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しおりを挟む今より少しだけ、沢山触れる…って、どこまで?収まり始めた熱が、またぶわりと顔に集まった。それに、レシュノルティアの目は切なげに私を見つめていて、「駄目だ」と強く出れそうにない。
「え…?ぇ、えっと…、」
ここで頷いてしまったら、どこまで行くかだなんて分からない。流石に私も彼も十五歳であるし、婚約関係にあるから最後まで…だなんていう心配は無いように思える。でも確か、乙女ゲームではルートの終わりにそういった行為の事後描写があった気がする。だから、一概には全くその心配が無いとは言えない。
「どうした?嫌なら遠慮なく嫌と言って欲しい。」
「あの…その、私達まだ婚約者、ですよね?」
「急にそんなことを聞いてどうし…あっ、待て待て待て待て、一旦待ってくれ!僕だってそこはちゃんと分かっているからな、誤解しないで欲しい…。」
レシュノルティアは自分が言った言葉にどれだけの含みがありそうなのかを今理解した様だった。それに、ホッと胸を撫で下ろす。婚約者と言えど、身分の高い女性は結婚時までの純潔が求められる。さすがにその領域を犯すつもりは、彼にはないらしい。
「いえ、私も何かその、無粋なことを聞いてごめんなさい。」
「何故謝る…。僕は君が何より大事で、大切だから…、絶対ジェンを傷つけるような事はしないつもりだ。さっきのは僕の聞き方が悪かった。その、すまない…。」
やはり自分が言った事が恥ずかしかったのか何なのか、彼はぐしゃぐしゃと髪をかきむしって、耳まで赤くしてそっぽを向いた。先程までグイグイと攻めることを止めなかったくせに、何だか拍子抜けというか、ギャップがあるというか。それが何だか少し可笑しくて、私は小さく笑ってレシュノルティアを抱きしめる。そして、大切な人に同じ大切だという気持ちでいてもらえる事はすごく嬉しかった。
「好きな男性に触れられて傷つくだなんて、私そんなにか弱くありませんわ。でもそのお言葉、すごく嬉しいです。」
「君、さては面白がっているだろう。」
「それはどうでしょうね?…あらやだ苦しい…。」
少しからかっていたのがバレたのか、レシュノルティアは私を抱きしめ返す手をぎゅうぎゅうと強くしてくる。
「ジェンが女丈夫でか弱く無いは知っている。だが、駄目なものは駄目だときちんと言ってくれ。」
「それでちゃんと止めて下さいますか?先程は私の無理だという言葉が聞こえていなかったみたいですけれど。」
「それは、…悪かった。以後気をつける。」
まるで先程の行いを反省するかのように、彼は肩を落とした。先程まで主導権を握られていたからか、彼のしゅーんとした姿を見るのは何だか少しだけ楽しいかもしれない。
「はい、許して差し上げます!」
「はは、僕の姫君が何だか楽しそうで何より…と言いたいところなのだが、学院に行く前にやっぱり、もう少し君に触れていたいんだ。ジェンが心配する様なことは何もしないから、さっき聞いた事への返事をくれないか?」
抱きしめ合っていた手が解かれると、レシュノルティアは私の額にコツン、と自分の額を合わせた。そして今まで見たことも無かった様な、無邪気な笑顔を見せて来る。
ずるい、本当にずるい。どうせ私が断らないことをこの人は分かっている。それでもきちんと聞いてくれるのは、先程言われた通り私のことを大切に思ってくれているのからなのだろうか。それとも私に、返事を口にさせたいからなのだろうか。
「…先程より優しく触れて下さいますか?」
「ああ、約束しよう。」
「じゃあ、分かりました。…いいです、よ。」
言っている途中で何だか恥ずかしくなり、私は目線だけを彼から逸らした。すると、ちゃんと見ていなくても分かる程レシュノルティアは嬉しそうな顔をして、私の頬に小さく口付ける。
「ありがとう、ジェン。じゃあ夜、いつもの時間に温室で会おう。」
「…はい。」
それからレシュノルティアとは別れ、自室に戻るとチアラが私の入浴の準備をしていてくれている所だった。そして私に気がつくと、パタパタとこちらに駆けてきて私の髪をじっと見つめては慌てた表情をする。
「お嬢様!少し御髪が乱れているようですが、何かございましたか!?」
「えっ?…あぁ、」
散々押し倒されたり、頭を撫でられたり抱きしめ合ったりしたせいなのか、今朝彼女に綺麗にしてもらった髪は、少しだけぴょんぴょんと跳ねてしまっていた。そう思うと、少し恥ずかしい。
「木に絡まってしまったのかもしれないわ。えっと、入浴の準備を今してくれていたのよね。」
「はい、もう終わりましたのでご入浴なされますか?」
「ありがとう。えっと、チアラ…あのね、」
「はい?」
チアラに言われた通り今少し髪は乱れているし、先程滅茶苦茶にされてしまったせいで、少し汗もかいているかもしれない。夜にはレシュノルティアに会うのだし、「たくさん触れたい」と言われてしまったので、いつもより少しだけ気合いを入れていきたい。
「今からその、…いつもより綺麗にして欲しいの。お願い。」
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