上 下
10 / 25
チキンのトマト煮は仲間の証

しおりを挟む
 
 朝食も済ませていよいよ出発の時間となった。
 今日で四日目、この月隠の森ともおさらばである。

 改めて今日の行程を聞くとエルネストさんはすんなりと答えてくれた。

 
「このまま何事もなくいけば、夕方前にはレーベンに着きますよ」
「え、今日着くんですか!?」


 予想以上に早く目的地へ到着できることに驚きを隠せなかった。

 どうやら野営していた場所は王国が交易のために整備した道だったらしく、三日間迷子になり獣道を歩いてた私は、昨日の料理の香りのおかげで正しい道へと戻れたようだ。
 

 そして野営していた場所が、エアリーズ王国側から森へ入ってから少しの距離にある休憩用に広くなっている場所らしい。
 目指していた隣国がもう目の前だと聞かされて嬉しいと思うと同時に、よくあの獣道から無事に整備された道へと戻れたなと心から安堵した。


 食事が絡むと予想以上に力を発揮するのか、と自分の図太さを再認識していたのはここだけの話である。

 

 折角なので私はエルネストの座る御者台の隣に座らせてもらうことにした。

 幌馬車の荷台の中、ウィルと会話もなく長時間……というのは少し気まずすぎるし、今まで国の外へ出たことが無かったから外の世界を見てみたかった。
 ただずっと景色を見続けるだけなのも勿体ないと思ったので、これから共に働くことになる二人の事を改めて聞いてみることにした。
 


 ウィルとエルネストは幼い時から兄弟のように過ごしてきた幼馴染だそうだ。
 
 元々は違う国で暮らしていたけど、ウィルの料理人になりたいという願いを叶えるために一緒にエアリーズ王国へ数年前にやってきた。
 

 アートルム王国へ旅行に行っていた帰り道に私と遭遇したらしく、現在店は一時休業中にしているらしい。
 
 思わず「そんなに簡単に店休みにしていいの?」と聞いたら、「たまにはいいだろう」と後ろに座るウィルがあっけらかんと答えたので、それでいいのかと疑問を抱きつつ納得することにする。
 


 流れていくのどかな景色を見ながら楽しく会話を続けていると、話題はウィルの個人的な話へと変わっていった。

 どうやらエルネストが私にもっとウィルの事を知って欲しいらしく、饒舌に語りだしたのだ。
 


「ウィルは確かに料理は得意です。しかし、それ以外のことに関しては全く興味が無いような人なんですよ。だから私が一緒に行かないとすぐに野垂れ死にしそうだと思ったんですよね」
「そ、そうだったんですか。エルネストさんがとてもお世話するのが得意なのは、そんなウィルと小さい頃から一緒に居たからなんですね」
「そう、そうなんですよ! 私がいないと何にも出来ないよなこいつとか思っちゃって! でも小さい時のウィルは、それはそれは可愛いかったんですよ。今はあんなにぶっきらぼうですけど。昔はよく私の後ろに着いて歩いてまして。あれはそう……ウィルが4歳の頃――」

「おい、命が欲しければそれ以上口を開くなエルネスト」


 エルネストがウィルの小さな時の話をしようとした瞬間、今まで静かだった後ろから低く冷たい声が聞こえてきた。

 見えないのに鋭い視線が突き刺さってる様に感じる。


(ひぃいっ! こ、これは絶対怒ってる!)


 後ろを振り向くのが怖くてこれはどうしたらいいか分からないと震え慌てる私に対して、語りを邪魔されたエルネストは口を尖らせていた。


「いいじゃないですか、減るもんじゃないし。こうして新たにお店に店員が増えたんですよ! ちょっとくらい世間話してもいいじゃないですか」
「お前の話は世間話じゃねえだろ……! 嫌がらせにしか聞こえねえよ!」
「もっとウィルを知ってほしいからですよ。マイアさん、実はウィルはですね……」
「お前、頼むからもう喋るな!」


 怒り心頭なウィルを敢えて放置するかのように再び彼の話しを始めようとするエルネスト。
 

「これは確かに小さな時から一緒に過ごしてるからこその遣り取りだな」と内心思いながら、私は未だに続く二人の会話を楽しく聞いていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!

Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。 転生前も寝たきりだったのに。 次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。 でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。 何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。 病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。 過去を克服し、二人の行く末は? ハッピーエンド、結婚へ!

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

王妃さまは断罪劇に異議を唱える

土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。 そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。 彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。 王族の結婚とは。 王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。 王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。 ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。

(完結)嫌われ妻は前世を思い出す(全5話)

青空一夏
恋愛
私は、愛馬から落馬して、前世を思いだしてしまう。前世の私は、日本という国で高校生になったばかりだった。そして、ここは、明らかに日本ではない。目覚めた部屋は豪華すぎて、西洋の中世の時代の侍女の服装の女性が入って来て私を「王女様」と呼んだ。 さらに、綺麗な男性は、私の夫だという。しかも、私とその夫とは、どうやら嫌いあっていたようだ。 些細な誤解がきっかけで、素直になれない夫婦が仲良しになっていくだけのお話。 嫌われ妻が、前世の記憶を取り戻して、冷え切った夫婦仲が改善していく様子を描くよくある設定の物語です。※ざまぁ、残酷シーンはありません。ほのぼの系。 ※フリー画像を使用しています。

【完結】なぜ、お前じゃなくて義妹なんだ!と言われたので

yanako
恋愛
なぜ、お前じゃなくて義妹なんだ!と言われたので

処理中です...