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「ねえ貴方、身分不相応って言葉、ご存じ?」
「…はい?おっしゃっている意味がよく分かりませんが。」
わざとらしく首を傾げてみるが、私の前に威張る様に立つ彼女はさらにこちらを睨んでくる。とぼけなくても分かっている、彼女は私にいちゃもんを付けにきたのだ。私は本来なら、アスクレピアス領で花嫁修業をしている身なので文句をわざわざ言いに来られることもない。が、講師としてとはいえ学院内をうろついているなら、文句も付けたい放題というわけだ。
「はい?じゃありませんわ。全くわざとらしいったら…身分が上の者に対しての礼儀がなっていませんわね。」
「礼儀がなっていないのはそちらのほうでは?ここは学院で私は講師という立場で、貴方は生徒です。
ここは社交の場ではないのですよ。」
生徒の身分がいくら高かろうが、彼女が生徒で私が講師なのは確かだ。この学院にいる間はそこまで下手に出るつもりはない。少し震える足を地面に縛り付けて、汗ばむ手を握り合って、胸を張って背筋を伸ばす。大丈夫、いくら何を言われたってレシュノルティアに関することなら引かない。
「ふん、まあいいわ。要件は、分かりますわよね?」
分かっている、恐らく噂に聞いている学院創立記念パーティーにて、レシュノルティアのパートナーを降りろという話だろう。
「分かりませんわね。要件があるならしっかりと口に出してお願いいたしますわ。」
「…まあ、侯爵令嬢である私に随分と生意気な口をききますのね。その度胸は褒めて差し上げますわ。」
引かぬ姿勢を取り続けると、彼女は本物の悪女のように口元を黒い扇子で隠し、クスクスと笑った。今追い詰められている状況なのに、「これが悪役令嬢か!」と少し興奮してしまう。…あれ?悪役、令嬢?
「あ!ジュリエットさん抜け駆けです!!私が先にレシュノルティアのパートナー変わって下さいって言いに来たかったのに~~!」
と、一瞬私の頭が混乱しかけた所で、私達二人の前にヒロインであるルミエールが仁王立ちをして現れる。待ってくれ、今貴方が現れたら事がすごく事がややこしくなるから出てこないでくれ、とも思ったが、ルミエールが侯爵令嬢である彼女を「ジュリエット」と呼んだことでハッキリした。
そうだ、彼女の名はジュリエット・リ・ドロッセル。名門ドロッセル侯爵家の一人娘で、自分の望み通りに事が進むなら家の名前に泥を塗ることもいとわぬ傲慢でわがままな性格をしている。そして乙女ゲームにて、レシュノルティアルートを選択すると現れる本物の悪役令嬢である。
「平民が、下がりなさい。お前じゃ話にならなくってよ。」
「ええ、いいじゃないですか、チャンスは皆平等にあるものですよ!」
いや、私という婚約者がいる限り、貴方達がシュノルティアのパートナーとしてパーティーに出席できるチャンスはないから、と呆れてしまう。チャンスもなにも、婚約は家同士の一種の契約だ。そのチャンスが欲しければ公爵夫妻に話を通す方が早いのに、なんというか、間抜けに思えてきてしまう。
「そんなチャンスはありません。私は公爵家と公爵夫妻に正式に認められた、次期公爵夫人なのですよ。」
「それがおかしいって言っているのよ、分からない?」
「分からない?と言われましても、決定をなされたのは公爵家です。私に話を通そうとするのがまず筋違いですし、その決定がおかしいと言うならば、公爵家に文句を言っているも同じと心得て下さい。」
ため息をつくように言い切ると、一瞬ジュリエットは黙り込んでしまう。そしてその静けさに不自然感を抱いていると、次の瞬間、彼女は勢いよく私の頬を叩く。バチンッという大きな音がその空間に響き渡り、私はその衝撃で、地面にべしゃりと倒れこんだ。
「っ…?」
頬にじんわりと、徐々に広がっていく痛みに思わず目に涙が溜まる。一瞬自分が何をされたのかが分からなかった。まさか頬にビンタを喰らうとは思わず、痛みを与えられた恐怖でカタカタと身体は震え始める。私が叩かれたことにはルミエールもびっくりしたようで、両手で口を押えていた。
「下賤な口がよくしゃべることだこと。…公爵家も、貴方の意思も関係なく、私が邪魔だって言ったら邪魔なものは邪魔なのよ。いいこと?貴方の家なんてね、私がちょっとお父様に告げ口すれば、どうとでも出来るわ。そしたら貴方もそこにいる平民の女と同じになって、二度とレシュノルティア様の隣に立てないような、下賤な身分になるの。ねえ、秀才であった首席様の賢い頭で考えたら、分かるでしょう?いかに私こそがレシュノルティア様に相応しいのか、どうすればお家のためになるのか。」
床に倒れこんだ私の耳元で、ジュリエットはクスクスと笑った。ああそうだ、彼女は乙女ゲームでも、レシュノルティアの婚約者という立場でもないのに、彼に近づこうとする女は家の名前に物を言わせ、必ず排除しようとしてくる。でもこんなのどうってことない。さっきから聞いてれば、家名ばっかりひけらかして、好き放題言って、恥ずかしくないのか、と私はジュリエットをひどく冷静な瞳で見つめた。
「…ですか。」
「え?何かしら。もう一度言ってくれる?名門ドロッセル家の一人娘である私に、何か言えることがあればだけれど。ふふっ、私のお父様が怖いなら、さっさと彼のパートナーの辞退をお願いしたいわね。」
「ご自慢できるのは家名だけですか?…と、言ったのです。万年首席であった私が申し上げます。自慢できるのが家名だけなら、それは貴方のご両親のお力で、貴方自身の力でもなんでもありません。貴方自身に何も力や武器がないのなら、家名がなければレシュノルティア様のお役に立てるものがないのなら、彼の隣に立つこと、私が許しませんわ。」
「…はい?おっしゃっている意味がよく分かりませんが。」
わざとらしく首を傾げてみるが、私の前に威張る様に立つ彼女はさらにこちらを睨んでくる。とぼけなくても分かっている、彼女は私にいちゃもんを付けにきたのだ。私は本来なら、アスクレピアス領で花嫁修業をしている身なので文句をわざわざ言いに来られることもない。が、講師としてとはいえ学院内をうろついているなら、文句も付けたい放題というわけだ。
「はい?じゃありませんわ。全くわざとらしいったら…身分が上の者に対しての礼儀がなっていませんわね。」
「礼儀がなっていないのはそちらのほうでは?ここは学院で私は講師という立場で、貴方は生徒です。
ここは社交の場ではないのですよ。」
生徒の身分がいくら高かろうが、彼女が生徒で私が講師なのは確かだ。この学院にいる間はそこまで下手に出るつもりはない。少し震える足を地面に縛り付けて、汗ばむ手を握り合って、胸を張って背筋を伸ばす。大丈夫、いくら何を言われたってレシュノルティアに関することなら引かない。
「ふん、まあいいわ。要件は、分かりますわよね?」
分かっている、恐らく噂に聞いている学院創立記念パーティーにて、レシュノルティアのパートナーを降りろという話だろう。
「分かりませんわね。要件があるならしっかりと口に出してお願いいたしますわ。」
「…まあ、侯爵令嬢である私に随分と生意気な口をききますのね。その度胸は褒めて差し上げますわ。」
引かぬ姿勢を取り続けると、彼女は本物の悪女のように口元を黒い扇子で隠し、クスクスと笑った。今追い詰められている状況なのに、「これが悪役令嬢か!」と少し興奮してしまう。…あれ?悪役、令嬢?
「あ!ジュリエットさん抜け駆けです!!私が先にレシュノルティアのパートナー変わって下さいって言いに来たかったのに~~!」
と、一瞬私の頭が混乱しかけた所で、私達二人の前にヒロインであるルミエールが仁王立ちをして現れる。待ってくれ、今貴方が現れたら事がすごく事がややこしくなるから出てこないでくれ、とも思ったが、ルミエールが侯爵令嬢である彼女を「ジュリエット」と呼んだことでハッキリした。
そうだ、彼女の名はジュリエット・リ・ドロッセル。名門ドロッセル侯爵家の一人娘で、自分の望み通りに事が進むなら家の名前に泥を塗ることもいとわぬ傲慢でわがままな性格をしている。そして乙女ゲームにて、レシュノルティアルートを選択すると現れる本物の悪役令嬢である。
「平民が、下がりなさい。お前じゃ話にならなくってよ。」
「ええ、いいじゃないですか、チャンスは皆平等にあるものですよ!」
いや、私という婚約者がいる限り、貴方達がシュノルティアのパートナーとしてパーティーに出席できるチャンスはないから、と呆れてしまう。チャンスもなにも、婚約は家同士の一種の契約だ。そのチャンスが欲しければ公爵夫妻に話を通す方が早いのに、なんというか、間抜けに思えてきてしまう。
「そんなチャンスはありません。私は公爵家と公爵夫妻に正式に認められた、次期公爵夫人なのですよ。」
「それがおかしいって言っているのよ、分からない?」
「分からない?と言われましても、決定をなされたのは公爵家です。私に話を通そうとするのがまず筋違いですし、その決定がおかしいと言うならば、公爵家に文句を言っているも同じと心得て下さい。」
ため息をつくように言い切ると、一瞬ジュリエットは黙り込んでしまう。そしてその静けさに不自然感を抱いていると、次の瞬間、彼女は勢いよく私の頬を叩く。バチンッという大きな音がその空間に響き渡り、私はその衝撃で、地面にべしゃりと倒れこんだ。
「っ…?」
頬にじんわりと、徐々に広がっていく痛みに思わず目に涙が溜まる。一瞬自分が何をされたのかが分からなかった。まさか頬にビンタを喰らうとは思わず、痛みを与えられた恐怖でカタカタと身体は震え始める。私が叩かれたことにはルミエールもびっくりしたようで、両手で口を押えていた。
「下賤な口がよくしゃべることだこと。…公爵家も、貴方の意思も関係なく、私が邪魔だって言ったら邪魔なものは邪魔なのよ。いいこと?貴方の家なんてね、私がちょっとお父様に告げ口すれば、どうとでも出来るわ。そしたら貴方もそこにいる平民の女と同じになって、二度とレシュノルティア様の隣に立てないような、下賤な身分になるの。ねえ、秀才であった首席様の賢い頭で考えたら、分かるでしょう?いかに私こそがレシュノルティア様に相応しいのか、どうすればお家のためになるのか。」
床に倒れこんだ私の耳元で、ジュリエットはクスクスと笑った。ああそうだ、彼女は乙女ゲームでも、レシュノルティアの婚約者という立場でもないのに、彼に近づこうとする女は家の名前に物を言わせ、必ず排除しようとしてくる。でもこんなのどうってことない。さっきから聞いてれば、家名ばっかりひけらかして、好き放題言って、恥ずかしくないのか、と私はジュリエットをひどく冷静な瞳で見つめた。
「…ですか。」
「え?何かしら。もう一度言ってくれる?名門ドロッセル家の一人娘である私に、何か言えることがあればだけれど。ふふっ、私のお父様が怖いなら、さっさと彼のパートナーの辞退をお願いしたいわね。」
「ご自慢できるのは家名だけですか?…と、言ったのです。万年首席であった私が申し上げます。自慢できるのが家名だけなら、それは貴方のご両親のお力で、貴方自身の力でもなんでもありません。貴方自身に何も力や武器がないのなら、家名がなければレシュノルティア様のお役に立てるものがないのなら、彼の隣に立つこと、私が許しませんわ。」
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