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7歳

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 夢を見たからか、改めて現在の家庭環境を思い出すと凄まじく冷め切っていると再認識する。
 
 食事は一緒に取るけど会話はない。
 勉強もあるから家族の団欒の時間もない。
 
 そして今私の自由時間はクイナと仲良くなる為の時間となっている。
 
 さすがにこのままだとゲームと同じになってしまうと考えると、不安になってきた。


(なんたって、自分の命がかかっているからね。ちょっとでも改善をしていかないとなぁ……)


 どうしようか、とベッドに座りうんうん唸っているとドアをノックする音が聞こえてきた。
 三回ノックした後に、もう一度ノックする。聞き慣れてきた親しみのある音だ。
 

「おはようございます、リーンお嬢様。今日は早起きされたのですね、とても偉いです」


 笑顔と共に挨拶し、更に早起きを褒めてくれる推しの姿がとても尊くて、まるで後光が差してるように見えます。
 最高の目覚めです、ありがとうございます!


「おはよう、クー。今日はなんだか早く起きたの。えらいでしょ?」


 褒めてくれるクイナの言葉が嬉しくて思わずベッドから出て彼のそばに駆け寄り、強請るように手を取ると自分の頭の上に乗せる。
 察してくれたのかクイナは優しく頭を撫でてくれて、気分はすこぶるよくなった。
 

 本来のリリアンヌがどうだったか分からないけど、前世の私は寝起きが悪かった。

 起きない時は全然起きないくらいに。
 目覚ましは数分おきに何回も鳴らす設定にしないと起きられないくらいだった。
 
 だから今日はとても珍しいのです、普段はクイナに起こしてもらうのが基本です。
 
 
 クイナの体調も大分よくなり、ご飯もしっかり食べられるようになったためか栄養状態も回復して少し肉付きがよくなってきていた。
 それでもまだ私の知ってるクイナに比べるとまだまだ小さく、制服である執事服は少し大きめに見える。
 
 だけどやっぱり執事服を身に着けているクイナは目の保養になるというか、最高に似合っていると思うのです!
 
 いつか大きくなったら私が一目見て惚れたクイナになると思うと、胸がときめいちゃいます。
 そしてそんな成長する彼を間近で見られるなんて本当に幸せだ!
 
 
 クイナは持ってきたカートと共に部屋の中に入室する。
 カートの上には紅茶の茶葉の入った缶やお気に入りのティーポットとティーカップなどが乗っていた。
 
 現在見習い従者であるクイナの仕事はまだまだ少ない。
 セレナに習いながら私の身の回りの世話以外にも従者としてのマナー、屋敷の中の仕事など様々な事を勉強している。
 
 そんな中未熟な自分が一つでもお嬢様の為に出来る事があれば、と彼が今一番力をいれているのは紅茶をいれることだった。
 
 それは私が甘いミルクティーが大好きで、朝起きた時や勉強で疲れた後の休憩中にセレナに入れてもらって飲んでいるのを見た彼から自分が入れてみたいとお願いしてきたからだ。
 
 だからこの朝の時間もクイナにとっては紅茶を入れる練習時間だったりする。


「本日の茶葉はアッサムのセカンドフラッシュをご用意いたしました」


 たどたどしい動きだけど、一生懸命習った通りに紅茶を入れていく。
 

 まさかクー様が私の為に入れてくれた紅茶を飲めることが出来ると前世生きてた頃思うことはなかっただろう!
 たとえ最初にいれてくれた紅茶が薄くてあまり味のしない薄いミルクティーだったとしても、私にとっては神から与えられた聖水のように感じられた。
 
 あまりの嬉しさに思わず泣いてしまいそうだったもの。
 

 ただ、その涙をクイナが美味しくないから泣いてしまったと勘違いしてしまい慌てて弁解したというオチがあるけれど。

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