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しおりを挟むふわふわとした気持ちいい感覚に浸れる暇もなく、レシュノルティアは私に口付けをし続ける。そしてそれが続けば続くほど、唇が触れながらも耳を触ったり、腹を指でなぞったりして、彼はじわじわと私に新しい快楽を覚えさせて行った。
「ふあ、はぁっ…は、」
「…あと、つけていいか?」
「あと…?」
痕って、何の事だろう。すっかり与えられた熱でぼんやりとしてしまった頭で考えても、それが何か分からなかった。だがしばらく「うーん」と考えてみると、それがキスマークのことを指していることに気が付く。
「だ、だめです!入浴の時侍女に見られます…。」
「…これからあまり会えなくなるから、その間君に僕のことを忘れていてほしくない。」
「そんなのなくたって私は忘れません。それを言うなら、私がレイに付けるべきなのではないですか?…あっ、ごめんなさい今の嘘、やっぱりなし……!」
「…嘘、ね。」
「そう、嘘です!忘れて下さい、本当に今すぐ。」
「なるほど、君は僕に嘘をつくのか?」
面白がるようにレシュノルティアは薄く笑うと、押し倒されていた私の手を優しく引っ張って起こさせた。そして自分の膝に私を座らせて、シャツのボタンを二、三個外す。
「え…え!?」
はだけたシャツから除く、彼の白い肌をじっと見つめられなくて、私は思わず両手で自分の目を隠した。そしてまさか、本当に自分の言ったことを本気にされるとは全く思っておらず、頭が大混乱を始めた。
「待ってください!冗談ですから、本当に冗談ですから…!」
弁明する私の声を全く聞かず、レシュノルティアは私の頭を自分の首筋へと持ってこさせ、両目を隠していた手を痛くしない程度に力ずくで下へと下ろさせる。
「付けて。」
「っぁ、」
耳元で囁かれて、身体がびくりと跳ねる。手は抵抗しようにも、レシュノルティアの左手ですでに下に押さえられてしまったし、ここで拒否を口にしてしまえば、絶対私が付けられる側に回ってしまう。後々の後悔を考えれば、今ここで彼の要求を呑むしかなさそうだ。
そして私は、若干のためらいと共に、ゆっくりとレシュノルティアの胸に口付ける。強く皮膚を吸わなければ痕が付かないことは分かってはいる。しかしあまりの恥ずかしさにすぐ唇を離そうとしてしまう。が、彼はそれを分かっていたかのように、右手で私の頭を自分の胸に押し付けた。
「んっ…!?」
「そんなにすぐに離したら、痕なんてつかないぞ。ほら、もう少し頑張れ。」
どうやら意地でも、私が痕をつけるまで逃がす気はないらしい。恥じらいを抑えて、何とか一つ痕を付けようとした矢先、レシュノルティアはそれを邪魔するかのように私の耳をいじり始める。
「ん、んんっ…あっ、」
最初はすりすりと指でなぞられる感じだったのに、段々と耳の裏や耳殻を撫でられたり、耳たぶを揉まれたりしていると、強張っていた身体の力がどんどんと抜けて行ってしまう。
「…ん、ぅ、はあっ…、だめ、それされると力、入らない…。」
「まあ、一つ付けてもらったからこれで良しとしておこう。今度から嘘を吐こうとしないように。」
俯かせた顔を少しだけレシュノルティアの胸元に戻すと、くっきりとは言えないものの、しっかりと彼の胸元には痕が付いていた。
「ごめんなさい…。」
そして嘘をつこうとしたら何倍返しになるのかを今の数分で学習した気がする。今度からは出来もしないことを口に出すのを止めよう、と心に誓った。少し拗ねているような私の顔を見ると、レシュノルティアは笑ってぽんぽんと頭を撫でてて来る。
「意地悪をして悪かった。…さ、もう夜も更ける。屋敷に帰ろうか。」
「はい。…あれ、」
「どうした?」
座り込んだ姿勢のまま、全く力が身体に入ろうとしない。ぐぬぬ、ともう一度力を入れるが結果は同じだった。
「あ、あれ?」
「ぶっ…くくっ、まさかさっきので身体に力が入らなくなってしまったのか?」
「あ!うるさいですよ、今立って見せますからね!!」
「無理そうだがな。ほら、おいで。」
レシュノルティアは笑いをこらえながらも、私の方に腕を広げた。それに不本意だが、掴まることにする。すると軽々と彼は私を抱きかかえて運び、ベッドに私を降ろすと、額に軽く口付ける。
「おやすみ、ジェン。」
「おやすみなさい、レイ。…あの、」
「何だ?」
「もう一度だけ、抱きしめてくださいますか。」
ここ数日間だけだが、まるでレシュノルティアと過ごせる日々が当たり前みたいに過ごした。それが一気に静まり返って、無くなると思うと、私だってやっぱり寂しい。
それに彼が、乙女ゲームのヒロインに惑わされないかもまだ分からないし、それが分からないまま一人屋敷に残るのも不安だ。だから、もう少しだけレシュノルティアに触れて欲しい、力強く抱きしめて欲しかった。
「…ジェンからそんなことを言うのは珍しいな。」
「だめですか?私だって…ちょっとだけ不安だし、寂しいって思いますもん。だから最後に甘えさせて下さい。」
「君は全くそう思ってないのかと思っていた。ありがとう、嬉しいよ。」
レシュノルティアは柔らかく微笑むと、優しく私を抱きしめてくれた。それに、ぎゅーっと力強くしがみつくようにして抱きしめ返す。
「おっと、激しいな。」
「変な言い方しないで下さい。…もうちょっと、もうちょっとだけですから。」
「本当に珍しいな。分かったよ。」
私を抱きしめている途中、彼はずっと髪を撫でてくれていた。だからなのか、まだ寝たくないはずなのに優しい眠気に襲われる。そしてここからは記憶にないのだが、私はレシュノルティアの腕の中でそのまま寝てしまったようだった。
「…学院で、君が心配するようなことは何一つ起こらないよ。愛している、おやすみジェンティアナ。」
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