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※ここから少し話の前置きになります。

「ジェンティアナが妖精の間に産まれた子ですって…?」

「はい。イフェイオン子爵領から戻る際、彼女の母親を名乗る妖精が現れました。にわかに信じ難いですが…、」


と、レシュノルティアは事の経緯を全て精霊憑きである母、フォレスティンヌへ話した。すると彼女は神妙な顔をして、浮かない顔をしている。

「なるほど、ね。あの子から香る異色の気配はそういう事でしたか。」

禁忌を持って産まれた存在であるジェンティアナの事を悪く思い始めたのだろうか、とレシュノルティアの頬に汗が流れる。

「…それが事実なればジェンティアナが禁忌を伴った異端な存在ということになります。ですが、」

「ああ大丈夫よレシュ。あの子はもう私の娘みたいなものだもの。むしろ覚醒への手がかりが、あの子が無事でいてくれるかもしれない事が分かってホッとしているのよ。」

「?では何故そのようなお顔を、」

「これはあまり言いたくないのだけれど、あの子の事が大切なら手放したりするんじゃありませんよ。」

「何をいきなり、そんな事をするわけが無いでしょう。」

「貴方が手放す手放さないの問題ではないわ。
ジェンティアナが遠い存在になってしまうかもしれない。」

その言葉を聞いた時、レシュノルティアの表情は凍りついた。そして、そんな事にさせる訳がないだろう、と言わんばかりの圧を母に向けてかけてしまっていた。そのビリビリとし始めた空気にフォレスティンヌはため息をつくと、「最後まで聞きなさい。」と言う。

「ジェンティアナが妖精から産まれた娘という事は、あちら側で生きる資格があるという事よ。母親があの子を大切にしようとしているなら尚更ね。」

「つまり、妖精界という事ですか?」

「そうよ。絵本みたいな話だけれど、
精霊に侵された身体で人間界は生きづらい。
覚醒が遠のいたりしたら、あちら側にジェンティアナを取られてしまうわよ。」

妖精の血が通っている故に、ここから離れていく手段がある。という事にレシュノルティアは拳を爪が食い込むまでに握りしめていた。無論そんな事はさせる訳ない、が、もしジェンティアナが覚醒を迎えられず危機に陥れば、あの妖精ならば娘を自分の世界に呼び込んでしまうかもしれない。

「……なるほど。」

「だからジェンティアナと一緒にいたいなら取られてしまっては駄目よ。彼女を一人で泉へは行かせないで。妖精界に迷い込んでしまったら、もう二度とこちらには帰れませんからね。」


※ここからジェンティアナ視点に戻ります。


入浴を済ませ、火照った体を夜風で冷ます。もう時刻は夜中の1時を過ぎており、屋敷は静まりきっていた。

「…私が妖精の子供。ほんとに?」

と、今日一日で起きた事の情報量を整理出来なくて、
口に出してみるもしっくりこない。妖精だ精霊だなんて絵本みたいな話なのに、私にはそれらが大きく関わっている。切っても着れない、何かがまとわりついている。これからそれとどうやって付き合っていくか、
いけばいいのかもまだ分からない。

「ジェン」

「!レイ、もうお風呂は済まされました?」

廊下の奥から声がして、振り返るとそこにはレシュノルティアが立っていた。だが何だか彼の表情からは上手く読み取れない感情が溢れていて、少し言葉に詰まる。

「…?」

「ああ。その後に母上に今日の事を報告して来たよ。」

「ありがとうございます。その、夫人は何と?」

妖精から産まれた子供、なんて言えば聞こえはキラキラしているけれど、実際はそんなものでは無い。
人と人ならざる者がまぐわい子を成すのはこの国の禁忌であるからだ。故に私はあってはならない存在で、
自然に精霊からの加護を得た人間ではない。

「心配するな、母上はもう君の事は娘のように思っていると言っていたよ。」

ぽん、と頭に手を置いて撫でてくれる。それに安心して胸を撫で下ろした。

「さあ、明日は休日だけれど早くお休み。今日は疲れただろう。」

「ありがとうございます。そうですわね。」

「部屋まで送っていこう。」

「ありがとうございます。」

安心しろ、と言っていた彼の笑顔にはまだ何か影が見えると思った。何か言いたげにしている、でも何も聞いて欲しくなさそうだった。自分の感情を、上手く飲み込めていないように見える。だからそれを、私からは聞きづらい。

「今日は、驚いたな。」

「ええ本当に。まさか母が妖精だなんて、まるで小さい子供の絵本の内容みたいですわ。不思議です、私の中に違う世界が広がっていくみたいで。」

「…。」

「故郷の泉が生まれの地なのも不思議。先程読んだんですけれど、妖精は妖精界で子を授かり、産むのですって。知らない所だけれど、本の通りなら妖精界も私の故郷になりますね。いつか、行ってみたいです。」

「……。」

どうして何も答えてくれないのだろうか。自分の故郷へ言ってみたいというのが何か癇に障ってしまったのか。それとも彼自身私の存在を異端だと思ってしまっているのだろうか。そうは思いたくなかったので、次は少しからかってみる。

「でも昔読んだ童話に、妖精界へ行った女の子が帰って来れなくなってしまったお話がありました。
でも童話だからそれは作り話かも。ふふ。もし私がそうなったら大変ですわ。」

なんて、言いながら軽く抱きついてみる。それでも
無反応なので首を傾げて彼の顔を見つめると、
泣き笑いみたいな、そんな表情をしていた。

「はっ…、童話がえらく残酷な事を言うじゃないか。」

そう言うとレシュノルティアは私の腕を引っ張ると、
着いた私の寝室に入り、鍵を閉めてくる。

「?レイ、何を…、んむっ…んっ、ぅ、」

いきなり体を引き寄せられたと思えば、乱暴な口付けをされる。それに驚いてぎゅっと目を閉じていたが
段々と口付けは深く深くなっていって、体にガクン、と力が入らなくなる。

「はぁ、はっ…レシュノルティア様?ねえ、いきなりどうなさったの?」

「まだ。」

「ふぁっ、んん、んっ~…!」

ぐっと後ろから頭を押さえつけられて、逃げられなく
なってしまう。そして口付けの間に何か問いかけても答えてくれず、彼は力が抜けきった私の身体を持ち上げるとベッドに運び、押し倒してくる。

「…本当だよ。」

「え?」

「妖精界へ行ってしまったら君はもうこちらに帰って来れない。」

レシュノルティアは私の両手を自身の片手で押さえつけると、明かされた事実に驚く暇も与えず、彼は首筋にもキスと痕を残しながら私のネグリジェのリボンを解き始めた。

私が妖精界へ行ったらもう戻って来れない、そう言ったのはきっと公爵夫人だろう。彼がそんな事を知っている事で何となくの察しがついた。それをレシュノルティアは先程聞かされたはずなので、私は知らぬ間に地雷の様なものを踏み抜いてしまったらしい。

「だから、もう行きたいなんて言ってはいけない。
…言うな。」

「あっ、あんっ…、だめっ、だめです!脱がさないで、ここから先はだめ!あ、ぅっ…ひぁっ!?」

ガブっという鈍い音をたてて、首筋に噛みつかれる、
その痛みに目には涙が溜まって、顔がくしゃくしゃになる。

「いたっ…!あんっ…ぅ、痛いですレイ…。」


「返事は?ジェンティアナ。じゃないとやめてあげないよ。」


















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