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第三話 影の雑用係(1)
しおりを挟む「ふぇ!?ちょ、何コレ……!!」
蔓が出現したと思えば、それはローアンの体に巻き付き、
宙へかつぎ上げるようにして持ち上げた。
「お~……、お前その格好はちょいエロい。……が叫び声に全く色気が足りんな」
「ハヤテさん何言ってるんですかね!?」
巨大な蔓に捕らえられているような格好を見ると、そういうアレに見えるのかどうかはさておき、ローアンは混乱して叫び、声の色気がどうたらという話に思いっきりツッコミを入れた。
「へぇ、これがブリューナクか~。」
「あの……、シュリさん……」
「シュリでいいよぉ」
「しゅ、シュリ…、これどうすれば解けるのかな。」
「ん?やめなさいって言えば解けると思うよ?
今のはブリューナクなりの挨拶だと思って多目に見てね」
ブリューナクは聖剣と呼べるにはおかしな物だった。
形状は指輪だし、剣をぶら下げているシュリとシアンのような物ではないのだ。
それが名前を呼んだ瞬間植物…、蔓が飛び出した。
「や、やめなさいブリューナク…」
おずおずと声を出すと、蔓が解け地面にべシャリと落ちた。
「いったた…、もう少し優しく下ろしてくれてもいいのに…。」
「聖剣ブリューナク、剣ではないけど立派な聖剣よォ。
その指輪を対象に向けてかざせばあなたは植物を操れる。
基本的にはさっきの蔓みたいのが戦ってくれるから。」
「ど、どうやってですか……?」
「そりゃあ……、敵に巻きついて動きを封じたり、後は首の骨を折れば人間死ぬから、折っちまうか首ごと捻りとるかだろうよ。」
ハヤテが淡々と言ったことに対し、ローアンは冷や汗を流した。
巻きついて動きを封じるというならば簡単な話かもしれないが、
首の骨を折るやら、捻り取るという話には耐性がない。
だが当然、剣聖は殺しも扱う仕事だろう。きっと、慣れなければならない。
「案外落ち着いてるのねェ。もっと取り乱すかと思ったわァ」
「大丈夫です……」
ブリューナクが操る植物が戦ってくれるというのだから、直接手を降す訳では無い。まだマシな方だ。
「……あの、必要な時に呼ばれることがあると思うんですけど、
それってどうやって呼ばれるんですか?」
「ここの放送機があるから、そこから伝令が流れるようになってる。大体剣聖がこなす問題が出るのは夜だから、まぁ8時ぐらいにここにいればいいよ。あと敬語は使ってくれなくていいぞ。」
ハヤテの説明にこくんと頷く。
「何で夜に問題が起こるの?」
「俺たちの任務は盗賊や海賊、魔物の始末がほとんどだからだ。
真昼間にアイツらは騒がないからな。
俺たちは影の雑用、騎士団は花形の仕事をこなす。」
その言い方では剣聖はただの雑用係のことのようであった。
いや、実際シアンも剣聖を「雑用係」と呼んでいた。
騎士団にこなせないような大変な仕事、すなわちそれが剣聖の仕事。それは名誉だと十分言えるような事かも知れないが、
ローアンが三人の表情を見た限り、三人はそれを良しとしていないように思える。
ゲームの設定を思い出す。
"剣聖は騎士団とはかけ離れた存在である"…と。
ハヤテの説明でそれがすっぽりとはまった気がした。
騎士団は花形…、王国や王城、国に関しての仕事、王族や貴族の護衛につくこともある。
ローアンが思うに、騎士団が無事に仕事をこなせるように剣聖が影で仕事をしている、そういうことだ。
「……そういうものはそういうもの。仕方ない。」
とローアンは笑ってみせた。
まず剣聖というものに誇りなど持ち合わせていない。
その笑顔を見てハヤテが「そうかよ」と言うようにふぅとため息をつく。
「偉く割り切りが早いこったな。
まぁその変わり、どう仕事をこなすかは任されている。
相手が魔物でなく人間でも国に害なす者には容赦しない。
痛ぶるも嬲るも弄ぶも焼くも煮るなりもご自由に。
唯一剣聖に許されてる特権ってやつだな。」
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