ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

文字の大きさ
上 下
3 / 128

第三話 影の雑用係(1)

しおりを挟む


「ふぇ!?ちょ、何コレ……!!」

蔓が出現したと思えば、それはローアンの体に巻き付き、
宙へかつぎ上げるようにして持ち上げた。

「お~……、お前その格好はちょいエロい。……が叫び声に全く色気が足りんな」
「ハヤテさん何言ってるんですかね!?」

巨大な蔓に捕らえられているような格好を見ると、そういうアレに見えるのかどうかはさておき、ローアンは混乱して叫び、声の色気がどうたらという話に思いっきりツッコミを入れた。

「へぇ、これがブリューナクか~。」
「あの……、シュリさん……」
「シュリでいいよぉ」
「しゅ、シュリ…、これどうすれば解けるのかな。」
「ん?やめなさいって言えば解けると思うよ?
今のはブリューナクなりの挨拶だと思って多目に見てね」

ブリューナクは聖剣と呼べるにはおかしな物だった。
形状は指輪だし、剣をぶら下げているシュリとシアンのような物ではないのだ。

それが名前を呼んだ瞬間植物…、蔓が飛び出した。
「や、やめなさいブリューナク…」

おずおずと声を出すと、蔓が解け地面にべシャリと落ちた。
「いったた…、もう少し優しく下ろしてくれてもいいのに…。」

「聖剣ブリューナク、剣ではないけど立派な聖剣よォ。
その指輪を対象に向けてかざせばあなたは植物を操れる。
基本的にはさっきの蔓みたいのが戦ってくれるから。」
「ど、どうやってですか……?」

「そりゃあ……、敵に巻きついて動きを封じたり、後は首の骨を折れば人間死ぬから、折っちまうか首ごと捻りとるかだろうよ。」

ハヤテが淡々と言ったことに対し、ローアンは冷や汗を流した。
巻きついて動きを封じるというならば簡単な話かもしれないが、
首の骨を折るやら、捻り取るという話には耐性がない。
だが当然、剣聖は殺しも扱う仕事だろう。きっと、慣れなければならない。

「案外落ち着いてるのねェ。もっと取り乱すかと思ったわァ」
「大丈夫です……」

ブリューナクが操る植物が戦ってくれるというのだから、直接手を降す訳では無い。まだマシな方だ。

「……あの、必要な時に呼ばれることがあると思うんですけど、
それってどうやって呼ばれるんですか?」
「ここの放送機があるから、そこから伝令が流れるようになってる。大体剣聖がこなす問題が出るのは夜だから、まぁ8時ぐらいにここにいればいいよ。あと敬語は使ってくれなくていいぞ。」

ハヤテの説明にこくんと頷く。
「何で夜に問題が起こるの?」
「俺たちの任務は盗賊や海賊、魔物の始末がほとんどだからだ。
真昼間にアイツらは騒がないからな。
俺たちは影の雑用、騎士団は花形の仕事をこなす。」

その言い方では剣聖はただの雑用係のことのようであった。
いや、実際シアンも剣聖を「雑用係」と呼んでいた。
騎士団にこなせないような大変な仕事、すなわちそれが剣聖の仕事。それは名誉だと十分言えるような事かも知れないが、
ローアンが三人の表情を見た限り、三人はそれを良しとしていないように思える。

ゲームの設定を思い出す。
"剣聖は騎士団とはかけ離れた存在である"…と。
ハヤテの説明でそれがすっぽりとはまった気がした。

騎士団は花形…、王国や王城、国に関しての仕事、王族や貴族の護衛につくこともある。
ローアンが思うに、騎士団が無事に仕事をこなせるように剣聖が影で仕事をしている、そういうことだ。

「……そういうものはそういうもの。仕方ない。」

とローアンは笑ってみせた。
まず剣聖というものに誇りなど持ち合わせていない。
その笑顔を見てハヤテが「そうかよ」と言うようにふぅとため息をつく。

「偉く割り切りが早いこったな。
まぁその変わり、どう仕事をこなすかは任されている。
相手が魔物でなく人間でも国に害なす者には容赦しない。
痛ぶるも嬲るも弄ぶも焼くも煮るなりもご自由に。
唯一剣聖に許されてる特権ってやつだな。」

しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

処理中です...