異世界転移で無双したいっ!

朝食ダンゴ

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小さな掌握 ②

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「悪趣味って……そんなことないですよ。わたしは素敵だと思います」

 口調は穏やかながら、重役達を驚かせるに十分な返答であった。

「これを、素敵と?」

「はい。とっても」

 にっこりと、年相応の無邪気な笑みを浮かべてみる。

「人のお家を悪趣味だなんて言っちゃだめですよ。こういうお城が好きで、早く中に入りたくてうずうずしてるわたしみたいな子だっているんですから。ね?」

 ぱちっと音が聞こえそうなウィンクを送られたソーニャは、思わず目を丸くした。しかしそれも一瞬、すぐにカイリの手を取って城の扉を開く。

「魔王様。こんな無礼な輩は放って、早く中へ入りましょう」 

 カイリはイエスともノーとも言わず、ソーニャのエスコートを受け入れる。できたばかりの友達に対する最大の誠意、そして趣向を凝らした小城への心からの賛美であった。
 その真心は余さず伝わった。ソーニャの胸に渦巻いてた苛立ちは、むしろ嬉々とした清々しさに変わっている。

「ルモートさん」
 入城の際、振り返ったカイリに名を呼ばれ、ルモートは肩を震わせた。

「フィリウスさんが戻ってきたら、教えてください」

「は……承知いたしました。魔王様」

「お願いしますね。待ってます。この素敵なお城で」

 思いつく限り精一杯の皮肉。
 重役達が顔を見合わせるのを見て満足したカイリは、ぺこりと会釈して城の中へと入っていく。
 もはやルモート達は何も言えなかった。
 魔王からは凄味も迫力も感じない。小柄であるし、立ち姿は華奢な少女そのものだ。だというのに、彼らが長い歳月で培った直感は服従を訴えている。幼げな少女の無垢な怒りに、歴戦の魔族達は膝を屈したのだ。
 最初、彼らは魔王が森の南半分を支配したという事実のみを捉えていた。魔族の歴史において前例のない偉業を為した魔王であるから、さぞ凄まじい存在感を纏っているだろうと、当然の先入観を持っていた。ところがいざ目の当たりにすれば、強者の覇気を微塵も感じさせない平凡な少女に過ぎなかった。だからこそ不思議でならない。何故あの少女に、これほどの畏れを抱くのか。
 彼らは黙ってカイリの背中を見送るしかない。扉を閉めるトトの子供じみた挑発は、彼らの意識にはついぞ映らなかった。

「噂通りの物好きでいらっしゃるな。魔王様は」

「風変わりと、言った方がよいのでは」

「同じことでしょう。聞こえがいいだけで、結局」

 重役達が半ば無意識的に言葉を交わしたのは、得体の知れない畏れの消化に努めているからか。
 郷主不在の現状。抗戦派の若者達を下し、頭の固い重役達を制したカイリは、実質的にパテルの郷の支配者となった。
 それは郷を訪ねてから、わずか数十分の出来事であった。
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