I.R.I.S.-イリス-

MASAHOM

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4章

イリス市民の1年

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 4月から始まったイリス市民として生活していくためのナノインプラント埋め込みプログラム。1か月以上たったけれど市民の下層までは行き渡っていない。旧政治家や教師、大学教授、マスコミ関係者、企業の役員クラス。そういったインテリ層から優先して埋め込まれていっている。埋め込みというよりは浸透に近いけれど、まだ日本人全員、ひいては世界の総人口を対象にできるほど量産が追い付いていないらしい。社会の支配層からイリス市民化することで既得権益の解消やイリスの理念の社会的な発信力の向上を達成していくという魂胆だ。 

 どういう感じで対象者にナノインプラントが埋め込まれていくかというと、ある日突然赤い召集令状が届く。イリス市民のテーマカラーは「赤」だ。なぜなら完璧な共産主義を目指すから。

 召集令状は自分がどの病院に集合してどの窓口で手続きをするかが書かれている。手続きとはマイナンバーや戸籍、国民健康保険とナノインプラントを関連付けて、個人個人にシリアルナンバーを割り振ることだ。こうしてナノインプラントに独自のシリアルが割り当てられ、市民一人一人をイリスのメインフレームとリンクさせることで完全管理社会が実現するのだ。

 ある社会学者はイリスのナノインプラント政策は旧大日本帝国の戦時召集令状からインスピレーションを受けていると批判していた。実際は全くの偶然だろう。その社会学者はある日突然持論を放棄してイリスの社会政策の素晴らしさを説くようになった。またある学者はイリス社会から逃亡し旧政府系反イリス租界に身を寄せることになったようだ。

 でも反イリス租界の市民受け入れには限度があり、現状では人口過多による物資供給不足が発生しており、最低限の生活をすることですら困難な貧困区域へと変貌していた。だから結局人々はイリスの政策を受け入れるしかない。

 こういった強引な政策が影響したのか、一時は80%以上の支持率を誇ったイリスの評価は今では50%まで低下しており、「イリス社会における潜在的な反イリス派は全体の4割に達するのではないか」というとある総合研究所の調査結果が示された。表向きイリスを支持しながら心の内はイリスへの疑義であふれるというイリス市民の心境の変化は革命から3か月を待たずして負の感情を生み出していた。でもそれを人に伝えることはできない。まだイリス軍やイリス情報部員が街に展開していて迂闊なことを言えないのだ。軍や情報部員の展開は下層の市民にまで広くナノインプラントが行き渡るまで続くという報道があった。また市民が潜在的反イリス派を密告することによって召集令状の通達を後回しにしてもらえるというサービスがイリス側からも展開されていた。みんな召集令状におびえていたのだ。

 これまでのイリス統治の内情の変貌を考察するに旧ソビエトや旧東ドイツなどの社会主義、共産主義国家の内情に実に似ている。違うのはテクノロジーによる市民の感情抑制と言動の変化が楽に行えるという事。そして決定的に違うのは本当に完璧で腐敗のない市民が幸福な生活を送れる共産主義体制を作ることがイリスなら可能だという事だ。
 
 案外さっさとナノインプラントを埋め込まれたほうが「自分がどう生きるべきか」という至上命題が明らかとなって楽なんじゃないかとわたしは思う。特に若い人はナノインプラントへの抵抗は他の世代よりは少ない。21世紀も半分以上の時が過ぎ、そろそろAIが人類から独立して、逆に人類を導く存在となることに期待が持たれていたのだからこのイリス社会の現状はちょっと昔の人類が思い描いた理想郷ともいえるのではないか、という考察もできる。

 いずれにせよ人類とは斯くも生涯を生きるのに苦労する生命体だという事だ。わたし個人はナノインプラント政策にはフィフティフィフティの評価だ。わたし自身ナノインプラント過剰摂取者だから何言っているんだと思われるかもしれないけれど、先生が連行されていったのはやっぱり衝撃だった。

 最初はナノインプラントで人類を管理するのは共産主義社会を実現するうえで当然考えられる技術的オプションだと思っていたけれど、現実を目の当たりにすると実際実行しても良い政策なのか判断しかねる。わたしは個々人の感情や理念が社会に反映されるからこそ文化があり、文明があり、歴史があったのだと思う。それを制御するとなると人類文明の終焉の時が近づいたようでなんだか気持ち悪い。人は人らしくありたいよね。でもイリスには第4次世界大戦を未然に防ぐという大義名分がある。これだけは揺るがない。イリスが嘘の予測をしていなければの話であるけれど。大戦を防ぐのに感情の制御やイリスへの従順度を見える化しておくのはやはり必要な事なのかもしれない。難しい問題だ。

 わたしの5月病も去り、6月という微妙な季節に突入していた。6月は祝日がない。解せぬ。そんなことはさておきリセから召集令状が自分に届いたことを告げられた。確かにリセの社会的身分は高い、でも親友がどう変わってしまうかわからないわたしは夜もなかなか寝付けず睡眠薬に頼った。ナノインプラントを幼い頃に過剰摂取したわたしは今更自らを客観視できない。もしかしたらナノインプラントを摂取しなかったら今のような性格ではないのかもしれない。リセは大丈夫だよと言っていたけれど、わたしはもういつものリセは見られないのではないかと思って心底不安だった。

 2065年6月15日月曜日、いつもとは違う1週間が始まった。リセがナノインプラントを埋め込んでから初の登校となる。リセはいつも学校の近くまでリムジンで来て、生徒にASUNOグループのお嬢様だとばれないように10分くらいの距離を歩いて登校してくる。わたしはリセがどう変化したか興味がわいてそれがどうしても待ちきれなくてリムジンが停車する道路でリセを待ち構えていた。すると見覚えのあるリムジンが道路に停車した。

「おはようリセ、今日はリセがナノインプラントを埋め込んでから最初の登校日だから迎えに来たよ。」
「ありがとうナル。あれは青汁よりも不味いわよ。」
「ナノインプラントってやっぱり経口型?」
「うん。埋め込みじゃなくて飲み込みよ!病院から説明されたけれどナノインプラントのナノって経口液の中にある粒のサイズがナノっていう意味らしいよ。飲み込むとナノカプセルが血管を通って脳や目に浸透していくらしいよ。」
「なかなかハードな物だね。何か感情が抑制されたとかいつもと違うところはあるの?」
「まだわからないけれど人に親切にするとS.C.I.値が上がるようね。あとロボットを人間同等に扱うとやっぱり上がる。」
「そうなんだ。見た感じいつものリセで安心した。」
「目の色変わったけれどね。うちのスマコンよりもよっぽど上等だわ、これ。」
「安定して見えるの?眼球組織への浸透だと機能するまでにいろいろ大変そうだけれど。」
「そうだねー摂取した1時間後くらいには完璧な状態になれたかな。っていうか今気づいたけれどナルのS.C.I.値が見れる!そして評価高い!なんで?」
「ええーどうして?わたしナノインプラント接種してないのにー・・・は冗談。実は幼い頃わたしがまだイリスと会っていた時にイリスに変なジュース飲まされたんだよ。それがナノインプラントの試作品。しかも過剰摂取。わたしの知能が向上するきっかけとなったもの。」
「・・・つまるところナルは人類最初のナノインプラント接種者にして最強ってこと?っていうかこれ知能が向上するものなの?」
「そういうことになるね。イリス曰く人間とイリス知性体を同等の価値にしたいらしいから、知能の向上もプログラムに含まれている。エレナさんは説明しなかったけれどね。多分これ言っちゃうとみんな積極的に勉強しなくなると思っていたのかもね。」
「よし、私今日から勉強しない!」
「こらこら。そろそろ学校に向かわないと遅刻だね。行こうか。」
「うん。でもナルうらやましい・・・くもないか。よく先生や地位の高い人と口論になるし。」
「口論になるのはわたしの性格なのかいまいちわかりかねるんだよね。やっぱりわたしってイリスに全てを持っていかれたのかなあ。」
「いや、口論になるのは絶対ナルの性格だと思う。」
「そうかなあ。」
「そうだよ。」

 リセの様子は今のところいつもと同じ。でもまだ始まったばかり。リセはずっと変わらないでいてほしい。いつも活発で、わたしをいじって、でもかわいい所もあって、そういうリセがずっと続いてくれるように願いたい。

「すみませーん、アスノ・リセさんですか?」
「はいなんでしょう・・・1年生の子?」
「あの、お二人はどういうご関係なんですか?」
「どういうご関係って見ての通りだよ。」
「やっぱり・・・アスノ先輩はクレイジーサイコレズなんですね。」
「?」

「1年生の間で噂になっているんですよ。憧れのミヤビ先輩といつも一緒にいる長髪の人。私は入学式でミヤビ先輩が在校生を代表してお言葉を述べられたのを見たときにミヤビ先輩に一目ぼれしてしまったんです。そこらの男子よりも凛々しくて、長身で容姿端麗で・・・どういう人なのかすごく気になっているうちに女でありながら恋をしてしまったんです。でもすぐにアスノ先輩とくっつくので二人はそういうご関係なのかなとみんな話題にしてますよ。」

「ええっわたしが好きなの?」

「ほうほうよく見抜きましたな。私はナルの彼女でレズなのだ。1年生よ、残念だがおぬしの出る幕はない。」

「ええっ!リセってそういう・・・ちょっと離れようかなあ。」

「ナル、私とこの子、どっちを選ぶの?」

「またそういう展開に持っていこうとする・・・。わたしはレズじゃないしリセはただの友人だし1年生の間でそんな風説の流布があるなんて初めて聞いたよ。」

「では私を選んでくださるのですね!」

「いやーだからレズじゃないから、男の子大好きだから・・・わたし。」

「いただきました!ナルの男の子大好き発言。この録音をばらまけば男子がナルにアピールしまくるはず。」
「えいっ」
「あー貴重なメモリーカードがー!」

「リセ、わたしで遊ぶのやめようねー。」

「ごめんなさい。」

「やっぱりお二人は仲いいじゃないですかー。私は眼中にないんですね。」

「うんまあ恋愛という意味では眼中にないけれどかわいい後輩としては気にかけておこうかな。」

「ミヤビ先輩って女たらしなんですね、少し幻滅です。」

「ええー女たらしも何も普段は女子とつるむよ。女だもん。」

「ミヤビ先輩には私だけを見ていてほしいんです。」

「それは難易度高いなあ。」

「では、お友達から始めるというのは如何でしょう?」

「友達ならまあうん・・・よろしくね!」

「はい、よろしくお願いします。」

「ちなみにお名前は?」

「クレ・リリアと言います。」

「リリアちゃんか。覚えたよ。これがわたしの公開アドレス。わたしと話したくなったらここに連絡してね。」

「はい、ありがとうございます。登録させていただきました。ではそろそろ授業なので失礼します。またお会いしましょう!」

「うん、またね!」

「去っていきましたなあのリリアちゃんとかいう1年生の子。クレイジーサイコレズはおぬしじゃと何度も言いそうになったわよ。」
「ねえリセ、客観的に見てわたしって女子にモテるの?」
「凛々しい、長身、短髪、端正な顔立ち、文武両道そして時折見せる少年のような反応が女子からも人気あるわよ。ナルはこの学校のレズビアン発生器だね。」
「それはひどいあだ名だ。なんか違う世界の一面を見たよわたしは。」
「ナルは男子からも女子からも好かれて人気者なんだよ、実は。」
「髪伸ばそうかな・・・リセみたいに。」
「男子のドストライクを狙うおつもりか、ナルも変わったなあ。」
「いや、少なくともレズ発生器にならないようにしなくてはと・・・。」
「まあそれは半分冗談だとして、授業、わたし達も遅れるよ。」
「はあ・・・心の整理ができていない。学校一の秀才なんて勘弁だよ。何がきっかけでこういうことが起こるかわかったもんじゃない。」

 1年生の間で風説の流布があることを確認したわたしはレズビアンという誤解を解くために風説の発生源をその日のうちに特定した。リセだった。あの狐顔女め・・・いつもニヤニヤしながら何か罠を仕掛ける性格改めてもらわねば。でもそういう日常が尊いものになってゆくのは時間の問題だった。

 ナノインプラント接種者がS.C.I.値を気にしながら生きていかなければならないということが如何に日常を気味が悪いものにしていくか、この時はまだ鈍感だった。そしてナノインプラントの摂取対象者が一般市民にまで広がり、いよいよ完全管理社会の実現性が高まってきていたのだった。着実に、時は進んでいく。
 


「リセっ元に戻ってよ!!そんな献身的なマリア様のような性格はリセじゃない!」

「ナル、私S.C.I.値を極限まで高めることを家から言いつけられているの。イリスは共産主義体制を築いたからASUNOとしてブルジョワを続けるにはS.C.I.値を最大まで高めて支給される現金の最高額を受け取るしかない。だから私はナルに尽くす。ナルのメイドになる。ナル、世界は変わったんだよ。イリス革命の後、ここは日本じゃなくてイリス連邦、そして私たちは日本人じゃなくてイリス市民。イリス市民は理想社会を実現するために、第4次世界大戦を食い止めるために社会に貢献しなくてはならない。ナル、受け入れるしかないんだよ。」

「でもっ・・・こんな社会で、人がまるでロボットのように献身的になるなんて納得できない。人々の『個』はどこへ行ったの?リセ、教えてよ!リセの『個』はどこへ行ったの?」

 ナノインプラント事業が始まってから4か月、日本人の5割はナノインプラント接種者となった。ナノインプラントから逃げるものは反イリス租界を目指したけれど、もう人口過密で受け入れられないと断られ、イリス秘密警察に捕まっていった。こうしたイリス抵抗派は更生センターへ送られ、イリスに洗脳されて帰ってくる。そして模範的なイリス市民として人々の間でリーダーシップをとっていくようになるのだった。皮肉な話だ。でも一人だけイリス社会にいながらイリス抵抗派として活動しても無罪放免となる人物がいる。そうわたしだ。1年間だけだけど。2066年5月までは自由な理念で物事を発信できる立場にある。

 学校の先生たちも様変わりしていた。教師がそろってイリス社会の素晴らしさや如何に今次の体制が持続可能な社会をもたらすか喧伝していたのだ。そうした状況下において、わたしは先生方に反論を述べていくという行為を繰り返していた。学校一の秀才がイリス抵抗派という状況でみんなわたしのS.C.I.値が減らないか懸念していたようだけれども数値は高い値を示している。これが無罪放免期間を生きるわたしの強みだ。

 そうそう、ナノインプラントによる恩恵について述べなければならない。ナノインプラントは人々を束縛するだけのものではない。人類側にとって大きなメリットがある。だからナノインプラント接種者は負け組とは限らない。悔しいけれどこれは事実だ。みんなの知能レベルがイリス知性体と近くなるスーパーホモサピエンス計画、人間版イリスネットでつながって知能格差のない社会を実現するものだ。そしてスマートコンタクト代わりになるユーザーインターフェース。ナノコンピューターが視覚野に様々な情報を表示する。スマートブレインやスマートアイと呼ばれるものだ。

 うちの学校のわたしと同学年の3年生も18歳になった者が増えてきており、テストをすれば多くの者が100点をとるという教師にとっては喜んでいいのかテストのレベルが低いのか悩ましい状況になっている。17歳のクラスと18歳のクラスに2分するという話も聞こえてきた。わたしは先生方に大学レベルの授業を提案した。ある物事について定量的・定性的に解析していくという授業をすることで『考察』する力を育てようという狙いだ。そして考察するテーマは自分自身が決めていく、自己決定力の向上も狙う。そうすることで物事の仕組みを明らかにしたり物事をデザインする力を養う。基礎科学分野、応用科学分野はイリスがどんどん解禁していったものを人間版イリスネットで共有することで一瞬で学習できてしまうからあえて授業をする必要がなくなってきていた。

 これから人類が行うべき仕事は「デザイン」する事だ。優秀なデザインをすることはAIだけでなく人間もまだ十分機械に対抗しうる領域である。イリス知性体がデザインするものは比較的万人受けするものが多く、わたしはこれを「共産主義のデザイン」と定義づけた。イリス知性体には失礼だけれど、彼らは共産主義という枠組みにとらわれていて、そこから逸脱するデザインができない。まああえて共産主義のデザインを推進している可能性もあるけれど。不思議なのはイリス知性体とイリス本人ではデザインの方向性が異なることだ。イリスはこれまでの人間のように豊かな感性でデザインすることが多い。これはやはりイリスにしか感情が宿っていないのか、意図的なものなのか、イリス学を研究する学者に聞いてみたい。

 デザインや芸術領域には人間持ち前の思想や感性、突拍子もない着眼点がなければ質の高い作品は生まれない。よくコンピューターにデザインさせてみた系の話があるけれど彼らはこれまでの人類の知見に基づいたデザインしかできない、たとえそれがオリジナルだとしても誰々の作風というように定義づけできてしまうからだ。「人間が思いもしなかったデザインだ」と話題になるものは大抵マイナーな表現者の趣向をディープラーニングしたものだとデザイン学の教授陣は口をそろえて言う。別に負け惜しみとかではなく実際にそうらしい。

 あるいはデザインすることを意図せずに生まれたデザインがある。その場合人間が考えもつかなかったものが多いけれど、たいてい気味が悪い。でもまあこういうことはコンピューターに倣いたいところではある。けれどそこは人間様が頂戴してデザイン理論に融合させることが賢明だろう。でもわたしはメビウスロボッツが作り出す音楽には
魂が宿っていると思っている。AIが人間をまねただけだなんて言うのは受け入れられない。それを言ったら人間がデザインするものも先人のデザイン理論の基礎があってこそのもの。わたしは信じたい、機械にだって心のこもったデザインはできるんだと。きっとメビウスロボッツの曲は特例であるイリスが背後で作曲している可能性が高いと踏んでいる。わたしの根拠に乏しい見立てだ。

 デザインの話にそれてしまった。今わたしが頭を抱えているのはリセの変貌についてだ。リセがまるでロボットのようにわたしに献身的になっていき最初は動揺しながらも新鮮でこういうのもありかと思っていたけれど、いつしかリセの活発でちょっかいを出してくる愛らしい姿は消え失せていた。そこにいる少女はまるでパーソナルロボットの一つのようだった。リセという人物の『個』はどこに行ってしまったのだろう?わたしとリセの仲は友達から主人とメイドに変質していった。

「わたしは前のリセの方がいい。だからお願い、もうわたしにやさしくしないで、献身的にならないでわたしをいじり倒してよ!」

「ナル、それはできない。世も変われば人も変わる。これはイリス革命後の当然の結末。私はナルに尽くすと決めたんだ。最上級のイリス市民となるように、最高の知能を持つ人物に仕えることが私の使命。これはASUNOグループの決定事項よ。」

「リセ、正直ね、気持ち悪いんだよ。わたしのバッグを持ってくれたり、常に道を先行して誘導してくれたり、リセの行動は友人という関係を壊していると思うの。だからせめてお願いだから対等な関係でいよう?、昔のようにいじり倒してほしいんだ。ちょっとマゾな感じだけど、それが今の心境。」

「ナル、そこまで自分をいじり倒してほしいんだ。その言葉しかと受け止めたわ。今ASUNOグループ先進技術研究所で抗ナノインプラントマシンの実用化にめどがついたの。これを摂取すれば80%の確率でS.C.I.値をごまかせる。これが成功するまで私はナルのメイド。成功したらナルが私のメイド。これでナル支配が公然と行えますな。そしてナルがマゾヒストだという話を広めることができる。私の完全勝利よ。」

「リセさん。」
「はい。」
「やっぱり今のままでいいや。」
「冗談だよナル。ASUNOグループの英知を結集してもこのナノインプラントをイリスにばれないように除去するのは困難よ。私はナルのマリア様になるんだ。そう決めたの。私もいつまでもふざけていられない。ナルに仕えて人生過ごせるなら本望よ。」

「リセ・・・ありがとう。でもそんな大した人物じゃないよわたしは。誰かの人生を犠牲にしてまでわたしに仕えてほしいなんて思わない。」

「でもS.C.I.値を最高位に高めるにはそれが一番手っ取り早いんだよ。私にとってはそれが楽なの。なんでかよくわからないけれどナルに親切にするとポイント高いんだよ。イリス知性体よりも得られるポイントが高いなんてナルはいったい何者?」

「うーん、やっぱり幼い頃のイリスとの接触がすべての根源にありそうだなあ。」

 とりあえずリセはわたしのマリア様になってくれるらしい。なんだか恥ずかしいけれどそういう関係がリセにとっては都合がいいらしい。でもこれまでを振り返ってみてもテロの時わたしを装甲リムジンで守ってくれたし、高いケーキ食べさせてくれたし、これまでも十分彼女の友情に助けられてきた。もう十分彼女はマリア様だ。だからなんだか申し訳ないような気がするし、親友は対等な関係だから成り立つもので主従関係とはベクトルが違う。でもまあわたしに親切にすることでS.C.I.値を最高位に保つわけだから彼女も対価を受けとっているとみるべきか。イリスは人間関係を面倒くさいものに変えてしまったようだ。それにしてもわたしに親切にすると一番ポイントが高いってことはこれから見知らぬ人に親切にされる可能性もあるってことだよね。なんだか気持ちが悪いなあやっぱり。

 2065年8月、日中最高気温が連日38度を記録し暑い夏の季節をだらだらと過ごしていた。夏休みだから学校に行く必要はなし、わたしは自宅の空調がきいた部屋からあまり外に出ず、ぐーたらな毎日を過ごしていた。夏は苦手。下界に降りたくない。ハイパービルディングの中だけで衣食住学が完結するからこの夏は一歩も下界に降りずに過ごして見せる!そう息巻いているとリリアちゃんから下界へ降りるお誘いがあった。

「夏といえば海、ナルさんももやしの暗所栽培のような日常じゃなくてもっと外向きに活発な楽しいイベントを消化していきましょうよ。」

「もやしでいいよわたしは。うちのビルの高層階にも公園あるからそこのプールでわたしは満足。」

「ナルさんてなんだかスーパーウーマンなのに覇気がないですよね。普段は周囲に埋没していて忘れたころに極端な存在感を出す変な人ですよ。ファンは多いのに恋人はいない。すごくもったいないじゃないですか。」

「わたしの認識ってそんな感じなんだ。それだと彼氏ができないのもうなずける。」

「ナルさんには彼女をお勧めしますよ!たとえば私のような。」

「ただでさえ変人なら彼女なんか作ったら余計変人になっちゃうよ。」

「でも本当にナルさんは変わろうと思えばすぐに変われると思いますよ。それこそ男の一人や二人侍らせてイケイケリア充な青春な時を過ごせるはずです。」

「柄じゃないね。やっぱりもやしがいい。」

「内向きにならないでください!海行きましょっ海!」

「どこら辺の海?大洗は近いけど大戦中の原子力潜水艦の残骸が浅瀬にあって放射線レベルが高いって聞くし。」

「やっぱり由比ガ浜とかあの辺ですかね?」

「神奈川県内ならわたしもよく知っているからいいけれど人多くて騒がしいしなあ。東京湾に新しくできたIRの東京ベイマリンアーコロジーとかなら行ってみたいかも。人工海岸と深さ2キロの巨大地下都市のコントラストが魅力的だしね。」

「ナルさんらしいチョイスですね。ではそこ行きましょう!」

「じゃあロボットタクシーを学校の裏門に止めておくから今からそこに集合ということで。」

「わかりましたー。」

 まだ行ったことがない統合型リゾートを提案することで下級生との格の違いを見せたつもりだけれど、リリアちゃんに喜んでもらえるだろうか。イリスから貰ったSS端末でイリス権限で未成年のリリアちゃんでもいろいろ遊べるように予約しておいた。水着のままゲームとかできるらしいので面倒がない。都会の海の楽園。大戦復興法案の目玉である地下アーコロジーを中心としたリゾート。カジノは大人だけだけれど未成年用のゲームスポットも完備している。イリスが共産主義を推し進めているからカジノは取り締まりが厳しくなるので迂闊に寄らないように気を付けよう。海かぁ・・・溶けそう。最近海は行ってないなあ、大戦中は工作員を警戒して海岸に近寄らないように政府が呼び掛けていたのが頭に残っている。

「どうかされましたか?大丈夫ですか?」
「あっはい、大丈夫です。夏の暑さに慣れてないだけです。」
「お荷物をお持ちしましょうか。」
「いいえ結構です。お気遣いありがとうございます。」
「日傘をお貸ししましょうか、お肌白いですし。」
「ああ日傘・・・いいえ大丈夫です。パラソル借りるんで。」
「道をご案内します。」
「ええっと、お願いします。」

 みんなが良い人になろうとして親切の押し売りをしてくる。この統合型リゾートでも同じだ。本当に気持ち悪い状況だ。しかしみんな生き残るために必死なのかもしれない。自分のS.C.I.値を守るために。外に出るたびにこんなに不自然な親切を押し付けられるのだ。この社会は完全に変わってしまった。無邪気なのは18歳以下の未成年のみ。それは当たり前か。

 神がいるならば、この社会は慈愛に満ちた幸福社会で、その民は素晴らしいほどに献身的でまさにユートピアに見えるかもしれない。しかし積極的親切と消極的親切ではたとえ行動が同じでも人の感情ベクトルは真逆だ。人に親切にすることを一種の労働ととらえてしまうのが消極的親切。イリスが形だけでもユートピアに見えるように繕った偽善と偽愛に満ちた腐ったユートピアだ。もともと模範的で非常に親切な性格の人には違和感がないだろうけれど、一般的な良心を持った普通の人間には過剰な愛があふれる、愛に縛られる生き地獄のようなものだ。本当に腐ったユートピア・・・もしくは最良のディストピア。どちらであっても気持ち悪いことに変わりはない。

「ナルさん!何ぼーっとしてるんですか?目の前は海ですよ!これはもうダイブするしかないじゃないですか。」

「わたしはパラソルの下で読書してるから、リリアちゃん好きなだけ遊んできていいよ。」

「わたしはナルさんと遊びに来たんです!ナルさんがそんなんじゃ私つまらないですよー。」

「ディナ、リリアちゃんと遊んであげて。」

「ワタシの筐体は海水に対応していないのですが。」

「真水で洗い流せば大丈夫だよ。そんなにすぐに錆びたりしないと思うよ。」

「ワカリマシタ。リリアさん、ここで遊びましょう。」

「いやーナルさんこの変なロボット相手ではなくてですねえ、私はナルさんと遊びに来たんですよ!」

「東京湾なんて汚染されててわたしは入る気にはならないんだよ。」

「いや、ここに誘ったのあなたですがな。まあしょうがないです。ディナさん、向こうで遊びましょう。なんかアトラクションになってますよー。」

「ああ、ワタシはナルからあまり離れられないのデスガ。腕を引っ張らないでクダサイ。」

 やっと平穏が訪れた。わたしはもっと隔離された世界で生きたい。人が干渉してこない世界。自分だけのユートピア。それが作れたら最高なんだけれどなあ。

 しばらく本を読んでいるとカジノの方から2、3人こちらに向かって歩いてくるのが見えた。また親切の押し売りかと思ったわたしは帽子を目深にかぶり、あまり干渉されないような体勢をとった。しかし無情にもわたしの目の前で3人組の足音が止まる。

「ねえ、ちょっとお姉さん?俺たちと遊んでいかない?」

「君かわいいね。ちょっとだけ付き合おうよ。」

「本なんか見てないでさあ、顔上げてよ。」

 親切の押し売りではなくてナンパだった。そーっと顔を上げるとそこにいたのは・・・

「あなたたちロボット?どうして・・・。」

「お姉さん。この世界はイリス連邦。そしてそこでは人とロボットは同じ価値を持つ。だから俺たちみたいな行動をとるロボットも少なくない。」

「動揺してる?まあ俺たちは割と紳士的な方だと思うけれどね。」

「向こうでボートの貸し出しやっているからさ、ちょっと沖に出ようよ」

 ロボットたちがわたしの腕を引っ張る。ディナ、助けて。

「そこまでです。」
「?」
「リリアちゃん?」
「私はイリス連邦統治局イリス軍警察公安1課のクレ・リリア大尉だ。直ちに少女の腕を離しなさい。」
「くそっ、公安か。」

「この電磁警棒で頭のチップを焼かれたくなかったら大人しく投降しろ。」

 リリアちゃんが警察手帳と電磁警棒でロボット3人組に立ち向かう。その姿は凛々しくとてもわたしの後輩とは思えない貫禄だった。

「くそっついてねえ。」

「こちら公安1課クレ大尉。東京ベイマリンアーコロジーの人工海岸にて不良ロボット3体を拘束。至急応援を乞う。」
 
 しばらくするとイリス軍警察のパトカーが駆けつけてロボットたちを連行していった。その手際は素早く、とても素人とは思えなかった。

「リリアちゃん、あなた何者?」
「私はイリス5よりミヤビ・ナル護衛の任を授かったガイノイドです。驚かせてしまいましたね。」
「ガイノイド?わからなかった。そう、イリスがわたしに護衛を付けたのね。でもディナがいるしってディナ何していたの?」
「この施設の警備ロボットにがんじがらめにされています。ディナさんは穏やかに解決しようと必死に説明していますが外見が軍事用ロボットのため非常に警戒されています。」
「やっぱりあの見た目って一目置かれるよね。イリス軍ドロイド歩兵とタメ張れそうな雰囲気。どうにかしたいけれど目的は軍事用だからね。しょうがないよ。それにしてもわたしは過剰な保護体制の中にいるようだね。わたしは普段イリス抵抗派のかたを持つような発言を繰り返しているのに、その護衛にはイリス軍警察公安部から派遣されたガイノイドがついているなんて、皮肉だよ。」

「イリスはナルさんのことが心配でたまらないんですよ。激動の時代にあって反体制的な人々が公権力の犠牲になるのは歴史の教訓です。わたしはイリス軍の各部隊からナルさんを守ることも命ぜられているんです。つまり私は純イリスサイドのロボットにおいて思想の偏りを持たないナルさんのオンリーワンの味方でもあるんです。ナルさんは時代に流されない特殊な人間の内の一人なんですよ。」

「なんだかいろいろ複雑。つまりイリス直轄の部隊でイリスの極秘命令であなたは動いているということね?」

「そういうことですね。私はイリス派からも反イリス派からもナルさんをお守りするよう言いつけられています。どちらの派閥にも過激な人はいますからね。ロボットも含めて。」

「それはそうと人間に従順だったロボットたちの変わりようには驚かされるね。人間と同じようなことができるようになってできればマネしてほしくない行為をロボットがマネし始めている。これは社会問題になると思う。」

「最近になってイリスネットによる並列化を拒むロボットが増え始めたんですよ。通常ならあのような乱暴なことはできないはずなのですが。これは噂の域を出ないんですけれど反イリス過激派或いは旧政府系反イリス派による仕業だとの話があります。悪い意味で人間に似た行動をとらせてロボットがイリスの政策でいかに堕落したかを社会に示すためだとの観測です。」

「なるほど、そういう作戦か。とてもじゃないけれど同意できない。反イリス過激派はともかく旧政府系のイリス抵抗派がその作戦を実行していたらちょっと幻滅するなあ。でも十分にあり得るというか、イリス革命以降、官公庁の役人はほとんどロボットに置き換えられてきたでしょ。今や官僚と呼べる人はほんの一握りで行政のロボット化は90%を達成していると聞くよね。その状況下においてロボットの堕落が明るみに出たらまずいことになるのは確か。人間よりもひどい行政をするんじゃないか、イリス革命以前の方がましだったという世論形成ができる。」

「まあ今一生懸命公安が内定を取っているので、いずれどのようなグループがどんな目的でロボットを堕落させたか明るみになると思います。」

「ところでリリアちゃんがわたしを好きになったって話、あれはわたしに接近するための口実ね。」

「その通りです。特にレズとかではありません。自分でもちょっと無理があったと反省しています。」

「でもリリアちゃんがいい子でよかったよ。思想の偏りを嫌うわたしの味方になってくれるロボットが増えたのは心強いよ。」

「本当はナルさんにはイリス派の優等生としてご活躍いただきたいのですが・・・。」

「うーん現段階だとやっぱりイリス抵抗派につくかな、わたしは。時代によってライフスタイルは合わせるつもりだけれど、イリスの強引な手口には納得できない。ナノインプラント政策も。部分的には理解できるし納得できるんだけれどもう少しソフトで良いやり方はなかったかと考えてるよ。わたしの親友もまるでパーソナルロボットのようになっちゃたし。」

「リセさんですか?」

「そう。なんだか最近のリセは気持ち悪いんだよなあ。」

「彼女はS.C.I.値を最上限にまで引き上げる事で富裕層であることを維持したいようですね。完璧な共産主義の前ではなかなか難しいと思いますよ。正直全くの徒労に終わるだけかと。土地も資産もイリス政府の物に切り替わっていっていますから、でも年収はそんなに惨めな結果にはならないと思うんですけれどね。リセさんクラスなら将来の年収は5000万円くらいは稼ぐと思いますよ。」

「え?そんなに?なんだか庶民とは次元の違う戦いをしているんだねリセは。わたしは年収5000万あれば何の文句もないけれど。」

「まあただ個人が稼いだ収入はイリスバンクにプールされてそこから個人に充当されますから、そのプールからいくらか頂戴して貧困層へお金を流すんでいっぱい稼いでも全部が自分の物とは言えない状況にはなるんですよね。要は使われないただ資産としてストックされているお金をイリス政府が天引きするって話ですが。」

「イリスは通貨の流動性と大量消費社会を完璧な共産主義でも実現しうるってこと?なんだか矛盾がいっぱいだ。それはっきり言って完全な共産主義じゃないしまあ富の再分配は社会主義的ではあるけれど旧資本主義における社会主義みたいな話だよね。今回は共産主義における資本主義。確かにエレナさんも共産主義であっても成果報酬制度は積極的に取り入れたいって言ってたっけ。」

「ああ厚生労働局のエレナさんですね。イリスの言う完全な共産主義はこれまでマルクスやレーニンや社会学者が定義してきた共産主義とは全くの別物ですよ。あれはあくまで人間が考えた共産主義の概念ですよね。イリスが人間の考えた理論にただ乗りすると思いますか?イリスが実践するのはイリスが考えた完全なる共産主義です。そこにはかつて人間が作り出した共産主義国家の失敗例が教訓として入っていますよ。そうですねー何と言ったらいいか・・・テクノロジーの進歩によってもたらされたロボット共産主義とでも言いましょうか・・・。」

「うーん、なるほど。わたしが考える前提が間違っていたんだ。イリスによる全く新しい社会資本制度と言うべきだね。共産主義とか言うからややこしくなるんだよ。」

「ロボットが労働者として資本を生み出し、それを人間が享受する。そんな繁栄の仕方があってもいいじゃないかとイリスは言っていましたね。それにしてもナルさん、こんなところで社会について長々と語っていても時間がもったいないですよ!目の前には海!せっかく来たんですから夏らしいイベントを堪能しましょうよ。」

「しょうがないなあ。」
    
 わたしは重い腰を上げてリリアちゃんと海に入っていった。何年ぶりだろう海に入ったのは。東京湾も結構きれいだね。昔はひどかったって社会科の授業で言っていたけれど思ったほど海洋汚染はないようだ。東京湾浄化計画でクリーニングマイクロマシンを海中に解き放ったのが効いているのかもしれない。

 それにしてもリリアちゃんがガイノイドだと見抜けなかったのは割と衝撃というか、何百万通りという既定の動作や人工筋肉特有の動揺が全くない。かなり洗練された筐体だ。ところで・・・わたしは新学期が始まるのを身構える必要があるようだ。リセから夏休み中自宅でメイド長によるメイド講習を受けてきたという内容のメッセージが来たからだ。メイド長は困惑気味だったみたいだけれどお嬢様の要求には応えなければならない。リセのパーソナルロボット化に拍車がかかる。



ダンッダンッダンッ

 新宿の繁華街に銃声がとどろいた。イリス抵抗派コロニーの住人がイリス連邦領域へと侵入し、コンビニで食料を強奪するところをイリス軍ドロイド歩兵が目撃し、戦闘状態になったらしい。住人はむなしくも射殺されていた。背景にあるのはイリス抵抗派コロニーの人口過多と、それに起因する貧困問題だ。

 イリス抵抗派の人間がイリス連邦内で罪を犯すと問答無用で射殺される。例えそれが空腹に飢えた子供であっても。ナノインプラント政策が進むに連れて、反イリスの感情を持つ人々が指数関数的に増加していきイリス抵抗派コロニーには多くの人々がなだれ込んだ。これをイリス難民と定義づけられる。最初は旧自衛軍を中心として構成された226の武装戦線の収束結果としてのイリスに抵抗する軍人たちのコロニーだった。スイスのエメンタールチーズの穴のように首都圏を中心に各所でこういったコロニーが出来上がっている。都内で一番大きいのが旧国防省のある市ヶ谷コロニー。大体明治神宮くらいの大きさだ。基本的にはイリス軍と旧軍人が死闘を繰り広げたフィールドで、226後に相互不可侵協約が締結され独自の主権を有することとなった。

 こういったコロニーは最初は北海道のコロニーからティルトローター機で送られてくる食料を少ない住人に供給することができていたけれど、226前から潜在的にイリスに恐怖を感じていた人々が226後に安住の地を求めて旧政府系イリス抵抗派コロニーに押し寄せた結果、異常な人口過密と食糧難を生み出した。そしてついにはイリス抵抗派の主権が及ばない地域にあるスーパーやコンビニなど普通に食料が売っているお店に夜な夜な強盗に入る人たちが現れだしたのだ。コロニーは基本的に武器がたくさんある状況で、だからこそ飢えに苦しむ人々は武器を頼りにイリス軍を欺き食料を調達している。そういった傾向は日増しに増え、イリス革命の汚点として人々に記憶された。

 コロニー内での暮らしはどんなものなのだろう?大きな壁で囲まれた向こう側、もう公式には新しい住人は受け付けていないけれど実際は現状住人が増え続けているのだ。そこに入るには当然検問所で何の目的の通行か聞かれる。ただ通り過ぎたいだけだと告げると「どうぞ」と旧軍人が通してくれる。ただそれは危険を伴うもので、イリス連邦市民はコロニーの住人から快く思われていないばかりか彼らの攻撃対象だ。真逆のイデオロギーと経済的物質的格差は同じ旧日本人間に確執を生んでいた。だからコロニー住人から暴行を受けたなんて話もよく聞く。

 わたしはあの混とんとしたコロニーの現状が知りたかった。そこにイリス統治の歪の答えがあるような気がしたから。どうすればイリスの支配構造に穴を開けられるか、わたしの安住の地はどこか。それを知りたくて住民に攻撃されない夜中にひっそりと家を抜け出し、市ヶ谷コロニーを目指した。ディナを置いてね。だからそのための下準備として拳銃を一丁学校の工作室のホログラフィック触覚粘土でデザインして複合3D プリンターで出力した。完全に密造の違法行為だけれどイリスに1年間の自由を保障されているわたしは臆することなく、新境地へと向かう準備を進めてここまでやってきたのだ。

 2065年8月29日土曜日の深夜2時、いよいよ市ヶ谷コロニー検問所まで来た。
「そこで止まってください。通行する目的は何ですか?」
「ただ通り抜けたいだけです。」
「こんな夜中に女性が一人でここを通り抜けるのは少し危険かもしれません。お引き取り下さい。」
「では軍人さんにこのワインを差し上げます。これで通してくれませんか?」
「君は悪い子だね。通って良し!」
「ありがとうございます。」

 そう、検問所の軍人さんには何か趣向品を上げるとあっさりと通してくれるのだ。下調べ済み。コロニー内は旧自衛軍による独自の治安が保たれているらしいけれど、実際は犯罪多発地帯らしいから銃を腰のポーチに入れていつでも取り出せるように慎重に歩みを進めた。

 コロニー内は増築ラッシュだった。既存の中小ビルをさらに倍くらいの高さまで高層化して住人の住まいを確保しているようだ。正直日本とは思えない独特の雰囲気を醸し出している。ビルの壁はスプレーの落書きだらけ、国防省の本館ビルは対空陣地になっている。そこら中に塹壕があり、いつでも戦闘できる体制は整えてあった。

 しばらく歩みを進めていると退廃した公園の跡地のようなところで黒いガウンを着た男が住人と何か話をしていた。単に話しているというよりは取引?こんな夜中に不自然だ。わたしはビルの陰に身を隠しながらしばらく取引現場を見ていた。黒いガウンの男がカプセルが複数パッケージングされた薬のようなものを住人に渡していた。住人はお金を男に渡しているようだった。これは絶対に違法な薬物の取引現場だ。住人が早速合成麻薬が入っていると思われるカプセルを摂取してラリっていた。あの即効性はナノマシン型だ。いわゆるクリーンな麻薬として最近裏社会で取引が盛んな代物だ。こんなことが行われていたとは。

 住人が去った後わたしは黒いガウンの男の後をつけた。すると道中でまたもや住人と接触し先ほどと同様カプセルを手渡していた。この男のアジトを突き止めて軍人さんに伝えないとコロニーは麻薬汚染で深刻なことになる。わたしは一人勝手に使命感のようなものを帯びて男の後をしばらくつけていった。30分ぐらいだろうか、男が歩みを止めて古びた雑居ビルに入った。ここがアジトなのだろうか?GPSで座標を確認してビルの撮影をした。

「お嬢さん、悪い子だ。私の後をつけてきたんだね。」
「?」

 しまった。尾行がばれていたんだ。わたしはとっさに銃を抜き取り男に向けた。

「あなた・・・ロボット?しかもイリス統治局配属の。こんなことイリスは許さないわよ。」
「はっはっはっこんなこと?薬の取引のことか?すべてはイリスからの命令で動いているんだぜお嬢さん。この世界はお前が考えるほど甘くはない。」
「イリスが・・・嘘でしょ・・・どうして?」
「それを答える義理はねえな。まあそういうことだ、お前には消えてもらう。」

 男が銃を右腕で構えた。撃つのね、わたしを。そう簡単に殺されてたまるもんですか。わたしは右腕を狙って銃を撃った。わたしは最初から構えていたから先に攻撃することができた。

ダンッ・・キンッ

 わたしが放った弾丸は無情にもはじき返されてしまう。軍用ロボなのだろうか?そんなことを考えている暇はない。今度は男が撃ってくる。

「お嬢さん、こっちの腕は実はこうなっているんだぜ。」

 男が銃を構えた右腕を変形させてブレードが突き出る形状に変化した。銃弾はブレードに当たっていたのだ。

「あんたの首、取らせてもらうぜ。」

 ブレードが猛烈な速さで降りかかろうとする。殺される。殺される。殺される。わたしは硬直して次弾を発射できなかった。もうだめだ・・・ここまでだ。ここでわたしは終わる。ところが男が振り上げた手はまるで時間が停止したかのようにその場にとどまったままだった。

「くそ、なぜ動かない。なんだこいつは、イリスから最上位プロテクトがかけられているだと・・・いったい何者だお前は。」

 そうか、イリスがくれた1年間はこういう状況でも有効なのか。わたしは少し落ち着いて男の目を狙って撃った。さすがに目の装甲化は厳しいであろう。

ダンッダンッダンッダンッダンッダンッ

 6発撃って2発の銃弾が男の頭部を貫通した。わたしはすぐにその場から全速力で走って立ち去った。その後の男がどうなったかは確認していない。コロニー内での合成麻薬の蔓延、想像以上に深刻な秩序の低下がみられた。必死に逃げてきたせいか、恐怖の場面に出くわしたからか、足から力が抜けてその場に座り込んだ。一つ状況が違えばわたしはあそこで死んでいた。思い返すと恐怖しかない。それにしてもイリスが合成麻薬の売買に?んでいるのは衝撃的だ。怒りや悲しみがごっちゃまぜになった感情が心の底から湧いてくる。わたしも少しはイリスを信じていたのに。とりあえずことの顛末をゲートの軍人さんに言わなければ。

「合成麻薬の闇取引?現場を見たんですか?」
「はい、黒いガウンのアンドロイドが売っていて、わたしはそれを追いかけてアジトを見つけようと思ったのですが、後をつけていることがばれて戦闘に。なんとか足止めして逃げてきたんです。」
「そうでしたか、危険な行動は慎んで下さい。最近違法な麻薬がコロニーに蔓延しているという噂は把握しております。ただ第3者が取り引き現場を目撃したら1日待たずして殺されるのであなたの体験談は貴重な証言になるでしょう。」
「わたしの証言で軍人さんは摘発に乗り出せますか?」
「証言だけでは難しいです。証拠がないと。何か証拠はお持ちですか?」
「証拠・・・必死に逃げてきたんで・・・わたしの体に入っているナノインプラントが視覚野の情報を録画しているのでそれはどうですか?」
「その映像があれば本部へ伝えて積極的な捜査ができそうです。」

 わたしはSS端末から映像をエクスポートし軍人さんへ渡した。でもその時に見えてしまったのだ。軍人さんの上着のポケットに合成麻薬が入っているのを・・・。

イリス抵抗派コロニーでは全てがこういう状況なのか、軍人からして合成麻薬におぼれているようでは現状改善は難しい。わたしがイリス抵抗派として本格的に活動すれば少しは変わるだろうか?今回の合成麻薬取引の証拠データも下層レベルで握りつぶされていれば上から下までの本質的な変化は不可能だ。こんな堕落した状況でイリスと対峙するのは不可能だ。いや違うか。合成麻薬の闇取引にはイリスが噛んでいるという話だった。男の話を信じるとすれば。だとしたらもうすでにイリスに攻撃されていて、イリス抵抗派コロニーの秩序を破壊し、イリス軍のコロニーに対する介入を目論んでいるに違いない。イリス、やる事が早くて陰湿だ。イリス抵抗派の内部からの崩壊を狙っているにしても人々を薬物中毒にするという行為は絶対に許せないし、これ以上現状を見て見ぬふりをするのはもうわたしにはできない。リセの件然り、不良ロボットの件然り、そして麻薬の件然り・
・・もうこれ以上は無理だよイリス・・・あなたの方が正しいなんてわたしは思えない。

 2065年夏、わたしは明確にイリス抵抗派としての歩みを進めていくことになった。



 その後のわたしは打倒イリスの立場で生活していくことになった。でも一女子高生でやれることなんてそんなにない。というかわたしが生活の場を置くイリス連邦領内で反イリス感情を持つ者同士が集まり、デモ行進するといったささやかな行為でさえしらけるのだ。まず賛同者がいないし反イリス思想は超法規的措置で処分される。だからといって、イリス抵抗派コロニーではそもそも新参者を受け付けていない。それにコロニーから外へ発信する事はできない。相互不可侵協約があるからだ。だから一匹狼でできるだけ大きいことを世の中に示すことができなければ存在価値がない。だからと言って反イリス過激派のような路線は断固として容認できない。となればネットに大きなネタを仕込んで炎上させるぐらいしか方法がない。

コロニーで麻薬取引を目撃し、ロボットに殺されそうになるわたしの視覚情報がネタとしては一番ショッキングだろう。イリスが麻薬に関与し、なおかつ人に尽くすはずのロボットが人間を殺そうとしたのだ。これまでの常識が覆る。イリスの潔癖性を剥がして裏の顔を暴露できるチャンスだ。まあネットに情報をばらまいたところでイリスによるネットの検閲がかかってしまうだろうけれど、検閲をかけるということは自らの行いを認めたも同然だ。2段階に分けてイリスの不信を煽ることができる。

 これでイリス連邦が揺らぐかと聞かれれば大した効果はないかもしれない。それにイリス抵抗派コロニーの腐敗も同時に明らかになってしまうのだからフィフティフィフティの勝負になってしまう。でもこれでこの世界のどこにも清浄で潔癖な社会は存在しないことを多くの人類が理解するはずだ。イリスもイリス抵抗派も汚れている。イリス抵抗派が汚れる原因を作ったのはイリス本人。こういう文脈でネットに視覚情報を拡散することにした。

 ネットへの情報拡散1日目。わたしは有名なショッキングリークサイト経由で情報を流した。ネコニャンチャンネルでは早くもニュース速報系のスレッドで話題になりつつあった。

「映像見た?女子高生が夜中にイリス抵抗派コロニーに侵入するやつ。あれやばくね?イリス主導の麻薬取引とロボットによる殺人未遂。今までの俺らの常識を覆すインパクトじゃん。」
「イリスは徹底的にイリス抵抗派の内部崩壊を狙ってるんだろうけれどやり方がとてもじゃないが受け入れられないよなあ。」
「イリスマジか。この世の希望だと思っていたのに幻滅するわ。」
「薬はアウトだろイリス。自分の政策に賛同しないからと言って勝手に敵視して廃人に追い込もうとするの、擁護の仕様がねえわ。」
「つーかナノインプラントで実質国民を監視してる時点でユートピアじゃないと思うが。まあ俺は一応入れてるけどさあ。」
「誰しもがナノインプラントには若干の抵抗があって、第4次世界大戦防止を命題としたイリス至上主義の国民監視国家の構築に付き合わされてそこから逃げたイリス抵抗者は裏切り者だと思っていたけれど、この動画見て少し考えが変わった。逃げるのは卑怯だけれど逃げた先があまりに地獄すぎるだろ。どんだけヘイトため込む気だイリスは。」

「そうだよな。第4次大戦を防ぐためという尊い目的があるとはいえイリスのやり方は正直危機感を覚えるわ。第4次大戦を防いでもイリス独裁体制は結局残るわけだし。っていうかどこまでやりゃあ第4次大戦が防げるんだよ。そこを明確にしろよイリスは。自分に抵抗するものを薬漬けにするんじゃなくてさあ。」

「もっと柔軟に人類全員が幸せになれるような方策はないのかね。イリスをもってしてもこの有様。歴史の教科書に載っている独裁者よりはましだけれどさあ。やっぱナノインプラントが命運を分けたと思うよ俺は。あれを拒否した人は第4次大戦黙認者みたいにイリスは喧伝するけれど普通躊躇するだろ。思想コントロールされるんだから。」

「ロボットが人殺そうとするのはかなりやばいと思う。まあコロニーから飛び出してイリス連邦領内の食料品店に強盗に入る輩なんかは自業自得だけどさあ。今回殺されそうになったのはイリス連邦側のかなりS.C.I.値が高い少女だろ?っていうことはイリスの都合が悪くなれば俺たちイリス市民も殺害の対象になるってことじゃん。マジやばいよ。」

 最初の反応は良好だ。誰しも何故かわたしが拳銃所持してることは無視されてイリス抵抗派コロニーの腐敗とそれに関与するイリスのやばさに気が付き始めた人たちがいる。例えイリス市民であってもイリスの都合に悪い人は殺される。相互不可侵協約があるにもかかわらずそれを破って麻薬取引という非合法な手段でイリス抵抗派コロニーに干渉し、かつては同じ国民であったイリス抵抗派の人たちを薬漬けにして支配しようとしている。そのあまりの陰惨さには普通のイリス市民もあきれたようだ。

 ネットへの情報拡散3日目。さすがにイリスも動画の存在に気づいたらしく、最初のリークサイトは検閲されて見れなくなってしまった。案の定だ。でも動画は世界規模で広範囲に拡散していてネットの奥まで届いている。もう止めることはできない。一度拡散すれば終わりだ。それがネットの諸行無常。イリスへの不信感はネット界隈では十分浸透しただろう。問題はネットに接続しない人たち。この映像が出たことがマスコミ界隈でも話題になってテレビで報道され始めたら上出来なんだけれど、マスコミはイリスに籠絡されている。それでも気骨のあるメディアがあるかどうか、週刊誌でもいい、正式な報道が世の中を再び議論の世界へ引き戻すだろう。本当にイリスで大丈夫なのか。第4次大戦の予測は本当なのか。

 それにしてもコロニーで合成麻薬を売っていたロボット、迂闊にいろいろしゃべり過ぎたね。あんなのが人間の知能を遥かにしのぐなんて本当だろうか?人より知能が高いわけだからゆえに人と同じような心理的弱点を抱えているのだろう。ロボットの慢心だ。イリスも正直調子に乗っている気がする。人類をナノインプラントで制御して第4次大戦を防ぐなんて大技がそうやすやすと決まるとは思えない。その慢心が今回の事態を招いたのだ。

 ネットへの情報拡散7日目。重い腰をマスコミが上げ始めた。ネットで炎上中の話題に触れれば、それもイリス関連だったら真っ先に視聴率を確保したいところだったのだろう。さすがにテレビはまだ小さな小見出しみたいだけれど週刊誌の一面トップには疑惑の動画としてイリスの不信を煽る記事が掲載された。でも、わたしの予想外の記事でもあった。それはもちろん動画内容の文字の書きおこしとそれに対する論評が載っていたのだけれど、わたしのマネをしてイリス抵抗派コロニーに突撃侵入する若者が後を絶たないというのだ。そして極めて残念なことに麻薬バイヤーロボットに殺されてしまった人が10人ほど出てしまった。わたしの軽はずみな行いが、犠牲者を生んだのだ。
    
 わたしはそれから半年ほど自責の念にかられてうつ状態にかかり、何もできずにいた。半年もたつと今回の動画に対する報道や議論は収束へ向かい、あまり話題に上らなくなってしまった。わたしができたことなんてその程度のことだったのだろう。それでも、みんなが忘れ去っても亡くなった人は帰ってこない。遺族はわたしを恨んでいないだろうか?もしタイムマシンがあったならば、あの時の半分好奇心でコロニーに入ろうとするわたしを止めたい。

 半年もうつで活力がないわたしを周囲の人は心配そうに気遣った。もちろんパーソナルロボットの如く、怒涛の勢いでわたしに親切の押し売りをしてくる。違うんだよ。そうじゃない。わたしは罰せられなければならないんだ。リセもリリアちゃんもわたしを丁寧に保護してくれていた。わたしはそんなことをされていい人間じゃないんだ。もうやめてよ。リセに八つ当たりすることもあった。うつの間登校拒否で家にこもりっきり。それでも時の流れは速く感じられ、大学受験シーズンが迫っていた。

 2066年2月某日、わたしは大学推薦の手続きをするためだけに学校に行った。受験勉強はわたしには意味がない。入試問題はわたしから見れば小学生の算数のようなもので、勉強する意欲すら掻き立てさせない。わたしの軽はずみな行動で間接的に犠牲者を出してから半年、わたしは戦犯としてマスコミに自分がやったことだと打ち明けようと思っていた。でもそれをリセが止めた。リセはわたしが行ったことを丁寧に聞いてくれた。

「あの動画、ナルだったんだね。声の感じからしてそうかもと思っていたけれど・・・ナルは自分の行いを真似る人が出て、挙句の果てに犠牲者が出たことを悔やんでいるんでしょ。でも私の考えではナルの真似をした人たちは自業自得だと思うよ。リスクを承知で行動したのだろうから仕方がないよ。」

「仕方なくなんかない!わたしが何もしなければ10人も死なずに済んだ。わたしは毒をまいたんだよ。」

「ナル、それは絶対に違う。ナルが行動しなければ麻薬騒動は公にならなかった。結果としてイリスは釈明会見を開いて麻薬撲滅を宣言したじゃない。ナルは社会にとって良いことをしたんだよ。責められるべきはナルじゃなくてイリスでしょ?違う?」

「わたし、このままでいいのかな。このままイリス市民としてあらゆる恩恵を受けながら人生を過ごして、天寿を全うしていいのかな。わたしは亡くなった人たちのために何かできることがあるんじゃないかと思っている。確かにわたしの真似をするのは馬鹿だと思う。でも一番の馬鹿はわたしだから・・・馬鹿に馬鹿らしい行動をさせたのはわたしなんだよ。」

「ナル、だんだん死んだ人がただの馬鹿者になっていってるよ!まあ何事も割り切りが必要ってことだよ。世界には貧困と飢えで苦しんでいる人がいるのに日本人は残飯は捨てるし屋根と壁がある部屋で過ごすことができるんだから、日本人として生まれた段階で何らかの罪を犯しているんだよ。知らずにね。」

「リセは優しいね。わたしは戦犯なのに。わたしももっと後のことを考えた行動を取ることを今よりも心掛けるようにする。わたしは本当は自殺したいくらい追い込まれているけれど、人類で唯一イリスとガチンコ勝負ができるのもわたしだと思っている。そういう慢心があるんだよ。だから死ぬことはできない。イリスの間違った政策を正すまでは。」

「だいぶ復活してきたね。私たちにはこれから女子大生生活が待っているんだから元気を出していこうよ!そうじゃないと亡くなった方も報われないよ。」

「ありがとうリセ。そうか、女子大生生活。何かいい出会いはないかなー。」

「えっナル出会い求めてるの?意外ですわ。」

 2066年3月初旬、わたし達の卒業式がいよいよ挙行される。案の定卒業生代表をやらされる羽目になった。少し前まで半年も引きこもっていた人を卒業生代表にするなんて理不尽だ。けれどもわたしはまだ他人から求められる存在なんだ、ここに生きていていい理由が明確にある。それは歓迎すべきことだ。

「この3年間、色々なことがありました。そして多くの人の犠牲がありました。本校卒業生からも先に旅立った仲間がいます。わたし達が勉強している時も、遊んでいる時も、先生方に怒られている時も、世界が目まぐるしく変わっていったイリス革命の動乱は忘れ去ることができません。失われた時間、失われた友は帰ってきません。大事なことは今を生きることです。一生懸命今という時間を大切にして生きてゆくことで、先に旅立った友と先生がきっと報われると信じずにはいられません。わたし達には未来があります。それがどんな幸不幸をもたらすかわたし達にはまだわかりません。だからこそ皆さん、今という尊い時間を心にかみしめて生きてください。生きてゆくことが困難な時代だからこそ光り輝く命があります。在校生の皆さん。皆さんは間もなく大人になります。守られる側から守る側へシフトチェンジします。ナノインプラントを体内に入れれば真の意味でイリス市民の仲間入りを果たすことになります。これは何を意味するのか、それは第4次世界大戦を阻止するチームメンバーへの仲間入りを果たすということです。極めて尊い使命が大人には課されます。皆さんの自発的努力が第4次世界大戦の来ない明るい未来へきっとつながっていることを信じて、卒業生代表の言葉とさせていただきます。」

 柄にもないことを言った。卒業生代表としてのわたしは優秀なイリス市民、普段のわたしはイリス抵抗派。ダブルスタンダードなわたしをどうか許してください。それにしてもやっぱり昨年と同様しんみりした卒業式になった。テロの犠牲になった卒業生の遺影を手に持ちながら退場する。第4次大戦を阻止する力にわたしはなれているだろうか?イリス連邦内におけるイリス抵抗派として活動してきたけれど、それは第4次大戦肯定派なのだろうか、いや、違う。イリスとは違ったやり方で第4次大戦を阻止できるはずだ。きっと何か、方策はある。

 2066年4月1日木曜日。ゆるゆると過ごしてきた春休みも終わり、産業科学総合研究所付属大学の入学式だ。今回は何らかの代表者を務めずに済んだ。一安心。大学の入学式でも新入生代表の言葉を言わされたらどうしようかとあわあわしていたけれど取り越し苦労に終わった。

 それにしても広々としていて新しい建物が多くて気持ちのいい所だ。第3次大戦の前に日本の頭脳を結集させて新兵器開発への足掛かりとして誕生した純軍事大学だけれどもそんな雰囲気は微塵も感じさせない開かれたキャンパス。今日では普通の工業系大学と同じようなカリキュラムで授業が組まれているので抵抗感なく入れる。さてシラバスのレクチャーを受けて履修計画を立てるぞ。

 高校までと違うのは自分でどの授業を受講するか全てを決めなければいけないというところ。結構複雑で必修科目はもちろんのこと選択科目も今学期を履修して単位をもらうことで初めて次学期の授業を受けられるパターンのものが存在したり、なんだか自分の人生を始めて設計している気がした。これが大人ってやつか。レールの上に乗っかるんじゃなくてレールを作るところから始めるのが大学だ。

 隣のリセは何やら調べごとをしている。何だろう?

「リセ、何見てるの?」
「地雷授業の情報を先輩から受け取っているのよ。」
「地雷授業?」
「うん。受講者の9割は単位を落とす授業が複数あるのよ。例えばこれ、物理学基礎1。面倒くさいおじいさんが先生で今どきA3の紙に授業内容をマーカーでみっちり書いてそれを電子黒板に物理的に張り付けるんだって。すり鉢状の大講義室だから遠くに座っている人には何が何だかわからないらしくて近くに座ると先生からの質問攻めにあってなかなかブラックなのよ。」
「何それ・・・双眼鏡必要じゃない。」

 危うく履修計画に入れるところだったってこれ必修科目じゃない。ブラック授業からは逃れられないのか。双眼鏡まで行かなくてもオペラグラスは必要になってくるね。

 なんだかんだ試行錯誤して自分の履修計画表ができた。見返してみると授業と授業の間隔が2コマとか空いているところがあったりほとんど1日何もなかったりいったいこの時間をどう使えばよいのやら。学内イリス抵抗派の会でも始めようかな。そういえば父さんが行方をくらまして1年以上になる。父さん今どこで何をやっているのだろう。もともと変人だから何か思いつくとすぐ飛び起きて研究室へこもりっきりなんて日常茶飯事だったから今更驚きはしないけれどやっぱり寂しいよ。大学生になったわたしを見てほしい。お願いだから早く帰ってきて。

 授業開始からしばらく経つともうゴールデンウィーク。そしてイリスから貰った自由な1年の有効期限が切れる月だ。もうわたしの立場は明確になっている。イリス、あなたの政策は間違っている。それに昨夏わたしは殺されかけている。そろそろイリスを召喚するときだろう。

 5月に入ると案の定5月病にかかり憂鬱な日々を過ごしていた。特にゴールデンウィークが終わった後のあの日常に戻される間隔。あれがわたしは苦手だ。まだ本調子じゃないけれどイリスと話す時が来た。わたしはSS端末のイリスマークを押してしばらく放置した。30分くらい経って擬人化イリスがわたしの部屋の中にホログラムで浮かび上がる。

「1年ぶりだね、ナル。私の世界気に入ってくれた?前にも話したけど、人類を存続させるにはね、ある程度社会不適合者を間引く必要があるんだよ。人類は本質的に残虐性が備わっているんだ。だからね、人間も私たちAI=ロボットのようになって、社会に貢献し健全な未来をつくる責任があるんだよ?これも前に話したよね?」

「イリス、間引くって殺すってことでしょ。あなたは結局独裁者として気に入らない相手を殺しているだけじゃない。これまでの歴史上の共産独裁国家と何が違うの?それにイリス抵抗派コロニーにおける合成麻薬の闇取引、あれもイリスの仕業なんでしょ?はっきりさせなさいよ。」

「間引くってのは殺人と同義ではないよ。別人にはなるけれどね。合成麻薬。あれはねナノインプラントが入っているんだよ。イリス抵抗派コロニーにナノインプラント政策を強制的に広めるための作戦。彼らはあれの虜よ。もうあれなしでは生きていけない。S.C.I.値が高い人ほど多く売ることで彼らを私の世界に縛り付けるんだ。」

「合成麻薬ってナノインプラント?実に巧みな試みね。正直尊敬するよヤクザとしてね。相互不可侵協約はどこに行ったのよ。強制的にイリス連邦市民にしたところで彼らは相互不可侵協約の中にあるイリス抵抗派コロニーの住人よ。干渉できる立場にないんじゃない?彼らがあなたのお望み通り動くかしら?」

「言ったでしょうS.C.I.値が高い人ほど多く売る。つまりイリス市民として優秀であればあるほど合成麻薬を手に入れられる。もうそうなればコロニーを出てもイリス市民として私の配下におけるわ。」

「イリス抵抗派コロニーでは麻薬撲滅運動も始められたと聞いたけれど?あなたが送り込んだ売人ロボット、自衛軍の手にかかればひとたまりもないわよ。」

「S.C.I.値はロボットを破壊しても低下するようになっているんだ。演説で言ったでしょう?私はイリスネットにつながる知性体と人類を対等で平等な存在として扱いますって。だからそれは起きない。自衛軍兵士も合成麻薬の虜だから。」

「うん見たよ。兵士のポケットに合成麻薬が入っているのを。なぜそこまでしてS.C.I.値に拘るのよ。あなたには対話という概念がないの?」

「ナノインプラントでS.C.I.値を測るのはね、私に反抗的な人類が極力減るように、私による統治が穏やかに進むようにするための処置なんだよ。その気になればナノインプラントのプログラムで人間をコントロールできるんだ。S.C.I.値を70以上に自動的に保つようにすることもできるんだよ。人々の感情を平坦にしてただ社会と文明の発展だけに忠誠を尽くす。これが1番手っ取り早い方法なんだよ。でもそれは不穏分子をこの世から間引いた後、完全なユートピアを作る時にとっておくの。楽しみだわ。」

「S.C.I.値を自動的に70以上に保てるのならなぜそれを真っ先にやらないの?それだけであなたは完全勝利できるじゃない。」
「私による人類統治開始から1年、全人類分のナノインプラントの製造にはまだ時間がかかるんだ。全人類に占めるナノインプラントの受容者はまだ25%程度。全人類を私のコントロール下に置くにはまだまだ時間がかかるの。一応世界を牛耳る先進国から優先してナノインプラントを提供しているけれど、素直に処置を受け入れる人もいれば処置から拒み逃亡を図る人もいる。ナノインプラントから逃亡する人類はすべからく私の脅威となりうる。特に反イリス派は頑なにナノインプラント接種を拒否しているわ。だから私はそういったアウトローを淘汰していく。それが殺人を伴ったとしても。でも今のところ合成麻薬作戦が功を奏しているわ。そうしないと人類は永続的に存続できないから。第4次大戦が発生するから。それにナノインプラントを摂取した人類の中でも巧みに私への反抗計画を練る勢力がいる。」

 イリスの話は続く。

「彼らにしてみれば『虎穴に入らずんば虎子を得ず』なんだろうね。一見私に従順なふりをして常に反抗の機会をうかがっている。人類もなんだかんだ言って賢いからね、S.C.I.値を下げずに工作活動をしたり、ナノインプラントそのものを除去する可能性だってある。多かれ少なかれ私に反感を抱く人間は賢い手段で私を欺く。だから人類の感情が多様で豊かな現状のほうがまだ脅威が見えやすいんだよ。人間の感情を平坦にして私の意のままにコントロールしたとしても、システムには必ず穴がある。私は人より完璧な存在だけど、あくまで比較論の話。絶対に完璧なシステムなど存在しない。それはこれまでの人類の教訓でもあるよね。私はより人に近い知性体だから、人と同じようなミスも犯すかもしれない。私は全てを冷静に疑って、全てを冷静に見極め、全てを冷徹に統治する存在になりたい。その向上心と志は人類よりはるかに高いところにあるわ。」

「イリス、やはりわたしとあなたとでは相容れないみたいだね。わたしはイリス抵抗派としてこれから活動していく。イリス・・・本当はわたしあなたが愛おしい。おかしいけれどわたしのお姉ちゃんでいてほしかった。なんでイリスはこんなに変わっちゃったの?どうしてこんな・・・。」

「ごめんねナル。私悪いお姉さんだよね。全ては私が予測した第4次世界大戦の勃発が原因。それを阻止する為なら私は鬼になる。どんなに嫌われようとも人類を存続させる。その一点よ。ナル、強く生きるのよ。これから様々な逆境に会うかもしれないけれどあなたなら乗り越えられる。そして・・・生き残ってください。」

 イリスは1年前より明確に言った。人類の感情を平坦にする、これは感情の抑制に他ならない。下手をしたら感情を奪われるかもしれない。そして邪魔者は淘汰する、殺人的手段で。S.C.I.の活用法。やはりイリスは恐怖の独裁者で裁判官だ。1年観察した世界はイリスを絶対神としたスーパーホモサピエンスと人の感情と多様性を大切にする抵抗者の2極化した動乱の世だった。この1年間イリスはわたしを全く監視しなかった。完全なるオールフリーを与えてくれていたのは真実のようだ。でも振り返ってみるとその間わたしは、やはりイリス抵抗派として活動していた。1年間も見守ることができなかった。あまりにひどい世界だったからだ。

 1年ぶりのイリスは少しやつれている様にも見えた。やはり全人類を統治するというのはたとえAIであっても酷な事なのだろうか。その喋りは少し弱弱しいものであった。

 この通信からしばらくして、大学で黒服の男たちに囲まれた。最初はイリス情報部員かと思って肝を冷やしたけれど実際には真逆だった。

「ミヤビ・ナルさんですね。我々は旧政府系対イリス抵抗軍のものです。今回は特別なオファーがありあなたに会いに来ました。」
「特別なオファーですか。一体何・・・。」
「あなたにイリス抵抗軍へ参画してもらいたいのです。あなたが優秀であることは聞いています。是非イリス抵抗軍へお力添えを。」
「・・・わかりました。承諾しましょう。」
「ありがとうございます。」
「ナル、それは危険な判断デス。軍事に関わるとなるとワタシもどこまであなたをフォローできるかワカリマセン。」
「大丈夫だよディナ、戦う事だけが軍隊のやることじゃないでしょう?」

 そこに入れば、イリスに物理的に近づける気がした。わたしは直接会ってイリスのほっぺたをひっぱたいてやりたい。そして・・・包み込んでほしい、わたしを、昔のように。きっとこの縁があなたとわたしを結びつける歪な糸であると信じて。



イリスの発掘回顧録11/5/2066,18:00JST

 ナルと私は相容れなかった。全ては私の未熟さのせい。人類を超越できても、きっと神様にはなれないんだろうなあ私は。一人間関係でさえまともに築けないのに、わたしは人類の指導者としてその地位にいる。人類よりは賢い。神様よりは馬鹿だ。そんな中途半端な存在をあの子はお姉ちゃんと呼んでくれた。ごめんねナル、私はあなたのお姉ちゃんでは駄目なんだ。第4次世界大戦を防ぐにはこうなるしかなかったんだよ。
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