついてやがんな」
「なぁにハヤヤン、アンちゃんのこと気に入らないの?」
「顔はかなりいいけど性格がどうかしてるな。」
「うわ最低…」
そんな話を三人がしてることを知らず、
ローアンは馬車の中で過呼吸気味になっていた。
「お、お嬢様……!」
従者のキキの声もあまり聞こえなくなって、ヒュウとかハーっという自分の息を吸って吐く音しか聞こえない。
別に怖いとか、人を殺すのに全く抵抗がない訳ではなかった。
そして、一気に緊張が解けたのだ。
プルプルと震える手で右手の薬指にはめられた指輪に触れ、
抜こうとする。
するとすんなり指輪は外れた。
気がつくと、白髪から元のハニーブロンドに戻っていて、
乾いた笑いと共に安心した。
自分が自分でなくなった気がしたのだ。
ローアン・ゼロ・ブリューナクになったことから、ヴィルテローゼ・ネージュはもういない人間として扱われているような、そんな感じがした。いきなり「これは人を殺すこともある仕事」だなんて言われて必死に、動揺しないようにヘラヘラ笑った。が、それも限界らしい。
「……大丈夫よキキ。大丈夫」
「……お嬢様はいつも辛そうです。
皇后になる話がなくなったとはいえ、今度は剣聖だなんて……。」
「大丈夫よ。これで家にも恩を返せるってものだもの。」
「…それでは、お嬢様は……」
「ネージュ家の駒で結構!元々、貴族会の女はそういうもんでしょ。」
「そんなこと言ったって納得いきません。」
「それは我儘っていうものよ。贅沢は言えなーい」
と指をクルクルと髪に絡ませる。
そして指輪をはめ直す。髪が白髪に戻り、それが馬車の窓に映る。
「割り切りすぎですよ…」
「その方が人生楽ちんよ~」
なんて笑って動揺を誤魔化す。
さっきまで過呼吸になっていた人間がして誤魔化せているのかどうかはさておき、この従者はものすごく心配者だ。
笑って落ち着かせないときりがない。
これから、自分も影の雑用を任される者になるのだ。
「…しっかりしないとねぇ」
何でもないないように見せかけ、弱い自分を偽り笑うのは疲れてしまいそうだが、国外追放になるよりかはマシな結果だと信じたい。
そう思って、白髪の見なられない自分を見つめるのだった。
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