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しおりを挟む「ん、何か言ったか。」
「あっ、いいえ。何でも…。」
「そうか。」
聞いたところで、レシュノルティアを困らせてしまう。それで今何ともない関係がこじれてしまうのなら、知らなくていい。私は彼が別の女性に恋をしても、ただ何もせずじっとしているだけだから、この何も無い現状を維持し続ける必要がある。
私は、レシュノルティアに期待を抱いかない。これは絶対だ。と、気を取り直す。
「あの…いつまで私の手を握っていらっしゃるので?」
「ああ、すまない。」
先程握られた手は、話が終わった後も繋がれたままだった。さすがにこれ以上繋がれていると、緊張で手がじんわりと熱くなり、その気持ちを悟られてしまいそうだった。それはさすがに恥ずかしいので、解くように言ったのだがレシュノルティアは「すまない」と謝りつつ私の手を離そうとしない。
「あの、レシュノルティア様…?手を、」
「だからすまんと言っただろう。」
まさか、先ほどの謝罪(?)は手を握っていたことへの物ではなく、まだ繋ぐ気なので言った「すまん」だったのだろうか。多分、私の考えは間違っていなかったのかレシュノルティアは私の手を離そうとしなかった。
「す、すみませんあの…、離していただいても?」
そろり、と私は自分の左手を引っこ抜こうと彼からの距離をおこうとするが、失敗に終わる。レシュノルティアが私の指に、自分の指を絡めてそれを阻止してきたのだ。
「断る。」
「何で!?」
「何だ、先程の言葉を撤回するかジェン。僕から離れていかぬのではなかったのか。」
「物理的な意味は含まれておりません!」
「言葉にはあらゆる意味が含まれる。ジェンが僕から離れないと言ったのには、距離的な意味も含まれているんだ。観念しろ。」
「そんなぁ…。だ、だっておかしくありませんか?私達三年間まともに会話だってしてこなかったんですよ。」
「だが今は婚約者だ。いずれは結婚するんだぞ、分かっているのか。」
「勿論、そうなんですけれど。」
「だったら仲良くしたいと思うのは当然だろう?」
その気持ちはありがたいが、人は手を繋いだだけでは物理的な距離は縮まっても心の距離は縮まらない。何故、こんな不器用で少しきゅんとしてしまう行動をしてくるのだろう。彼は聡明で誠実なお堅いキャラクターで、乙女ゲームでも、彼は一番クリアに時間がかかる懐柔しがたい人物。仲良くもない女に自分から手を繋ぐような人ではないはずなのだが、やけに私には友好的な気がする。一応は、婚約者として、将来結婚する女性として接してくれているのだろうか。
「そのお気持ちは大変うれしいですし、私も、そう思います。ですがその、手を握っただけではレシュノルティア様とは仲良くなれない気がするのですが。」
「では君と仲良くなるにはどうすればいいだろうか。」
まず、そんなにこちらとしては仲良くなられてはまずいのだが。
ヒロインとの恋愛に支障をきたしたらどうしてくれる。
「ええと、お話をするのが一番だと思いますよ。あとはお互いのことをよく知る…とか。」
「ふむ。では毎日ここで話をしよう。」
「ま、毎日ですか?」
「もちろん、君が嫌でなければだが。」
嫌です、だなんて断れるわけもなければ別に嫌でもない。毎日話す、という行為は別に誰とでもすることだ。そんな所まで距離を置かないでも良い、のかもしれない。
「私が嫌と言うとお思いですか?分かりました、そうしましょう。」
「ありがとう。だが今日は止めておこうか、侍女達に何も言わずに来てしまったのでな、心配させる。」
「そうですわね。今日はレシュノルティア様のお部屋に招待して頂けて光栄でしたわ。」
「次からは自分の部屋だと思ってもらっていい。少し、失礼する。」
「なっ!?」
握られていた手をそのまま取られ、レシュノルティアは私の手の甲に口付けた。それにぎょっとして顔が赤くなるも、手に展開された
小さな魔法陣と光に驚く。そしてしばらくすると、その魔法陣はそのまま手に転写された。この光景も、私は見たことがある。この手に現れた魔法陣は、この温室に勝手に出入りできるパスポートのようなものだ。確かレシュノルティアが、ヒロインに興味を持ち始めた頃彼女に授けるものだったはず。それを何故レシュノルティアと大して仲が良くない私がもらってしまっているのだろうか。
「次からはこの魔法陣を扉にかざしてくれ。そしたら勝手に
解放されるだろう。」
「ま、まあそれは嬉しい…お、おほほ。」
現状維持はどうした。今より仲良くなってどうする、私。
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