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一章
第8話 英雄の納める地
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「お、覚えてないですか?」
ラミナの殺気に気圧されながら、マヤはおそるおそる言った。
まったく……俺を守ろうとするラミナの頭に軽く手刀を入れる。
「これラミナよ、お前朝にマヤにあっておろうが。寝ぼけて覚えておらなんだか」
「……?……?」
ラミナは頭を押さえながら疑問そうに俺を見上げた。
「朝パンを食っただろう。あれを作って持ってきてくれたのが他ならぬマヤだ」
「あのおいしい食べ物作ったひと……!?」
魔法印が消えていく。
同時に警戒心も、薄れていったようだ。
マヤは苦笑いして言った。
「やっと思い出してくれました?」
いや、たぶん思い出してない。
パンの味を思い出しただけだ。
「ラミナさん、でいいんですよね」
「そうだ。コーラルさまに仕えている」
「ぶほっ」
自己紹介を聞いていたら俺は咳き込んだ。
しまった。
ラミナに口裏合わせろって言ってなかった。
まあ言ったところでちゃんと合わせてくれるかどうかはわからんが。
つうかお前が仕えてるのは俺じゃなく現魔王の方だろうが。
「そうだったんですね!なんだか納得しました!」
あれ?
なっとくするのかそれで。
「やっぱり連れていますよね、従者の一人くらい。大丈夫ですコーラルさん、親戚の子ってことで話を合わせますので!」
ああだめだ。
俺をやんごとない家柄だと思ってるんだこれ。
「ま、まあよろしく頼む」
もう、いいや、それで。
「では、町の案内ですよね。行きましょうか」
「うむ。できれば大工道具なんかを買える場所がいい。しかし仕事はいいのか?」
「見ての通り売れてないので、いいんです」
……ううむ、やはり売れていないのか。
マヤのパンもうまいのだが、さっき食ったうまい串焼きと比べると見劣りするかもしれん。
世話になった手前、なんとかしてやりたいが……困ったな。
食になど全然こだわってこなかったからか、解決方法がおもいつかなんだ。
なにかいい手はないものか。
思案していると、
「あっ、そういえばあの像はご存知ですか?」
マヤは広場の中心を指差した。
指差したのは石像だった。甲冑をつけた戦士の像がある。
「昔、《おとなりさま》との境界が曖昧だったころ、魔の軍勢と戦い、侵攻を押し留め、結界を張って魔物たちを封印した英雄の一人ウクラント・バクルモアティ様です!いまの領主さまの祖先でもあらせられる方なんですよ」
「ほう?」
おとなりさま、というのは魔界の隠語か俗称だろうな。
しかし英雄が結界を張って封印か。
人間界ではそういう話になっているんだな。
「…………」
なにか言いたげなラミナを制しながら、俺はうなずいた。
「なるほど、英雄の納めていた地か。だからこれほどまでに栄えているわけだな」
「ええ。それに、いまの領主様のご尽力もあります。……では、道具を売っているお店ですね。行きましょうか」
案内されて行ったのは町の外れの一軒家だった。
看板も軒に出ていたが、どうやら鍛冶屋兼道具屋をやっているところらしい。
「まあ私もあまり詳しくはないんですが」
中へ入ってみると、だいたいのものは揃っているように見えた。
大工道具に、畑仕事の道具に、それに武器も取り扱っている。
だが呼び出し用のベルがあるだけで店番は誰もいない。
「なるほど、これはいいな。ここだけで一通り揃う」
「台所の調理道具とかはないですけどね」
「調理?食い物は焼いて食えば何もいらなくないか」
「えっ」
「しかし、道具といっても何をどうするかいまいちよくわからんな。どういうことに使えるかはなんとなく知識としてあるんだが」
「あー、そこは、私も詳しくはないので」
ラミナは武器のほうに目がいっておるし、とりあえず店の者を呼んで聞いてみるのが早いか。
「御仁、なにかお困りなら私が手を貸そうか?」
そうこうしていると、突然、凛とした声が俺たちに語りかけてきた。
ラミナの殺気に気圧されながら、マヤはおそるおそる言った。
まったく……俺を守ろうとするラミナの頭に軽く手刀を入れる。
「これラミナよ、お前朝にマヤにあっておろうが。寝ぼけて覚えておらなんだか」
「……?……?」
ラミナは頭を押さえながら疑問そうに俺を見上げた。
「朝パンを食っただろう。あれを作って持ってきてくれたのが他ならぬマヤだ」
「あのおいしい食べ物作ったひと……!?」
魔法印が消えていく。
同時に警戒心も、薄れていったようだ。
マヤは苦笑いして言った。
「やっと思い出してくれました?」
いや、たぶん思い出してない。
パンの味を思い出しただけだ。
「ラミナさん、でいいんですよね」
「そうだ。コーラルさまに仕えている」
「ぶほっ」
自己紹介を聞いていたら俺は咳き込んだ。
しまった。
ラミナに口裏合わせろって言ってなかった。
まあ言ったところでちゃんと合わせてくれるかどうかはわからんが。
つうかお前が仕えてるのは俺じゃなく現魔王の方だろうが。
「そうだったんですね!なんだか納得しました!」
あれ?
なっとくするのかそれで。
「やっぱり連れていますよね、従者の一人くらい。大丈夫ですコーラルさん、親戚の子ってことで話を合わせますので!」
ああだめだ。
俺をやんごとない家柄だと思ってるんだこれ。
「ま、まあよろしく頼む」
もう、いいや、それで。
「では、町の案内ですよね。行きましょうか」
「うむ。できれば大工道具なんかを買える場所がいい。しかし仕事はいいのか?」
「見ての通り売れてないので、いいんです」
……ううむ、やはり売れていないのか。
マヤのパンもうまいのだが、さっき食ったうまい串焼きと比べると見劣りするかもしれん。
世話になった手前、なんとかしてやりたいが……困ったな。
食になど全然こだわってこなかったからか、解決方法がおもいつかなんだ。
なにかいい手はないものか。
思案していると、
「あっ、そういえばあの像はご存知ですか?」
マヤは広場の中心を指差した。
指差したのは石像だった。甲冑をつけた戦士の像がある。
「昔、《おとなりさま》との境界が曖昧だったころ、魔の軍勢と戦い、侵攻を押し留め、結界を張って魔物たちを封印した英雄の一人ウクラント・バクルモアティ様です!いまの領主さまの祖先でもあらせられる方なんですよ」
「ほう?」
おとなりさま、というのは魔界の隠語か俗称だろうな。
しかし英雄が結界を張って封印か。
人間界ではそういう話になっているんだな。
「…………」
なにか言いたげなラミナを制しながら、俺はうなずいた。
「なるほど、英雄の納めていた地か。だからこれほどまでに栄えているわけだな」
「ええ。それに、いまの領主様のご尽力もあります。……では、道具を売っているお店ですね。行きましょうか」
案内されて行ったのは町の外れの一軒家だった。
看板も軒に出ていたが、どうやら鍛冶屋兼道具屋をやっているところらしい。
「まあ私もあまり詳しくはないんですが」
中へ入ってみると、だいたいのものは揃っているように見えた。
大工道具に、畑仕事の道具に、それに武器も取り扱っている。
だが呼び出し用のベルがあるだけで店番は誰もいない。
「なるほど、これはいいな。ここだけで一通り揃う」
「台所の調理道具とかはないですけどね」
「調理?食い物は焼いて食えば何もいらなくないか」
「えっ」
「しかし、道具といっても何をどうするかいまいちよくわからんな。どういうことに使えるかはなんとなく知識としてあるんだが」
「あー、そこは、私も詳しくはないので」
ラミナは武器のほうに目がいっておるし、とりあえず店の者を呼んで聞いてみるのが早いか。
「御仁、なにかお困りなら私が手を貸そうか?」
そうこうしていると、突然、凛とした声が俺たちに語りかけてきた。
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