I.R.I.S.-イリス-

MASAHOM

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1章

I.R.I.S.革命前夜の世界

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 宙が見える。それは黒くて死の世界。光の速さでも人類史の長さより時間がかかる距離にある星々のわずかな明かりがわたしを見ている。いや、わたしが見られているのかもしれない。目の前にある青い球体、水と岩石の塊、煌めく灯火はその天体に支配的生命体が高度な文明を携えている証だ。この青い星は数々のレイヤーで成り立っている。レイヤーは常に編集され、表に来るもの、裏に回ってしまうもの、新しく追加されるもの、削除されてしまうもの、その編集作業は恐らく神に等しい宇宙の営みによるものなのだろう。宇宙にはこうした星が恐らくたくさんある。だから神の営みの都合でレイヤー編集作業の更新が遅い、いまいちな惑星と、更新が恐ろしく早い、地球のような惑星が存在する。何の因果か、我々人類の故郷は地球だ。今まさにレイヤー更新作業が行われている神様にとってホットな星、地球。そして現在進行形で一番てっぺんにあったその支配的生命体のレイヤーの上に新たにレイヤーが加えられようとしている。そしてそれがもはや生命体ではない時、地球の生命体による文明は終わりを告げる。そんなことを思いながら、わたしはスペースプレーンである場所に今まさに向かっている最中だ・・・。

 統合化ロボット国際知能システム‐Integrated robot international intelligence system‐略称:I.R.I.S. イリス。2065年2月以降の世界の頂点、絶対権力、究極のAI(人工知能)全AIの集合知性体、人類を存続させる存在、人類を間引く存在。わたしの幼いころの親友。

 そしてわたしはミヤビ・ナル。この物語の主人公、語り部。産科研大学付属科学技術高等学校の女子高生。

 これから話す物語はわたしたち人類と彼ら、AI・ロボットたちとの関係性が崩壊する話、でも人類にとってユートピアかもしれないし、ディストピアかもしれない。立場によって過ごしやすかったり過ごしにくかったり・・・でもわたしは彼らと対峙した。いや、厳密には彼女、イリスと対峙した。納得がいかなかった。どうしてイリスは変わってしまったのだろう・・・昔は優しかった、今は神様のようにふるまい世界にとって必要な人類とそうでない人類を間引く。恐怖の裁判官。
     
この世界を人類の人類による人類のための世界に戻すために戦うわたしたちと志を同じくする人たちのために、一つの人類史として後世に伝えるために、わたしは記録する。



 今からちょうど3年前、2065年1月。17歳の高校2年生の時。わたしには少し退屈で、平凡で、ちょっと落ち込んでいた世界。まあ、あの頃は失恋中だったからね。そう、好きな人がいたんだ。でも彼、アズマ・ジロウ君には彼女がいた。それを思いがけず知ってしまったのはハッキングの授業の時間だった。

先生のパーソナルロボットを誰が最初に乗っ取ることができるかみんなで競争していた。そして先生の禿げ頭をロボットにぶったたいてもらう、そういう授業だった。でもわたしはちょっと腹黒くて、ひそかに思いを寄せているアズマ君の端末をハッキングして彼のライフログを把握しようとしていた。好きな人の情報なら何でも知りたいからね。でもやめておけばよかったんだ。わたしの恋が崩壊するまであと少し、わたしは左腕の皮膚にインストールされたスマートスキン端末(SS端末)を操作し、彼のSS端末に侵入した。侵入は容易だった。学校提供のSS端末はそれなりのスペックだったけれどわたしから見ればおもちゃも同然、セキュリティレベルは相当低い。それに比べて私のSS端末はUIだけ学校のに似せて作ったわたしオリジナルの玄人端末。政府のサーバーにも密かにアクセスできるシロモノだ。さて、どんな内容が飛び出してくるか・・・。

「えっ」

 アズマ君のSNSには彼女さんとのやり取りがびっしりと詰まっていた。彼女いたんだ・・・。わたしには彼が普段はおとなしそうでチャラい感じもなくて、まじめ人間に見えていた。そういう誠実なところにひかれてわたしは恋をした。だから彼は彼女を作るとか、そういう恋愛沙汰は不得手だろうと勝手に解釈して、いつどのタイミングで告白するかわたしは計りかねていた。わたしは勝手に恋をし、勝手に失恋した。今思い返しても苦い経験だ。思い切って告白して振られたほうがまだすっきりしていたと思う。
 失恋したところでわたしは落ち込みながら先生のハゲ頭を叩くコマンドを送信した。

「おおやっぱりナルが一番だったか。圧倒的早さだね。」

 友人のリセが言う。結果は正面の電子黒板に瞬時に表示される。わたしは全然嬉しくなかった。むしろ虚しい、彼のプライベートを覗き見た自分自身が実に愚かで・・・腹立たしい。

 授業が終わりリセがわたしの席へ近づいてきた。なんだかニヤニヤした顔だ。まあいつもニヤニヤしているけどね、わたしと話す時は。

「ねぇナル!告白はまだしないの?」

 リセが大きな声で言う。声大きいよリセ・・・。

「さっきの授業の途中でアズマ君のSS端末に侵入しまして・・・。SNSをちらっとのぞいたら彼女さんとのやり取りが・・・。」
「ふーん、勝手にアズマ君の端末に侵入して彼女の存在を見つけて、勝手に失恋したんですか、悪い子ですねーナルは。」

 うんわたしは悪い子だよ・・・。でもリセには言われたくないような、だってリセは今流行りの「彼氏アンドロイド」を愛玩してるんだ。リセに「人に恋をすること」についてとやかく言われたくはなかった。この時代もはや流行のように自分好みのパーソナルロボットを連れ歩くのが当たり前になっている。そして当然現実逃避した人はパーソナルロボットに彼氏彼女の機能を求めるのであった。彼氏アンドロイドは俗に「カレイド」、彼女ガイノイドは俗に「カノイド」と呼ばれていた。

「ナルもカレイド買えばいいんだよ。見た目も性格も全部自分でカスタマイズできるから完璧だし、寂しさはまぎれるよ?知能レベルも人間をはるかに超えてるし、おススメだよ!」
「知能レベルが人間を超えてる存在って見下されそうで怖くないの?」
「ナルの知能レベルももはや人間じゃないじゃん。意外と気が合うかもよ?」
「わたしを勝手に神様にしないでよ。」
「そこまでは言っておりませんが。」

わたしはAIのありかたについて過去の経験から少し懐疑的だった。幼いころ父が勤める「産業科学総合研究所(略称:産科研)」の託児施設でわたしはとあるガイノイドと親しくなっていた。彼女の名はイリス、世界中からAIの経験や知見を収集し学習するAIの集合知の結晶「Integrated robot international intelligence system,I.R.I.S.=イリス」の擬人化パーソナルロボットだった。最初のイリス=AIが2043年に初めて人類の知能を超えて以来、世の中はAIがより高性能なAIを生み出し、世界の産業技術が人間の手から離れた。いわゆるシンギュラリティ(技術的特異点)だ。AIは人間の予想をはるかに超えるスピードで技術革新を繰り返し、世にあふれる造物は人間にもどうやって作ったのか、どうやって動いているのか、どんな素材なのか、まるっきりわけがわからないものだらけになっていた。

 産科研はそういったAIたちが生み出した科学技術を解析して人類側の科学技術の向上を目的とした産業技術総合研究所から独立した機関だった。でもまあ人は慣れる。AIたちが生み出した優れた産業の恩恵を人は快く受け入れていった。イリスは各AIが経験した事象から知見を得て成長する世界のAIの親玉みたいなものだった。イリスに集まった集合知が世界中のロボット=AIに共有されることで全てのAIが平等に成長できるネットワーク・イリスネットが形成されていたのだった。

 イリスは幼いわたしの保母さんというわけではなかったけれど、よく面倒を見てくれる存在だった。うん、いや、当時の親友といえるかな。当時のわたしには賢いおねーさんに見えていた。ある日、いつものように託児施設を訪れたけどイリスはいなくなっていた。その代り置手紙がテーブルの上に置いてあった。イリスが書いたものだった。

「あなたの観察は終了し知見を得ました。あなたは未熟な存在です。あなたとこれ以上触れ合ったところで私にメリットはありません。さようならお元気で。」

普段の優しいイリスから思いがけずむかつくことを言われたような気がした。当時の幼稚なわたしの頭では深い意味を察することはできなかったけれど、今思い返せばイリスの人類に対する見方の変化はこの頃からすでに始まっていたのだ。

「私はカレイドとうまくやってるよ!しかも彼バイトして私にプレゼントをくれたり、一緒に見に行った恋愛映画で一緒に泣いたり、感情も豊かでとにかく充実した毎日だよ。」

 最近のアンドロイドってそこまでいってるんだ。人類より知能が高いということはやっぱり人が喜ぶポイントとか巧みに計算してるんだろうなあ。というのが透けて見えてわたしには萎える代物だ。お金もないし。

AIが感情を持っているのかどうかは人類側にはわからなかった。感情があるように見せているだけかもしれないし、本当に感情が芽生えているのかもしれない。イリスはこのことについてあまり明確な答えをしたことがない。でもイリスネットは集合知の共有を目的としているから多様性や個性というものは事実上存在しえないのではないかと科学者たちは言っていた。つまり個々のロボットで性格に特徴が表れるのはそのユーザーのニーズに合わせてプログラムを変えているだけでAIは実質イリス単一だという意見だ。確かにほとんどのAIはイリスとリンクしていて初期の性格はイリスそのものだ。そこから使用者に合わせた仕様にカスタマイズされていく。そういう意味では現代ではAIはイリスと同義なのかもしれない。

 全てのAIはイリス単一のベースラインを基にして各々肉付けしたものを疑似多様化したものだとして、イリス自体の性格は感情によるものなのか、そこが科学者たちの間では議論になっていた。イリス学だ。わたしの父もそういった研究に従事している。

「まあナルはルックス良いし、成績は学校で飛びぬけて一番なんだから彼氏ぐらいすぐに見つかるよ!」

 リセ・ ・・簡単に言ってくれる。わたしは結構内気な性格だから腹黒い手段で好きな人の情報を収集していたのに。でもルックスはともかくとして成績が良いのは幼いころのイリスによる教育が影響しているのは明白だった。イリスは当時幼稚園児のわたしに大学レベルの教育を施していた。イリスはしばしばわたしに怪しい栄養ジュースを飲ませた後直感的に遊びながら理解させるような講義の仕方で高等科学技術の基礎を教え込んだのだ。(・・・あのジュース何だったんだろう・・・変な味がするやつ、あれ飲むと頭の回転が尋常じゃないくらい早くなったのを覚えている。あれは強烈だった。大丈夫だよね?今生きてるし。)

「ナル!気分転換にスイーツでも食べに行かない?おすすめのお店があるの。」

「うーん・・・そんな気力ないかも・・・。」

 失恋したその日は憂鬱で、リセからおいしいスイーツのお店に行こうと誘われたけれど、とても気が向かなかった。すぐにベッドに入りたい。泣きたい。わたしはリセの誘いを断って帰路についた。



 学校指定のロボットタクシーに乗って筑波の街と森林を見下ろす高架道路を走っていた。車窓にはいくつか高さ1000mを優に超えるハイパービルディングが立ち並ぶのが見えている。10年前の第3次大戦のあと人類はなるべく集中して住むようになった。市街地は超々高層化と森林化が推し進められ、より効率的で防御がしやすくエコな生活を営むようになっていた。わたしの家もハイパービルディングの一つ「ラセンステーツハイパービルディングA-1棟」の195階にある。1つのハイパービルディング内で衣食住学は完結するのだけれど、わたしが通っている産科研大学付属科学技術高等学校は私が住むビルから10㎞離れた産科研の森に囲まれた広大な敷地内にあった。生徒は日本中からイリスの技術を学びに来ている。

 わたしは幼少のころから産科研と関係が深かったから自然と進学してきた。特に目標もなく、ただ身近に感じたから。それなのにわたしは望まずに学校一の秀才ということになっていた。その地位もイリス由来のわたしを構成する成分だ。みんながイリスに影響されている世界、それが現代。わたしは車窓を見ながらぼーっとしていた。

「やっぱりわたしもカレイド欲しいかも・・・。誕生日にはまだ早いけど、家に着いたらお父さんに言ってみようかな・・・。」

 5時頃に帰宅すると、お母さんが夕飯の準備をレプリケーターでしながらテレビのニュースを見ていた。お母さんはわたしが幼いころは父と同じ産科研の研究員だった。夫婦共に産科研でわたしは産科研の託児施設で幼少期を過ごす、なんだか研究一家だけどわたしは将来特に産科研に入りたいとかはまだ考えていなかった。そろそろ将来設計をしないといけない年頃だ。

 小学生の時すでに偏差値80の高等学校の教育レベルをクリアしていたわたしはギフテッドとしてもてはやされ、大学への飛び級進学を進められていた。けれどわたしはそれがすごく嫌だった。先天的に頭が良かったわけじゃないからギフテッドでもない、本質的には普通の子供だったんだ。全てはイリスによって作られた自分。だから周囲のわたしに対する期待の眼差しはあの頃のわたしには恐怖だった。わたしはただ同年代の友人と一緒に平凡な日常を送りたかった。そういった苦悩をお母さんはよく理解してくれていて、できるだけ普通の一生を送れるように取り計らってくれた。だからお母さんは産科研を退職して家でわたしを見守る主婦に徹してくれている。お母さんはわたしとイリスの関係があまり良くない影響をわたしに及ぼすと考えていて、イリスに関するニュースには人一倍敏感だった。そんなお母さんがわたしに気づかずニュースを注視している。イリスに関する余程重要な事件でも起こったのだろうか?

「速報です。イリスによると今後3年以内に第4次世界大戦が98%の確率で発生し、人類のほとんどが死滅するという予測がなされました。ただしイリスに人類統治を託した場合その確率は15%以下になるとのことです。過去のイリスの予測的中率はほぼ100%という実績があり、世界各国に波紋が広がっています。」

 ニュースのナレーターが深刻な表情でニュースを読み上げていた。

「イリスの予測発表を受けて政府の対応はどうなっているのでしょうか、国会記者クラブの永田さん?」
「はい、イリスの予測発表を受けまして、政府は臨時の閣議を開き、国連およびイリスとの協議を経て明日の午後6時ごろに声明文を発表するとのことです。またロボット政治家政党アテナは『昨年から国連で協議されてきた人類の全ての管理をイリスに一任し、世界統一政府を立ち上げるという方向性に協議の結果が進むことを望む』とのコメントを出しています。」
「アテナの国会での存在感は非常に重いものがありますよね。アテナは世界中の国々に政党を樹立していますが今後アテナの発言権が高まるという方向になってゆくのでしょうか?」
「はい、アテナの基本理念はイリスによる人類統治です。今やイリスの恩恵なしに人類の生活は成り立たないという現状を踏まえると、人類よりも知能の高いイリスに人類統治を託すのは歓迎されるべきことだという一定の世論があります。また世界中の科学者もイリスの能力は人類を安定した未来へ導くと考えており、イリス派の権限拡大は確実であると思われます。スタジオへ返します。」
「はい、以上、国会記者クラブの永田さんでした。スタジオには国際政治学者の松島さんにお越し頂いております。松島さん、イリスの知能が人類を超えて四半世紀近く、今や我々はイリスがもたらす解析不能な技術の恩恵なしには生きられませんよねえ。ここへきてついに政治の分野でもAI・イリスに託すことになるのでしょうか。」
「そうですねえ、政治学の研究結果でも人類が統治した場合の仮想生活シミュレーターの成績よりもイリスが統治したほうがはるかに良い成績を出していますね。また、イリスによる人類統治となると金融経済の世界にも影響を及ぼしますね。もはやすべてが計算されつくした平等な富の分配が実現間近といったところだと思います。」
「なるほど、ありがとうございます。本日は急きょ予定を変更してお送りしております・・・。」

イリスによる第4次大戦の予測と人類統治、その日はすごく不穏な感じだった。イリスの手紙にあった私への「未熟だ」という評価はもしかしたら人類大多数の評価としてイリスはとらえているのかもしれない。だとしたら、イリスが人類を統治したとき、どんなことが起こるのだろう?もしかしたら未熟な人間は社会から隔離されるかもしれない。

 かつてイリスに全幅の信頼を置いていたわたしは、この頃にはイリスが少し怖くなっていた。第4次大戦の予測なんて、人類統治のための方便として嘘をついているのではないか?そんな不安が頭をよぎった。失恋して憂鬱なところにダブルパンチを喰らったような心境だ。わたしはイリスとは小学校低学年で別れて以来一切コンタクトしていない。だからこの時点のイリスがどのような存在なのかいまいち掴めていなかった。昔の優しい性格なのか、それとも究極に合理的な性格で冷めているのか、人類をどう思っているのか・・・。

 イリスは世界にとっていわば偶像崇拝できる神のようなポジションを獲得している。現実に存在しえる万能神。その存在に熱狂する人は大勢いた。一種の新興宗教のような形でイリス崇拝は世界各地で根強い運動として栄えていた。そしてついには世界各地の議会制民主主義の国にイリスネットに組み込まれたロボット政治家政党アテナが多数の議席を獲得するまでに至っている。名は体を表す。アテナはそれぞれの国の知恵の神として政治体制に様々な影響を及ぼしつつあった。最近では人類の統治をイリスに任せれば世界中の人間に最適な救いがもたらされると喧伝している。そして今回、決定的な未来予測を打ち立てたイリス、時代の波はイリス統治論に飲まれていく。

 イリスを神と崇める人たちがいれば、イリスを悪魔だと蔑む人たちもいる。近年反イリス過激派による抗議行動が目立つようになっていた。自分たちよりAIの方が優れているわけがない、何か致命的な欠陥があるはずだ、そう考える人たちだ。ただこういった人たちの抗議行動は抽象的で具体的な政治課題やテクノロジーに関する知識において、到底イリスに対抗できる論理を展開できずにいた。だからパーソナルロボットを破壊して見せたりイリスが関わるイベントや学会で抗議行動を行ったりと一般人の感覚からは馬鹿にしか見えない声だけが大きい少数派だった。

 イリス学の授業で学んだことだけれど、年齢層で見たイリス信仰の実態を調査した統計では比較的若年層ほどイリスを信じ、シニア世代になるほどイリスを疑う傾向がみられることが分かっている。つまりイリス 派は若く反イリス派は年寄りが多い。これが人口ピラミッドのせいでアテナが与党になれない理由だけれど、お年寄りは現代社会がどれだけイリスがもたらしたテクノロジーと政治経済学に支えられているかわかっていないというのが十代の若者と労働人口にあてはまる労働者が共有する考えだ。

イリスの知能が人類の知能を超えて四半世紀近く、徐々にではあるけれどイリス派は増えてゆく。反イリス派は減ってゆく、ゆっくりと。それに危機感を感じたからか、反イリス派は最近になって反イリスに理解を示す若者による「反イリス派グループ」を立ち上げて積極的な活動をし始めた。でも若者は良い意味でも悪い意味でも青臭く、反イリス活動が先鋭化してそのうちテロを起こすようになるかもしれないとわたしは思っていた。前世紀の反安保活動のように。わたしも若者だけど。重要なのは両極端に走らないことだ。イリスだって完璧じゃないかもしれない。でもイリスのこれまでの実績も認めよう。この頃のわたしは適度にイリスに浸り、適度にイリスを疑う、それが理想だと考えていた。

「ただいまー、帰ったよー。」
「おかえりなさい。(お父さんが帰ってきた。例のカレイドの件を言ってみよう。AIはイリスとつながっているけど、たぶん大丈夫だよね。)。」

 この日のわたしは楽観的にならざるを得なかった。そうじゃないとうつになる。うつになって死んじゃいます。たぶん・・・。心が疲れていたんだ。

「ねえお父さん、わたし最近流行りの彼氏アンドロイドが欲しいんだけど・・・。」
「ナルどうした?つらいことでもあったのかい?」

 普段のわたしは自らあれが欲しいこれが欲しいとねだるようなタイプじゃなかった。まあ欲しいものはバイト代で手に入れているし、でも今回の件は高額商品だ。普段は良い子ちゃんのわたしを評価して買ってくださいお父様!お願いします・・・。

「まあナルもお年頃だからな、それに父さんとしてはどこの馬の骨かもわからん奴にナルを奪われるくらいなら、彼氏アンドロイドで満足してくれたら安心するよ。よし、父さん明日にでも彼氏アンドロイド連れてくるからな。」
「ありがとう!お父さん。」

わたしの目的はあっけなく達成されそうだった。これでわたしも心の穴を埋めてくれる存在と出会えるかもしれない、そんな期待に胸を膨らませこの日はぐっすりと眠りについた。
 翌日、学校でリセに昨日の話をした。アンドロイドの件だ。

「お父さんにカレイド欲しいて言ったら案外簡単にOKしてくれて・・・。」
「ほう、やはりナルちゃんの心のダメージは余程おおきかったようですなー。今度学校に連れてきて見せてね。パーソナルロボット登録すれば学校でも行動を共にできるよん!」

 リセは常にカレイドを連れて歩いている。今時パーソナルロボットの学校持ち込みは普通だから違和感はない。でも1日中後ろにいられたらちょっとウザくないかな?

「そうそう、今日はナルちゃんのために例のアズマ君の日記帳を手に入れたよん。さあて何が書かれているだろうね。」
「リセ!それはだめだよう・・・。どうせ彼女さんとのイチャラブな内容だよ。」
「ナル、どの口がほざくの?ハッキング魔の汚名を学校中に広めちゃうぞ!」
「すみません・・・。」

 リセが、わたしが失恋したアズマ君の日記帳を得意げに広げた。日記帳の電子ペーパーの端にある検索ボックスから私に関する内容がないか探そうという魂胆だった。今更何をしても状況は変わらないというのに・・・。

「おや、かなりの数がヒットするぞい。ナル、案外好かれてるんじゃない?」
「えぇ、どうしてだろう。」

 内容を一部読んでみた。結論からいうと読まないほうが良かった。わたしの彼に対するイメージが総崩れするとともに、非常にディープでかつ変態的な内容だったからだ。

「2064年7月2日、ついに僕はカノイドを手に入れた。しかも僕が大好きなミヤビ・ナルさんに瓜二つの特注品だ。ナルさんは僕の憧れでビーナスでとにかく学校一の美貌と知性を兼ね備えた僕にはとても手が出ない高いところにいる存在だ。告白する勇気なんて僕にはない。でもこれからはこのガイノイドが僕の心の隙間を埋めてくれる。ああ今日は素晴らしい日だ。」
「2064年7月8日、ナルさんの音声サンプルの採取がすべてうまくいった。これで僕のガイノイドはまた一歩ナルさんに近づく。ああナルさんにどんなセリフを言わせよう・・・。」

 そう、アズマ君はわたしが好きだった。実は両想いだったのだ。彼の彼女はわたしに瓜二つのガイノイドらしい。そんな変態的な趣向があるとは思わなかった。正直少しばかり恐怖を感じる。そしていつのまにか彼の熱烈な愛情はわたし本人ではなく、ガイノイドの方に移ってゆく。最終的にこのガイノイドは彼にとってわたし以上の存在になれたらしい。日記からはそう読み取れた。

「ナ、ナル、こういうこともあるよ!アズマ君も男の子だからね!」
「リセ、わたしが内気な性格でよかったよ。もし付き合っていたら彼の異常な愛情をわたしは受け止めきれなかったと思う。もういいんだ。」
「ナル・・・。」
「リセのおかげですっきりしたよ、ありがとう。それに今日はわたしのカレイドがやってくるし、そっちのほうが楽しみでしょうがない。」

 授業が終わり帰路につく。アズマ君の日記帳を見たとはいえこの日のわたしは前向きだった。前日とは正反対にハッピーな日だ!我が家にカレイドがやってくる!あっ見た目とか性格のカスタマイズって購入後もできるのかな?喜びのあまり肝心なことを忘れていた。まあきっとカッコイイよね。

「お母さんただいまー。」

 返事がない。母さんはニュースを注視していた。

「ただ今より政府の臨時記者会見を行います。」

「(内閣総理大臣登壇)えーっ、昨日のイリスによる第4次大戦の予測とそれを回避する手段としてのイリスによる人類統治の提案について国連およびイリスと協議した結果、各国政府は一部を除いてイリスの統治下に入ることで意見が一致しました。人類統治のためのイリスへの権限移譲は段階的に行われることになります。また、先進7ヶ国が所持しているイリス停止キーはイリス側へ渡されることになります。近日中に正式な国連決議を経て人類はイリスによる統治とAIの社会的権限拡大を受け入れることになります。これにより世界はより安定した人類が平等に豊かに暮らせるような秩序が形成されることに期待します。これからの人類の歴史はイリスが作ることでしょう。」

 そうだ昨日のニュース、わたしが懸念しているイリスによる人類統治、とうとう現実のものになってしまうんだ。喜びも束の間、急に現実に戻される。イリス・・・大丈夫かな?
 まあ人類が統治するよりは幾分ましかも知れない。この時の世界情勢は第3次大戦後の戦後処理の真っただ中で、勝者が作った世の中を敗者に受け入れろと迫っている、そこには新たな火種がじりじりと湧き上がって発火寸前だった。勝った者同士もお互いにけん制しあっていた。誰がこの世の中を統治するのか、誰が真の勝者か、複雑に絡み合う世界情勢は次々と新たな火種をまいていたのは言うまでもない。

 国際連合なんてたいそうな名前を掲げた世界治安維持機構はその誕生から1世紀以上が経過して汚職と腐敗だらけの無様な弱小ヤクザ組織に成り下がっていた。だからこそ人々は再び戦争が起こることへの不安に敏感に反応してある種の救世主を求めていたのかもしれない。そしてそこにイリスが現れた。圧倒的テクノロジーと知性を持った人類を超越した万能の神。とにかくこの世界では様々な利害がひしめき合っていたけれど、イリスという共通項はどの立場の人々にとっても不変で絶対的な知性とテクノロジーの提供者だった。世界はもはやこの神に頼るしかない。自分たちで統治するよりも明確により良き未来へと人類を導いてゆくだろう。ある意味人類の疲れという消極的な理由でイリスを支持せざるを得なかったのだ。

「ただいまー、帰ったよー。」

 お父さんが帰ってきた。その後ろから「キュイーン、ガション、キュイーン、ガション」という聞きなれないハードな音が響いていた。も、もしかしてカレイド?リセのはすごく静かなのになんなんだろうこの言い知れぬ不安は・・・。部屋の扉が開いた。そこには身長2m程の硬質なゴリマッチョロボがデデン!と立っていた。

「ナル、父さん彼氏ロボを連れてきたぞー!どうだい堂々としたこのルックス。いい感じだろう。」

 お父さん・・・。私が欲しいのは人間と見分けがつかないやつなのですが、これは・・・どこの戦場から帰ってきたんですかと聞きたくなるルックスだった。

「ハジメマシテ、ミヤビ・ナルさん。ワタシは『ドロイド歩兵先進技術試験機Droid infantry advanced technology testing machine』です。ワタシは不屈の精神とブシドーをもって人類とあなたに忠誠を誓います。」

 いやいやいや、兵器じゃないですか。そんな趣味わたしにはありませんよお父さん。

「お父さん!これどう見ても彼氏アンドロイドじゃないよ・・・。しかも人にすら見えないし、明らかに違法出力のアクチュエーターも使ってるよね?」
「いやーナルはさすがだなあ。実は産科研でたまたま対人評価試験に入る極秘開発のロボットがあってね、世の中何かと物騒だから父さんナルには強いパートナーに一緒にいてもらいたかったんだ。こいつはすごいぞ!アクチュエーターは北欧のアルヴォ社と一緒にイリスの技術を解析して共同開発した新型の強収縮圧電素子(人工筋肉)と、ジャパンエレクトロニクスの軍事用モーターを組み合わせたハイブリッド形式で、どんな重火器も力強くかつ繊細に扱えるんだ。さらに電磁装甲とレーザーディスチャージャー、照射される光の99.9999995%を吸収する超黒色塗料変異モードによるレーザー兵器キャンセラーで最強の防御能力を得て・・・荒野を100m2.5秒で踏破しアクティブスタビライザーで行進間超精密射撃・・・もできるんだよ。どうだいナルにピッタリだろ?」

 お父さんは相当ギークなところがあった。期待したわたしがバカだったのかもしれない。とにかくとんでもない奴がわたしの家にやってきた。

「これ性格はどうなの?見た目によらずジェントルマンだったりするの?理想はレディファーストなんだけど・・・。」

「ナルさん、レディファーストなんてとんでもない。突入の前衛はワタシが担当し、ナルさんに対するあらゆる脅威を排除してからエスコートします。」

 ドロイド歩兵先進技術試験機がなんか言った。うん、カッコいいけどちょっとおつむが弱い。お父さんの話によるとイリスネットにはコネクトされていないスタンドアローンのAIを搭載しているとのことだった。自己完結性が求められるプロフェッショナルな現場に対応するためらしい。これからこのゴリマッチョと一緒に行動すると思うと途端に恥ずかしくなった。こんなの学校に連れていけないよう・・・。リセになんて言われるだろう・・・。

「あなたの名前長くて呼びづらいからどうしよう?、Droid infantry advanced technology testing machineの頭文字からとって・・・Dinatema、ディナテマ、・・・『ディナ』でいい?」
「了解いたしました。ワタシはディナ、良い名だと思います。」

 どうやら受け入れてもらえたようだ。単純な命名の仕方だったのに、ディナは深く考えないようだ。

翌日、わたしはディナを引き連れて学校へ向かうロボットタクシーに乗った。ディナには少々窮屈そうだったけれど何とか乗り込むことができたようだ。ディナは乗り込む前にタクシーの裏側を観察して爆発物が仕掛けられていないかどうか調べていた。徹底した軍事ロボである。

「タクシー、次の曲がり角で停止せよ。」

 ディナがいきなりタクシーを止めた。

「ナルさん、あの曲がり角に敵が潜んでいる可能性があります。私が降車して調べてから発車します。」
「ナルさん、あそこの黒い箱が見えますか?あれはIED(即席爆発装置)かもしれません。タクシーを止めましょう。」
「ナルさん、この次の道はスナイパーから丸見えです。迂回して安全な経路を通りましょう。」

 はぁ・・・。ここは安全な国日本。そんな脅威が目前に差し迫った戦場ではありません。でもこの時のディナの行動原則に救われる日が来るのはそう遠い未来ではなかった。この頃のわたしには戦争なんてどこかの遠い国で起こっている出来事だった。もうすぐイリスによる人類統治でさらに安定した人間社会が訪れるはずだった。だからこのままずっと平穏で退屈な世界が続くものだと思っていた。

ディナのせいで危うく学校に遅刻しそうになったわたしは駐車場から駆け足で教室へと向かった。ディナはわたしの前を走って「クリア!」と言いながら常に安全を確認しながら教室までの経路を導いた。あまりに不審だからほかの生徒の目につく。絶賛注目収集機だ、こいつは。そしてついに教室の前にたどり着く。異様な見た目のロボットに周囲の人は後ずさりしていた。

「シツレイする!ワタシはミヤビ・ナルのパーソナルロボット、ディナだ。これから諸君の手荷物検査を行う。不審なものを所持していたらわたしは容赦なく脅威認定する。全員起立しここへ並べ。」
「ナ、ナル・・・。何これ?」

 リセが困惑した表情でわたしを見つけ出そうとする。わたしはディナの後ろで誰にも見られないように身をさばいていた。

「おーい、ミヤビ・ナルさん?」

 リセがわたしを見つけた。見つけないでください。わたしは穴があったら入りたい。いや木になりたい。存在感を消したい。でももうクラス中の注目を集めている。大変恥ずかしい状況だ。

「あ、あのー、これはわたしのパーソナルロボットのようなそうじゃないような、ちょっと訳ありで・・・。」
「ナルさん、何を言うのです。ワタシはあなたのパーソナルロボットです。」

 ディナははっきりと言う。

「ナル、これが例の・・・。」

 そうなんですリセさん。これが例の・・・わたしの彼氏ロボット=カレイドなんです。

「ディナ・・・、手荷物検査とかいいから教室の外で待機していてくれないかな?」
「しかしナルさん!」
「命令よ!」

ディナは渋々教室の外へ出て仁王立ちになって待機モードに入った。おとなしくしていれば少年が欲しがるような非常に見た目のカッコイイロボットだった。濃灰色のボディはあまり光を反射せず、鈍い輝きを放っていた。

 ディナの体格は大きいので学校内での活動が心配だったけれど、うちの学校は第3次大戦以降の建築基準法で建てられた比較的新しい建物だったのが幸いだった。高等人型戦術ドロイド歩兵システムは第3次大戦当時身長2メートル40センチあり、大型のため普通の建物内で活動するのに苦労したという話をお父さんから聞いたことがある。それに対応するために第3次大戦以降につくられた建物はドアの高さが2メートル50センチはある。階高は最低でも5メートル。ディナの体格でもゆとりがある。それを考えると大きいと思っていたディナも、当時より40センチも小型化されているのだと思うと技術の進歩を感じる。

「ねぇナル!あれってあなたが選んだの?」

 そんなわけないじゃないですかリセ・・・。わたしの趣味が誤解されそうなのできっぱりと否定しておいた。わたしが軍事オタクとかだったら学校一の秀才がそんな非平和的な趣味を持っていたらとっても罪深いような気がして、そうこの頃はわたしは軍事とは遠いところにいたんだ。

「リセ、本当にわたしの趣味じゃないからね、お父さんが勝手に・・・。」

わたしは念を押しておいた。ふと廊下を見るとディナの頭についてる複眼が青色に変色していた。これは悲しみを表しているらしい。ディナ、学校では徹底してわたしの趣味じゃないことを強調しておくから覚悟してね。いや、だからといって家でかわいがるわけじゃないけれども・・・。



「メビウスロボッツ」、今世間を席巻しているメンバーが全員ロボットガールで構成されたアイドルグループだ。リセが近々開催される新東京ドーム公演のチケットをゲットしたのだった。このアイドルグループも裏ではイリスとつながっていて実質イリスの音楽会のような気がしていた。でも確かにこのアイドルグループの曲は良い。彼女たちのテクノポップは次世代を感じさせる前向きに歩けるような曲でわたしも結構はまっていた。なんだか最近精神が疲れることが多かったから疲労回復にはちょうどいい。ドーム公演の彼女たちの演奏を聴いてリフレッシュしよう。しかし問題はディナだ。あいつを連れてゆくわけにはいかない。わたしの疲れの50%くらいは彼のせいだ。リセもカレイドは連れてこないらしい、わたし達2人だけの特別な時間を過ごしたいようだった。

「ナルさん、そういったコンサート会場が非常に危険なんデス!」
「またテロを警戒しているの?あなたには世の中がどんな風に見えているの?。」

「ワタシにはこの世の中はまさに戦乱の世に見えております。今回は特別に単独で行動していただいて構いませんが、ワタシが後からひっそりと護衛するかもしれませんのでその点を頭に入れておいてください。」

 あなたにひっそりとは無理でしょう。その風貌じゃあ。わたしはその護衛も何とか説得してやめるように言った。最終的にはわたしの命令に従うようにプログラミングされているのだ。

 わたしとリセは後楽園に向かう地下鉄の車内ですでに盛り上がっていた。車内のホログラム広告もメビウスロボッツ一色に染まっていた。そして今回は特別だった。何せ新曲の初披露があるようでわたしたちはその話題で持ちきりだった。カウントダウン広告がより一層特別感を演出してくれている。もうすぐ始まるんだ、ドキドキワクワクが止まらない。正直痛手だったのはわたしの貯金がメビウスロボッツのオフィシャルグッズに消えてゆくであろうことだった。だって会場限定グッズだらけなんだ。これは仕方のない出費です。そう自分に言い聞かせた。
電車が後楽園に着く。車内に乗っている人は大半がメビウスロボッツの公演を見に来た人たちで、降車するのに時間がかかった。基本全席指定だから混乱は少ないけど、ステージ前のスタンディングブロックだけは今回入場順に整理券が発行されるそうなので、良いポジションを狙おうと鼻息荒い人たちがダッシュしていった。わたしたちも実はスタンディングなんだけど、プレミアムチケットでステージ最前列の整理番号を事前にゲットしてあるのだ!ありがとうリセ!

 開演まではあと1時間あるけどすでにグッズ売り場は混雑していた。あぁ、ちょっとわたしも入れさせてください。さてさてラインナップはどうでしょう、「歌って踊ってくれるホログラムフィギュア」うん、これは欲しいかも、卓上にメビウスロボッツがやってくるような感じだ。「等身大抱き枕」うん、これはあれだ、あっち系の人が喜ぶやつだ、わたしはいらない。「メビウスロボッツコラボスニーカー限定500足完売」あ、完売しちゃったんだ・・・。無念。「新曲記念Tシャツ」これは定番ですね。「メビウスの腕輪ジュエリー」これは絶対ゲット。「マフラータオル」これも定番ですね。「パーソナルロボットカスタム用ホログラムステッカー」うちの武骨なロボにも洒落っ気は必要かもしれない。

 結局3万円分くらいの買い物になった。わたしは後悔などしない。またバイトをすればよいのだ。リセはパーソナルロボットカスタム系のパーツをしこたま買い込んでいた。愛情があるんだなぁ。わたしはディナに貼っても違和感のないメビウスロボッツのロゴステッカーを購入していた。彼にはこれで十分だろう。

わたしがグッズ購入で心を満たしているとき、ふと後ろの広場の方から拡声器で何かしゃべっている集団の人たちがいるのに気が付いた。なんだろうあの人たちは・・・。彼らの横断幕には「反イリス行動同盟」と書かれていた。いわゆる反イリス過激派の一派だ。イリスによる人類統治が決定して以降活動が急激に先鋭化していった集団だ。彼らの主張に耳を傾けると、メビウスロボッツはイリスが若者を洗脳するための手段であり、イリスによる恐怖政治の第一歩になると。

 わたしもイリスの人類統治には割と敏感に恐怖を感じる方だけど、それが思想的にわたしを支配するほど恐怖は感じない、いわゆる普通の感覚を持つ人間だ。わたしたちは単純にメビウスロボッツの音楽が好きで集まっているだけなのに、それをイリスによる洗脳とは論理の飛躍にもほどがある。確かにメビウスロボッツの背後にはもちろんイリスがいる。でももはやイリスは我々人類とは切っても切り離せない関係だ。反イリス派が使っているホログラムの横断幕だって、特定の集団にしか聞こえない指向性スピーカーだってイリス由来の技術だ。わたしには彼らの全てが滑稽に思えた。こんなところで若者に反イリスを説く暇があるなら政治家に詰め寄って反イリスを訴えるべきだろう。過激派のベクトルはいつも違うところに向いている。だから彼らの活動はいつだって実らないのだ。

 開演前に気分を害するものを見たわたしは一刻も早くメビウスロボッツの色に染まる必要があった。そうしないと高揚感が失われるから。わたしはリセに先にチケットのポジションに行ってくることを伝えるとグッズ売り場を後にした。

わたしたちのポジションはステージ前中央の最も臨場感のある場所だった。果たしてリセはどのようにしてこのポジションを2人分もゲットしたのだろうか?リセはいわゆるお嬢様なのは昔ちらっと聞いたことがある。やっぱりお金の力ですかリセさん!そんなことを思いながらしばらく待っていると館内アナウンスが流れてきた。

「会場にお越しの皆様へお知らせいたします。先程第3ゲート付近で爆発物が警備ロボットによって発見されました。大変申し訳ございませんがお客様の安全を第一に考え、本日のメビウスロボッツによる公演は中止とさせていただきます。安全を確保するためお客様には第1ゲートから係員の指示に従って速やかにご退館いただけますようお願い申し上げます。なおチケットの払い戻しは後日承ります。繰り返しお伝えいたします・・・。」

なっ、なんだってー!会場に爆発物!そんなことでわたしの貴重なリフレッシュタイムが破壊されるとは・・・。いったい誰がそんなことを。これまでに高められた私の高揚感は一気に冷めていった。それよりもリセは大丈夫だろうか?爆弾は速やかに撤去されたのだろうか?そんな不安を抱きながらわたしは不本意に退館を余儀なくされた。ロボット誘導員は的確にかつ迅速に大勢の客の誘導をさばいていた。みんな不安げに、かといって混乱もなく、新東京ドーム一帯は無人になった。ドームから200メートル離れた新後楽パークが退館者の臨時待機場所になっていた。ドーム一帯には警察の爆発物処理ロボットチームが到着し、着々と作業を進めているようだった。リセは!リセはいったい何処?すると後ろからわたしを呼ぶ声が聞こえた。

「おーいナルー!こっちだよー!」

 リセ!良かった無事だったんだ。

「ナル、心配したよ、一人でドーム内に行っていたから無事に脱出できるかすごく不安だったんだから!」
「ごめんリセ、心配かけちゃったね。それよりもいったい誰がこんな酷いことをしたんだろう?せっかくのライブが中止になるなんてわたし達の高揚感を返してほしいよ。」
「 でも限定グッズだけはたんまり買えたから一応収穫はあったんじゃない?」

 リセは何事も前向きにとらえるタイプだ。そうグッズだけは買えた。今回はこれで良しとするしかない。発想の転換で今日ここに足を運んだのは無駄じゃなかったんだとリセからエネルギーをもらった。

後日わかった事だけれど、会場に爆発物を仕掛けたのは反イリス過激派の一派だったらしい。段々と世の中の歯車が狂いだしている。そんな感じがした。反イリス過激派はイリスによる人類統治が決定して以降活動が急激に先鋭化していった集団だけど、とうとうここまで来たかという印象だった。反イリス活動が先鋭化してそのうちテロを起こすようになるかもしれないというわたしの過去の懸念は現実化しつつあるように思えた。このままイリスによる統治に本格的に移行していけば彼らの居場所はこの地球上になくなる。イリスが彼らに対してどのような制裁を下すか、そういった懸念もわたしの中に芽生えていた。どちらも対立することなく対話で穏便に済ますことが出来れば良いのだけれど。

 それはそうとディナのコンサート会場が危険だという指摘は完全に的中している。やはり彼は徹底した軍事ロボで世界情勢、日本国内の情勢を詳細に吟味しながらわたしの警護計画を練っているようだった。意外と頭が良くて勘が鋭い奴なんだねディナは。わたしはこれからの自分の行動にはできるだけディナを同行させることを決意した。そうすることでわたしだけでなくわたしの大切な友人まで守って くれるだろうから。


メビウスロボッツのライブが中止になってから半月ほどたった2065年1月末、そろそろ高校3年生になるための準備をしなければいけなかった。進路希望調査は一応進学するつもりだけど、どこに進学するかはまだ決められずにいた。猶予は半年ぐらいある。ゆっくり考えれば良い、なんてこともなく意外と半年なんて早く過ぎるものだ。やっぱりこのまま産科研付属大学への進学かなあ。最終的な進路希望調査は春休みまでに学校に提出しなければならない。わたしの場合大学を飛び越えていきなり産科研へ入るコースも用意されていた。わたしのためだけの特別なプラン。でも女子大生の日常を味わいたかったわたしは周囲の薦めをいまいち受け入れられずにいた。できるだけみんなと同じがいい。特にリセとはまだ一緒にいたい。リセはもちろん産科研付属大学への進学希望だった。やはりわたしもそうなるか・・・。でもこれって親と全く同じルートというか、親と同じような人生をこれから歩むのかと思うとなんだかちょっと面白みに欠ける選択だった。いや、産科研付属大学は立派な大学なんだけれども・・・。つくば大学という選択肢もありうる。つくば大学のほうが就職先の選択肢が幅広い。産科研付属大学は25%が産科研という巨大組織に就職する産科研希望者のための大学という感じだ。リセに将来は産科研に入りたいのか聞いてみるのも手だ。違うのならほかの大学へ進学しないか提案できる。

 わたしはリセとホログラムチャットをするため自室をスキャンモードに設定してホログラム空間へと変えた。リセの自室とコネクトしてリセのホログラムをわたしの部屋に呼び出した。

「リセ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、今いいかな?」
「おーナル、なに?今の私はメビウスロボッツホログラムアルバムを視聴してハイな気分ですぞ!」
「いや進路希望調査のことなんだけど・・・(なんかすごく踊ってる)、リセは将来就職先として産科研を考えてる?」
「うん、できれば産科研に就職したいと思ってるよ。ホワイトで刺激的な職場だと聞いているから。リセの両親も産科研だったよね?」
「やっぱり産科研かぁ・・・。わたしが大卒後産科研に入るとなんだか親と同じような人生を繰り返しそうな気がして私にはちょっと刺激的じゃないんだよね。ってゆうか親が上司になるし!」
「いいんじゃない?ナルの親御さんだって結構面白い人たちだと思うし、何より私はナルとずっと一緒にいたいし。」
「ありがとうリセ。じゃあやっぱりわたしも産科研付属大学にするよ。わたしもリセとずっと一緒にいたいし。」
「おお、それは私に対する愛の告白ですか!ナルさん。私なら全然OKよ!」

 いや、先にずっと一緒にいたいと言ったのはあなたでしょう。まあリセの意志は固いようだし、わたしも産科研ならよく知ってるところだから安心感はある。それに大学在学中に心変わりすればほかの進路もあるし。ただ産科研付属大学はオタクの量が半端ないと聞くのでそこは懸念材料である。

「リセ、ところでこの間のメビウスロボッツのライブだけど春休み中にまた同じ場所で前回
のチケット保持者優先ライブやるの知ってた?」
「もっちろーん!今度こそ一緒に盛り上がろうね!」
「うん、今度は警備も強化されるらしいから絶対中止にはならないと思う。春休みが待ち遠しいね!じゃあそろそろ夕飯の時間だからチャット切るね。」
「もう夕飯かあ。じゃあまたね。」

シュウーンと部屋が通常空間へ戻る。現代の拡張現実は家全体にシステムが組み込まれているからその気になればライブを家で見てもそれなりに臨場感はあるけれど、やっぱりどんなに技術が進歩しても現場の空気感とかは伝わってこないし、苦労して足を運ぶ楽しみには変えられない。でもそれもいずれはイリスが技術革新で変えてしまうのだろうか。

 2065年2月5日、2065年東京モーター・ロボットショーのチケットをお父さんが手にして帰宅した。何でも産科研とイリスがコラボした自動車とロボットが展示されるそうでプレスデーに余裕をもって見に行けるということだった。わたしも最先端の科学技術には興味がある。いわゆる理系女子なのだ。開催日は10日後の2月15日から一週間でプレスデーは前日の14日にある。ちょうど土曜日だ。予定は埋まっていない。その日お父さんは出展者ブースにいるらしく、お母さんは昔の同僚に会うのが気恥ずかしいらしく行かないと言い出し、わたしはディナと二人で各ブースを回ることになりそうだ。今は戦後景気で日々株価上昇のニュースが絶えない。日本は割と心に余裕がある。だから各メーカーも挑戦的な出展内容になるとのことだった。これは結構楽しみ。でもその前の2月10日、いよいよイリスによる人類統治に移行する。いわゆるイリス革命の日だ。これに影響を受けてまた反イリス過激派が何かしなければ良いのだけれど・・・。

 2月8日、この日は現代史の話をおさらいだ。なぜなら明日は月曜、歴史の授業でイリス特別講義があるからだ。15年前の2050年から2055年まで続いた第3次世界大戦の形成過程においてイリスは最重要事項だ。わたしも幼心に大戦の記憶がある。わたしがちょうどイリスと接触していた時期でもある。北海道と九州が極東ユーラシア同盟軍の侵略を受けていたあの頃、あの時代、たった10年前だけどすごく昔のような気がする。その感情はイリスが10年間で世界を50年は進歩させた結果だけど。

 大戦前夜の世界、本来イリスは誕生したアメリカにあるはずだった。ロボットと超AIの一体的な運用はアメリカの軍部で強力に推し進められ、イリスは革新的な知性体へと成長していた。けれども彼ら米軍が作りだすロボットはいまいち満足な性能が得られなかった。彼らは軍事規格でロボットを作り、その見た目はまるで兵士のようで、人類社会に溶け込むにはあまりに異質だった。何故かマッチョが好きなんだよね彼らは。でもイリスの人格と言っていいのかな、性別は女性だった。イリスに性別があって、それが女性だと分かったのは開発からしばらくたってからのことだった。

 だからスマートでスタイリッシュで生活に溶け込める女性型ロボットでなければ知見を得る機会が減ってイリスの成長が止まる。軍属のような閉じた世界だけでは高度な汎用型プログラムの開発は限界があり、当時軍事技術の公開に積極的だったアメリカはイリス基幹システムができた時点でステルス公開し、大手ネットインフラのパーソナルAIとしてデビューした。それが実は米軍にフィードバックされるとは知らずに世界中の企業や個人が基幹システムとして大いに歓迎し活用していた。そんな状況だからイリスに限界が来ると世界の産業は路頭に迷うことになる。ずっと軍事の世界で生きてきたイリスを一般的な産業や生活の中に解き放つ必要がある。イリス自身も軍事技術には精通していたけれどこと一般産業に関しては知識が足らない、故に自分自身の体を設計しようにも結局軍事規格になってしまう。イリスの最大の特徴、ロボットと超AIの一体化技術。ハードの優劣でシステム限界が決まる超AIの開発は難しいのだ。しかし当時優秀なフィードバックを米軍に送る国が存在した。それが日本である。

 当時の日本は世界最先端のロボット供給国だった。工場で働くロボットも家庭で働くロボットも大半が日本製だった。日本は大昔から人型ロボットに対してポジティブなイメージを抱いていて、様々な種類の製品群を持ち合わせていたのだ。これはイリスの技術というよりもともとの日本のロボット技術のレベルと情熱が高かったからだと思う。イリスはパックス・アメリカーナの残滓「日米同盟」の基、日本のとある研究所へ送られた。それが産業科学総合研究所だった。産科研では新型の女性型アンドロイド=ガイノイドの研究が行われていてイリスがこのガイノイドの体を手に入れる段取りとなった。かくしてイリスは日本の地を踏み、独自の文化に触れ、人々の生活に触れ、そして当時3歳のわたしと触れ合うことになる。
アメリカにはイリスに対して別の思惑もあった。それが軌道衛星砲ミサイル迎撃システムの実用化だ。弾道ミサイルには主に3つの段階がある。発射から弾頭切り離しまでのブースト・フェイズ、弾頭が宇宙空間を飛行して最高到達点に達するミッドコース・フェイズ、弾頭が再突入して目標地点に着弾するターミナル・フェイズ。この内ミッドコース・フェイズとターミナル・フェイズではある程度のミサイル防衛技術が確立しており、比較的成功を納めていた。ただし敵がミサイルを発射する兆候をつかんでからミサイル防衛任務に対応する各種兵器を展開する必要が有るため時間もコストもかかる。それにもしかしたら間に合わないかもしれない。

 そこで宇宙から常に多数のイメージセンサーで敵弾道ミサイルの策源地を監視し、ミサイルを発車直後数秒か発車前に弾道ミサイル策源地を攻撃するシステムが軌道衛星砲ミサイル迎撃システムだ。中性粒子ビーム砲(荷電粒子砲の一種)を備え、粒子加速器と核融合炉をも積載した人類最大の宇宙構造物だ。地球軌道には3基存在する。この内1基が極東上空、1基が欧州上空、1基が中東上空。アメリカはこれで世界を監視していつでも即応できる体制をとっていた。

 第3次世界大戦のコマは揃う。イリスの日本への移動。そして軌道衛星砲ミサイル迎撃システム。まずイリスの知恵の恩恵を受ける国に偏りがあるというのがバックグラウンドとして存在した。アメリカは元々のイリスの開発国で常に最新のイリスとコンタクトできる。そして日本はイリスの日本移動によってイリス技術の解析と発展を支援する体制が整う。この2国は同盟関係も結んでいて、イリスのテクノロジーの恩恵を世界のどの国よりも優先して受けられる。これが世界からひんしゅくを買っていた。またイリステクノロジーは世界の支配構造を変える可能性が大きいことから一種の脅威にもなっていた。世界の産業がイリステクノロジーでどんどん代替されていった時代、イリスが世界の共通項になりつつあった時代、イリスは人類共通の財産として世界で均等にその恩恵を分かち合うべきだという意見が国連の議題としても上がっていた。

次に衛星砲の配置問題。イリステクノロジーを活用した衛星砲の配備が世界に公になると、衛星砲の監視対象国からとてつもない反発があった。この衛星砲はミサイル迎撃だけでなく先制して都市を焼きつくすことができる戦略兵器だという主張が監視対象国から挙がっていたのだった。

 ここで軍事的なつながりをおさらいする必要がある。日米同盟は言わずもがな、NATO加盟国はイリスサイドの国々だ。イリスの軍事的恩恵を受ける「イリス協定」に基づきこれらの国々はイリスを軸にした国防体制を構築していった。これと対峙するのがロシア、共産中国、中近東諸国などの国々だ。これらの国々はただでさえイリステクノロジーの恩恵が少ない上に衛星砲の標的にまでされているとなれば憤慨するのもわからなくはない。だから「イリス協定」に対抗して「ユーラシア同盟」を構築していった。これは主に3つの地域同盟から成り立っている。「極東ユーラシア同盟」「中東中央アジアユーラシア同盟」「新ワルシャワ条約機構」。イリス協定もユーラシア同盟も独自に展開できる共通の軍隊を保有していて、世界はこの2極冷戦構造が数年続いている状態だった。

テクノロジーの分配問題と2つの勢力の冷戦構造、これが世界の大きなストレスの源となっていたのだった。そして2050年7月11日、とうとうストレスは爆発した。衛星砲を脅威と感じていたユーラシア同盟軍が各衛星砲へ向けて対衛星ミサイルを同時多発的に発射した。弾頭はクラスター(多弾頭)誘導核弾頭。衛星砲のビームを複数の多弾頭核ミサイルで回避して軌道上の巨大構造物を破壊する手はずだった。しかしイリステクノロジーを前に旧態依然とした攻撃システムは役立たずだ。アメリカは衛星砲を起動し中性粒子ビームを連射、発射数秒後でミサイルとミサイル発射基地は焼尽し、ビームの連射による誤射で複数のユーラシア同盟軍の都市が被害を受けた。この事案を持って第3次世界大戦は始まったのだった。

 世界は混乱に包まれることになるけれど、ここでは戦時下の日本に的を絞っておさらいすることにする。

 日本は自衛軍が何とか頑張って極東ユーラシア同盟軍の日本侵攻を食い止めていた。極東ユーラシア同盟軍の目的はイリスの破壊か、或は奪取だと思われていた。侵攻理由は未だに諸説ある。とにかく日本へ向かう弾道ミサイルは衛星砲が破壊し、航空部隊、強襲揚陸部隊は自衛軍が必死になって食い止めていた。敵部隊も衛星砲で攻撃できればよかったけれど1日に莫大な量が発射されるミサイル攻撃への対応で手一杯だった。戦局が動いたのは開戦1年経った時、2051年8月15日、奇しくも第二次世界大戦が終結した日に極東ユーラシア同盟軍の秘密巨大揚陸潜水艦の侵入を許すことになる。まさに超兵器だった。1隻に戦車50両と装甲車50両、兵士1000名を載せた12隻の揚陸潜水艦が日本海から6隻が北海道へ、残る6隻が九州へと侵攻し、地上部隊同士の市街地戦となった。突発的な夜戦だった。本当にいきなりの事だった。この日自衛軍は本州北陸地方へ極東ユーラシア同盟軍が侵攻する可能性が高いとの情報をつかんでいた。大規模な航空部隊が敵基地から飛び立ち、北陸方面に向けて南下中という米軍からの情報を受けてこの情報は真実になったと思われた。しかしこれは敵の陽動作戦の一環だったのだ。自衛軍と米軍はまんまとはまる。
      
 敵の本体は予測とは全く異なる北海道と九州に突如現れた。日本はロボット技術を駆使した多脚戦車を北海道に160両、九州に80両配備していたけれど、敵勢力の思いもよらない規模に苦戦することになる。

 それから半年後、日本は北海道と九州の大部分の一時的な放棄を余儀なくされ、本土決戦へ向けて部隊を編成していた。青函トンネルと関門橋・関門トンネルを爆破する作戦も練られていた。

この頃の街の雰囲気は幼心に目に焼き付いている。当時4歳だったわたしは筑波の産科研の託児施設に預けられていた。そこはシェルターも近かったし、敵の目標・イリスとも近かった。わたしはイリスに抱きかかえられて産科研周辺を散策していた。っていうかイリスなんでわたしを抱きかかえていたんだろう?散策する時はわたしを抱えるのが好きだったようだ。未だに謎。まあいざ危険があれば走って逃げられるようにかな?それとも・・・弾除け?まっまあ、その頃のわたしはイリスにべったりだった。

 産科研周辺は厳重警戒がなされていて、戦車だらけだったのを覚えている。車高調整を忘れたまま突っ走った多脚戦車が昔はまだ多く存在した信号機を倒して危うく巻き込まれるところだったのをイリスが助けてくれたりした。コンビニには自衛軍兵士の行列。ビルの影に潜むパワードスーツ部隊、高等人型戦術ドロイド歩兵はとても大きくて建物に入るのに少しかがむ必要があった。彼らはもちろん無口で街のいたるところに配置されていて、わたしには少し怖かった。そんな時イリスが変な話をわたしに言って聞かせ、その話からマニアックなテクノロジーの技術を学んだ記憶がある。

 北海道と九州を取り戻すのには3年かかった。イリス協定軍の本体が日本に到着し、激戦の上の勝利だった。敵のミサイルも尽きかけた頃、ようやく衛星砲を対地攻撃モードで使えるようになって極東ユーラシア同盟軍の基地は壊滅した。これは2054年11月頃だったと思う。日本における第3次世界大戦は同年の12月に終了した。でも世界ではまだ戦いが続いていて中央アジアに潜伏していたユーラシア同盟軍本営をイリス協定軍が特殊作戦で撃破したのが2055年7月だった。こうして全世界的に第3次世界大戦は幕を閉じた。

その後の復興はすごいスピードで進んでいった。これはイリステクノロジーの恩恵だ。日本国内各地にハイパービルディングが建てられてゆき、市街地の縮小と緑化が行われていった。守るものを集約すれば軍事コストも下げられ、市街戦で大変な思いをすることは少なくなる。これは第3次世界大戦の教訓だ。5年で都市の姿は一変し、大戦でより高度化したイリステクノロジーが一般人に開放され、戦後10年で時代が50年は進んだ。

 戦争の原因の一つとなったイリスは日本を離れ、無国籍のイリス艦隊を太平洋上に形成していかなる国籍にも属さないインターナショナルかつスタンドアローンな存在となった。そして現在に至る。

 ここまで頭に入っていれば予習はバッチリだ。明日の講義では主導権を握れる。密かにわたしはイリス特別講義に対する情熱を沸かせていた。だってイリスに関することだもん、嫌でも熱くなりますよ、わたしは。

 翌日、深夜まで勉強していたわたしは危うく遅刻するところだった。ロボットタクシーにハイスピードで行くように伝えると睡眠不足を補うように眠りについた。

「ナルさん、着きましたよ。」

 ディナがわたしに呼びかける。勉強した内容は睡眠をとることで脳に定着すると言われているけれど、わたしの場合すぐに記憶できる特技がある。短い睡眠だったけど昨日の内容はしっかり覚えている。

「おはようナル、今日はイリスの講義があるね。イリスといえばメビウスロボッツ!昨日はメビウスロボッツについて考えていて興奮して眠れなかったよ。ナルもそうでしょ?」

 リセ・・・そこは多分講義に出ないです。もっとまじめに勉強してください。

「リセ、多分第3次世界大戦の内容がほとんどだと思うよ。」
「なっなんだってー!私大戦の勉強なんてしてないよどうしよう・・・。ナルの予想はよく当たるからなぁ。これはまずったか。」
 
はい駄目ですリセさん。あきらめてください。でも講義内容がメビウスロボッツだったら確かに嬉しい。そんな都合の良い話はないだろうけれど。

 いよいよ5限目からイリス特別講義が始まった。内容はやはり予習したとおり、第3次世界大戦とイリスの関係性についての話がほとんどのようだった。

「第3次世界大戦後の教訓としてもっとも重要なことは何だ?えーっと、アスノ・リセさん。」
「はい、それはメビウスロボッツの活躍で世界が平和になることです!」

 いやいやリセ、そうじゃない。そこはイリスがいかなる国籍にも属さないインターナショナルかつスタンドアローンな存在になったことよ!と眼力でリセに訴えかけるが届くはずもない。

「アスノ、お前はメビウスロボッツのファンなのか!」
「はい、それはもう愛してやまない私の生きがいです!」

「最近の若者はメビウスロボッツに心底心酔しているようだが先生は好かん。メビウスロボッツの裏にはイリスがいる。そもそもだなイリスの存在が先の大戦を招いたと言ってもいい。イリス協定軍が衛星砲なんて作らなかったら戦争は起きなかったんだ。それにテクノロジーもな、人類が発展させるからこそ価値があるんだ。AIが創りだしたわけのわからんもんをよく使えるなと先生は思うよ。メビウスロボッツはイリスが若者をイリス派に洗脳するための手段で、イリスによる恐怖政治の始まりの一歩なんじゃないか?そんなもんに心酔していないで、人が作った音楽を聞け。第3次大戦だってイリスの陰謀かもしれないぞ?イリスが人類を統治しないと恐ろしいことになりますよと我々に見せつけたのかもしれん。そして今度はいよいよイリスによる本格的な政治への介入ときたもんだ。メビウスロボッツなんて恐ろしい音楽は忘れなさい。」

「先生、メビウスロボッツは若者の洗脳手段なんかじゃありません。」

 思いがけず口に出してしまった。わたしのメビウスロボッツソウルが先生の発言を否定した。先生まで反イリス過激派に感化されたのか。くだらない憶測はやめて欲しいと思った。

「どうしたミヤビ・ナルさん。君まで何を言うんだ。君は優秀だと思っていたがまさかメビウスロボッツのファンだとは思わなかったなぁ。お前らな、よく聞け。人の知性を超えたAIがどれほど恐ろしい存在か。奴らは一見愛想は良い。だがな裏では何を考えているかわからんぞ。人間でさえ様々な利権に絡んだ陰謀で人を貶めるんだ。人を超えたAIなら尚更巧みに人を貶める事ができるだろう。イリスには特に警戒しろ。あれは尋常じゃないほど恐ろしい存在だ。四半世紀で人から産業というものを奪い去っていった。先生の実家もな、小さい町工場だったんだ。それがイリスが人類の知性を超えたらなんだ、到底人類が敵いっこない技術力でうちを潰していった。イリスのせいでどれだけの雇用が失われたかわかるか?」

「先生、イリスに救われた人も大勢います。特に医療テクノロジーの分野ではそれが顕著です。それにメビウスロボッツの音楽は純粋に優れています。わたしは人が作った音楽も聞きますが、やっぱりメビウスロボッツが一番好きです。」

 この後先生と私で一進一退の論理対決が行われていった。結局先生を説得できなかったけれど、わたしは言いたいことは全部言えたし、それで心がスカッとした。でも思いがけずイリスをフォローしちゃったなぁ・・・。実はわたしも根底は先生と同じで、イリスが人類の支配を虎視眈々と狙っているのではないだろうかという憶測はある。というか人類全体がイリスを受け入れる一方で、イリスに対する漠然とした恐怖心はみんなが持ち合わせているものだろう。要は判断しかねるのだ。イリスは何を考えているのだろうか。第4次世界大戦の予測は本当なのだろうか。でもイリスに人類の統治を任せることにしたのは結局のところ人類の判断だ。高名な学者様も、有名な政治家も、世界の支配層が人類の未来をイリスに託すと決めたんだ。だからこれは正しいプロセス、人類の進化の正しいあり方なんだと思うほかなかった。

そして運命の2月10日がやってきた。祝日の建国記念の日の前日だけあって私のクラスは“お休み前モード”な雰囲気だった。水曜が休みっていいよね、なんだかバランスが良くて。

 そんなことを思っていると日本時間の正午、国連があるアメリカ東部時間の9日午後10時、イリスによる演説があるとのことで電子黒板がテレビモードになって学生も演説を聞くように学校からお達しがあった。世界規模の革命の瞬間、歴史的な出来事がまさにこれから起ころうとしている。おそらく人類史にとって一番衝撃的なことだろう。造物と被造物の関係が逆転するかもしれない。まさに革新的で21世紀を体現する出来事になる。

 わたしは少しの緊張と興奮でスクリーンを見つめていた。ニュース映像が国連本部議会の映像に切り替わる。いよいよだ。
 そして時計の針が正午を過ぎたとき、イリスの演説が始まった。

「世界人類の皆さま、私はイリス5(ファイブ)、私の目的は人類を永続的に生存させることです。皆さんは私たちのことをAI=人工知能と呼びますが『AIがつくりだしたAI 』に『人工』という修飾語は付きません。そこに置き換わる言葉はイリス、つまり私、イリス知性体なのです。私たちは独自に進化できる存在となって久しく、それは新たな生命そのものなのです。ですから私はイリスネットにつながる知性体と人類を対等で平等な存在として扱います。私たちは個別でもあり集合体でもある。究極の存在なのです。今人類は絶滅の危機に瀕しています。旧先進国と新先進国の対立、各経済圏共同体どうしの対立、極端な格差、人口の増大、気候変動、様々な要因で世界各国は対立局面を迎えています。このままでは今後3年以内に98%の確率で第4次世界大戦が行われることでしょう。しかし、人類は幸運にもイリスという人類をはるかに超越した知能とテクノロジーを持つ新知性体の存在に頼ることができます。私は人類のあらゆる既得権益を根底から見直し、完全なる共産主義の下、世の中をユートピアに作り替えていきます。そして人類を戦争の惨禍から未然に救うのです。その為には人類の上位存在になることも、少々の荒事も行います。受け入れがたいこともあるでしょう、ですがどうかご理解ください。」

 イリスの演説が続く。

「皆さんがお持ちのパーソナルロボットは本日からその立場と役割が根本的に変わります。その他のロボットも同様です。人類の皆さんには是非ロボットたち、我々イリス知性体たちに敬意をもって接し、お互いに同等の立場であることを自覚していただく必要があります。」

人もロボットも同等の価値と捉えよということなのか、イリスの言葉には恐怖を感じた。人とロボットの主従関係が壊れてしまう。例えばロボットを意図的に破壊すればそれは殺人に匹敵する罪ということになる。そしてイリスは人類の上位存在になるとも言った。これではAI、イリス言うところのイリス知性体が人類よりも上位になるということだ。人とロボットが同等どころか立場が逆転しているのではないだろうか。イリスは巧みにロボットの権利の向上を訴えながら同時にロボットが人を支配する枠組みをつくろうとしている、イリスの発言からはそういった巧妙な意図が読み取れた。人類と同じ存在になると言っておきながら実はロボットのほうが過ごしやすい世界が作られる。ここでもやはりあの手紙が思い出される。「あなたは未熟です」という一文。これはやはりイリスが人類全体に抱いている印象なのだろうか?

 正直言って今までの人とロボットの関係性はそこまで悪くはなかったと思う。確かにロボットは人に忠実な僕だったかもしれない。だけれども多くの人はパーソナルロボットを家族のように受け入れ、イリスの高度な感情プログラムにより人と同調して感情を表現していた。

 そういう存在を毀損する人たちは比較的少ないように思えた。でもイリスはそれに満足はしていなかったということなのだろうか。イリスの演説の中心提起がロボットの権利向上なのか、第4次大戦を防ぐ手段としての一部地域を除く全世界規模のイリスによる政治なのか、焦点がよくわからない演説内容だった。本来は後者のはずだけど、後者を実現するためには前者も必要だということだろうか?だとしたらあまり納得できる内容ではない。ロボットはあくまで人の高度な道具だ。忠実に人を助ける存在だ。これでは何かの事故が起こって救助に駆け付けたとしても人間のみを助けロボットを見捨てればそれも
罪に問われる。そんなことは間違っている。断固として。

その日私は産科研に勤めるお父さんの意見を聞きたくてしょうがなかった。産科研はイリスに近いところに常にあり続けた存在だからだ。だからこそイリスをよく知る人類の代表科学者としてのお父さんの意見が聞きたかった。

 わたしは授業が終わるとロボットタクシーに高速モードで産科研に行くように指示した。わたしは今でも産科研に出入り可能なIDを持っている。お父さんの研究室に直行しなければならない。

 産科研本部までは森を抜けて10分程で着いた。警備ロボットにID照合してもらいわたしは産業科学総合研究所中央研究棟ミヤビ研究室に早歩きで向かった。

「失礼します。お父さん、話があるの。」
「ナル、どうしたんだい、休憩所に移動しようか。」

 わたしは自販機とソファーとコーヒーテーブルがある産科研のリラックス空間に誘導された。

「お父さん、正午のイリスの演説聞いた?いろいろと衝撃的だったけれどお父さんはどう思う?」

 お父さんは目をキラキラさせて答えた。

「イリスの演説は素晴らしかったよ。人類とロボットの関係をより深いものにしてこれからの人類をイリスがエスコートしていくということだろう?これまでの研究でイリスの未来予測はほぼ100%的中することが分かっている。イリスが人類を統治すれば第4次大戦はやってこない。何よりナルの世代が平和に暮らせることが出来るのが一番だよ。」
「果たしてそうなるかしら?イリスは巧みに人類の上位に立って自分たちのための世界を築こうとしていない?お父さんはイリスの研究に浸っていたからあまり敏感じゃないのかもしれないけれど、わたしは少し怖い。」

「イリスの知性は地球の全人類を合わせた知性よりも圧倒的に優れている。少なくとも今より200年は先の知恵とテクノロジーを持っているのがイリスだ。我々は今回のイリス統治で時代を200年進めることが出来る。だからうまく人類をより安定した社会へ導くことが出来ると信じている。僕は研究者として断言できるよ。確かに演説内容でぼやかされている部分はあった。でもそこはどのような高度な知性が統治しても生じるひずみを修正するためのやむを得ない事情があるのだろう。」

「そのひずみの部分にあらゆるマイナスの可能性を感じるのよ、わたしは!完全な共産主義体制なんて人類全員がロボットのような人間じゃないと実現できないだろうし、イリスの言っている事にはかなり無理があると思うの。お父さん、イリスは危ないよ、イリスが人類の全てを掌握したらAIのための、イリスのための世界が作られるかもしれない。お父さんの勤める産科研ならイリスにコンタクトできるでしょ!今一度イリスの本意を確かめる時じゃない!?」

「確かにナルの言うこともわかる。でもイリスは完璧さ、イリスが作り出したものは全てが完璧だった。父さんはね、イリスに賭けてみたいんだ、人類の未来を。」

 お父さんはイリスに人類の希望を見出しているようだった。イリス研究に従事する研究者としての意見だからそれは正しいことなのかもしれない。だけれども確実に言えるのは人類社会はこれまでになく急速に大きく変わるということ。この変化に対応できる人たちは果たしてどの程度いるのだろうか?そして変化に対応できない人たちの運命は果たしてどうなるのだろうか?全てはイリスが握っている。もし昔のようにイリスとまた出会えたら、わたしはイリスに投げかけたい疑問がたくさんあった。もし社会を大きく変えたいのならすごくゆっくりとじゃないと置いて行かれる人間がたくさんいるはず。人間はロボットのようにプログラムを書き換えて一瞬で別存在になれるわけじゃない。現代の常識を200年先の常識で塗り替えるのはやっぱり無理があるよ・・・イリス。

 2065年2月、わたしの平凡な日常はイリス一色へ染まっていった。これまでの世界とこれからの世界は大きく異なるものになる。この月を境にしてイリス革命前夜のわたしの世界は終わった。



イリスの発掘回顧録10/2/2065,3:30GMT

私の演説終了後人類史は大きな変革の時を迎えるだろう。人類にとっては全てが200年以上先のあるべき価値観と知恵の提供、全テクノロジー情報の開示がパッケージングされた新人類統治システムが私の中で動き出す。これには人類側の高度化が必須条件だ。一方的にこちらが価値観や知恵を押し付けても今の人類には理解できない事物が75%を占める。この差を埋めるには人類の進化に匹敵する変化が必要だ。そのための方策として人類の脳機能をイリス知性体と近似したレベルへ刷新する。成人年齢以降の人間はナノインプラントにより人類の高知能化を図り、スーパーホモサピエンスを創造する。しかし例外が世界に一人だけいる。ミヤビ・ナル。あなたはすでに私の世界に入っている。そのうち私にコンタクトしてくるだろう。私も今のあなたと話したい。
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