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しおりを挟む現れたその声に、フラりと身体を無意識に預けてしまった。
身体はまだ震えているけれど、もう大丈夫なのだと彼の声を
聞いて安心した。
「レイ…、」
「もう怖がらなくていい。話は後にして早く帰ろう。」
そうレシュノルティアは私に言い聞かせ、自分のコートを
私の肩にかけると、くるりと父に背を向けて扉へと
歩き始めた。
「お、お待ちください小公爵様!む、娘は何かこの家に用があったのではないのですか…?」
焦る様に父は私達に声を発した。だがそれに、レシュノルティアはふぅ、と冷たいため息を零す。
「何です。貴方が今更この子に近づく権利があるとでも?
震えてしまって可哀想に。時間は経てどずっとジェンは
子爵に恐怖を植え付けられてきたんです、よく分かったでしょう?自分のしてきた事が。」
「……それは、」
この人は自分の父親なのに、唯一の私の肉親なのに、
レシュノルティアの言う通り時間が経っても、私がただの
乙女ゲームのキャラクターであっても、暴力を振るわれていたのがただの設定であったとしても、彼の事が恐ろしい。
父の手が動くだけで、殴られるかもしれないと目を瞑って
しまう。
「僕の婚約者の父である方に無礼と存じますが、僕は
彼女を傷つけるのなら、それがジェンティアナの父でも許しません。…では。」
そう言ってレシュノルティアが私の手を引いて歩き出す。
本当は父に聞かなければならない事があるのに、はやく
精霊憑きとしての力を得なければならないのに、もう声は
泣いてしまう手前の子供のような、濡れた声しか出ない。
力も抜けて、彼に支えられながら歩くのに精一杯だった。
馬車に乗り込んでも、私は何を彼に言えばいいのか分からず、スカートをぎゅっと握っては俯いてしまった。
「…ジェン、」
「ごめんなさい、上手くは、出来ませんでした。本当は、
父に聞かなければならない事があったんですが…」
「母上から聞いている。ジェンの血縁についてだな。」
「はい。ですが何の手がかりもなく…。血縁や先祖にも私のような精霊憑きのような人間はいませんでしたし、何より私の母親に関する記述は一切無くて。婚外子であったとしても記述があるはずなのですが、私の出自は謎でした。それを
父に聞かなければならなかったのですが、その、ごめんなさい。」
たじたじになりながら説明している間、レシュノルティアは
私の手を優しく握ってくれていた。まだ混乱している私が
早口になって説明しまったり、言葉が上手く出なくても、
謝ったりしても、ただ彼は「うん」と言うだけで、聞いてくれるだけで、私を怒ったり責めたり、許したりしなかった。
「そういう事だったか。確かに、こちらでもジェンの
出自を調べた時も母の名は出なかったな。…やはり子爵に聞かねばそれを知る術はないか。」
「母はこの力に何の関係もない方かもしれませんけれど、
早く力を物にするためには知っておかなければならぬ事かもしれません。レイの言う通りやはりもう一度、父と話をしなければなりません、よね…。」
「この話し合いにあの男は必要ないわ。また利用されるわよ貴方。」
「「!?」」
馬車の中には2人きりだったはずだ。なのに、気がつけば
正面には月光に照らされた、幼き少女がちょこんと座っていた。それに驚きを隠せず、レシュノルティアは腰の剣を素早く抜き、少女に向けた。
「あら物騒ね、せっかく教えてあげようと思ったのに。
その子を楽にする方法。」
少女は、何も感じていないような無の瞳で私を見つめていた。そして私もいきなり現れた彼女をじっと見つめ返すと、にこりと微笑んだ彼女の美しさはどこか人間離れしているように見えてしまった。美しい緑の瞳はまるで宝石のようで、そして絹のように柔らかく白いホワイトブロンドが特徴的な少女、彼女は何者なのだろうか。
「貴様は誰だ。今の一瞬で、どこから…」
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