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しおりを挟む避けていた、訳では無い。中等部から、まだ婚約者が決まっていない令嬢でレシュノルティアの婚約者の座を狙う者は多くいた。
そんな、自分より身分が上のお嬢様ぞろいの空間で、レシュノルティアに接触する機会を多く見せてしまえば、目をつけられることは明らかだった。子爵家のくせに生意気な、と言われてしまっていただろう。だから彼に話しかけない、目も合わせないというのは自分の身分を弁えての行動だった。
「避けていただなんて、そんな。自分の身分を弁えての行動でございましたので。」
「身分?」
「はい。レシュノルティア様の婚約者の座を望むご令嬢は沢山いましたし…その方々の気分を害すると思いまして。」
「ほお。そこを気にする割には、君は僕の婚約者という座を譲らなかったようだが。」
別にそれは、恋愛感情の全てで動いていた訳では無い。ただ、優秀な人間がレシュノルティアの妻になれば、彼の役に立てると思ったから。だから血反吐を吐くような努力をして、自分が優秀な人間であるという証明をして見せた。
「どうしてもレシュノルティア様のお役に立ちたいと、その思いにただ私、一生懸命でしたから。」
「…僕の役に立ちたいと言ってくれるのならば、そのままここにいてくれ。頼むからおかしな事を言ってくれるな。」
そう言ったレシュノルティアは、私の目をじっと見つめて、そして手を握ってくる。恩人であり尊敬する方にそう言って貰えたならば、その言葉に頷けないわけない。だが、だから苦しい。贈り物をしたり、私を縛り付ける様なことを言ったり、そんな事をされては私もレシュノルティアに無関心でいられない。いずれは私を突き放すくせに、そんな事を言わないで欲しかった。彼が私という存在がいることで、どの様にヒロインと接し、結末を迎えるかはまだ分からない。だけれどここは作られた世界で、シナリオは既に用意されている。だから、彼は彼女をきっと好きになる。愛してしまう。
だったら、恩を返したいという思いが、まだうすい恋心が愛に変わらぬように、私に期待なんてさせないで。
「ありがとう、ございます。貴方が私を突き放さぬ限り、私は、このジェンティアナはレシュノルティア様の婚約者です。」
「ああ、僕はジェンを突き放したりしない。だからその約束、守ってくれ。」
握られた手が、少し強くなった気がした。彼がそう言ってくれる気持ちは、素直に嬉しい。だがこの言葉、どこまで、いつまで信じれるのだろうか。本当は、これっぽちも信じたくない。だが、握られた手がそれを迷わせる。
「ええ。貴方のそのお言葉がある限り、お約束いたしますわ。」
レシュノルティアは先程から不安そうな表情を崩さないため、安心させるように私はにこりと優しく微笑んだ。すると、ひどく 彼は安心した表情をしてくるから困ってしまう。
彼に私は、現在どう思われているのだろうか。レシュノルティアが私を繋ぎ止める気持は、私の婚約者であるという責任か、今も変わらぬ私を拾い上げてくれた時の様な温情か、はたまた期待するだけ無駄な愛情なのか。気になってはいけないのに、少しだけ彼に無関心ではいられない。ただ、彼の恋を見守ると、決めていたのに。
「…今は、どう思われているんだろう。」
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