13 / 65
12.
しおりを挟む「お嬢様、お湯加減はいかがでございますか。…あら、お嬢様?のぼせていらっしゃるのですか。」
「…ほえ?あ、大丈夫ですわ。」
あの後二人で屋敷まで戻り、そのまま別れた。そして私は今、自室に用意された大きな大きな浴槽につかっている。だが少しぼーっとしてしまっていたようで、チアラの声に気がつくのに遅れてしまった。
「何かお考え事ですか?」
「あ、いえ。とても大きな浴槽だな、と思いまして。」
「ふふ、本当にそんなことをお考えでしたのかしら。今日はお坊ちゃまとご一緒だったのでしょう。」
まったく、知っていてわざわざ聞いてきたのだな彼女は。にやにやとした表情が顔から溢れ出ている。何をしていたのだと
聞きたがりな顔をされても、大してする話などないのだが。
「ふん、チアラ達が二人にさせたのでしょう。少しだけですけど、私大変だったんですからね。」
「主の側を離れた、のは申し訳ございませんでしたわ。ですがそうでもしないと、お二人がいつまでもギクシャクすると思ったものですから。」
「別にそれでいいですわ。レシュノルティア様には感謝こそしていますが、元々からよく分からぬ関係だったのですもの。」
「存じております。ですが、お嬢様は名門アスクレピアス公爵家の夫人の座を手に入れたも同然ですわ。これからお坊ちゃまとは仲良くなさらないと。」
「分かっています。でもあの方、何か少し不思議な接し方をしてきます。どうすればいいか分からないわ。」
「うーん、確かに少し変わり者で頑固者ですわね。でも、悪い方じゃありませんのよ。それはご存知でしょう?」
「それは…ええ、そうですね。」
ぱしゃり、と両手で湯をすくい、顔に軽く叩きつけた。確かにチアラの言う通り、これからレシュノルティアを避け続けたりするようなことは出来ない。彼はおそらく、私を悪く思っていないし仲良くしようともしてくれている。だがそれでは、乙女ゲームの世界がどう転ぶかもよく分からない…いや、これは自分の中の建前に過ぎない。
私だって、ここがどの様な世界が気がつく前はレシュノルティアの妻になりたい一心で努力を重ねてきた。だから、彼のことが好きだと言う気持ちが一切なかった訳が無い。でも気がついてしまった今、今ならまだ身を引くことができるがこれ以上距離を縮められては気持ちが悪化してしまう。もしそうなれば、後から傷つくのは自分なのだ。ヒロインとの恋を応援したくとも、心の底から祝福など出来ようはずもない。私は、これから待つ未来の先で自分が傷つきたくないだけなのかもしれない。
「…何かご不満や心配があるのですか。」
「不満なんてある訳ありません。その、レシュノルティア様が高等部に上がっても、私たちの関係って大丈夫なのかなって。」
「それは、ご心配無いと思いますけれど。」
「まあとても誠実な方ですものね。」
「うーん、お坊ちゃまの性格うんぬんのお話ではなく…。まあここから先は私が言うべきことではありませんね。それより、…ほほぉ~ん、お坊ちゃまからの特別な証も頂いているようですし、何も心配することはないのでは?」
「あっ、これは違います!」
チアラが私の身体を洗っている途中、左手の甲を見てあからさまににやにやしてくる。泡や花弁が浮かぶ湯船に、思いきり左手を突っ込んで隠したが、風呂場では逃げ場もありはしない。…しまった。
「えぇ、もっとしっかりこの私めに見せてくれてもよろしいのでは?」
「だめ!!だめですわ!」
こうして私は長い長い髪や体のケアが終わるまで、チアラに不本意にも質問攻めにされてしまったのだった。
0
お気に入りに追加
4,539
あなたにおすすめの小説
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
人質姫と忘れんぼ王子
雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。
やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。
お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。
初めて投稿します。
書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。
初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
小説家になろう様にも掲載しております。
読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。
新○文庫風に作ったそうです。
気に入っています(╹◡╹)
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
婚約者とその幼なじみの距離感の近さに慣れてしまっていましたが、婚約解消することになって本当に良かったです
珠宮さくら
恋愛
アナスターシャは婚約者とその幼なじみの距離感に何か言う気も失せてしまっていた。そんな二人によってアナスターシャの婚約が解消されることになったのだが……。
※全4話。
わたしのことはお気になさらず、どうぞ、元の恋人とよりを戻してください。
ふまさ
恋愛
「あたし、気付いたの。やっぱりリッキーしかいないって。リッキーだけを愛しているって」
人気のない校舎裏。熱っぽい双眸で訴えかけたのは、子爵令嬢のパティだ。正面には、伯爵令息のリッキーがいる。
「学園に通いはじめてすぐに他の令息に熱をあげて、ぼくを捨てたのは、きみじゃないか」
「捨てたなんて……だって、子爵令嬢のあたしが、侯爵令息様に逆らえるはずないじゃない……だから、あたし」
一歩近付くパティに、リッキーが一歩、後退る。明らかな動揺が見えた。
「そ、そんな顔しても無駄だよ。きみから侯爵令息に言い寄っていたことも、その侯爵令息に最近婚約者ができたことも、ぼくだってちゃんと知ってるんだからな。あてがはずれて、仕方なくぼくのところに戻って来たんだろ?!」
「……そんな、ひどい」
しくしくと、パティは泣き出した。リッキーが、うっと怯む。
「ど、どちらにせよ、もう遅いよ。ぼくには婚約者がいる。きみだって知ってるだろ?」
「あたしが好きなら、そんなもの、解消すればいいじゃない!」
パティが叫ぶ。無茶苦茶だわ、と胸中で呟いたのは、二人からは死角になるところで聞き耳を立てていた伯爵令嬢のシャノン──リッキーの婚約者だった。
昔からパティが大好きだったリッキーもさすがに呆れているのでは、と考えていたシャノンだったが──。
「……そんなにぼくのこと、好きなの?」
予想もしないリッキーの質問に、シャノンは目を丸くした。対してパティは、目を輝かせた。
「好き! 大好き!」
リッキーは「そ、そっか……」と、満更でもない様子だ。それは、パティも感じたのだろう。
「リッキー。ねえ、どうなの? 返事は?」
パティが詰め寄る。悩んだすえのリッキーの答えは、
「……少し、考える時間がほしい」
だった。
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
バイバイ、旦那様。【本編完結済】
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
妻シャノンが屋敷を出て行ったお話。
この作品はフィクションです。
作者独自の世界観です。ご了承ください。
7/31 お話の至らぬところを少し訂正させていただきました。
申し訳ありません。大筋に変更はありません。
8/1 追加話を公開させていただきます。
リクエストしてくださった皆様、ありがとうございます。
調子に乗って書いてしまいました。
この後もちょこちょこ追加話を公開予定です。
甘いです(個人比)。嫌いな方はお避け下さい。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる