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しおりを挟む「聞きまして?婚約者がいる男性を、パートナーに誘う女子生徒がいるんですって。」
「やだ、なんて非常識な。ありえませんわ。」
噂が耳に入った瞬間、身体が凍り付いた。確かに婚約者がいる男性を、パートナーに誘うだなんてあまりに非常識だ。そしてそんな事をしてしまうような人物は、私が想像するに一人しかいない。
「お、おはようございます。ルメリアーナさん、フランシーヌさん。」
その噂話がどうしても気になってしまい、それについての話をしていた女子生徒に声をかけてしまった。レイチェル・フォン・ルメリアーナ嬢と、エルミアナ・レ・フランシーヌ嬢、レイチェルは伯爵令嬢、エルミアナは侯爵令嬢で、どちらも中等部三学年。私がダンスの講師をしているクラスの生徒だ。
「あら先生、おはようございます。」
「先生、いいところに!大変なのです、」
教師が生徒に、生徒の中の事情を聞き出すのはまずいか、とは思ったが何も聞く前にレイチェルが事のいきさつを話始めた。
「あの、講師としてここにいらっしゃる先生にこんな事を申し上げるのには抵抗があるのですが…その、」
「大変申し上げにくいのですが、先生のご婚約者であるレシュノルティア様が次の学院創立記念パーティーに参加する際のパートナーに、女性からの申し込みがあるそうなんです。それも…一人ではないようで。」
「え?一人じゃない…?」
ヒロインが自分に見向きもしない攻略対象にいら立ちを覚え、自分を是非パートナーに、と誘っているのかとばかり思っていたが、一人じゃないとは一体どういうことなのだろうか。予想外の出来事すぎて、若干だが頭が混乱する。ルミエール以外に、誰がそんな事をするというのか。
「そうです!なんでも一人じゃないみたいで…上級貴族であるご令嬢が何でも、レシュノルティア様をお誘いなさっているそうなんです。」
「レシュノルティア様には先生という素敵な婚約者様がいらっしゃるというのに、まったくはしたないったら…、同じ上級貴族の者として恥ずかしいですわ。先生、どうか気を落とさないで下さいまし。レシュノルティア様にはその気は無いと聞きますし、何より先生は正式に次期公爵夫人となるに認められた方なのですから。」
目を鋭くと尖らせたエルミアナが私の手を強く握ってくれた。彼女は侯爵家の娘という気高き身分にありながら、私が学院にまだ在籍していた時からとても慕ってくれていた後輩でもある。きっと私が不安にならないように、元気づけてくれているのだろう。それに何だが少しだけ、背筋が伸びる。
「ありがとう、フランシーヌさん。」
「いえいえ!…その、先生は私のずっと憧れてた先輩でしたから、私に何か出来る事があれば何でもおっしゃってください。」
「…嬉しいです。本当にありがとうございます。ルメリアーナさんも、ありがとう。」
「はい!負けないで下さい先生!」
二人とも少し不安な眼差しで私を見つめている。本気で心配してくれているようだ。今までは慕ってくれる後輩がいても、あまり接する時間も機会もなかったため、教師となっている今、こうして私の事を思ってものを言ってくれる生徒がいてくれて、嬉しいと思う。
「頑張ります。呼び止めてすみませんでした、そろそろ予鈴も鳴りますし、教室に入りましょうか。」
「はい。パーティーで素敵な殿方の心を射止められるよう、美しいダンスをご教授くださいね。」
「もちろんです。」
頑張る、とは言ったものの、まさか上級貴族の令嬢がレシュノルティアにちょっかいをかけているとは思いもしなかった。まあようするに、大して裕福でもない、最近まで没落しかけだった子爵家の小娘が公爵家に嫁入りすることが気に入らないというご令嬢がそうしているのだと思うが。私も彼の婚約者の座を誰にも渡さないと決めたものの、身分が自分よりも高い令嬢に強く出られたら、反撃するのも難しい。
「はぁ…、どうしましょう。」
そんな事をあれやこれやと考えながら、私は昼休みに校舎内にあるベンチでため息をついていた。不安で中々食事ものどを通らず、持ってきたサンドウィッチも三口目でお腹いっぱいだ。
「あの、中等部講師のミスイフェイオン、でいらっしゃいます?」
「え?あ、はい。」
声をかけられて顔を上げると、そこには高等部の制服を着た女子生徒が立っていた。そして私のつま先から顔をまるで「ふうん」と言うように下から上までジロジロと見つめると、さっそく毒を吐き始める。
「ねえ貴方、身分不相応って言葉、ご存じ?」
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