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12.
しおりを挟む「お嬢様、お湯加減はいかがでございますか。…あら、お嬢様?のぼせていらっしゃるのですか。」
「…ほえ?あ、大丈夫ですわ。」
あの後二人で屋敷まで戻り、そのまま別れた。そして私は今、自室に用意された大きな大きな浴槽につかっている。だが少しぼーっとしてしまっていたようで、チアラの声に気がつくのに遅れてしまった。
「何かお考え事ですか?」
「あ、いえ。とても大きな浴槽だな、と思いまして。」
「ふふ、本当にそんなことをお考えでしたのかしら。今日はお坊ちゃまとご一緒だったのでしょう。」
まったく、知っていてわざわざ聞いてきたのだな彼女は。にやにやとした表情が顔から溢れ出ている。何をしていたのだと
聞きたがりな顔をされても、大してする話などないのだが。
「ふん、チアラ達が二人にさせたのでしょう。少しだけですけど、私大変だったんですからね。」
「主の側を離れた、のは申し訳ございませんでしたわ。ですがそうでもしないと、お二人がいつまでもギクシャクすると思ったものですから。」
「別にそれでいいですわ。レシュノルティア様には感謝こそしていますが、元々からよく分からぬ関係だったのですもの。」
「存じております。ですが、お嬢様は名門アスクレピアス公爵家の夫人の座を手に入れたも同然ですわ。これからお坊ちゃまとは仲良くなさらないと。」
「分かっています。でもあの方、何か少し不思議な接し方をしてきます。どうすればいいか分からないわ。」
「うーん、確かに少し変わり者で頑固者ですわね。でも、悪い方じゃありませんのよ。それはご存知でしょう?」
「それは…ええ、そうですね。」
ぱしゃり、と両手で湯をすくい、顔に軽く叩きつけた。確かにチアラの言う通り、これからレシュノルティアを避け続けたりするようなことは出来ない。彼はおそらく、私を悪く思っていないし仲良くしようともしてくれている。だがそれでは、乙女ゲームの世界がどう転ぶかもよく分からない…いや、これは自分の中の建前に過ぎない。
私だって、ここがどの様な世界が気がつく前はレシュノルティアの妻になりたい一心で努力を重ねてきた。だから、彼のことが好きだと言う気持ちが一切なかった訳が無い。でも気がついてしまった今、今ならまだ身を引くことができるがこれ以上距離を縮められては気持ちが悪化してしまう。もしそうなれば、後から傷つくのは自分なのだ。ヒロインとの恋を応援したくとも、心の底から祝福など出来ようはずもない。私は、これから待つ未来の先で自分が傷つきたくないだけなのかもしれない。
「…何かご不満や心配があるのですか。」
「不満なんてある訳ありません。その、レシュノルティア様が高等部に上がっても、私たちの関係って大丈夫なのかなって。」
「それは、ご心配無いと思いますけれど。」
「まあとても誠実な方ですものね。」
「うーん、お坊ちゃまの性格うんぬんのお話ではなく…。まあここから先は私が言うべきことではありませんね。それより、…ほほぉ~ん、お坊ちゃまからの特別な証も頂いているようですし、何も心配することはないのでは?」
「あっ、これは違います!」
チアラが私の身体を洗っている途中、左手の甲を見てあからさまににやにやしてくる。泡や花弁が浮かぶ湯船に、思いきり左手を突っ込んで隠したが、風呂場では逃げ場もありはしない。…しまった。
「えぇ、もっとしっかりこの私めに見せてくれてもよろしいのでは?」
「だめ!!だめですわ!」
こうして私は長い長い髪や体のケアが終わるまで、チアラに不本意にも質問攻めにされてしまったのだった。
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