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「レイ…?」

シーツから顔を出して、私に背を向けるレシュノルティアに私は触れようとした。だが、震える彼の肩を見てハッとすると、その手はピタリと止まってしまった。

「…何故、君がそんな悲しそうな顔をする。」

「え?」

悲しそうな顔をしていたのは、レシュノルティアの方だ。私がそんな顔を、彼に触れられている時に本当にしていたのだろうか。

「していません。」

「していただろう。」

「…そう、見えたのなら謝ります。でも私は、貴方にされて嫌な事なんて一つもない。」

私はベッドから降りて、レシュノルティアの正面に跪く。すると月夜に照らされた、少し泣きそうな顔をしている彼と目が合った。それから私はレシュノルティアを安心させるように、彼の両手を優しく握る。

「貴方を愛しています、心から愛しています。レイが私をいらないと捨て置くその日まで、ずっと…、」

そう言いかけている時、レシュノルティアは私を力強く抱きしめて来る。まだ彼の肩は震えているし、少し泣いているようにも思えた。こういう時、本当に私はこの人に大切にされているんだという事を思い知る。それなのに、疑うような事を言ったり、彼の気持ちを軽んじる事を言った私は馬鹿だ、大馬鹿者だ。

「お願いだジェンティアナ、僕から離れていかないでくれ、僕の中から君を奪おうとしないでくれ…。僕が君を捨て置く日なんて一生来ない。僕も君を心の底から誰よりも愛している。僕は、僕は君じゃなきゃ…、だめなんだ。」

レシュノルティアのこんなに弱っている声を聞いたのは、初めてだ。そして私でなければだめだと、泣いて懇願する程想っていてくれることを知らなかった。私達の今までの関係は、想いは、ヒロインただ一人に壊されてしまう様な脆いものでは無いのかもしれないなと、抱きしめられる力が強くなれば強くなるほどそう感じた。

「…レイ、」

こんなにも愛して、大切にしてくれる彼の「ずっと」と言う言葉を、初めて信じてみたいと思った。私は乙女ゲームの中ではイレギュラーな存在であるし、バグみたいな感じで、いつかはレシュノルティアの側を離れることを覚悟していた。だが、彼の言葉を信じるなら、別の覚悟が必要になる。それは、ヒロインを恐れず最後までレシュノルティアの側にいるという、一度上がった舞台から降りないという覚悟だ。

私は、こんなにも私を大切だと言ってくれる彼を疑ったりしたくない。こんなにも愛してくれている彼を、ずっと愛していたい。乙女ゲームもヒロインも関係なく、私の意思で、レシュノルティアの側にいたい。

「嬉しいです。今まで、ごめんなさい。二度とそのような事口にいたしませんわ。」

「ジェン…、」

「私、努力は誰よりもして参りましたけど…それでも心のどこかで、自分の気持ちに一線を引いてレイの気持ちを遠ざけていました。」

「それは、時々感じていた。」

「本当にごめんなさい。貴方に相応しい人がもっと他にいるんじゃないかって、怖かったんです。でもそれも今日で止めにしますわ。レイにこんなにも大切にされているという事を知れて、覚悟ができましたの。」

そう言った私は、レシュノルティアから身体を離すと、泣きそうな笑顔で微笑んで見せる。もうヒロインの事をうじうじ気にしたりなんかしない、レシュノルティアの気持ちも疑ったりしない、乙女ゲームも私がモブだってことも気にしない。私が愛する彼が、私のことをたくさん愛してくれる。それを返せるぐらい、私も彼の愛に応えたい、信じていたい。それだけで、いいんじゃないかと思う。

「貴方の妻になるのは、この私、ジェンティアナ・レ・イフェイオンだけですわ。他の人に譲ったりなんかしません。レイの隣にいられる権利は、未来永劫私だけのものですもの。」

「…はは、何とも強気な瞳だな。中等部時代のジェンに戻ったみたいだよ、嬉しい。」

「ええ。貴方の気持ちの大きさの前に、うじうじしているのが馬鹿らしく思えてきましたの。」

力いっぱいまた微笑むと、レシュノルティアはそれにクスりと笑って、私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。するとまた、何故かベッドのシーツを私の頭にかぶせて来る。何だろう、デジャブ…?と私の頭は混乱していた。

「ジェンティアナ、今から誓いの儀をしようか。」
















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