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「お前のような出来損ない、どこの嫁にも出せんわ!!」

「きゃっ!?」

街中にも関わらず、実の父親に突き飛ばされて私は地面に身体をうずくまらせた。そうすると、父親は怒りがヒートアップしたのか私を何回も蹴りつけた。

「イフェイオン子爵家が廃れてしまうではないか!!名家に嫁げないお前に価値などない!」

「ごめんなさっ、ごめんなさいお父様…!」

私、ジェンティアナの家、イフェイオン子爵家は昨年王都を襲った嵐により領地では農作物も育たず、借金は増える一方だった。故に、没落寸前だ。そんな子爵家を唯一立て直せる方法といえば、一人娘である私が位が高い位の家に嫁ぐこと。だが私は先程の茶会で、誰にも話しかけられなかったし、見向きもされなかった。たかが子爵家の娘が、持参金も用意できぬ娘が名家に嫁げるはずもない。それは父も分かっているはずだった。誰にもどうしようもできないことだった。だから、理不尽な暴力にも私は耐えていた。


「…、そこにいるのはイフェイオン子爵だろうか。」

「…!?アスクレピアス小公爵様!!」

深く、重いまだ少年の声に、父は私を蹴る足を止めていそいそと跪いた。よくは聞こえなかったが、父がこんなにも怯える様にして頭を下げるのだからきっと偉い人なのだろう。幼いながらにそう思って、蹴られた身体を起こし私も頭を下げた。

「やはり子爵であったか。」

「はっ、お久しぶりでございます。」

「ああ、久しいな。して…貴殿が先程から暴力を振るっていた隣にいる少女は奴隷か何かか。」

「い、いえ…。娘でございます。」

上から降って来る少年の声に、ビリビリと身体が震えた。威圧、威圧だ。何だか、この少年が発する声が、空気ががとっても怖いとしか、当時十二歳であった自分には分からなかった。

「ほお、娘か。何故このような仕打ちを娘にしていたのだ。」

だめだ、このままでは立場が最悪な父の立場を、もっと下げてしまう。偉い人の機嫌を損ねてはならない。そう思った私はとっさに少年の言葉を否定した。

「いいえ、父はいたらない私を叱ってくれていただけでございます。父は何も悪くございません、全ては私が至らない故でございます。」

「…ほお。そなた、名は何という。僕の顔を見て、はっきり申せ。」

「はい。」

顔を上げて、美しくも鬼のような空気を放つ少年に、はっきと自分の名を口にした。

「ジェンティアナ…、ジェンティアナ・レ・イフェイオンでございます。」

「良い目だな、ジェンティアナ。…ふむ、この娘は私が預かろう。」

「は、はい?いったい何を…。」

「その子を私の婚約者に迎えよう、と言っているのだ、不服か?貴殿の領地では不作続きで苦しいはず、その子が公爵に嫁げば、イフェイオンは安泰であろう。」

「いえ、いいえ!!不服など恐れ多きことっ、公爵家に娘が嫁げるのであれば、それは我が子爵家としては本望でございます!!」

…公爵家?その言葉に耳を疑った。名を口にしただけで、嫁ぎ先が公爵家に決まるとはいったい何事か。

「…大丈夫か。ほら、」

老人の隣にいた、美しい碧い瞳を持つ少年が、ぼろぼろの私に手を差し伸べてくる。
それが彼、中等部卒業と同時に私の婚約者となった小公爵、レシュノルティア・ラ・アスクレピアスだ。

そして、その日からいきなりにも私は本当に公爵家に引き取られた。

「あの…何で?」

「何でとはなんだ。困っていたのはそちらではないのか。」

「違います、私の家には何の価値もありません。小公爵様…?のお力には何もなれませんし、
持参金だって用意できません。」

「何だ君。貴族の力が全て家の名からくるものだと思っているのか?」

「え?」

「君が自分の家に力が無いと思うのならば、君自身が僕の役に立ってくれればいい。
それで十分ではないか。」

その顔に、俯いていた顔をバッと上げた。家の力こそ全てな貴族会に、このようなことを言う人がいるのだな、と思った。私を子爵家の娘だからという目で下に見るのではなく、自分の実力で勝負してこいと言われた気がした。嬉しかった、私はその言葉に救われた気がした。だから絶対彼の役に立ってやろうと、心に誓った。

だが彼はまだ次期公爵という身。現公爵であるレシュノルティアの父はそれにひどく反対した。「どうして公爵家を継ぐ息子の妻が、没落寸前の子爵家の娘であるのか」、と。そう思われて当然だ。公爵家の人間からすれば、私の家は下の下の存在。何の価値も存在しないから。

だから公爵は私にある一つの条件を出した。

「アルカンディア帝国立魔法学院中等部で、三年間卒業するまでずっと一位で在り続けること。」

だからその言葉通り、私は三年間ずっと一位で、優秀であり続けた。レシュノルティアに、恩を返したかったから。彼に似合う、立派な女性になって役に立ちたかったから。

なのに、ここは乙女ゲームの世界だという。決して私は報われない邪魔者。ああ、なんてことに気が付いてしまったのだろうか。

「…おめでとう、ジェン。これで君は我がアスクレピアス家の花嫁だ。」

誰よりも愛して、力になりたかった貴方の声が、意識が朦朧とする中聞こえた。



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