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しおりを挟む「誓いの儀?ってなんですか…?」
頭にかぶせられたベッドスカートを取ろうとすると、「そのままで」と引き留められる。だがそれで私も言われている事に気が付き、少しだけ顔を赤らめた。ようするにこのベッドスカートを花嫁のベールに見立てて、結婚式にするような「誓いの儀」をやろうとレシュノルティアは言っているのだ。
「あ…、」
「嫌か?」
「い、嫌じゃないです!!」
「じゃあこっちにおいで。」
「はい。」
跪いていた身体を引っ張られて、私はベッドに腰かけた。でもいきなり誓いの儀をしよう、だなんて言われても少し気恥しくて、中々レシュノルティアと目を合わせられずにいる。そんな私の手の甲に彼は口付けて、驚いて弾けるように顔を上げてしまった瞬間、真剣な眼差しを私にくれた。
「何故こっちを向かない?」
「はずかしくて、ごめんなさい…。」
「何を今更恥ずかしがることがある。さっきしていた事の方が、もっと恥ずかしいんじゃないか。」
「い、言わないで下さい!誓いの儀?も十分恥ずかしいですけど、」
「何がだ。」
さっきから質問攻めにされて、さらに頬は赤く染まっていく。どっちも恥ずかしいに決まっているじゃないか、だって私達はまだ十五歳、十六歳であるし、「誓い」を口にすることをまだ知らぬ子供なのだ。そんな私達が今から将来を誓い合うだなんて考えたら、やはりためらいも恥じらいもあるというものだ。
「だって、誓ったらそれは誓いなんですよ!?」
「何を言っている、そうに決まっているだろう。ジェンはすぐに何かとそれらしい理由をつけて僕から逃げようとするからな。またそんな事があっては困るんだよ。」
「それは、何です?私をその誓いとやらで縛り付けておくおつもりで…?」
「それもあるが…、」
あるんだ、とほんの少しだけ顔が青く染まる。別に嫌だとか迷惑だとか思ったことはなくて、むしろ嬉しくはあるのだが、レシュノルティアは私に執着の念のようなものを向けている時がある気がする。そういえば、彼は私のどんなところを好いているのだろうか。一度も尋ねたことがない。
「まあ一番は、簡単に君との関係が切れることはない、という証明に近いな。」
「証明、ですか。」
「そうだ。年はまだものを誓うには早いかもしれないが…僕は君との将来を真剣に考えている。だからその証明、って所だな。」
「なるほど…、分かりました。では今からしましょう、その誓いの儀。余計な事を言うようですけど、誓うからには絶対ですからね。どんな素敵なご令嬢を連れてこようが許しませんよ。」
「もちろんだ。僕は妾も側室も取る気はないからな、ずっとジェンだけだよ。」
そう言ったレシュノルティアは私の額に軽くキスを落とした。それに私も小さく笑って、しっかりと彼と目を合わせる。
「ありがとうレイ、私も生涯あなただけですわ。…で、これからどうするんです?」
「指輪も用意していないで恥ずかしい話なんだが、そうだな、手を出してくれるか?」
「ふふ、指輪は結婚式に渡して下されば十分です。これでよろしいですか。」
「ああ、ありがとう。」
差し出された私の左手に、レシュノルティアは自分の小指を絡ませる。「指切りげんまん」をする時の手の形だ。それに少しドキドキしていると、彼は誓いの言葉をゆっくりと述べ始めた。
「我、レシュノルティア・ラ・アスクレピアスはここに、ジェンティアナ・レ・イフェイオンを生涯愛し続けることを誓います。」
「…我、ジェンティアナ・レ・イフェイオンはここに、生涯レシュノルティア・ラ・アスクレピアスを愛し続けることを誓います。…女神アフロディーテが、きっと私達の誓いを見届けて下さったでしょう。」
月夜に照らされる部屋の中、私達は小指をつないだまま目をつぶって、しばらくそのままだった。ずっとこれからを心配に思ったり、未来に絶望感を抱いていた心が嘘のように、澄んだように晴れていく心地がした。根拠も証拠もないが、何だかこれからがずっと大丈夫に思えた。この人といれば、この人と一緒なら怖何もくないって、そう思った。
そしてしばらく経つと、レシュノルティアは私の頭にかぶせられていたベッドスカートをめくる。そして今までで一番優しく、私に口付けをしてくれた。
「…嬉しい。私今誰よりも幸せですわ、レイ。」
「僕もだ。愛している、ジェン。」
誓いの儀が終わると、私達はお互いを抱きしめ合う。そしてレシュノルティアは抱きしめてくれている間、ずっと私の髪を撫で続けてくれた。優しく頭を撫でられていると、何だかうとうとしてきてしまう。でもまだ、物足りない、眠りたくない、何もなくていいから、今夜はレシュノルティアと一緒にいたかった。
「…ねえ、レイ。」
「何だ?」
「その…今夜は、この部屋にいてはだめでしょうか?」
もじもじと恥ずかしがるように声を出すと、無言でそのまま押し倒され、そして深いため息をつかれる。レシュノルティアは何かを残念がるかのように「あーあ」と言うと、私ににこりと微笑んだ。
「さっき痛い思いをしたばっかりなのに、まだ懲りていないようだな。…僕の我慢の限界も考えてくれないか?」
それから私は全身という全身にキスマークや噛み痕をつけられて、何度も泣かされて、そして挙句の果てには眠ることも許されず、彼の部屋で一晩を過ごしたのだった。
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