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しおりを挟む「ええと、ルミエールです。ルミエール・リゼット。」
「……!!」
ハッキリと名を聞いた瞬間、ここは実際に人が喋って動く現実世界ではあるが、同時に乙女ゲームの世界でもあるという実感が、私の呑気さを殴った。やっぱりそうだ、ルミエールはこの学院に編入して来ている。この学院に確かにあの、乙女ゲームのヒロインは存在しているのだ。
「最初は中等部の生徒に混じって授業を受けるのは嫌だと言っていたんですよ。でもあの子、あの子のことを頼もうとしていた講師の名簿に貴方の名前を見つけたら急に態度を変えまして…、」
「え…?」
私の名前を見た途端態度を変えた…つまり、私の存在を認知していたと言うことなのか。
どこで私の名前を知ったのか、目的は何なのか、接触したら何を言われてしまうのか、
全部全部怖い。分からない。
「あの三年間首席であったイフェイオン子爵令嬢に見えもらえるなら安心だって言っていましたよ。もしかしてお知り合いでしたか?」
「いえ、いいえっ…、知りません。」
「あら、そうですか。それで、お引き受けになって下さいますか。」
「えっと…、」
どうしよう、ここで断ったら私がルミエールを避けたことになり、その事が本人に伝われば、私が転生者だという事に勘づかれる可能性がある。だが、ダンスの授業ともなればルミエールと私には教師と教え子という関係が生まれてしまい、その中で彼女にきちんと接せられる自信もない。
「ミスイフェイオン?どうかなされましたか?」
彼女がそう聞いた所で、授業の始まりを知らせるチャイムが鳴った。それに私はハッとして、答えを有耶無耶にした。
「す、すみません!!授業が始まりますのでまた今度!」
「あっ、ちょっと…!」
ダンスの授業中、きちんと教えられていたとは思うが心は何だか上の空だった。生徒にも、「先生、顔色が悪いようですが。」と心配をかけてしまう始末で、本当に情けない。
講師をする以上、個人的な事情は考えたり顔に出さないようにしていたはずなのに、どうも上手くはいかないので、自然と大きなため息が出てくる。
私は、ルミエールという存在が私に近づいてくるのが怖い。彼女と完璧に接触をしてしまったら、今の幸せが壊れてしまう気がしてならない。お願いだから放っておいて欲しい、
レシュノルティアと私の事など気にせず、
他の攻略対象は沢山いるのだから、その人達と仲良くしていて欲しい、と醜い考えが渦巻いた。
「…私には、あの方しかいないのに…。」
ヒロインには、レシュノルティアを除けば七人の攻略対象がいるはずだ。だったらそこから選べばいい、彼を、私が愛して止まないただ一人の人まで、どうか取らないで欲しい。
「ミスイフェイオン、ですよね?」
「はい…?」
後ろから、明るい声で呼び止められる。それに振り向いた時、一瞬、呼吸も心臓も止まった。ただその瞬間、ザアッと風が吹いて、
私の驚く顔に少女は可愛らしく微笑んでいた。
「ねえ、どうして私から逃げるんですか?」
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