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レシュノルティアに手を引かれて案内された場所は、公爵邸の離れにある小さなダンスホールだった。本邸にある大きなホールではなくここに案内された事が少し不思議だったのだが、彼が私に選んでくれたというドレスを見るのが楽しみで、若干また
ソワソワしてしまう。

「一緒に僕の服も仕立ててもらったんだ。君が気に入ってくれると嬉しい。」

「まあ、それは楽しみです。」

ダンスホールに入ると、トルソーに布が被せてあるような物が見えた。私が早く見たい、と言うように
レシュノルティアに上目遣いを送ると小さく笑われてしまう。

「急がなくてもドレスは逃げないよ。さあ、このドレスが僕の姫君のお気に召しますように。」

彼が笑って、トルソーに被せてあった布を
取る。そして現れたドレスと目が会った瞬間、
大きく目を見開いた。

「綺麗…、まるで明け方の空のようですわ。」

まるで夜が明けが近い空ような、淡くほの暗い青。だが暗さだけに目が行くこともなく、スカートや腕の裾にあしらわれたゴールドのきめ細かな刺繍や、私の好きなブルーローズか飾り付けも煌びやかで素敵だ。

そして私のドレスの隣に立てられていたトルソーには、レシュノルティアのタキシードが飾られていた。そして私の思い上がりでなければ、彼の礼服と
私のドレスは、色合わせされている。

婚約を結んだ男女が舞踏会や夜会に出席する際、
お互いの礼服とドレスを揃いの色にするというのは、よくある事だ。互いを想っているという周りへのアピールにもなるからである。だからレシュノルティアが、私に揃いの物を与えてくれたのがすごく嬉しい。

「素敵なドレスをありがとうございます、レイ。
そして貴方と揃いの物を着てパーティーに出られるだなんて、夢のようですわ。」

「気に入ってくれてよかった。」

「とっても気に入りましたわ!…ふふ、努力のかいがありましたわね、本当。」

着るのはパーティー当日だというのに、トルソーに
飾られたドレスをうっとりとまだ眺めていたかった。きっとまだ学院に在学中だった私は、こんな事になるとは夢にも思わなかったであろう。

「本当だな。君の結果があったから、今こうして結ばれることを許されている。僕は何も出来なかったから…男として情けないかぎりだ。」

レシュノルティアが、私の肩を優しく抱き寄せた。
それに私も少し、身体を預けるようにして彼に寄り添った。

「何を言いますか、全部貴方に恩返しするためですもの、私が努力して当然の事なのです。」

「本当に君は今日の事といい、志といい強いな。
僕はそういう、ジェンの芯が通っている所が好きだよ。」

「へへ、照れますね。」

そう言ってレシュノルティアに照れ笑いをするようにして顔を向けると、何の前触れもなく口付けをされた。

「!」

「ありがとう、ジェンティアナ。愛している。」

真っ直ぐな笑顔を向けられて心の奥底から、
何かがじんわりと湧き上がる。ああ、私は今日この日のために頑張ってきたのだとそう思って、涙が
零れそうになった。そして彼は、そんな泣くのを堪えて小さく震える私を優しく抱きしめてくれる。

「…レシュノルティア様、私も心から貴方に感謝致します。あの時父から、これからの未来に不安を抱えた私を救ってくれてありがとう、ずっと私の心の支えでいてくれてありがとうございました。貴方はいつまでも、私の最愛の人です。」

「ありがとう。」

それからレシュノルティアと何度か唇を重ねた後、抱きしめられながら優しく髪を撫でてもらった。それにひどく安心できて、今日色々な事があったからか眠くなってしまう。

「ジェン?」

「……。」

「寝てしまったか、今日は大変だったようだから、疲れたんだろう。おやすみ僕のジェンティアナ、良い夢を。」


ジェンティアナを部屋に運んだ後、レシュノルティアは父である公爵の部屋へ向かった。すると公爵は
ギロりと鋭い睨みを効かせてくるので、大変ご立腹に見える。

「父上、失礼します。」

「…来たか。それで、ジェンティアナが何か問題に巻き込まれたとミーハニアから聞いたが、詳細は?私の娘を誰が傷つけたのだ。」

「気が早いですよ父上、僕の婚約者です。身分不相応、とドロッセル侯爵令嬢に暴力を振るわれた…と聞いています。」

「ドロッセルか。フン、あのきな臭い男の家の娘か。娘も娘だな、とんだじゃじゃ馬だと聞くが。」

「そのようですね。ジェンティアナは大事にしなくても、とは言っていましたが…、」

「そうはいかぬ。抗議の文書を送るぐらいでは
生ぬるいわ。じゃじゃ馬を放っておく家の方には私が圧をかける。お前は娘の方に釘を刺すか恥でもかかせて身の程をわからせろ。…娘に手を出した奴をつけ上がらせるな。」

公爵が最後に発した言葉には、ビリビリとした殺気のようなものを感じた。我が父親ながら恐ろしくて敵わない、とレシュノルティアは冷や汗と苦笑いをこぼす。

「…僕もまだまだだな。」

「何か言ったか?」

「いえ何も、仰せのままに。それと出来れば彼女の目につかないところでお願いしますよ、ジェンティアナが気にしますので。」

「む…、分かった。」

「ありがとうごさまいます。」

ー3日後ー

「お嬢様、大変お似合いです!ふふ、お坊ちゃままもやりますね~、よくお嬢様に似合う物が分かっていらっしゃる。」

学院創立記念パーティーに参加する準備をすべく、
私はドレスを着付けてもらい、ヘアアレンジや
化粧などを侍女数人に済ませてもらった。

そしてその完成系を見て、私の専属侍女である
チアラがキャーキャーとはしゃいでいる。

「ありがとうチアラ。」

「さ、お坊ちゃまにも見ていただかないと!
きっと美しさのあまり言葉が出ませんよ~。」

「大袈裟だわ。」
 
興奮仕切っているチアラに苦笑いしていると、
私の部屋のドアに三回ノックがされる。恐らく
レシュノルティアだ。

「ジェン、僕だ。入ってもいいだろうか?」

「どうぞ。」

「失礼する。」

ドアが開いて、彼が入ってくる。そして彼の礼服姿を見ると、私の方が見惚れてしまい言葉が出てこなかった。一度見せてもらっていとは言え、本人が着ているとなると何だか話が違うのだ。本当に私、こんな美男子の婚約者なのだろうかと困惑までする。そのオタクのような考えを巡らしている間ただぽーっと、熱がこもった瞳でレシュノルティアをしばらく見つめてしまった。

「ジェン、本当に綺麗だ。」

レシュノルティアがその場に片膝を折って、私の手の甲に口付けてくるのでハッとする。

「あっ、ありがとうございます。その、レイもすごく素敵だわ。うっかり見惚れてしまいましたもの。」

「嬉しいことを言ってくれるじゃないか。ドレスを贈ったかいがあったな。」

「は、はひっ…。たた、大切にいたします。」

思わず舌を噛んでしまい、恥ずかしくなった。
何故だろうか、彼の礼服姿をこんなに間近で見るのが初めてだからか、上手く目を合わせられない。

「緊張しているのか?」

だが、緊張もしている訳にも行かない。レシュノルティアの婚約者として、舐められっぱなしではいられない。私は今日、会場で誰よりも輝いて、家柄はどうであれ彼の婚約者として相応しい力があると
皆に思わせなければならない。

「…いいえ!大丈夫ですわ。今夜、貴方の婚約者は私であると見せつけてやらねば、ですものね。」

「ふむ、緊張していても愛らしいがそれでこそ僕の婚約者だ。さあ、行こうか。」

「はい。」

私が肩の力を抜いて堂々とした姿勢と笑みを向けると、レシュノルティアはそれに応えてくれるように
私の背中をポンと叩いた後、私の手を取りエスコートしてくれる。それから私達は馬車に乗り王宮に向かった。


「レシュノルティア・ラ・アスクレピアス公爵令息、ジェンティアナ・レ・イフェイオン子爵令嬢、
ご入場です!!」

入場の声がかかり、私はピンと背筋を伸ばして
初めての社交の場に足を踏み入れた。

















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