4 / 65
3.
しおりを挟む「…、何を言っているんだ君は。僕の婚約者はジェンただ一人だぞ。」
もちろんそうだ、私とレシュノルティアの婚約は今日決定した。だがヒロインが誰を選ぶか分からない以上、そして彼がいずれ私以外の女性を愛してしまった時のために、罪悪感を感じさせないよう言っておきたかった。
「ええ、そうですとも。」
「君は僕との婚約が嫌になったのか?」
「いいえ、でなければ私は今日の結果を残しておりませんから。貴方様の婚約者になるために、今日この瞬間まで精進してきたつもりです。」
「ふむ、では何故先程の様なことを言う。僕が別の女性を連れてきて、君を蔑ろにするとでも?」
「いいえ。」
私の前を歩いていてくれたレシュノルティアを、無礼にも追い抜かすように三歩程進み、そして足を止めた。
「閣下が私に貴方の婚約者として選ばれるチャンスをお与え下さったのは、レシュノルティア様が私を拾ってきたことへの"責任"。
貴方が私を婚約者としてお選びになったのは哀れな者に対する、"温情"。…故に、私の今の立場はお二人の救いからなる、責任と温情から成り立っています。ですから、私は無礼にも貴方が心から、本気で愛したいと思った女性にとても興味があるのです。」
これは、乙女ゲームを愛していた前世の自分の考えではなく、この十五年間アルカンディア帝国で過ごしてきたジェンティアナとしての意見で考えだ。レシュノルティアは、基本少し無愛想であまり笑わない。そして趣味もあまり無ければ好き嫌いも無い。何か関心があるものを見つけることも、滅多にない。学院生活中は寮生活であったため、学院では身分の差を弁えてあまり会話をすることはなかった。
だから、私はあまりこの方の人柄を理解できなかった。でも、没落寸前の子爵家の子女で、容姿が大変整っている訳でもなく、大した学も無い私を拾ってチャンスを与えてくださった私の恩人。その方のお役に立ちたくて、今日まで自分のことに精一杯になっていた。故に私はこの人のことを、実はあまりよく知らないのだ。だからジェンティアナとして生きていく中で、そんな人がこの先どのようにヒロインに恋をして、どんなところ好きになっていくのかに、興味があるのだ。
「ジェンはおかしな事を言うな。もし僕が他の女性を連れてきたらどうするつもりなんだ。」
「今まで自分のことに精一杯だった分、貴方様のことが知りたいのです。…もし他の女性を妻にしたいと貴方がアスクレピアスに帰ってきたら、その時はその時ですわね。もしものその時、決してその女性に危害などは加えるつもりございません。」
「…やはり君が何故その様なことを言うのか分からないな。」
「そのうちきっと、私より素晴らしい女性に貴方が出会うかもしれないからです。」
「ふん、馬鹿馬鹿しい。」
レシュノルティアは鼻で小さく笑うと、自分より少し前に立っていた私の手を、エスコートするように引き始めた。
「…エスコート?して下さっていますかもしかして。」
「エスコートしているのだよ、玄関先までだがね。」
「玄関先までであれば…エスコートは必要ないのでは?」
そんなこんなで、よく分からない場所で彼のエスコートが始まり困惑しているうちに学院の門までたどり着く。そこにはアスクレピアス公爵家の家紋が描かれた、立派な馬車が止まっていた。
「お待ちしておりました、ジェンティアナ様。」
「!」
馬車の前で、執事長が待機していた。だが、彼は私の上司に当たる人物で、私に様を付けるような立場では無かった。そんな人が、
私に「様」をつけて頭を下げてくる。今この瞬間から、私はレシュノルティアの婚約者として扱われるということになる、という実感が今更湧いてくる。
「…いいかジェン、何と言おうが君が僕の婚約者だ。それだけは何があっても覆らない事実で決定事項、君の夫となるのは僕で、僕の妻になるのは君だけ。だからジェンをエスコートするのも今日から僕だけの役目で、領地で花嫁修業を積むのも君だけの役目だ。…いいね。」
「……はい。」
「よろしい。では執事長、彼女を頼む。」
「かしこまりました、小公爵様。さ、ジェンティアナ様、公爵閣下が屋敷でお待ちです。参りましょう。」
1
お気に入りに追加
4,527
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。
喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。
学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。
しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。
挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。
パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。
そうしてついに恐れていた事態が起きた。
レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。


皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる