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しおりを挟む「や、やだ…これ以上されたら変になっちゃ、ん、…!?」
抵抗を口にした先、レシュノルティアはそれを言わせないように私の口の中に親指を突っ込んでくる。そして私の舌を押さえつけるように、中でぐちゃぐちゃと指をかき回す。
「んぐ、んんっ…!ふぁっ、」
「…駄目だと言う癖して誘っているのか。」
「誘ってないです…っ、ぅ、レイが嫌なら他の男性とあまり喋らないようにしますし、仰せの通りにしますから、もう…、」
「はは、グズグズになってもうあまり喋れていないな。でもまだもう少し我慢してくれ、まだ離してやれそうにない…。」
そう言ってレシュノルティアは私をきつく抱きしめてから、私の頭をぽんぽんと撫でた。
「っ、あ…。」
その時に感じた、彼の鼓動の速さに目を見開く。ドクンドクンと早る心臓の音は、今より余計に私の顔を赤くさせた。人の心音を聞くと安心する、と聞くがこれだけ速いとこれからまだ、何をされてしまうんだろうという不安に駆られる。
「はあ…、すまないジェン。でも本当に、君が他の男と一緒にいるのを見るのは苦手なんだ。学院でジェンは優秀だったから、よく男子生徒にも教えを請われたりしていただろう。」
「え?ああ、でも別にその方々とも本当に何も、」
「君もあの司書官程ではないが鈍い所がある。何人かジェンに好意を持って接していた男はいたぞ。」
そんな人、本当にいたのだろうか。私からすれば本当にレシュノルティアのことしか見えていなかったので、教えを乞う生徒はただ単に授業の評価を良くしたいだけの人間、としか思えなかったのかもしれないが。
「そんなの知りません…。でも、そんなのどうでも良いじゃないですか。私は、レイしか見えていませんでしたよ。」
機嫌取り、というわけではないが、私はレシュノルティアに頬を擦り寄せる。すると彼はクスりと笑って、私を抱きしめる力を少し弱めた。
「それは嬉しいな。…だが、君は少し変わったな。」
「どんな風に、でしょう。」
「どこか余所見をしているかの様に思える。僕との結婚を、当事者である君がどこか他人事の様に言っている時がたまにあるだろう。」
「!」
それに、自分の中での迷いという感情が大きく揺れた。確かに、彼の言う通りだ。今まではここがどの様な世界か気づけていなかったからレシュノルティアの事しか見えていなかったが、今は自分の未来まで見据えていないと不安で、この世界に立っても
いられない。だから何となく彼との婚約を「まだ先の話だ」と言ったり、私の事は放っておいてくれても大丈夫だ、なんてことをつい言ってしまう事があるのは確かだ。 でもそれが、レシュノルティアからの好意を拒否するに似た行為でしかないことも分かっている。
「それは…。」
「…まあいい。確かに僕達が結婚するという話は、君の言う通りまだ先の話だ。怒っているわけじゃない、だからそんなに震えないでくれ。」
「ありがとうございます。でも、ごめんなさい…。」
「いいと言っている。だけど、君は…僕のことを本当に、好いていてくれているんだよな?」
「それは、もちろんです。」
彼が好きだという気持ちに、嘘偽りはない。私はその言葉に、コクンと頷いて見せた。
「僕もだ、僕もずっとジェンのことが好きだ。だから絶対、三年後君に求婚する。不安があるなら、僕にすぐ言って欲しい。」
「ええ。そのお言葉が聞けて幸せですわ。」
そんな三年後が待っていると、是非とも信じてみたいものだ。彼に愛されて、大切にしてもらえて、それに何も文句はない。だが、愛されれば愛されるほどに、唇を重ねるほどに、その熱を失う不安はずっと私に付きまとう。いい加減、レシュノルティアの真っ直ぐな言葉を信用してしまえればきっと楽なのに。
「…そう言えば、いつ学院の方へお戻りに?」
「ああ、明日には戻ることになっている。」
その話を聞いた途端、意識はしていなかったがレシュノルティアを抱き締め返していた手に少し力が入る。明日だなんて、何だか急な事だったからだ。
「…何だ、寂しいと思ってくれているのか?」
「え?いえいえそんな…。しっかりと勉学に励んできて下さいませ!私も立派な貴方の花嫁となれるよう、ここで頑張りますから。」
「それは頼もしいな。だが無理はするなよ。」
そう言ってレシュノルティアが私の髪を優しく撫でるから私も少しだけ嬉しくなって、「ふふ」と小さく笑った。
「君が頑張ってくれるのは嬉しいのたがな…こうやってジェンに触れたり出来なくなるのは辛いな。」
「我慢なさいませ、お互い気を抜かず頑張りましょうね。」
「……君は平気なのだな、案外。」
「え?」
レシュノルティアは私を抱きしめていた手を離して、顔をじっと見つめてくる。何だろう、別に怒っている様な気配は感じ取れないが、何か少しだけ、不貞腐れている気がする。
「レイ…?」
「今日で君とこうやって触れ合える機会は今後減ってまうだろうな。だから、学院に戻る前に少しだけ、今より君にたくさん触れることを今夜だけ許して欲しい。…駄目か?」
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