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「「…。」」

わざとらしい上目遣いに、僕とイーシアスは目を見合わせて、冷たい視線をぶつかって来た女子生徒に向けた。そしてため息をつくと、あまり力を入れぬよう気をつけて女をイーシアスの身体から引き離す。

「…無礼者、この方を誰だと思っている。この方はアルカンディア帝国の皇太子殿下であらせられるのだぞ。」

「えっ?皇太子、殿下…?」

まるでイーシアスの事は初めて見ました、みたいなきょとんとした顔をされる。まさか、この女子生徒が先程イーシアスが話していた、魔力量を買われて編入が許されたという平民の出である女なのだろうか。だが彼女が平民だとしても、皇太子の顔ぐらい知っているだろうに。

「おいレシュノルティア、よせ。」

「しかし、」

「いい。怪我はなかったか?」

「あ!はい。すみませんこちらこそ、お怪我はありませんでしたか?あっ、私 
治癒魔術は得意なのでかけましょうか?えへへ。」

白々しい。わざとの癖してよく喋る女だ。品位の欠けらも無い。

「ああ、俺は大丈夫だからもう行くといい。」

「あ、あの!ごめんなさい、私転入生で…入学式会場が分からないんです。よろしければ案内してくれませんか?」

白々しいの次は図々しいと来たか。皇太子に名乗らず道案内を頼むとは、無礼極まりない。はぁ、とため息を着くと後ろにあったホールを指さした。

「案内するまでもない。入学式が行われるホールはあっちだ。」

「チッ、…そうなんですね!ありがとうございます。あ!そうだ、私ルミエールっていいます!ルミエール・リゼット。よろしくお願いい致します!」

やはり名の構成からして、平民の出の転入生とは、このルミエールという女で間違いないようだった。そして何か、舌打ちが聞こえたのは気のせいだろうか。

「この国の皇太子、イーシアス・リテ・アルカンディアだ。」

「僕はレシュノルティア・ラ・アスクレピアス。」

名乗られたから名乗り返したものの、グイグイとくる彼女の姿勢に僕とイーシアスは冷めた表情をしていた。故に「よろしく」とは返さない。どちらも平民に対する差別意識は持ち合わせていないが、自分の身分を弁えるということは当たり前のことだ。だがこの女は、それがまるでなっていない。自分が特別な存在であると、信じきっている様な目をしていることが全面的に伝わってくる。

「お二人共素敵な名前ですね!」

「ああ、ありがとう。」

「「…!?」」

ルミエールが次に取った、まさかの行動に僕達は思わず目を見開いた。挨拶は済んだにもか関わらず、彼女は当たり前の様に僕達の横に並んで歩き出そうとする。

「おい、ちょっと待て。何故僕達と一緒に行こうとする。」

たまらず突っ込んでしまった。場所を教えたのに、何故一緒に行こうとするのか。本当にこの女、よく分からない。

「えっ?だってもう式、始まる三十分前ですからそろそろ行かないと…、」

「三十分前行動は大変よろしい、だがな、気軽に僕たちと行動を取られるとすまないが色々と困ることがある。」

「それって私が、平民だからですか…?」
 
違う。貴族の出の者や皇族は人間関係にはより一層気をつけねばならないことがある。それは、社交界での噂だ。例えば僕たちが今からこの女とホールに向かえば、彼女は皇太子と公爵令息と関係がある人間と見なされ、ある事ないこと囁かれる。その噂がジェンティアナの耳にでも入ったりしたら、本当に最悪だ。

「あー、別にそういう訳じゃない。俺なんかは皇太子だし、こいつは公爵令息なんだ。だからそんな身分の奴が女と行動なんてすればおかしな噂が出回っちまんだよ。特にこいつみたいな婚約者がいる男なら尚更な。」

「婚、約者…?」

「そう。俺もこいつの婚約者とは知り合いだが、かなり美人で優秀なんだぜ。」

「イーシアス!余計なことは言わないでいいです。…まあつまりは、そういう事だ。すまない。」

「おっと、怖いねぇ。あんまり嫉妬深いとジェンティアナに嫌われるぞ。んじゃ、またな。」

歩き出したイーシアスの後ろについて行くことで、やっとこの女から開放された。彼女は、かなり常識の範囲内のことも知らないように見える。学院内で何か、揉め事を起こさなければ良いのだが。


「ジェンティアナ…ですって?なっ、モブがなんでレシュノルティア様の婚約者になってるの!!ありえ、ない!!!」












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