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しおりを挟む(※今回の回はレシュノルティア目線での話となっております。)
十一時半を回った頃、王都にある国立魔法学院に馬車が到着する。まだ式には時間があるが、一応もう外で待機しておくことにしよう。そう思って馬車から降り、学院内をうろついていると声をかけられる。
「あ、遅かったなレシュノルティア。
今当地着した所か?」
「…殿下、お久しぶりです。」
こちらに駆け寄ってきた男に、一礼をしておく。
彼はこのアルカンディア帝国の第二皇子、イーシアス・リテ・アルカンディア。幼少期の頃から、この男とはお目付け役としての長い付き合いがある。
「俺達の仲なんだから殿下なんて呼ぶな、堅苦しいだろ。春休暇はアスクレピアスに戻ってたんだな、珍しい。」
「ああ。婚約者も領地にいるから、その関係もあって帰っていた。」
「なるほど…って、そうだお前、ジェンティアナと正式に婚約したんだって?」
馴れ馴れしくもガッと肩を組むようにして距離を縮められ、何とも面倒臭い事を聞かれてしまう。そういえば、イーシアスとジェンティアナは魔術授業でよくペアを組んでいた者同士だった。だから彼にとって彼女は、一応身近な存在だったのかもしれない。
「言ってなかったからな。ジェン…、ジェンティアナが僕の婚約者になったのはあの卒業試験の日だったんだ。だから彼女と婚約を結んだのは、本当に最近なんだよ。」
「あいつは本当に優秀だし、可愛い…というよりかは美人だしな。…ふーん、なるほどねぇ。ジェンティアナの片想いの相手はやっぱりお前だったってわけか。」
片想いの相手、という言葉に思わずよろしくない感情が顔に出てしまう。そんなことまで知っている程、イーシアスとジェンティアナは仲が良かったというのだろうか。
「ジェンは君に好いている相手の話までしていたのか?」
「あ?…いや、それは俺が話すことじゃないな。おい待て待て、話しても話さなくても殺されそうな感じの顔をするのはよせよ。別にジェンティアナには変な気持ち持ってねえからよ。」
「別に、心配などしていない。」
「おーおー、怖いねぇ。こんな嫉妬深そうな男に捕まってジェンティアナもご愁傷さまなことで。」
「…それについては同感だ。」
自分が嫉妬深いことなど、中等部の時から気がついている。イーシアスはまだマシな部類に入るが、ろくでもない輩がジェンティアナに近づこうものなら、鋭い眼光で睨み殺していた記憶がある。
「何度か俺もお前に睨まれてたもんな。」
「知っていたのか、不快にさせていたなら謝る。」
「思っても無いくせによく言うぜ。…あ、そうそう、今日から高等部に特別編入してくる女がいるらしいぞ、平民出身の。」
「平民?…ということは、よっぽど魔法の才があるということか。」
別に平民を差別する考えは持ち合わせていないが、この帝国立魔法学院の高等部は女子生徒であれば、魔法の才無しならば進級が許されない様な場所だ。その中で、貴族よりか魔力量が少ないとされる平民出身の女が、どうして入学してこれよう。
「いいや、別に才能は特にないらしい。だけど、魔力量がとんでもないらしくてな、いわゆるまあ…魔力提供のためのドナーって扱いになる、と聞いている。」
「…なるほど。別に僕には必要無いな。魔力量は少ないわけではないし、」
と、言いかけたところで、曲がり角から一人の女子生徒か急に飛び出してくる。そして勢いよく、イーシアスの胸に飛び込むと「いったぁい…!」と声を上げた。なんだこの女。絶対今のは飛び出してきていたとしても、僕たちが彼女にとっての死角にいたとしても、絶対飛び込まなくても良かっただろうに。完璧にわざとだ。
「きゃ!?ご、ごめんなさい!前が見えていませんでしたぁ…。」
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