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46.番外編2
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※番外編2はイーシアス目線で描かれています。
イーシアスはジェンティアナをレシュノルティアの研究室に送り届けた後、少し昔のことを思い出していた。
そう、中等部の時に彼女とまともに言葉を交わした日のことを。
「…やっと婚約者になったっていうのに、男に頼んないなんて馬鹿なやつ。ほんと強がりな所変わってねえんだから、世話が焼ける。」
ー3年前ー
「えぇ、この前のテストを返却します。このクラスでの最高得点は百点…ジェンティアナ・レ・イフェイオン。よく頑張りましたね。」
その教師の言葉に、皆ざわついた。だってそいつは、上級貴族でも皇族でもなんでもない人間だったからだ。確かただの没落しかけている子爵家出身のジェンティアナという女は、社交界でも見かけたことのない人物だった。何者だ、とも思ったが本当にただの子爵令嬢らしい。
だから何故彼女が優秀なのか、分からない。
上級貴族や皇族は、幼い段階から様々な英才教育を受ける。であるから、ほかの貴族や平民生徒よりかは勉学も魔法も礼儀作法も優秀で当然なのに、
その教育を受ける資格がなかった女がそれを追い越してくる、という事実が皆気に入らないらしい。
ちなみに自分はというと、ジェンティアナが
上位貴族より、ましてや自分が上に立っている事
など何も気にしなかった。
それよりも、優秀な彼女と組めば自分も力を発揮しやすくなり、良い成績を取れる。そしてその成績は
皇位継承権にも関わる問題だった。だから俺は
ジェンティアナを蹴落とすよりも、彼女を自分の
駒にすることだけ考えていた。
「…ジェンティアナ、だっけ。俺と魔術の授業、
ペア組まないか?」
教室がザワつくが、気にしない。はっきり言って良い成績を取るためなら、プライドは持たない主義なのだ。皇位継承権を得るためには、一番強くて頭も良いこいつとペアを組むべきだ。
「殿下からお誘いいただけるなんて光栄です。
ですが、お断りさせていただけませ…、」
自分で言うのも何だが、俺の魔法学の成績は
クラスで二番目。一位と二位が組めばペアで臨む実戦式授業にて、高確率で一位を狙える。一位に執着している様に見えるジェンティアナの事だから食いついて来るかと少し期待していたが、恐らく身分の差を理由にして断られる。
だが断らせない。身分不相応という理由を口にさせる前に、こいつとペアを組んでやる。
「おいおいおい、まさか俺の誘いを断わるとか言わないよな?」
少し教室に響き渡るくらいの大きな声を出すと、
ジェンティアナの身体がピクリと跳ねる。
そして、分かるか分からないかぐらいの冷ややかさと、睨みを俺に向けて来た。単純な話、クラスメイトの前で皇子の誘いを断わる事なんて下級貴族の令嬢が出来るはずがない。
「……卑怯な。」
「何か?」
「いえ、何でもありません。…、殿下のお望みのままに。よろしくお願い致しますわ。」
「ああよろしく。」
握手を求めようと手を差し出すと、ジェンティアナは一瞬俺をしらーっとした冷めた目で見つめ、
すぐにニッコリとした美しい笑みを作る。
「ええ。次の授業が楽しみですわね。」
予想通り、彼女はクラスで一番の魔法の才があった。そして自分も魔法学においては次席の身分であるからして、主席と次席が喧嘩せずに授業に取り組めば怖いものなし。魔法の相性も悪くなかった。だから常に、俺たちのペアは一位だった。
最初はジェンティアナも嫌がっていたものの、
1ヶ月も経てばお互いの反省点を言い合えるぐらいには少し打ち解けていた。彼女も、ペアで臨む
実戦授業では俺と組めば一位を取れる事が分かっているのだろう。だから反発するより、友好な姿勢を取ろうとしてくれている。
そんな彼女の事が、嫌いではない。むしろ、友人、
戦友以上の何かを期待している自分がいた。
「今日はちょっと空間移動の魔法式展開するタイミングミスしちまった。…すまねえ。」
「カバーする時はお互い様ですわ。連携は崩れなったのですから良しといましょう。」
「助かる。今日は結構危なかったな。アイリス伯爵令息が使ってた陰魔法が厄介でさ。次までに対策とらねーと…。ん、おいジェンティアナ。聞いてるか?」
ある日の実技試験終わりだった。俺達はまた当然のように一位を取って、授業終わりに反省点を
軽く伝え合う。そんないつもの日常に、その日は何か違和感を感じた。何だがジェンティアナが、
ぼけーっとしていると言うか、あからさまに顔色が悪かった。
「っ、…あ、殿下。ごめんなさい細かい反省点は
また今度に。体調が少し優れなくて…。」
「ごめん、カバー入ってもらった時無茶を…、」
「そんな事ありませんわ。でもごめんなさい、先に戻って休んでいますね。」
「…分かった。」
そう言うとジェンティアナは上手く笑えていない笑みを見せてその場を去った。魔法を使い終わった直後は頭痛や目眩がする事はよくある。ただ単に魔力にあてられたのか、とも思ったが柄にもなく後々心配になってきてしまった。
いつもは教室で休み時間を過ごす彼女だが、
教室に戻っても姿は見当たらず、医務室にも来てはいない。
「…あんだけ顔色悪いとさすがに心配だわ。
い、いや別に変な感情とか別に無いし。」
謎に言い訳と独り言を混ぜながら歩いていると、
校舎裏に美しいホワイトブロンドが揺れているのを見た。多分ジェンティアナだ。
「あ、おいジェンティ…」
「ゴホゴホッ、っ、お゛えっ…!!」
彼女の口から溢れた血が、大量の血が彼女の制服のスカートや床にビチャビチャと落ちて行くのを、見た。その光景に驚いて、俺は何も言えなくて、ただそれを呆然と眺めてしまっていた。
「…はぁ、はっ、…様。レシュノルティア、様。」
何かにすがる様な、祈る様なか細い声を聞いてハッとする。俺は急ぎジェンティアナに駆け寄り、声をかける。
「ジェンティアナ!!」
「…殿下?あら、お靴が汚れて…、あの、私の血、踏んでますわよ。」
「そこじゃねーだろうが!何だこれ、どうした…!?」
「あー、はは。多分魔力欠乏症、みたいな。」
ジェンティアナの白い肌には、水魔法の紋章が
いくつも渦巻いていた。引き出せる魔力は、
人それぞれであるが決まっている。その限界値を超えてまで魔力を欲すると、引き出された魔力は暴走を始めやがて自身の生命力を吸い取ろうとしてくるのだ。それが、魔力欠乏症。
「…お前、」
「あら、今の私を見てそんな顔をされますか。
私は貴方が皇位を継承するための1つの駒に過ぎないのでは?」
「今は普通に心配だろうが、こんな事になってんのに…!!ていうか、こんな事になるなら無理して
一位取らなくてもお前なら、」
最初彼女に近づいたのは、確かに自分が効率よく優秀な成績を取るためだった。でも今は前とは違う、
友人と呼ぶには少し不格好な関係だが、いつも
一緒に頑張ってきた、頑張ってきてくれたジェンティアナだから心配になる。だから無茶もして欲しくない。そう思って彼女を落ち着かせようと肩に手を伸ばすと、勢い良く跳ね除けられた。
「だめ!!私は、私は絶対ずっと、一位じゃなきゃ駄目なんです、意味がないんです。じゃないと…じゃないと、あの人に愛してもらう資格、が……、」
「あの、人…?」
初めて聞いた彼女の泣き叫ぶような声とギラギラした目付き。それに唖然としていると、急にジェンティアナの身体は急にビクりと跳ねて、発作を起こすように苦しみ出した。
「はっ、うぐっ……!!ぁぁ゛っ、」
「おっ、おいっ!ジェンティアナ!!」
彼女の身体に触れると、その身体はまるで掴めぬ水のようにドロりと崩れかけていた。魔力が、思ったよりジェンティアナの身体を侵食しているのだ。
何とかしなければと思うも、俺はその時パニックになって、何もできなかった。
「…そっちはだめだ、ジェン。ゆっくり息をしなさい。」
「!!」
本当に、いきなりだった。胸を抑えてうずくまるジェンティアナに寄り添うように、1人の男が現れる。そしてそれはよく俺が知る人物で、幼なじみで、お目付け役。公爵家令息のレシュノルティア・ラ・アスクレピアスだった。
レシュノルティアは虫のような息を吐くジェンティアナの肩を抱いてポンポンと頭を撫でた後、何やら
魔法を彼女の身に施した。するとジェンティアナは
さっきまで苦しんでいた事が嘘のように、スヤスヤと寝息をたてて眠って行った。
「レシュノルティア…、」
「すまなかったイーシアス。うちの子が迷惑をかけたな。」
レシュノルティアは苦笑いをして、眠っているジェンティアナを抱き上げた。そして軽くこちらに頭を
丁寧にも下げてくる。
「は、うちの子ってどこの子だよ。」
「訳あって今アスクレピアス家で今預かっている。」
「…何で?」
「彼女が僕の婚約者になる予定の女性だからだが。」
では先程ジェンティアナが口にしていた、"あの人"とは、レシュノルティアの事なのだろうか。
それに何だかイラついて、面白くなくて、少し馬鹿にするように鼻で笑って言った。
「子爵家が公爵家に?冗談だろ。」
「冗談は君の方だろ。皇太子になりたいなら、
ジェンティアナに目をつけるべきじゃない。」
そう言われて、カアっと顔が赤くなる。皇太子になりたいなら上位貴族の令嬢と婚約を結んで、後ろ盾を得るべきだ。だからこの女には手を出すなと、今ハッキリ言われたのだ。そんな事は分かっているがいきなり現れたレシュノルティアに、ジェンティアナに対する微かな好意がある事を見抜かれたのが、何だが悔しくて恥ずかしかった。
「るせーな…分かってんだよ。そいつがお前のモンって言うなら手出ししねーよ。」
「ではハッキリ言おう、この子は僕のだから確実に好意を持つ前に諦めてくれ。ああそれと、ジェンは身分の差を埋める為にこんなに努力してくれているんだ。だからあまり口出ししないでやってくれ。」
ハッキリと、牽制されてしまった。それがやっぱり
面白くなくてフンと鼻で笑った。どうせ、あんな無茶を重ねていれば努力も出来なくなる。そんなようでは身分の差など埋められぬまま身体を壊すと決めつけていたが、その二年半後には彼女、ジェンティアナは見事首席卒業を果たした。
ー現在ー
「はー…ったく面白くねえの。ま、この俺が諦めてやったんだからしっかりと公爵夫人になれよ、ジェンティアナ。」
そんなギザな台詞を言ってしまった事がまた恥ずかしく、廊下で一人、ムシャクシャして髪を掻きむしった。
(更新が遅くなり、大変申し訳りませんでした💦🙇♀️)
イーシアスはジェンティアナをレシュノルティアの研究室に送り届けた後、少し昔のことを思い出していた。
そう、中等部の時に彼女とまともに言葉を交わした日のことを。
「…やっと婚約者になったっていうのに、男に頼んないなんて馬鹿なやつ。ほんと強がりな所変わってねえんだから、世話が焼ける。」
ー3年前ー
「えぇ、この前のテストを返却します。このクラスでの最高得点は百点…ジェンティアナ・レ・イフェイオン。よく頑張りましたね。」
その教師の言葉に、皆ざわついた。だってそいつは、上級貴族でも皇族でもなんでもない人間だったからだ。確かただの没落しかけている子爵家出身のジェンティアナという女は、社交界でも見かけたことのない人物だった。何者だ、とも思ったが本当にただの子爵令嬢らしい。
だから何故彼女が優秀なのか、分からない。
上級貴族や皇族は、幼い段階から様々な英才教育を受ける。であるから、ほかの貴族や平民生徒よりかは勉学も魔法も礼儀作法も優秀で当然なのに、
その教育を受ける資格がなかった女がそれを追い越してくる、という事実が皆気に入らないらしい。
ちなみに自分はというと、ジェンティアナが
上位貴族より、ましてや自分が上に立っている事
など何も気にしなかった。
それよりも、優秀な彼女と組めば自分も力を発揮しやすくなり、良い成績を取れる。そしてその成績は
皇位継承権にも関わる問題だった。だから俺は
ジェンティアナを蹴落とすよりも、彼女を自分の
駒にすることだけ考えていた。
「…ジェンティアナ、だっけ。俺と魔術の授業、
ペア組まないか?」
教室がザワつくが、気にしない。はっきり言って良い成績を取るためなら、プライドは持たない主義なのだ。皇位継承権を得るためには、一番強くて頭も良いこいつとペアを組むべきだ。
「殿下からお誘いいただけるなんて光栄です。
ですが、お断りさせていただけませ…、」
自分で言うのも何だが、俺の魔法学の成績は
クラスで二番目。一位と二位が組めばペアで臨む実戦式授業にて、高確率で一位を狙える。一位に執着している様に見えるジェンティアナの事だから食いついて来るかと少し期待していたが、恐らく身分の差を理由にして断られる。
だが断らせない。身分不相応という理由を口にさせる前に、こいつとペアを組んでやる。
「おいおいおい、まさか俺の誘いを断わるとか言わないよな?」
少し教室に響き渡るくらいの大きな声を出すと、
ジェンティアナの身体がピクリと跳ねる。
そして、分かるか分からないかぐらいの冷ややかさと、睨みを俺に向けて来た。単純な話、クラスメイトの前で皇子の誘いを断わる事なんて下級貴族の令嬢が出来るはずがない。
「……卑怯な。」
「何か?」
「いえ、何でもありません。…、殿下のお望みのままに。よろしくお願い致しますわ。」
「ああよろしく。」
握手を求めようと手を差し出すと、ジェンティアナは一瞬俺をしらーっとした冷めた目で見つめ、
すぐにニッコリとした美しい笑みを作る。
「ええ。次の授業が楽しみですわね。」
予想通り、彼女はクラスで一番の魔法の才があった。そして自分も魔法学においては次席の身分であるからして、主席と次席が喧嘩せずに授業に取り組めば怖いものなし。魔法の相性も悪くなかった。だから常に、俺たちのペアは一位だった。
最初はジェンティアナも嫌がっていたものの、
1ヶ月も経てばお互いの反省点を言い合えるぐらいには少し打ち解けていた。彼女も、ペアで臨む
実戦授業では俺と組めば一位を取れる事が分かっているのだろう。だから反発するより、友好な姿勢を取ろうとしてくれている。
そんな彼女の事が、嫌いではない。むしろ、友人、
戦友以上の何かを期待している自分がいた。
「今日はちょっと空間移動の魔法式展開するタイミングミスしちまった。…すまねえ。」
「カバーする時はお互い様ですわ。連携は崩れなったのですから良しといましょう。」
「助かる。今日は結構危なかったな。アイリス伯爵令息が使ってた陰魔法が厄介でさ。次までに対策とらねーと…。ん、おいジェンティアナ。聞いてるか?」
ある日の実技試験終わりだった。俺達はまた当然のように一位を取って、授業終わりに反省点を
軽く伝え合う。そんないつもの日常に、その日は何か違和感を感じた。何だがジェンティアナが、
ぼけーっとしていると言うか、あからさまに顔色が悪かった。
「っ、…あ、殿下。ごめんなさい細かい反省点は
また今度に。体調が少し優れなくて…。」
「ごめん、カバー入ってもらった時無茶を…、」
「そんな事ありませんわ。でもごめんなさい、先に戻って休んでいますね。」
「…分かった。」
そう言うとジェンティアナは上手く笑えていない笑みを見せてその場を去った。魔法を使い終わった直後は頭痛や目眩がする事はよくある。ただ単に魔力にあてられたのか、とも思ったが柄にもなく後々心配になってきてしまった。
いつもは教室で休み時間を過ごす彼女だが、
教室に戻っても姿は見当たらず、医務室にも来てはいない。
「…あんだけ顔色悪いとさすがに心配だわ。
い、いや別に変な感情とか別に無いし。」
謎に言い訳と独り言を混ぜながら歩いていると、
校舎裏に美しいホワイトブロンドが揺れているのを見た。多分ジェンティアナだ。
「あ、おいジェンティ…」
「ゴホゴホッ、っ、お゛えっ…!!」
彼女の口から溢れた血が、大量の血が彼女の制服のスカートや床にビチャビチャと落ちて行くのを、見た。その光景に驚いて、俺は何も言えなくて、ただそれを呆然と眺めてしまっていた。
「…はぁ、はっ、…様。レシュノルティア、様。」
何かにすがる様な、祈る様なか細い声を聞いてハッとする。俺は急ぎジェンティアナに駆け寄り、声をかける。
「ジェンティアナ!!」
「…殿下?あら、お靴が汚れて…、あの、私の血、踏んでますわよ。」
「そこじゃねーだろうが!何だこれ、どうした…!?」
「あー、はは。多分魔力欠乏症、みたいな。」
ジェンティアナの白い肌には、水魔法の紋章が
いくつも渦巻いていた。引き出せる魔力は、
人それぞれであるが決まっている。その限界値を超えてまで魔力を欲すると、引き出された魔力は暴走を始めやがて自身の生命力を吸い取ろうとしてくるのだ。それが、魔力欠乏症。
「…お前、」
「あら、今の私を見てそんな顔をされますか。
私は貴方が皇位を継承するための1つの駒に過ぎないのでは?」
「今は普通に心配だろうが、こんな事になってんのに…!!ていうか、こんな事になるなら無理して
一位取らなくてもお前なら、」
最初彼女に近づいたのは、確かに自分が効率よく優秀な成績を取るためだった。でも今は前とは違う、
友人と呼ぶには少し不格好な関係だが、いつも
一緒に頑張ってきた、頑張ってきてくれたジェンティアナだから心配になる。だから無茶もして欲しくない。そう思って彼女を落ち着かせようと肩に手を伸ばすと、勢い良く跳ね除けられた。
「だめ!!私は、私は絶対ずっと、一位じゃなきゃ駄目なんです、意味がないんです。じゃないと…じゃないと、あの人に愛してもらう資格、が……、」
「あの、人…?」
初めて聞いた彼女の泣き叫ぶような声とギラギラした目付き。それに唖然としていると、急にジェンティアナの身体は急にビクりと跳ねて、発作を起こすように苦しみ出した。
「はっ、うぐっ……!!ぁぁ゛っ、」
「おっ、おいっ!ジェンティアナ!!」
彼女の身体に触れると、その身体はまるで掴めぬ水のようにドロりと崩れかけていた。魔力が、思ったよりジェンティアナの身体を侵食しているのだ。
何とかしなければと思うも、俺はその時パニックになって、何もできなかった。
「…そっちはだめだ、ジェン。ゆっくり息をしなさい。」
「!!」
本当に、いきなりだった。胸を抑えてうずくまるジェンティアナに寄り添うように、1人の男が現れる。そしてそれはよく俺が知る人物で、幼なじみで、お目付け役。公爵家令息のレシュノルティア・ラ・アスクレピアスだった。
レシュノルティアは虫のような息を吐くジェンティアナの肩を抱いてポンポンと頭を撫でた後、何やら
魔法を彼女の身に施した。するとジェンティアナは
さっきまで苦しんでいた事が嘘のように、スヤスヤと寝息をたてて眠って行った。
「レシュノルティア…、」
「すまなかったイーシアス。うちの子が迷惑をかけたな。」
レシュノルティアは苦笑いをして、眠っているジェンティアナを抱き上げた。そして軽くこちらに頭を
丁寧にも下げてくる。
「は、うちの子ってどこの子だよ。」
「訳あって今アスクレピアス家で今預かっている。」
「…何で?」
「彼女が僕の婚約者になる予定の女性だからだが。」
では先程ジェンティアナが口にしていた、"あの人"とは、レシュノルティアの事なのだろうか。
それに何だかイラついて、面白くなくて、少し馬鹿にするように鼻で笑って言った。
「子爵家が公爵家に?冗談だろ。」
「冗談は君の方だろ。皇太子になりたいなら、
ジェンティアナに目をつけるべきじゃない。」
そう言われて、カアっと顔が赤くなる。皇太子になりたいなら上位貴族の令嬢と婚約を結んで、後ろ盾を得るべきだ。だからこの女には手を出すなと、今ハッキリ言われたのだ。そんな事は分かっているがいきなり現れたレシュノルティアに、ジェンティアナに対する微かな好意がある事を見抜かれたのが、何だが悔しくて恥ずかしかった。
「るせーな…分かってんだよ。そいつがお前のモンって言うなら手出ししねーよ。」
「ではハッキリ言おう、この子は僕のだから確実に好意を持つ前に諦めてくれ。ああそれと、ジェンは身分の差を埋める為にこんなに努力してくれているんだ。だからあまり口出ししないでやってくれ。」
ハッキリと、牽制されてしまった。それがやっぱり
面白くなくてフンと鼻で笑った。どうせ、あんな無茶を重ねていれば努力も出来なくなる。そんなようでは身分の差など埋められぬまま身体を壊すと決めつけていたが、その二年半後には彼女、ジェンティアナは見事首席卒業を果たした。
ー現在ー
「はー…ったく面白くねえの。ま、この俺が諦めてやったんだからしっかりと公爵夫人になれよ、ジェンティアナ。」
そんなギザな台詞を言ってしまった事がまた恥ずかしく、廊下で一人、ムシャクシャして髪を掻きむしった。
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