邪教団の教祖になろう!

うどんり

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三章

46 襲撃の弓矢

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「矢!?」

 割られた窓から、室内の熱気とともにハーブの香りが逃げていく。

 にわかに騒然となる室内。

 苦痛にゆがんだ表情で、射られた肩を押さえながらニクネーヴィンは膝をつく。

「まさか、この矢は本当に一星宗か!?」

 再び窓が割れて、矢が飛来する。

 今度は三本。

 正確に、俺とニクネーヴィンの元へ。

「うおおおお!?」

 とっさに盾を作り出して防御する。

 その場に落ちる三本の矢。

 周囲は一部を除いてさらにパニックになる。

「ニクネーヴィン、動けるか!? 早くこの場からお前の信者たちを逃がせ!」

 俺はニクネーヴィンに呼びかけるも、

「そんな馬鹿な。一星宗? 一星宗がここを攻撃するはずがない……」

 ニクネーヴィンはぶつぶつとつぶやくだけで動こうとしない。

 風切り音。

 再び矢が来る。今度は二本。

 俺はまた盾で防御しようとする。だが――

「!?」

 盾で防御しようとした瞬間、矢がそれを避けるように左右に曲がってきた。

 だが、盾の範囲内。どうにか二本とも防ぐ。

「矢の軌道が変化した……!?」

 テクニックでそんなことができるのか? それとも法具だろうか?

 だとしたら敵は聖刻騎士団か?

 おそらく、今のは、枝分かれしたように二本の矢がそれぞれ左右に曲がったのは、測っていたのだ。

 俺が見えない盾で防ぐことを予想して、その防げる範囲を、矢を左右に分けて測ってきたのだ。

 俺が盾を使うことを知っている敵だ。

「落ち着け!」

 自分に言い聞かせるように、騒然とする室内に向けて怒鳴る。

「すぐにここから逃げるんだ! 早く! ニクネーヴィンは俺がなんとかする!」

 冷静そうな誰かがうなずくと、ドアへと駆ける。
 だが――飛来した矢が、ドアの前の床に刺さる。

「うわあああっ」

 逃げようと先頭を駆けていた全裸の男性が尻餅をつく。

 牽制している。
 忠告しているのだ。
 逃げるな、と。

「物陰に隠れろ! 少なくとも矢が防げるように、ソファやベッドで壁を作るんだ!」

「わ、わかった……!」

 裸の男が皆に指示して、物陰に隠れる。

「エフィ、アリッサも!」

「……え?」

 エフィはこんなときも惚けている。
 アリッサも同様だ。
 アリッサの姉のメルヴィは、相方のシスターが引きずりながら物陰へと移動させている。

「ニクネーヴィン!」

「はっ!?」

 俺が耳元で怒鳴ると、ニクネーヴィンはようやく我に返った。

「エフィとアリッサを連れて物陰に! 今は痛いかもしれないが我慢しろ!」

「…………」

 ニクネーヴィンはまだ混乱して、どうしていいかわからない様子だ。

「俺には昔、第六位階だが大事に思っている女の子がいた」

 ニクネーヴィンをなだめるように、俺は思ったことを口に出す。
 今言わなければ、もうずっと言い逃してしまう気がした。

「何の……話です?」

「たぶん彼女が俺の初恋だったけれど、身分が違うから彼女が生きていても結ばれることは絶対に無理だったろう。第六位階は人扱いしてもらえない。人が人じゃないものと結ばれるのは、一星宗は許してくれない。もし大人になっても彼女が生きていて、俺がニクネーヴィンのことを知っていたら……きっとすがっていたと思う。あんたのやっていることの本質は、たぶん間違っていない。少なくとも、俺はそう思う」

「…………」

「導きたい人たちがいるなら、死ぬな。守るのはまかせろ。急げ!」

「……わ、わかりました!」

 俺は近くのテーブルを倒して盾代わりにしながら、外を見る。

 見えない。
 対面は住宅地だし、広い庭で隔てられている。
 しかも今は夜だ。あたりは暗くて分かりづらい。月明かりだけが頼りだ。

 どこかにいるはずだが、ここからは見えない。

「どこだ、どこにいる?」

 足元だろうか。
 ここ三階からの角度から見えない場所から――庭の建物に近いあたりから射っているのだろうか。

「そもそも何人いるんだ!?」

 考える余裕もないうちに、再び矢が来る。

 四本。

 どうにか防ぐ。

 ニクネーヴィンも、エフィたちをつれて物陰に隠れてくれたようだ。

「室内の明かりを消してくれ!」

 隠れている者たちに叫ぶ。
 各々、近くの燭台の明かりを消していき、月明り以外の光は完全になくなる。

 これで室内は狙いづらくなったし、逃げやすくなったろう。
 問題は敵の潜んでいる場所だ。

 敵の居場所を探ろうと窓から顔を出すのはまずい。
 それこそ自由に軌道を変えられる矢で四方から狙撃される。

 冷静になれ、と自分に言い聞かせる。
 こんなときこそ心配しろ。

 俺だったら――俺が敵だったら、逆に相手からの狙撃があるかもしれないから、物陰に隠れながら、射つときだけ顔を出す。
 射ったあとの矢を曲げられるなら居場所は見つかりにくいだろうから、一発射ったら場所を変えるなんてことはないかもしれない。

 人形の法具を使って、普通の弓矢と組み合わせる戦法もありだろう。
 フレイバグの突入があるかもしれない。
 表から逃げるのはいずれにしても危険だ。
 いずれにしてもこの夜闇に乗じて早く逃げたほうが得策か。

 そして弓矢の能力が敵の法具だとしたら、本体はものすごく遠くから矢を発射していてもおかしくない。

「だとしたら、どうやって敵を探せば――」

 そうこうしているうちに、また矢が飛来する。
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